循環器疾患で重要なリスク因子

『本当に大切なことが1冊でわかる循環器』より転載。
今回は循環器疾患で重要なリスク因子について解説します。

 

井熊三奈子
新東京病院看護部

 

〈目次〉

 

 

なぜリスク因子を知る必要があるの?

循環器疾患は、虚血性心疾患をはじめ、心臓弁膜症、動脈系疾患、心筋疾患、不整脈心不全などさまざまな疾患がありますが、なぜそれらの疾患が起こりうるのでしょうか。これらは、突然に発症する場合もありますが、ほとんどはさまざまな因子が相互的に結びつき、発症します(図1)。

 

図1循環器疾患で重要なリスク因子とその影響

 

横にスクロールしてご覧ください。

 

循環器疾患で重要なリスク因子とその影響

 

※1 アディポサイトカイン
※2 カーニー症候群
※3 マルファン症候群

 

日本において循環器疾患は、悪性新生物、血管疾患とともに、3大死因の1つといえます。加えて、狭心症心筋梗塞などの虚血性心疾患は近年増加傾向にあり、心臓に関する死亡の約半数を占めています。

 

これほどまでに増加傾向がみられる背景には、生活習慣病が増えていることが起因になっていることが挙げられます。

 

厚生労働省は、循環器疾患の予防として、高血圧喫煙耐糖能異常多量飲酒脂質異常症(高脂血症)への対策が基本としています。

 

患者さんが罹患している疾患がどのようなリスク因子をもって発症したのか、また、循環器疾患の終末像である心不全を予防し、増悪を防ぐためにも、リスク因子を知り、患者さんに合わせた教育指導を行うことが重要といえます。

 

 

 

リスク因子:高血圧

高血圧は、脳卒中や冠動脈疾患に共通する最も重要なリスク因子の1つです。

 

高血圧は基本的には無症候性ですが、長年、高血圧であることにより、動脈硬化を引き起こします。

 

高血圧の影響を受けやすい臓器には、心臓腎臓があります。症状としては、頭痛めまい顔面紅潮疲労などが挙げられます。高血圧の期間が長ければ長いほど、臓器に対する影響は大きいため、適切に治療を受けることが必要です。

 

心臓への影響としては、末梢動脈の血管抵抗が増加し、それによって心臓の仕事量が増加します。硬くなった血管で、末梢まで血液を届けるためには、心臓は一生懸命に血液を全身に送り出そうとするため、いわば心臓が筋力トレーニングを行っているようなものです。それにより、心筋線維が肥大し、左心室の肥大、やがて心不全を引き起こします。

 

高血圧により、動脈硬化症、特に冠動脈硬化症を起こしやすく、狭心症や心筋梗塞を発症させてしまうのです。

 

 

 

リスク因子:喫煙

喫煙は、たばこに含まれる活性酸素が末梢血管を収縮させ、一時的に血圧を上昇させます。

 

たばこに含まれるニコチンは、交感神経を刺激して血圧と脈拍を上昇させます。また、たばこに含まれる一酸化炭素は喫煙により、血中の酸素不足を引き起こします。それにより、脈拍を増加させるのです。

 

さらに、交感神経の刺激によってアドレナリンが増加することにより、血糖値が上昇します。ニコチンは、インスリン抵抗性を引き起こすといわれ、喫煙者は糖尿病になりやすいといわれています。

 

喫煙は、高血圧や動脈硬化を引き起こす要因の1つであり、早期に禁煙ができるよう介入が必要です。しかし、たばこに含まれるニコチンには中毒性があり、長年の喫煙歴がある患者さんには禁煙が難しい場面がみられます。禁煙の必要性や本人の禁煙意思を尊重しながら指導したり、近年は禁煙外来も増えているため、本人の意思によって禁煙ができるように介入しましょう。

 

 

 

リスク因子:脂質異常症

脂質異常症とは、リポタンパクの代謝異常の総称です。血液検査上では、高LDLコレステロール血症低HDLコレステロール血症などとして同定されます。

 

リポタンパクの異常により、血中脂肪が増加します。血中脂肪の増加により、血管のなかで粥状に変化し、動脈硬化を引き起こします。

 

脂質異常症は、飽和脂肪酸や炭水化物の過剰摂取で引き起こされる生活習慣病の1つです。食生活や運動量など、患者さんのライフスタイルを聴取し、改善することにより、危険因子を減少あるいは除くことができます。

