妊娠糖尿病や性感染症のスクリーニングに必要な検査|妊娠初期の健診とスクリーニング③
『新訂版 周産期ケアマニュアル 第3版』(サイオ出版)より転載。
今回は妊娠初期のその他必要な検査について解説します。
立岡弓子
滋賀医科大学医学部看護学科教授
立岡和弘
静岡市立清水病院産婦人科長
妊娠糖尿病や性感染症のスクリーニングに必要な検査
尿定性
尿定性によって、腎疾患、尿路系の疾患、代謝障害、各臓器の異常などを調べることができる。
尿中に糖が多く出ると糖尿病が疑われるが、尿糖は感度が低いために、あくまでもスクリーニングとして用い、糖尿病の診断はブドウ糖負荷試験で行う。定性の判定は−、±、+、++、+++となるが、+以上でブドウ糖負荷試験を行う。尿中にタンパクが検出された場合は、妊娠高血圧症候群が疑われる。
memo:ブドウ糖負荷試験
ブドウ糖負荷によってインスリンの反応を調べる検査。空腹時にブドウ糖液(ブドウ糖75g含有)を経口的に投与し、空腹時血糖、1時間値血糖、2時間値血糖を測定する。
1.新しい妊娠糖尿病(GDM:gestational diabetes mellitus)診断基準では、空腹時血糖92mg/dL以上、1時間血糖値180mg/dL以上、2時間血糖値153mg/dL以上のうち、1点以上あれば、妊娠糖尿病と診断する。
2.妊娠時に診断された明らかな糖尿病
①空腹時血糖値≧126mg/dL
②HbA1C≧6.5%
③確実な糖尿病網膜症があるもの
④随時血糖値200mg/dLあるいは75gOGTTで時間値≧200mg/dLの場合
血算
血算で赤血球数、白血球数、血小板数、血色素量を検査する。妊娠中は、循環血液量(血漿量)の生理的増加と鉄欠乏による赤血球産生増加不良が貧血の原因となる。
妊娠初期では、ヘモグロビン濃度が11g/dL未満に低下しているときに、貧血と診断する。
血糖
妊娠糖尿病は、妊娠によって血糖値が高くなった状態をいう。
妊娠初期には空腹時血糖を測定し、糖尿病のスクリーニングを行う。空腹時血糖が110mg/dL以上の場合には、ブドウ糖負荷試験を行い、糖尿病の確定診断をする。
・定義:妊娠糖尿病とは、妊娠中に初めて発見または発症した糖尿病に至っていない糖代謝異常である。妊娠時に診断された明らかな糖尿病(over diabetes inpregnancy)は含めない。
・診断基準:妊娠中に発見される耐糖能異常(hyper glycemic disordersin pregnancy)には、①妊娠糖尿病、②妊娠時に診断された明らかな糖尿病の2つがある。
妊婦への影響としては、羊水過多症、妊娠高血圧症候群、流産、早産などを起こしやすい。また、胎児、新生児への影響としては、子宮内胎児死亡、子宮内胎児発育遅延、巨大児、呼吸窮迫症候群、高ビリルビン血症、低血糖、低カルシウム血症、奇形をきたしやすい。
妊娠糖尿病を分娩後に管理しないでおくと、分娩後50%の割合で糖尿病に進展する。そのため、産後の糖負荷検査も推奨されている。
梅毒
妊娠初期に血液検査で抗体を調べる。経胎盤感染により胎児の先天梅毒の原因となるので、胎盤が完成する15週前に発見して治療する。
B型肝炎ウイルス
B型肝炎は、血液や、血液をもとにつくられた薬品、母子感染などによって感染するウイルス性の疾患である。
慢性肝炎などの原因となるHBs抗原に対する検査が陽性であればHBV感染を意味し、HBe抗原、HBe抗体によって感染力を判断する。母子感染の重要な指標となる。
memo:HBV
B型肝炎ウイルス
memo:HBe抗原
HBe抗原陽性は感染ウイルス量が多く、かつ感染力が強いことを意味する。
memo:HBe抗体
HBe抗原が陰性化するところに出現する抗体。HBV量が少なく、感染力が弱いことを意味する。
HBVキャリア妊婦では、胎内感染は5%以下とされ、多くは分娩時の産道感染による。分娩後に抗HBsヒト免疫グロブリン(ヘブスブリン)やB型肝炎ワクチンの予防接種を行う。
C型肝炎ウイルス
HCV抗体陽性であれば、肝組織にウイルスが存在すると考えられるが、70~80%は無症状である。
memo:HCV
C型肝炎ウイルス
感染力の診断にはHCV-RNAを検査する。わが国では、妊婦の1%がHCV抗体陽性で、そのうちHCV-RNA陽性の妊婦は70%である。
memo:HCV-RNA
血中ウイルスRNAの存在を逆転写酵素(PCR)により検出する方法。
HCV抗体陽性HCV-RNA陽性の妊婦からの垂直感染(新生児感染)は20~30%である。HCVに対するワクチンはなく、活動性のC型肝炎では、インターフェロンによる治療が行われる。授乳は行ってもよい。
