高血圧症の理解に重要な血圧のしくみ

『本当に大切なことが1冊でわかる循環器』(照林社)より転載、Web掲載にあたり一部改変。
内容は書籍刊行当時のもの。
今回は血圧のしくみについて解説します。

笹野香織
新東京病院看護部

 

〈目次〉

 

血圧って何だろう?

血圧とは、血液が動脈壁に与える圧力のことです。

血圧は、心臓から送り出される血液量(=心拍出量と、末梢血管での血液の流れにくさ(=全末梢血管抵抗)で決まります。そのため、血圧は心拍出量全末梢血管抵抗をかけ合わせたもので表されます。

全身の血液量が少なくなったり、血管が拡張して血液が流れやすくなれば血圧は下がり、逆に全身の血液量が多くなったり、血管収縮や動脈硬化によって血液が流れにくくなれば、血圧は上がります(図1)。

図1血圧に影響する要因

血圧に影響する要因 心拍出量 全末梢血管抵抗

 

収縮期血圧と拡張期血圧

左心室が収縮して血液を押し出したときの血圧を収縮期の血圧といい、その際の最高の値を収縮期血圧(最高血圧)といいます。

このとき拍出された血液の一部は、動脈を押し広げて大動脈に貯留します。大動脈に貯留した血液は左心室が拡張する際、大動脈の弾性復元力による収縮で末梢に押し流されます。この血流によってできた血圧を拡張期の血圧といい、このときの最低の値を拡張期血圧(最低血圧)といいます(図2)。

図2血圧と心臓の働き

血圧と心臓の動き

 

収縮期血圧拡張期血圧の差を脈圧といいます。

心臓の1回の収縮・拡張を心周期といい、動脈圧の1周期全体をとおした平均値を平均血圧といいます(表1)。

表1血圧の種類

血圧の種類

 

血圧はどうやって調節されているの?

血圧の調節は、おもに神経性因子自律神経系)と、体液性因子ホルモン)が行っています。活動状態に応じて、これらの因子が心拍出量や末梢血管抵抗を調節し、適正な血圧が維持できるようにはたらいています。

 

①神経性因子による調節

血圧が下がると交感神経が興奮し、神経終末からノルアドレナリンを放出します。それによって血管収縮、心拍数上昇、心収縮力増強が起こるため、血圧は上昇します(図3)。痛みや不安、怒りも交感神経を興奮させるため、血圧の上昇が起こります。

逆に血圧が上がると副交感神経(迷走神経)が興奮し、神経終末からアセチルコリンを放出します。それによって心拍数の低下、心収縮力の減弱が起こるため、血圧は低下します。血管には副交感神経の支配はありませんが、副交感神経が興奮すると相互作用により、交感神経の興奮が弱くなるため、血管は拡張します。

図3交感神経と副交感神経のはたらき

交感神経と副交感神経のはたらき

 

 

血圧の変動が起こった際、一番に反応して血圧調節するのが神経性因子です。数秒で反応し、血圧を元に戻すように調節しますが、この反応は3時間ほどで低下しはじめ、4日ほどで消失します。血圧が高い状態が1週間ほど続くと、血圧を調節している設定点が高いレベルに再設定され、高い血圧レベルで調節されるようになります。

 

②体液性因子による調節

体液性因子(ホルモン)による調節は、次の3つがあります。

 

レニン-アンジオテンシン-アルドステロン系(RAA系)

血圧が下がると腎血流量が減るため、糸球体近接細胞からレニンの分泌が増えます。交感神経の興奮もレニンの分泌を増やします。

レニンはアンジオテンシノーゲンをアンジオテンシンⅠに変換します。アンジオテンシンⅠはアンジオテンシン変換酵素ACE)により、アンジオテンシンⅡに変換されます(図4)。

アンジオテンシンⅡは、AT1受容体を介して血管を収縮させて血圧を上昇させ、さらに近位尿細管でNa+とHCO3-の再吸収量を増やします。また、口渇中枢を興奮させるため、水の摂取量が増えます。

アンジオテンシンⅡは、副腎皮質を刺激してアルドステロンを分泌させ、遠位尿細管でのNa+の再吸収とK+、H+の分泌を促進させます。

これらにより、血中の浸透圧が上昇し、体液量が増えるため、血液量が増加します。この作用により、血圧を上昇させます。血圧が上がるとレニンの分泌量が減るため、血圧は下がります。

図4レニン-アンジオテンシン-アルドステロン

レニン-アンジオテンシン-アルドステロン系

 

バソプレシン(抗利尿ホルモン:ADH)

の視床下部で産生され、下垂体後葉から血中に分泌されるホルモンです。

腎臓の集合管のV2受容体を介して水の再吸収を促進させるため、水の排泄量が減ります。また、V1受容体を刺激し血管を収縮させます。

 

心房・心室ナトリウム利尿ペプチド

心房・心室から分泌される循環調節ホルモンです。

利尿作用、血管拡張作用があり、血圧を下げるはたらきがあります。

 


文献

  • 1)安倍紀一郎,森田敏子:関連図で理解する 循環機能学と循環器疾患のしくみ 病態生理,疾患,症状,検査のつながりが見てわかる 第3版.日総研出版,愛知,2010.
  • 2)医療情報科学研究所編:薬がみえる vol.1.メディックメディア,東京,2014.
  • 3)日本高血圧学会高血圧治療ガイドライン作成委員会編:高血圧症治療ガイドライン2019.日本高血圧学会,東京,2019.

本連載は株式会社照林社の提供により掲載しています。

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[出典] 『本当に大切なことが1冊でわかる 循環器 第2版』 編集/新東京病院看護部/2020年2月刊行/ 照林社

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