下痢に関するQ&A

 

『看護のための症状Q&Aガイドブック』より転載。

 

今回は「下痢」に関するQ&Aです。

 

岡田 忍
千葉大学大学院看護学研究科教授

 

下痢の患者からの訴え

  • ・「下痢をしています」

 

〈下痢に関連する症状〉

下痢に関連する症状

 

〈目次〉

 

下痢って何ですか?

下痢を起こしてトイレに何度も駆け込んだ経験は、誰にでもあると思います。下痢とは、水分の多い泥状もしくは液状の便を頻回に排出する状態をいいます。

 

ポイントは、便中の水分量が増えていることと、回数が増加していることです。

 

便中に含まれる水分量の目安は?

正常な便に含まれる水分量は、1日におよそ100~200mLです。これが200mL以上になった状態が下痢です。

 

なお、「頻繁に便意を感じてトイレに駆け込む」場合でも、水分を多く含んだ便でなければ、下痢ではなく「便意頻回(ひんかい)」として区別します。

 

消化管の中の水分はどう出入りするの?

1日に口に入れた飲み物や食物に含まれる水分(経口摂取水分)は、約2Lです。加えて唾液、液や膵液、胆汁、小腸液などの消化液が約7L。合わせると、消化管内にある水分は約9Lにもなります。

 

経口摂取した食物は、消化液と混じって消化されながら、蠕動(せんどう)運動によってゆっくりと腸管内を進んでいきます。

 

この過程で、小腸で7~8Lの水分が吸収され、回盲弁を通過するときの便の水分は、1.5~2L程度です。

 

大腸の働きは?

大腸には消化作用はほとんどなく、主な役割は水分吸収と糞便形成にあります。

 

食事をしてから便として排泄されるまで、24~72時間ほどかかります。図1を見てください。

 

まず、食物は4~8時間ほどかけ、小腸から大腸へと運ばれていきます。便は上行結腸では液状から半流動状になり、横行結腸で粥状、下行結腸で固形化されます。このように、大腸では18時間あまりかけて便から水分を吸収していきます。

 

図1大腸の働き

大腸の働き

 

下痢ではなぜ水分が多くなるの?

小腸や大腸で水分が吸収されることで、便は適度な硬さを保ちます。ところが、何らかの理由で水分を吸収する働きが弱まったり、腸管の中に排出される水分量(分泌物)が多くなったりすると、下痢を起こします。

 

下痢の原因は?

下痢を起こす原因は、食べ過ぎ、飲み過ぎ、消化不良のほか、腸管の感染症クローン病潰瘍性大腸炎のような炎症性腸疾患、過敏性腸症候群などがあげられます。

 

下痢を起こしているメカニズムによって分けると、①分泌性下痢、②滲出性下痢、③浸透圧性下痢、④腸管運動性下痢に分類できます。これ以外に腸管の静脈のうっ血や門脈亢進などによって、絨毛の毛細血管の静水圧(血管内圧)が増加すると、血管から水分が漏出して、下痢をきたすことがあります。

 

分泌性下痢のメカニズムは?

分泌性の下痢は、腸管内に分泌される水分や消化液の量が、異常に増えるために起こります(図2)。

 

図2分泌性下痢

分泌性下痢

 

例えば、消化液の分泌を促進するホルモンの過剰産生などがあげられます。これは、消化液の分泌を促すホルモンを産生する腫瘍ができた結果、消化液の分泌が亢進する状態です。ゾリンジャー・エリクソン症候群やWDHA症候群などが、これに当たります。前者はガストリン産生腫瘍が胃液の分泌を、後者はVIP(Vasoactive Intestinal Peptide)産生腫瘍が腸液分泌を亢進させて下痢になるのです。

 

消化管に感染した細菌の毒素のなかにも小腸の分泌を亢進する作用をもつものがあります。便秘に使用される緩下剤やひまし油、センナは消化液の分泌を促進する性質を利用したものです。

 

滲出性下痢のメカニズムは?

腸管の粘膜が傷害されると、水分の吸収能力が低下するとともに炎症が起きます。その結果、粘液の産生が亢進したり、腸管内への滲出液が増加して下痢になります(図3)。

 

炎症性腸疾患(潰瘍性大腸炎、クローン病)、放射線性腸炎、腸結核虚血性腸炎、ウイルス性腸炎、細菌による腸炎(赤痢、サルモネラ、ブドウ球菌)などが、これに当たります。

 

図3滲出性下痢

滲出性下痢

 

浸透圧性下痢のメカニズムは?

