最終更新日 2019/06/06

心不全

心不全とは・・・

心不全(しんふぜん、heart failure)とは、「なんらかの心臓機能障害、すなわち、心臓に器質的および/あるいは機能的異常が生じて心ポンプ機能の代償機転が破綻した結果、呼吸困難・倦怠感や浮腫が出現し、それに伴い運動耐容能が低下する臨床症候群」であると定義される状態のことである1)

 

心不全は、心機能に何らかの障害が生じた際に出現する。そのため、さまざまな原因によって引き起こされる(表1)。

 

表1心不全の原因疾患

 

 

以前はポンプ機能の低下、つまり左室駆出率(left ventricular ejection fraction;LVEF)が低下したものが心不全と広く認知されていたが、近年LVEFが低下していない例でも心不全を来すことが知られてきた。LVEFが低下した心不全(heart failure with reduced ejection fraction;HFrEF LVEF40%未満)と、LVEFが保たれた心不全(heart failure with preserved ejection fraction;HFpEF)がある。

 

また、急性心不全はクリニカルシナリオ(CS)と呼ばれる、非循環器専門医が行うことを想定し、初期対応のために提唱された血圧を参考にした分類方法がある。

 

症状

左心不全症状と右心不全症状に分けて考えるとよい。最終的には両心不全と呼ばれる両方の症状が見られる。

 

・左心不全:肺のうっ血により生じる症状(呼吸困難、息切れ頻呼吸、起坐呼吸など)
・右心不全:食思不振、腹部膨満感、浮腫、体重増加など

 

さらに増悪すると、意識障害不穏、冷や汗、チアノーゼなどが見られる。

 

検査・診断

症状から心不全が疑われた場合には、身体所見に加えて、血液検査所見、画像所見を合わせて総合的に判断する。

 

身体所見

水疱性ラ音湿性ラ音)、喘鳴、ピンク色泡沫痰、頚静脈の怒張、浮腫など。

 

血液検査

脳性ナトリウム利尿ペプチド(BNP)、N末端プロBNP (NT-proBNP)、トロポニンの測定など。特にBNPやNT-proBNPは心不全患者においてよく測定される項目である。日本のガイドラインでは、BNPは200pg/mL以上、NT-proBNPは900pg/mL以上で「治療対象となる心不全の可能性が高いので精査あるいは専門医に紹介」とされている。

 

画像所見

胸部X線検査、心臓超音波検査(心エコー法)、心電図、冠動脈造影など。

 

なお、慢性心不全患者では、もともとのベースラインが高値の場合も少なくないため、繰り返しになるが、心不全の診断には症状や画像所見など、総合的に判断する必要がある。

 

また、心不全は臨床症候群といわれることからも、心機能が低下した「結果」であって、「原因」ではない。心不全の原因を評価することが重要であり、(表1)に挙げられるような原因を想定しながら、それぞれに応じた検査を行う。

 

治療

急性心不全と慢性心不全で異なる。

 

急性心不全

急性心不全はその病態に応じて治療が異なる。急性心原性肺水腫(CS1)、全身性浮腫(CS2)、低心拍出・低還流(CS3)に応じて、血管拡張薬、強心薬、利尿薬などを用いる。しかし、病態がはっきりと分類できない場合もあり、複数の病態が混在する際は各治療を組み合わせる。

 

薬物療法でも対応困難な場合は補助循環(大動脈バルーンパンピング(IABP)、体外式膜型人工肺(ECMO))を用いる。
急性心不全の原因が急性冠症候群(CS4)であれば、急性心筋梗塞の治療に準じる。

 

慢性心不全

慢性心不全の治療は、急性心不全へ移行させないようにすることである。β遮断薬、アンジオテンシンII受容体拮抗薬(ARB)、ACE阻害薬、抗アルドステロン薬は慢性心不全患者の生存予後を改善することが示されている。以下の増悪因子を除きながら、降圧薬、利尿薬、強心薬を用いて急性増悪させないようにする。

 

心不全の主な増悪因子としては、以下のようなものが挙げられる。

・急性冠症候群
頻脈不整脈心房細動、心房粗動、心室頻拍など)
・徐脈性不整脈(完全房室ブロック、洞不全症候群など)
感染症肺炎、感染症心内膜炎、敗血症など)
アドヒアランス不良(塩分制限、水分制限、服薬遵守などができない)
・薬剤(NSAIDs、陰性変力作用のある薬剤、癌化学療法など)
・血圧の過剰な上昇
ホルモン代謝異常(甲状腺機能亢進・低下、副腎機能低下、周産期心筋症など)

 

予防

肥満、高血圧糖尿病脂質異常症などの治療や生活習慣の改善が必要である。心不全の原因は(表1)に示すように多岐にわたること、加えて上記にあるような増悪因子があるため、それぞれに対する予防や対策が必要となる。

 

【引用参考文献】
1)日本循環器学会、日本心不全学会.“急性・慢性心不全診療ガイドライン(2017年改訂版)”.日本心不全学会

執筆: 小森大輝

順天堂大学大学院医学研究科 総合診療科学大学院生

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