検体検査の基礎知識
『看護に生かす検査マニュアル』より。
第1回となる今回は、検体検査の基礎知識について解説します。
高木 康
昭和大学医学部教授
〈目次〉
- 検体の種類と採取法
- 検体の種類
- 採取法
- 検査成績を解釈する前に
- 正常値・健常値、基準範囲(基準値)、病態識別値、パニック値・極異常値
- 分析前因子と検査値
- 分析中の変動因子
- 臨床検査の考え方・読み方
- 臨床検査の有用性(特異性、感度、予測値、ROC曲線)
- 測定法概論
- Q&A
検体の種類と採取法
臨床検査室で分析する検体は多岐にわたっており、また、適切な処置を行って提出しないと正確なデータを得られない項目も多い。
検体の種類
検査に用いられる検体には、血液、尿、糞便、脳脊髄液のほか、消化液(胃液、十二指腸液、体腔液(腹水、胸水)がある。
採取法
臨床検査の主な検体である血液と尿については、正しい採取法を知らなければならない。
1静脈採血
一般に肘正中皮静脈から採血する。
その他に採血に適した静脈は、上肢では尺側正中皮静脈、尺側皮静脈、橈側皮静脈であり、下肢では大伏在静脈、小伏在静脈がある。
- ①注射針は21〜23Gを用いる。
- ②駆血帯で緊縛して静脈を怒張させる。
- ③穿刺部位を70%エタノール綿で消毒し、乾燥するのを待つ。
- ④適度な角度で針を刺入し、速くなく遅くなく内筒を引いて採血する。
- ⑤駆血帯を外して、注射針を抜く。
- ⑥アルコール綿で傷口を圧迫し、止血する。通常、数分で止血する(止血バンドを使用することもある)。
- ⑦検査に適した試験管に血液を分注する。
■注意点
- うっ血時間が長いと血液成分が変化するので、駆血帯で緊縛したのちは2〜3分以内に採血する。
- 吸引に時間がかかり、組織液が混入すると血液は凝固しやすくなり、凝固検査に影響する。
- 検査に適した抗凝固剤を選択して使用する(表1)。
- 試験管に血液を分注する際には、注射針を外して、溶血を防ぐ。
2採尿
1回尿(随時尿、早朝尿)と24時間尿とがある。
1)1回尿
- 50〜100mLを紙コップに入れて提出する。
- 中間尿(最初と最後の尿は捨てた中間尿)を採取する。
- 早朝尿は、濃縮されて化学成分、沈渣成分が多く、腎臓の機能をよく反映している。
2)24時間尿
- 早朝第一尿を捨てた後、それ以後排泄した尿を蓄尿用容器に集め、翌朝に尿意がなくても排尿させたものを24時間尿という。
- 電解質や蛋白、クレアチニンなどの排泄量を知るために検査する。
- 尿量を測定して、攪拌して得た一部を検査室に提出して、検査を行う。
検査成績を解釈する前に
医師や看護師は検査データを患者の状態を正確に反映するものとして理解し、各項目の数字から病態を把握して処置を行う。しかし、返却される検査データは検査・分析前のサンプリングの状態により変化し、必ずしも生体の状態を反映していない場合がある。
また、検査データの解釈にあたっては、その検査値が「病気を反映する値なのか」「健常と認識できる値なのか」を鑑別する必要があるが、その値についての知識が乏しいいので、十分な理解が必要である。
正常値・健常値、基準範囲(基準値)、病態識別値、パニック値・極異常値
検査室あるいは検査センターが設定している正常値・健常値、基準範囲(基準値)は、統計学的に算出された値である。
1正常値・健常値
- “健常と思われるヒト”の集団を対象として検査を行い、これらの成績を単純に算術的に統計処理して求めたものが多い。
- 健常人の検査値は図1に示すような正規分布(対数正規分布もあるが)であり、通常は“ 平均値-2標準偏差(SD)~平均値+ 2SD”を正常値・健常値としている。
- 図1からも分かるように、この範囲には“健常と思われるヒト” の95 . 5%は入るが、4 . 5%はこの範囲内ではない。すなわち、1 , 000人の“ 健常なヒト” がいても45人は異常値となっている。