ヒト免疫不全ウイルス(HIV)
エイズ感染者が妊娠すると、エイズを発症して、母体死や分娩後の死亡が多くなる。また、胎内感染、新生児感染、流・早産、子宮内胎児発育遅延、胎児死亡などを起こす。最近では、妊娠中でも積極的に抗HIV剤投与による治療を行えば、胎児への感染をほとんど防げることがわかってきた。
スクリーニングでは疑陽性率が0.5%あるので、陽性に出た場合はウェスタンブロット法、IFA(免疫蛍光測定法)で確認検査を行う。母親の感染が判明した場合は、産道内での胎児への感染を防ぐため、帝王切開となる。
血液型(ABO/Rh)
分娩時の大量出血に備えて血液型検査は不可欠である。また、母親の血液型がRh(−)で父親の血液型がRh(+)の場合、胎児にRh不適合溶血性貧血を起こす可能性がある。
memo:胎児溶血性貧血
母体で産生された抗D抗体が、経胎盤的に胎児に移行し、胎児血球が破壊されると、胎児溶血性貧血が起こる。
肝機能障害から低タンパク血症となり、浮腫を伴う胎児水腫を発症する。やがて、うっ血性心不全となり、子宮内胎児死亡を起こす。
胎児輸血を行い治療するか、分娩の方針とするかは、妊娠週数、羊水中ビリルビン値などを考慮して決定する。
不規則抗体
母体血中に不規則抗体が存在すると、胎児の血球が破壊され、溶血性貧血をきたすことがある。また、輸血の際に不規則抗体があると、血液型が一致しても不適合輸血となることがある。
クラミジア検査
クラミジア・トリコマチスは性感染症(STD)のなかで最も多く、増加傾向にある。妊婦が感染した場合、切迫流早産の原因となり、新生児結膜炎や肺炎を引き起こす。
血液中のクラミジア抗体を調べる検査(血中クラミジア抗体IgG、IgM)と、腟から粘液を採取して調べる検査(クラミジアDNA PCR法)がある。
腟分泌物検査
近年、切迫流早産の原因として細菌性腟炎が注目されている。とくに、B群溶血性レンサ球菌(GBS)は切迫流早産の原因となる。
また、新生児産道感染が知られており、その頻度は出生1000に対し0.05~0.2人であるが、いったん発症すると、25%の高率で新生児死亡や、神経学的後遺症を引き起こす。
風疹ウイルス
妊娠5か月までに風疹に初感染すると、ウイルス血症によって胎児に先天性心疾患、白内障、感音性難聴などの先天性風疹症候群をきたす。
再感染でも先天性風疹症候群は報告されているが、その頻度はきわめて低い。妊娠する前に風疹抗体を調べ、抗体価16倍以下であれば弱毒生ワクチンを接種して(麻疹との混合ワクチン:MRワクチンの接種を推奨している)、少なくとも3か月は避妊した後に妊娠すれば、妊娠中の初感染を予防できる。
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必要に応じて行う検査
サイトメガロウイルス
妊婦のサイトメガロウイルス(CMV)抗体保有率が低下していると、妊娠中の初感染や重症胎内感染の増加が懸念(けねん)される。
この場合、子宮内胎児発育遅延や子宮内胎児死亡、胎児水腫、胎児胸水、胎児腹水、脳室拡大などの胎児異常を起こす可能性がある。CMV-IgG抗体、CMVIgM抗体を検査する。
トキソプラズマ
トキソプラズマ症はトキソプラズマ原虫の感染による人獣共通感染症である。ヒトへの感染経路は経皮感染もあるが、多くはネコの糞便に汚染された生野菜などやブタ、ヒツジ、鳥類の生肉を介する経口感染、また、土中のオーシスト(嚢胞)がゴキブリ、ハエ、ネズミ、昆虫の媒介によって食品を汚染することによる。
妊婦が初感染を起こすと、40%に経胎盤感染を起こし、原虫血症が原因で10~15%に流産、早産、死産、子宮内胎児発育遅延をきたす。また、胎内感染で感染した児の75%に先天性トキソプラズマ症をきたす。
HTLV-1
成人T細胞白血病(ATL)やHTLV関連脊髄症(HAM)の原因ウイルスとされている。妊娠初期から妊娠30週位までに検査することが推奨されている。
スクリーニング検査では擬陽性が多く、確定診断にはウエスタンブロット法が必要とされる。陽性の場合には、完全人工栄養や3か月までの短期母乳、凍結母乳などが考慮される。
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本連載は株式会社サイオ出版の提供により掲載しています。
[出典] 『新訂版 周産期ケアマニュアル 第3版』 編著/立岡弓子/2020年3月刊行/ サイオ出版