腹痛に関するQ&A
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『看護のための症状Q&Aガイドブック』より転載。
今回は「腹痛」に関するQ&Aです。
岡田 忍
千葉大学大学院看護学研究科教授
腹痛の患者からの訴え
- 「おなかが痛みます」
〈腹痛に関連する症状〉
〈目次〉
- 1.腹痛って何ですか?
- 2.腹部には何があるの?
- 3.腹痛にはどんな痛み方があるの?
- 4.腹痛はどうやって起きるの?
- 5.体性痛って何?
- 6.おなかの疾患で、おなか以外の部分が痛むこともあるの?
- 7.腹痛の原因になる疾患は?
- 8.急性腹症にはどんな疾患があるの?
- 9.そのほかに腹痛が起きる疾患にはどんなものがあるの?
- 10.どうやって腹痛の原因を見極めればいいの?
- 11.腹痛の観察のポイントは?
- 12.ポイントを押さえた腹痛の問診の仕方は?
- 13.腹痛のケアのポイントは?
- 14.コラム『食中毒の原因細菌』
腹痛って何ですか?
腹痛というのは文字通り、腹部に感じる痛みのことです。「おなかが痛い」「下腹部に鈍痛がある」・・・こんな症状は誰でも経験があると思います。
腹部には何があるの?
つい「おなか」とひとくくりにしがちですが、腹部にはたくさんの臓器が密集しています。胃や腸、肝臓などの消化器が大部分を占めていますが、脾臓や腎臓などの泌尿器もありますし、さらに女性には卵巣や子宮といった生殖器もあります。
これら、腹部にある臓器に何らかの異常があると、腹痛が起こります。
腹痛にはどんな痛み方があるの?
突然の激しい痛みが周期的に繰り返されることを、「疝痛(せんつう)」または「疝痛発作」といいます。一方、軽い持続性の痛みを「鈍痛」と呼びます。
腹痛はどうやって起きるの?
腹痛のメカニズムを知るために、まず、腹腔の大部分を占める腸管の疾患によって生じる痛みについて、考えてみましょう。
腸を輪切りにすると、いちばん内側に粘膜、その周囲に蠕動運動に関係する平滑筋があり、いちばん外側は漿膜(しょうまく)が覆っています(図1)。
平滑筋や漿膜には知覚神経が分布し、この部分が刺激されると痛みを感じるのです。この痛みを「内臓痛」と呼びます。内臓は弱い痛みで、一般的におなかの真ん中に起こるのが特徴です。
これとは別に、腹壁を覆っている腹膜が刺激されて起こる痛みを「体性痛」といいます。
体性痛って何?
腹腔の内側と腹腔内の臓器の表面は、腹膜という薄い膜で覆われています。臓器のまわりに風船を入れて膨らませた図をイメージしてみましょう。腹膜のうち、腹壁の内側を覆う部分を「壁側腹膜」といいます。この部分が刺激されると、その部位に分布する知覚神経を介し、突然激しい痛みが起こります。これを「体性痛」と呼びます(図2)。
図2体性痛と関連痛
おなかの疾患で、おなか以外の部分が痛むこともあるの?
はい、あります。内臓の知覚神経は、痛みが生じている部位とは異なる部位の皮膚の知覚神経と一緒に脊髄に入ります。そのため、脳が間違って内臓の痛みを身体の表面の痛みだと感じることがあります。これを関連痛といいます(図2)。このため、腹部に疾患があって腹痛が起きていても、背中の上のほうや肩に痛みを感じる人もいます。
腹痛の原因になる疾患は?
腹痛を起こす疾患は、軽い胃腸炎から癌まで数多くあります。緊急性の高い疾患と、そのほかの疾患に分けてみていきましょう。
まずは、「急性腹症(ふくしょう)」という言葉を覚えましょう。これは読んで字のごとく、急に起こる激しい腹痛を特徴とする病気の総称です。一般的に急性腹症は、命にかかわる重大な病気であることが多く、緊急に対応しなくてはなりません。
急性腹症にはどんな疾患があるの?
急性腹症の代表的な疾患である急性腹膜炎は、腸管に穴が開いて内容物が腹腔内に漏れ出すことで起こる、腹膜の炎症です。腹膜に炎症が起こると、激しい腹痛が起こります。虫垂炎や腸閉塞(イレウス)、急性膵炎も、急性腹症の原因として頻度が高い疾患です。
そのほかに腹痛が起きる疾患にはどんなものがあるの?