2基準範囲・基準値
- 基準範囲は「健康で、生活習慣を同じにする母集団」から求めた値であり、自己の検査値をその集団と比較する(refer)概念であり、母集団の性格・正常づけが大切である。
- 基準個体の検査値が基準値であるが、現在では“基準範囲”を“基準値”と置き換えることが多い。
- 個人の検査値は極めて狭い範囲で変動する。
- 個人の基準値:繰り返し検査を行い得た個人の成績は図2に示すように母集団から求めた基準範囲内の極めて狭い範囲内で変動する。
- 基準値内であっても個人にとっての“正常値”を大きく逸脱している可能性も高い。
- この意味で定期的に検査を行い、“ 健常な時の検査値、すなわち基準値”を知ることが大切である。
- 基準範囲を単純に個人に適応すると、行う必要のない他の精密検査を行うことになる。また、逆に基準範囲でも個人にとっては異常であり、しなければならない精密検査を怠ることになる。
- 図中のEさんの検査値▽は、基準範囲から逸脱しており、基準範囲だけを単純に考えれば精密検査を行わなければならない。しかし、検査値▽はEさんにとっては基準値であり、精密検査を行う必要はない。
- 図中のBさんの検査値▼は基準範囲であるが、Bさんにとっては異常値であり、精密検査などを行って異常の原因を知る必要がある。
- 基準範囲は統計値であるので、個人の基準値と考え併せて解釈する必要がある。
- “基準範囲”は母集団に含まれる個々の基準個体の検査値(基準値)であるが、現在では基準範囲を基準値とも呼称している。
3病態識別値
診療現場では「病気であるか否か」が大切であり、この場合には、病態識別値が用いられる。
- 病態識別値は、検査の感度や特異性、疫学的調査、あるいは専門医集団の勧告によって決定される。
- 糖尿病学会の診療ガイドラインでは、①血糖値(空腹時):126mg/dL、75gOGTT2時間値:200mg/dL、随時血糖:200mg/dL以上のいずれか、②HbA1c(NGSP):6 . 5%を糖尿病としている。
- 病態識別値をもとに、医師は独自の判断基準値(意思決定値)を作成し、診療に用いている。
- 意思決定値としては、総コレステロールの管理目標値220 mg/dLがあげられ、これ以上では虚血性心疾患の発生頻度が急激に上昇する。
4パニック値、極異常値
ただちに治療・処置を開始しなければならない検査値をパニック値といい、まれにしかみられない検査値(統計的には0 . 5~1 . 0パーセンタイル値以下、99 . 0~99 . 5パーセンタイル値以上)を極異常値という。
- 基準範囲よりかなりかけ離れており、緊急異常値として担当医師やメディカルスタッフに報告され、適切な対応・措置を必要とする。
- パニック値が設定されているのは生体の緊急性を反映する検査であり、ナトリウム、カリウム、カルシウムなどの電解質、血糖、クレアチニン、白血球数、血小板数などである。施設により項目やパニック値に若干の相違があり、臨床医との協議で設定されている。典型的なパニック値を表2に示す。
- 極異常値は統計学的な値であり、検査値の分析前誤差や検査過誤に起因する値も含まれる。
分析前因子と検査値
1個体間変動と検査値
臨床検査項目の中には個体間差が極めて大きなものがある。このなかには表3に示すような性差や年齢差、さらには生活環境の差や遺伝的な差など種々の因子がある。著明な性差、年齢差が認められる検査項目については、性別、年齢別の基準範囲が設定されているが、これに準拠すればよいというわけではない。
1)性差
性差は主にホルモン・身体的特徴に関連した変動である。
- ホルモンに関連した項目では、閉経を過ぎた婦人は男性とほぼ同等な体液中成分となる。
- HDL-コレステロールが性差のある項目の代表であり、20~50歳では女性ホルモンのために女性は男性と比較して15~30mg/dLの高値である。
