トキソプラズマ症とは・・・
トキソプラズマ(ときそぷらずましょう、Toxoplasma)とは、原虫であるトキソプラズマによる感染症のことである。
ヒトとヒト以外の脊椎動物との間で感染を起こす人畜共通感染症である。世界人口の1/3程度が感染していると考えられている。
原因
宿主
有性生殖を行う終宿主は、ネコ科動物であり、無性生殖を行う中間宿主はヒトや豚である。栄養型(無性生殖で急激に増殖)、シスト(無性生殖でゆっくり増殖、厚い壁の中に虫体を多数含む)、オーシスト(有性生殖で増殖、厚い壁の中に虫体を多数含む)の3つの形をとる。
ネコ科動物の腸管内にあるオーシストをヒトが経口摂取すると、消化管を介して細胞内にトキソプラズマが入り込み、増殖する。ヒトの体の中で免疫反応が生じると、脳や筋肉内でシストとなることによって、免疫系からの攻撃を回避し、感染した人の中で生存し続ける。
感染経路
ヒトへの感染経路として、ネコの糞便に含まれるオーシストの経口摂取や加熱不足の食肉(日本では特に豚)由来のシストの経口摂取、汚染された土壌や水との接触などがある。
症状
健康な人が感染しても80~90%は無症状、10~20%で発熱、筋肉痛、リンパ節腫脹などの症状がみられる程度で、通常、数週間で回復する。その後、シストが組織の中に作られて慢性感染となるが、免疫が正常であれば再度発症することはない。しかし、免疫不全状態となった場合、トキソプラズマが再活性化し、肺炎、脳炎による意識障害、痙攣、網脈絡膜炎による視力障害などを起こす。HIV感染者の脳炎の最大の原因である。
妊婦が初めて感染した場合、トキソプラズマが胎盤を介して胎児に感染する危険がある。特に妊娠初期の感染頻度は低いが、胎児に症状が出やすく、流産、死産、先天性トキソプラズマ症(水頭症、網脈絡膜炎、リンパ節腫脹、肝機能障害、黄疸、貧血、血小板減少)などの転帰をたどる。妊娠末期の感染では、小児のときは症状がなくても、思春期や成人になってから眼トキソプラズマ症を発症し、視力障害などを生じる場合がある。すでにトキソプラズマに抗体を持つ妊婦では、強い免疫抑制がない限り胎児には感染しない。
診断・治療
中枢神経感染症(脳症など)、網脈絡膜炎、先天性トキソプラズマといった病型の鑑別が必要となる。疑わしい症状があれば、ピリメタミンとクリンダマイシンなどで治療を開始する。
予防
感染予防策として、特に妊婦では、哺乳類や鳥類の生肉摂取を避ける必要がある。食肉中のシストの不活性化には肉の中心部が67℃になるまでの十分な加熱、あるいは-12℃になるまでの凍結が有効とされる。オーシストは冷凍状態でも生存し、多くの消毒薬にも耐性を持つ。また、ネコに触れた後やガーデニングで土を触った後にはしっかり手を洗うことも大切である。