生化学検査(脂質)|検体検査(血液検査)

『看護に生かす検査マニュアル』より転載。
今回は、生化学検査(脂質)について解説します。

 

高木 康
昭和大学医学部教授

 

〈目次〉

生化学検査(脂質)とはどんな検査か

生化学検査脂質)とは、血液の成分を検査して、肝臓における生合成、胆道からの排泄、腸管からの吸収がなされているか、また、食物からの摂取に過不足がないかどうかを調べる検査である。

 

検査項目としては、 検査項目としては、総コレステロール、HDL―コレステロール、LDL―コレステロール、中性脂肪、遊離脂肪酸、リン脂質などがある。

 

生化学検査(脂質)の目的

心、肝、腎疾患、糖尿病の指標となるほかに、生活習慣病健康診断のルーチン検査として測定する。

 

生化学検査(脂質)の実際

多くの検査室では自動分析装置で測定されている。

 

血清を用いて比色法により測定される。それぞれの基準値表1に、高脂血症の診断基準を表2に示す。

 

表1生化学検査(脂質)の基準値

生化学検査(脂質)の基準値

 

日本臨床検査標準化協議会基準範囲共用化委員会:共用基準範囲2014

 

表2脂質異常症:スクリーニングのための診断基準(空腹時採血*)

脂質異常症:スクリーニングのための診断基準(空腹時採血*)

 

・LDL‐コレステロールはFriedewald(TC-HDL-C-TG/5)の式で計算する(TGが400mg/dL未満の場合)。
・TGが400mg/dL以上や食後採血の場合にはnon HDL-C(TCHDL-C)を使用し、その基準はLDL-C+30mg/dLとする。
* 10~12時間以上の絶食を「空腹時」とする。ただし、水やお茶などカロリーのない水分の摂取は可とする。
**スクリーニングで境界域高LDL‐コレステロール血症を示した場合は、高リスク病態がないか検討し、治療の必要性を考慮する。

 

総コレステロール

  • 遊離型とエステル型の総和をいう。
  • 栄養指導、体内脂質代謝異常、動脈硬化の指標となる。
  • 食物から摂取されるほか、肝臓で合成されるため肝機能障害になると低下する。
  • コレステロールの一部は腸肝循環を行っているため、循環経路に閉塞があると上昇する。
  • 肝炎、肝硬変では遊離型が上昇する(通常、遊離型:エステル型は1:2である)。
  • ネフローゼ症候群で上昇する。

 

HDLコレステロール

  • 善玉コレステロールといわれている。
  • 各組織に蓄積したコレステロールを肝臓に輸送する働きがある。
  • HDLコレステロールが低下すると、虚血性心疾患の発生率が高くなる。
  • 女性ホルモンの働きにより、女性は男性に比べて高値(15〜30mg/dL)となる。
  • 飲酒、運動で上昇する。
  • 低HDL血症、LCAT欠損症、肥満、肝硬変、心不全脳梗塞腎不全、薬剤などで低下する。

 

LDLコレステロール

  • 悪玉コレステロールといわれている。
  • 肝臓で合成されたコレステロールを各組織に輸送する働きがある。
  • 増加すると動脈硬化症の危険因子となる。
  • 動脈硬化の予防と治療のための評価に有用である。
  • 動脈硬化症、高脂血症、糖尿病、甲状腺機能低下症、ネフローゼ症候群などで上昇する。
  • 甲状腺機能亢進症、重症肝障害などで低下する。

 

中性脂肪

  • モノグリセリド、ジグリセリド、トリグリセリドの総称で、血中の中性脂肪の約95%はトリグリセリドである。
  • 食物中の脂肪のほとんどはトリグリセリドであるので、食事の影響を受ける。
  • 高脂血症、糖尿病、ネフローゼ症候群、脂肪や糖質の過剰摂取、飲酒、運動不足、肥満、甲状腺機能低下症などで上昇する。
  • 甲状腺機能亢進症、腸管での脂質の吸収不良、肝障害などで低下する。
  • 食事の影響を受けやすいので早朝空腹時に採血をすることが望ましい。

 

生化学検査(脂質)前後の看護の手順(採血時の注意)

  • 採血をする場合、空腹時にするのか食後にするのかについて医師の指示を確認する。
  • 採血時、無理な吸引は避ける(無理な吸引により赤血球溶血すると血清が赤みをおび、その色が測定値に影響を与えてしまう可能性があるため)

 

[コラム]メタボリック症候群(内臓脂肪症候群)とは

生活習慣病の「死の三重奏」といわれる糖尿病、高血圧、高脂血症は、動脈硬化症、虚血性心疾患、脳卒中の危険因子として知られている。

 

これらの危険因子は,内臓脂肪増加による肥満が根源にあり、このタイプの肥満では体内で分泌されているインスリンが効きにくい状態になりやすいといわれている。

 

このように脂肪の蓄積をもとにして、糖尿病、高血圧、高脂血症のような病気が連鎖的にひき起こされる状態をメタボリック症候群という。下記の①が必須、その他の3項目のうち2項目以上が該当するとメタボリック症候群と診断される。

 

  1. ウエスト(腹囲):男性85cm、女性90cm以上
    →内臓脂肪増加による肥満
  2. 血圧:130/ 85 mmHg以上(いずれかまたは両方)→高血圧
  3. 血糖値:空腹時血糖値110mg/dL以上→高血糖
  4. 脂質代謝異常:空腹時中性脂肪150mg/dL以上
    HDLコレステロール40mg/dL以下

 

生化学検査(脂質)に関するQ&A

Q.HDLコレステロールは多いほどいいのでしようか?

A.通常、健常成人では血清総コレステロールの約30%をHDLコレステロールが占めますが、特に病的でなくても女性では50%程度以上になることもあります。ただし、総コレステロールが基準値であるのにもかかわらず、HDLコレステロールだけが高度に増加(100mg/dL以上)する場合には、CETP(コレステロールエステル転送蛋白)欠損症、肝性リパーゼ欠損症、原発性胆汁性肝硬変などの原発性の疾患を考える必要があります

 

略語

 

  • CETP:cholesterol ester transfer protein(コレステロールエステル転送蛋白)
  • HDL:high density lipoprotein(高比重リポ蛋白)
  • LDL:low density lipoprotein(低比重リポ蛋白)

 


本記事は株式会社サイオ出版の提供により掲載しています。

 

[出典] 『新訂版 看護に生かす検査マニュアル 第2版』 (編著)高木康/2015年3月刊行/ サイオ出版

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