- 身体的特徴では筋肉量や運動量、蛋白摂取量と密接な関係がある。
- クレアチニン、尿素窒素、尿酸は男性が高値であり、筋肉運動量からCK は男性が高値である。
2)年齢差
年齢差は、主に個体の身体的成長と密接に関係していることが多く、この身体的成長は個体の差が大きい。
- このため、単に年齢だけをあてはめるのは危険であり、身体的な特徴を十分観察して基準値をあてはめなければならない。
- 特に高齢者では個体間差が大きく、身体的な特徴(生活活動など)を考慮して基準範囲と比較することが大切である。
- アルカリホスファターゼは骨芽細胞に由来しており、骨が成長している幼児や思春期では成人の3~5倍の高値である。
3)生活習慣
生活習慣により大きく変動する検査もある。
- CEA(癌胎児性抗原)は喫煙者では非喫煙者と比較して有意に高値であるため、消化管悪性腫瘍の診断として使用する場合には喫煙の有無を確認する必要がある。
- 特別多量な飲酒でなくても、飲酒常習者ではγ-GTや中性脂肪などが高値となる。
2個人内変動と検査値
個人内変動の要因には食事、飲酒、体位、運動などがあり、日内変動も重要である(表4)。
- 摂食・食事:血糖や中性脂肪は食後に上昇し、遊離脂肪酸は低下する。
- 筋肉運動:CK、LDH、ASTなど筋肉内に存在する酵素は筋肉運動により上昇する。また、白血球は運動により500~1,000/μL程度は上昇する。
- 体位:立位・座位では血液中の水分が細胞中に移行するため、総蛋白、アルブミン、コレステロール、赤血球、白血球などの大きな分子は濃縮され、臥位に比べて10〜15%高値となる。
- 日内変動:ホルモン(コルチゾールやカテコールアミンなど)は日内で大きく変動する。また、血清鉄は大きな日内変動があり、午前中に高値、夕方に低値となる。この差は基準範囲の1 / 4~1 / 2と大きいため、結果の解釈に当たっては採血時間を考慮する必要がある。
3検体(試料)と検査値による検査値の相違
血清と血漿の差は単にフィブリノーゲンが含まれているか否かではない。血液が凝固する際に赤血球や血小板中に存在する成分が血清中に遊出・出現するために、血清では血漿より高値となる項目がある。
- カリウムは血清のほうが血漿と比較して0 . 2~0 . 5 mEq/L(血小板数に相関;血小板10万/μLで0 . 1~0 . 15 mEq/L)ほど高値である。
- ヘパリン血漿ではTTTやZTTの膠質反応が低値となる。
- EDTA塩血漿ではALP活性が著明に低下し、ほとんどゼロになるこれは、ALPの活性中心にZn2+ があり、これが活性中心から外れるためである。
- LAP はMn2+が、アミラーゼはCa2+が賦活剤であるため、EDTA塩血漿では低値となる。
- EDTA塩での血小板偽低値:EDTA 塩に特有な血小板抗体を有するヒトでは採血後に採血管内で血小板が凝集して、偽低値に算定される。
4検体採取の時期と部位
検体採取時期が検査結果に大きく影響する項目がある。
1)採血部位
毛細管血は混合血であるので、静脈血と動脈血の中間値となる。
- 血糖は、耳朶血、かかとからの毛細管血では静脈血より10〜20mg/dL高値である。
2)駆血帯の影響
静脈採血時に使用する駆血帯を絞めると静脈が怒張するが、同時に血管内から間質へ水分や低分子物質が移動するために、長時間の駆血帯緊迫で影響を受ける成分もある。
- 5~6分程度の駆血では多くの成分は3%以内の変動である。
- 高分子物質では5 %以上変動する物質もある。
- ピルビン酸は20%程度低下する。
3)感染症の検査
- 感染症での病原体検出は、病期により病原体検出率、検査材料が異なる。
- 急性感染症では、病原菌は急性期の検体中に存在する。
- 腸チフスは、病初期には血液、経過すると尿・便からの検出率が高くなる。
- 敗血症では24時間以内に数回採血しての検査が必要である。