消化器系の炎症として、胃炎、胃潰瘍、十二指腸潰瘍、潰瘍性大腸炎、急性肝炎、胆嚢炎などがあげられます。また、腎臓などの泌尿器、女性では生殖器の病気でも、腹痛が出現します。
どうやって腹痛の原因を見極めればいいの?
このように、腹痛の背景にはいろいろな疾患がありますが、疾患によって痛む場所や痛み方が異なります。ですから、「どこがどのように痛むのか」を知ることで、原因をある程度、見極めることができます。
では、臓器のある場所を想像してみてください。
まず、胃に手を当ててみましょう。心窩部(しんかぶ/心臓の下)や季肋部(きろくぶ/肋骨の下)が痛むなら、胃や十二指腸、胆嚢の病気が考えられます。患者は「みぞおちのあたりに鈍い痛みがある」と表現するかもしれません。
腸の病気では、おへそのまわりが痛くなることが多いです。盲腸では右の下腹部(回盲部:かいもうぶ)に、尿管結石などの泌尿器の病気では脇腹(側腹部)に、激しい痛み(疝痛発作)が生じるのが特徴です。また、女性が下腹部の鈍痛を訴える場合は、子宮内膜症や子宮外妊娠などの生殖器の病気が考えられます。
なお、消化器の病気ではありませんが、解離性動脈瘤や腹部大動脈瘤の破裂によって腹痛が生じることもあります。また、子どもは、腹部以外の痛みも「おなかが痛い」と表現することがあるので、注意しましょう。
腹痛の観察のポイントは?
緊急性を要するかどうかを判断することが大切です。急性腹症や動脈瘤の破裂など、すぐに処置をしなければ生命にかかわる場合もあります。まずは全身状態の観察とバイタルサインの測定を行い、痛みの強さ、体温や血圧などから緊急性を判断します。
痛みを訴える場所を手で押した時に痛みが強まることを、「圧痛(あつつう)」といいます。圧痛がある部位を圧痛点といい、虫垂炎(盲腸)の診断によく用いられます(用語解説参照)。手を離した後で痛みが生じる「反跳性(はんちょうせい)圧痛」がある時は、腹膜炎が疑われます。
壁側腹膜に炎症があると、腹部の筋肉は臓器を防御するために収縮し、硬くなります(筋性防御)。触ってみて、筋肉が硬くなっていないかどうかも確かめましょう。
用語解説虫垂炎の圧痛点
虫垂炎では、炎症を起こしている虫垂付近に圧痛を認め、下図のようないくつかの圧痛点が診断に用いられています。マックバーニー(McBurney)圧痛点に痛みを感じることが最も多いとされています。側臥位にしてこの点を圧迫すると、仰臥位の時に比べて痛みが増すという、ローゼンシュタイン(Rosenshtein)徴候も、診断の助けになります。
ポイントを押さえた腹痛の問診の仕方は?
腹痛の問診のポイントは次の通りです。
- ①痛む部位(どこが痛むのです)
- ②突然の痛みなのか、数日前から痛むのか(いつ頃からですか)
- ③痛みの強さ(どのような痛みですか)
- ④食中毒などとの関係(いつ頃、何を食べましたか)
- ⑤便秘や下痢との関係(お通じはいかがですか)
- ⑥発熱や嘔吐、不整脈などの随伴症状(腹痛のほかに症状はあり ますか)
- ⑦病歴(今までにおなかの手術をしたことはありますか)
- ⑧女性では妊娠の確認(妊娠している可能性はありますか)
腹痛のケアのポイントは?
安静を保ち、楽な体位を取ります。温めることで楽になる場合もあります。原因の疾患が判明したら、それに応じたケアを行います。
便秘が原因である時には、排便を整えます。内臓痛を訴える時は、平滑筋の収縮を抑える薬(抗コリン薬など)を処方するのが一般的です。
コラム『食中毒の原因細菌』
食中毒を起こす代表的な原因菌は、鶏肉や卵が原因になるサルモネラ属、海水中に生息して魚介の生食が原因になる腸炎ビブリオ、病原性大腸菌、傷のある手で調理した時などに感染が起こる黄色ブドウ球菌、殺菌が不十分な真空パックや缶詰の食品が原因になるボツリヌス菌などが有名です。
食中毒を起こす細菌の間でも、薬剤耐性を示すものの増加が問題になっています。例えば、鶏を飼育する時には、病気の発生を防ぐために飼料に抗生物質を混ぜます。これが、薬剤耐性のサルモネラ属の増加を引き起こしています。
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本記事は株式会社サイオ出版の提供により掲載しています。
[出典] 『看護のための 症状Q&Aガイドブック』 (監修)岡田忍/2016年3月刊行/ サイオ出版