 

 

 

リスク因子:糖尿病

近年、糖尿病は増加傾向にあります。増加の原因として、過剰な食物の摂取と運動不足などの生活習慣が起因しているといわれています。

 

糖尿病により、インスリンの分泌不全や抵抗性が生じます。それにより、中性脂肪が体内で利用されず、結果、血中脂肪が増加し、動脈硬化が引き起こされるのです。

 

糖尿病は、高血圧や脂質異常症の治療ガイドラインにおいて、冠動脈疾患の既往と同等のハイリスク状態とされています※4※5

 

 

 

リスク因子:肥満

肥満※6とは、脂肪組織に脂肪が過剰に蓄積した状態です。

 

細胞内に多量のトリグリセリドを蓄える脂肪細胞には、体内であまったエネルギーを蓄えるはたらきがあります。また、アディポサイトカインと呼ばれる、体のさまざまな機能を調整する物質をつくり出すはたらきもあります。

 

内臓脂肪が過剰にたまると、アディポサイトカインの分泌に異常が起こり、脂質異常症や高血糖、高血圧が起こってしまい、結果として動脈硬化を引き起こしてしまいます。

 

アディポサイトカインは、血管の弾力を保つインスリンを活性化するアディポネクチンのほかに、血栓をつくりやすくするPAI-1があります。しかし、脂肪細胞の増加に伴い、アディポサイトカインは減少し、PAI-1は増加するといわれています。

 

 

メタボリックシンドローム※7は内臓脂肪の蓄積により、耐糖能異常(高血糖)、脂質異常、高血圧などの異常を合併することによって、さまざまな循環器疾患を発症させるといわれています。そのため、生活習慣病に対する治療、保健指導が重要といえます。

 


[memo]

  • ※1 アディポサイトカイン(上へ戻る
    脂肪細胞から分泌される生理活性タンパク質の総称。2型糖尿病、冠動脈疾患、脂質代謝異常などに関与する。身体によい影響を与えるもの(レプチン、アディポネクチンなど)、悪い影響を与えるもの(TNF-α 、PAI-1など)がある。
  • ※2 カーニー症候群(上へ戻る
    多発性腫瘍症候群の1つで指定難病。おもな症状は、粘液腫、皮膚色素斑、ホルモン分泌の過剰など。
  • ※3 マルファン症候群(上へ戻る
    遺伝子異常による疾患で、指定難病。特徴的な症状は、高身長、強い近視、動脈瘤の形成など。
  • ※4 糖尿病の降圧目標(上へ戻る
    130/80mmHg(高血圧治療ガイドライン)
  • ※5 糖尿病のLDLコレステロールの目標値(上へ戻る
    120mg/dL未満(動脈硬化性疾患予防ガイドライン)
  • ※6 肥満の定義(上へ戻る
    体格指数(BMI=体重[kg]÷身長[m]2)が25kg/m2以上(肥満症診療ガイドライン2016)
  • ※7 メタボリックシンドロームの診断基準(上へ戻る
    以下の両方を満たす。
    ・必須条件(内臓脂肪蓄積):ウエスト周囲径が男性85cm以上、女性90cm以上
    ・次の3項目のうち2項目以上:
    ①高トリグリセライド血症(≧150mg/dL)かつ/または低HDLコレステロール血症(<40mg/dL)
    収縮期血圧≧130mmHgかつ/または拡張期血圧≧85mmHg
    ③空腹時血糖値≧100mg/dL

 


文献

  • 1)日本高血圧学会高血圧治療ガイドライン作成委員会編:高血圧症治療ガイドライン2019.日本高血圧学会,東京,2019.
  • 2)日本動脈硬化学会:動脈硬化性疾患予防ガイドライン2017版.日本動脈硬化学会,東京,2017.
  • 3)日本糖尿病学会編著:糖尿病診療ガイドライン2016.南江堂,東京,2016.
  • 4)日本肥満学会編:肥満症診療ガイドライン2016.ライフサイエンス出版,東京,2016.

 


本連載は株式会社照林社の提供により掲載しています。

 

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[出典] 『本当に大切なことが1冊でわかる 循環器 第2版』 編集/新東京病院看護部/2020年2月刊行/ 照林社

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