- 化学療法を行う場合には、治療前に検体採取を行う。困難な場合には、24時間休薬して検査する。
5検体保存と検査値
分析は検体採取後直ちに行うのが原則であるが、やむを得ず検体を保存した場合には大きく変動する検査項目がある(表5)。
1)全血保存
赤血球での消費や酵素による変動、血球からの逸脱により大きく変動する項目がある。
- 血糖は赤血球による消費のために著明に低下し、採血後室温放置6時間で20~30mg/dL、12時間では30~40mg/dL低下する。
- カリウムは冷蔵保存で著明に上昇し、3時間で0.4~0.6mEq/L高値となる。これは、赤血球内での酵素活性低下のために解糖系が反応しないためにエネルギーが低下して、赤血球内のカリウムが血清中に逸脱するためである。
- アンモニアは赤血球からの遊離や蛋白質の分解のために全血で放置すると30分で10~20μg/dL高値となる。このため、血液採取後はただちに氷水中に試験管を浸し検査室まで搬送する。保存が必要な場合は、血漿に分離後、冷蔵保存する。
2)血漿
- 凝固検査では、第Ⅶ、Ⅺ、Ⅻ因子は冷却すると活性化するため、プロトロンビン時間(PT)は短縮する。また、第Ⅴ、Ⅷ因子は不安定であるため、これら因子を強く反映するAPTTでは6時間以上の保存で延長する。このため、採血後ただちに4℃で血漿分離し、血漿を凍結して保存する。
3)尿
尿の成分は個人により大きく異なり、不安定な成分も多いので注意が必要である。
- 細菌尿では細菌による尿素分解によりアンモニアが発生するためにpHはアルカリ側に傾く。
- 細菌尿では細菌の糖消費のために低値となる。
- ケトン体は揮発性が高く、長時間の保存で偽低値となる。
- 淋菌は低温に弱いため冷蔵保存は行わず、ただちに培養寒天に塗抹するか、37℃で保存する。
4)脳脊髄液
- 脳脊髄液の蛋白量が少なく低浸透圧であるため、破壊することもあり、細胞検査は採取後1時間以内に行う必要がある。
- 一般細菌、結核菌、真菌は冷蔵庫に保存し、ウイルス検査は冷凍保存が望ましい。
- 髄膜炎菌は低温で死滅するため、冷蔵保存ではなく37℃に保存する。
分析中の変動因子
検体のもっている性状(溶血や乳びなど)や測定原理に基づく変動因子により測定値が大きく変動することがある。
1)溶血検体
- 赤血球中に多量に存在するLDHやAST、カリウムは見た目に溶血と認識される50mg/dL・Hbの溶血で5%程度の上昇を認める。
- 強い溶血では赤血球内の物質の遊出と同時に、溶血の赤色が比色に影響を与える測定系もある。
2)薬剤
検体中に存在する薬物あるいはその代謝産物、化学物質が測定原理に影響して測定値を変動させる。
- ブロムワレリル尿素系の催眠鎮痛薬(セデスA)はBr(ブロム)を含むため、イオン選択電極法でのクロール測定に影響を与え、異常高値となる。
- ビタミンC(アスコルビン酸)は還元剤として働くので、比色法で過酸化水素を定量する測定系(尿中ブドウ糖、血中総コレステロールなど)では偽低値となる。
- 新しい薬剤については解明されていない。このため、疾患と乖離した検査成績では薬剤による影響を考慮して判断・検討する必要がある。
臨床検査の考え方・読み方
臨床検査の有用性(特異性、感度、予測値、ROC曲線)
臨床検査の大きな目的は疾病・病態の診断であるが、様々な要因により偽陽性(疾病でないのに検査が陽性(異常)となる)、偽陰性(疾病であるのに検査が陰性(正常)となる)を生ずる。
現状では疾病・病態を100%正確に判別できる検査はほとんどない。検査結果を正しく解釈するには、個々の検査の診断特性の具体的な評価は不可欠である。
臨床検査の病態識別能(診断特性)を図3に示した。
- 特異性は“目的疾患を持っていない患者で検査結果が陰性(正常)となる確率”である。
- 特異性の高い検査は“目的疾患以外で陽性(異常)となる”ことが少ない。