腸管内に吸収されない物質が過剰に存在すると、それを薄めようとして水分が腸管壁から腸管内に移行して腸管内の水分が増加し、下痢が生じます(図4)。

 

図4浸透圧性下痢

浸透圧性下痢

 

たとえば、腸管で消化吸収されない、または消化されにくいソルビトール、ラクツロースやマグネシウム塩などの塩類下剤、造血薬としてのFe2+などを摂取した場合です。

 

また、酵素欠損があるために食物中の栄養素が消化・吸収されない場合にも、下痢が起こります。ラクターゼ欠損による乳糖不耐性の人が牛乳などの乳糖を含んだ食品を摂取すると、乳糖が分解されないため、消化管の水分量が増えて下痢になります。

 

他に、腸管バイパス術や短腸症候群など、腸管の吸収面積が減少しているために摂取した食べ物が十分消化吸収されない場合も、下痢になります。

 

腸管運動性下痢のメカニズムは?

腸の内容物を肛門まで運ぶ運動のことを、蠕動運動といいます。腸の筋肉が伸び縮みを繰り返し、水分を吸収しながら、ゆっくりと肛門まで送ります。

 

ところが腸管の蠕動運動が亢進していると、水分や食物が十分に消化・吸収されないうちに腸管を通過し、下痢が生じます(図5)。胃切除後の下痢や過敏性腸症候群が、これに当たります。

 

また逆に、蠕動が障害されて便が滞った場合も、増殖した腸内細菌の刺激によって下痢が起こることがあります。

 

図5腸管運動性下痢

腸管運動性下痢

 

ストレスで下痢することがあるのはなぜ?

消化管の蠕動運動や消化液分泌は、自律神経系に支配されています。副交感神経はこれらを亢進させ、交感神経はその逆の働きをもっています。緊張状態にあると両者のバランスが崩れ、腸管運動や消化液分泌が亢進し、その結果として下痢になってしまうのです。

 

下痢の観察のポイントは?

下痢には、一時的な腸の機能異常が原因のものと、腸管や内分泌臓器の病気が原因のものとがあります。前者は心配ありませんが、後者は治療が必要です。

 

発症のきっかけ、発症の仕方、どのくらい続いているのか、便の性状の観察や回数、頻度について把握します。下痢の原因で最も多いのは腸管の感染症ですが、乳幼児やお年寄りがかかりやすいロタウイルスノロウイルスでは白色の水様便が出ます。

 

血液、粘液、膿などが混じっていないか、便の色が灰色、赤色、黒色、緑色など、いつもと違っていないかなどをチェックします。下痢が続いているときは、体重が減少していないか確認しましょう。

 

食事についても把握し、食中毒など感染性のものか判断します。また、胃や腸の切除の有無などの既往歴や服薬の状況、ストレスの有無などについても問診します。

 

下痢以外に、発熱、腹痛嘔吐などの症状がある場合は、何らかの病気を疑い、できるだけ早く原因を明らかにして適切な対応をとります。これらの症状がなければ、様子を見守ります。

 

COLUMN 胃腸炎、下痢を起こすウイルス

胃腸炎を起こすウイルスの代表は、ロタウイルスとノロウイルスです。次いでアデノウイルスとアストロウイルスが続きます。これらのウイルスはいずれも、エンベローブがないため、アルコール消毒が効きにくく、環境中で長く生存できるという共通点をもっています。

 

介護老人保健施設などの高齢者施設で集団発生が問題になっているのが、ノロウイルスです。ノロウイルスによる胃腸炎では、吐き気、嘔吐、下痢、腹痛、頭痛、全身倦怠感がみられますが、発熱を伴うことはまれです。魚介類、とくに生ガキが原因になります。感染力が強く、嘔吐物や下痢便などの排泄物から手指などを介して感染が広まります。

 

ウイルスによる胃腸炎は、冬に流行することが多くみられます。症状は1日から2日で軽快しますが、乳幼児や高齢者では下痢や嘔吐によって脱水を起こして重症化することがあるので、注意が必要です。

 

下痢を緩和するためには?

消化管の感染症の場合、下痢は微生物を身体の外に排出するための防御反応なので、無理に抑えることはかえって回復を遅らせてしまいます。心身の安静を図り、食事を控えて消化管を休ませ、腹部を冷やさないようにすることが大切です。

 

下痢が続くと脱水(「脱水」参照)を起こす危険性があるため、水と電解質を補給します。とくに乳幼児や高齢者には注意が必要です。経口補水液も市販されています。口から水分をとることが難しいときは、輸液を行います。

 

頻回の下痢は、陰部の皮膚に対する刺激となって、皮膚の炎症を引き起こします。温湯で洗うなどして陰部の清潔を保持することも忘れないようにしましょう。

 

また、食事を摂る場合は消化がよく、消化管への負担の少ないものを摂取するようにアドバイスします。

 

下痢を止める止瀉(ししゃ)薬を用いる場合は、薬剤により作用機序が異なるので、下痢の原因にあった薬剤を選択します。

 

※編集部注※

当記事は、2016年11月6日に公開した記事を、第2版の内容に合わせ、更新したものです。

 

⇒〔症状に関するQ&A一覧〕を見る

 


本記事は株式会社サイオ出版の提供により掲載しています。

 

[出典] 『看護のための 症状Q&Aガイドブック 第2版』 (監修)岡田忍/2024年7月刊行/ サイオ出版

SNSシェア

看護ケアトップへ