- 検査値により病気の有無を判断する時に、陽性・陰性を決定する値をカットオフ値という。
- 感度を高くするようにカットオフ値を設定すると特異度は低下し、逆に特異度を高めようにカットオフ値を設定すると感度が低下する。
- 予測値は、検査結果が“陽性(異常)”の場合に目的疾患である確率(感度)あるいは“陰性(正常)”の場合に目的疾患を否定できる確率(特異性)をいう。前者が陽性予測値、後者が陰性予測値である。
- 陽性予測値は特異度が高い検査ほど高くなり、感度の影響は小さい。
- 陰性予測値は感度が高い検査ほど高くなり、特異度の影響は小さい。
- 疾患の存在診断(rule in)を行うには特異度の高い検査が有用である。
- 疾患の除外診断(rule out)を行うには感度の高い検査が有用である。
- ROC曲線は、カットオフ値を連続的に変化させた時の感度を縦軸(Y軸)に、特異度を横軸(X軸)に目盛った時のプロットを結ぶ曲線(図4)をいう。
- ROC曲線からは、臨床効率的なカットオフ値の設定のほか、複数検査の疾患診断の有用性の優劣を判定できる。
- ROC曲線の左上のP点に近い曲線の検査ほど有用性が高い検査である。
- どのROC曲線がP点に近いかの判定が困難な場合には、各検査の曲線の面積(AUC)を測定して比較・判定する。
測定法概論
1測定法
検査室で多くの測定法を駆使して、種々の体液中成分の分析を行っている。従来は定性法が主であったが、測定法の開発や改善により定量値を患者・医師に返却できるようになった。
- 吸光分析法はLambert-Beerの法則(溶質の吸光度はその濃度と液層の厚さに比例する)を原理として、化学的定量分析として利用されている。
- 吸光分析では標準物質による検量線か、吸光分析物質のモル(分子)吸光係数から検体の濃度を測定している。
- 酵素的分析法が酵素の温和な条件で反応することを利用して化学分析法で広く利用されている。
- 化学発光・生物発光分析法はより高感度な測定系が必要な物質(ホルモンや腫瘍マーカーなど)のために利用されている。
- イオン選択電極法は電解質測定のために、ナトリウム、カリウム、クロールに選択的に反応する電極を利用して測定している。
- イオン選択電極はそのイオンに対する特異性が高いほど、正確な測定値が期待できる。
- 電気泳動法は蛋白質の両性電解質の性状を利用して、荷電の大きさにより泳動距離が異なることを利用して分析を行う。
- 血清蛋白では電気泳動上、陽極側から、アルブミン、α1-、α2-、β-、γ-グロブリンの5分画に分画される。
- イムノアッセイは抗原抗体反応の特異性を利用して、血中の微量物質の測定に利用される。
- 抗原に類似する物質が共存すると偽高値となる。
- 異種動物に対する抗体が存在する場合には偽高値・偽低値となる。
- 抗原抗体反応を認識するための標識物質には、従前はラジオアイソトープが用いられていたが、放射性廃棄物の処理のために、現在では酵素、化学発光物質、蛍光物質などが利用されている。
2POCT(point of care testing)
POCTは“患者の身辺での検査”病院での“ベッドサイド検査”、“検査部以外で行う検査”と定義がなされている。すなわち、careのpointで行う検査である。
- 患者(被検者)の傍らで行い、被検者自らが行う検査でもある。
- 検査時間を短縮して、迅速かつ適切な診療・看護、疾病の予防、健康管理など医療の質、QOLおよび満足度の向上が期待できる。
- 救急救命の検査から糖尿病、悪性腫瘍など慢性の疾患、治療を目的とする検査が対象である(表5)。
- 看護師はPOCTについて操作法も含めて理解すべきである。
- イムノクロマトグラフィ(表6):POCTの測定法として開発された。
- インフルエンザ、妊娠反応、心筋傷害マーカーなど迅速検査が必要な検査に活用されている。
検体検査に関するQ&A
Q1.基準値とカットオフ値はどう違うの?
A.基準個体(種々の要件を満たした健常人)から統計的に得られたのは基準値であり、特定の病気か、それに似ている病気、あるいは健常かを識別する値がカットオフ値です。カットオフ値は、ある臨床目的に対して、陽性か陰性かを判断するために設定されているもので、腫瘍マーカーがその代表です。腫瘍マーカーでは特定の悪性腫瘍と良性の病態(からなずしも健常ではない)での検査値を検討して、感度と特異度を求め、これからROC曲線を描き、最も診断効率的な検査値をカットオフ値とします。カットオフ値は基準上限値より高めに設定されるのが普通です。
Q2.検査値には施設間差があるの?
A.検査値は検査法により相違するため、施設間差がある項目があります。10数年前まではこの差が大きかったのですが、最近では小さくなりました。これは、測定系の標準化と標準物質によるトレーサビリティ確認が大きく貢献しています。測定系の標準化は学会などが標準的な勧告法を提示することでこれに沿った試薬が市販されるようになり、多くの検査室で使用されることによります。日本全国のほとんどの検査室が参加している精度管理の大規模精度管理調査では測定系の使用状況がわかるため、ほとんどの検査室が多くの検査室で使用されている測定系に変更することで統一されることになります。
Q3.全国規模の基準範囲は設定されるの?
基準範囲の設定は各検査室あるいは試薬メーカーが行っていましたが、全国レベルの基準範囲が設定されました。2014年に日本医臨床検査標準協議会(JCCLS)と人間ドック学会から相次いで提案されました。人間ドック学会では約150万人、JCCLSでは約1万人のデータをもとに基準範囲を設定しています。この両者には若干の相違はありますが、これは測定系が大きく関わっていると考えられています。測定値は測定系により多少の相違があり、このために基準範囲も多少相違していると考えられます。
略語
- ALP:alkaline phosphatase(アルカリ性ホスファターゼ)
- AST:aspartate aminotransferase(アスパラギン酸アミノトランスフェラーゼ)
- CEA:carcinoembryonic anigen(癌胎児性抗原)
- CK:creatine kinase(クレアチンキナーゼ)
- EDTA:ethylenediaminetetraacetic acid(エチレンジアミンテトラ酢酸)
- γ-GT:γ-glutamyl transpeptidase(γグルタミールトランスペプチダーゼ)
- GOT:glutamic oxaloacetic transaminase(グルタミン酸オキサロ酢酸転移酵素)=AST
- Hb:hemoglobin(ヘモグロビン)
- HDL-コレステロール:high density lipoprotein-cholesterol(高比重リポ蛋白コレステロール)
- LDH:lactic acid dehydrogenase(乳酸脱水素酵素)
- SD:standard deviation(標準偏差)
- TDM:therapeutic drug level monitoring(治療薬物濃度モニタリング)
- TTT:thymol turbidity test(チモール混濁試験)
- ZTT:zinc sulfate turbidity test(硫酸亜鉛混濁試験)
本記事は株式会社サイオ出版の提供により掲載しています。
[出典] 『新訂版 看護に生かす検査マニュアル 第2版』 (編著)高木康/2015年3月刊行/ サイオ出版