栄養剤投与時のトラブルを防ぐ|PEGケア
『病院から在宅までPEG(胃瘻)ケアの最新技術』(照林社)より転載、Web掲載にあたり一部改変。
内容は書籍刊行当時のもの。
今回は栄養剤投与時のトラブル防止について説明します。
真井睦子
栗山赤十字病院管理栄養士
児玉佳之
藤田保健衛生大学医学部外科学・緩和医療学講座
Point
〈目次〉
はじめに
胃瘻は、ほとんどの場合、栄養投与を目的として造設されます。そのため、起こり得るトラブルを把握し、「どう防ぐか」「どう対応すべきか」を理解して、安全に栄養剤投与を継続できるよう、日常のPEGケアを行うことが重要です。
また、栄養剤の投与プランは、一度作成すればそれでよいわけではありません。定期的に栄養評価を行い、問題があればプランの修正が必要です。
本コラムでは、栄養剤注入に関するトラブル予防と、栄養状態の定期的な評価について解説します。
栄養剤注入に関連するトラブル
栄養剤の注入にかかわる合併症には、「嘔吐」「胃食道逆流」「下痢」「便秘」「栄養剤の漏れ(リーク)」などがあります。
1嘔吐・胃食道逆流(図1)
嘔吐・胃食道逆流は、胃排出能の低下や、高度の食道裂孔ヘルニアがある場合に起きやすいと思われます。
繰り返す嘔吐・胃食道逆流は、誤嚥さらには誤嚥性肺炎を引き起こし、命にかかわることもあるため、これらの予防は重要です。以下に、予防法の実際を示します。
投与中の体位
原則として、90度座位か、30度のギャッチアップとします(図8参照)。
円背の患者では、胃部を圧迫しない体位とする工夫が必要です。
“胃排出の促進”という理由から右側臥位が勧められることがありますが、胃の形は人それぞれであり、十分なエビデンスはありません。かえって嘔吐しやすくなる場合もあるため、注意が必要です。
消化管運動機能改善薬の投与
嘔吐・胃食道逆流が続く場合、モサプリドクエン酸塩(ガスモチン®)、ドンペリドン(ナウゼリン®)など消化管運動機能改善薬の投与が有効な場合があります。
しかし、長期間にわたって漫然と投薬を続けることは、避けるべきです。
栄養剤の半固形化
液体の経腸栄養剤は、固形物に比較して胃食道逆流を起こしやすいと考えられます。
経腸栄養剤を半固形化することにより、胃本来の生理的な運動が得られ、ある程度の嘔吐・胃食道逆流の予防が可能です(『栄養剤の半固形化』参照)。
胃内の減圧
栄養剤投与前には、PEGカテーテルを開放して、胃内に内容物の停滞がないかを確認することも重要です。この際、減圧用チューブを用いてPEGカテーテルを開放し、停滞が認められた場合は、胃内の減圧を行います。
停滞量が多い場合は、投与速度を遅くしたり、1回投与量を少なくする必要があります。
経胃瘻的空腸栄養投与への変更(PEG-J、図2)
胃瘻での管理で嘔吐・胃食道逆流が続く場合、投与ルートをPEG-J(perpecutaneous endoscopic gastro-jejunostomy:経胃瘻的空腸瘻)に変更する場合があります。
PEG-Jは、胃瘻から空腸瘻カテーテルを挿入して、空腸に留置する方法です。先端を上部空腸に留置するため、栄養剤の嘔吐・胃食道逆流は、ほぼ防ぐことができます。
しかし、PEG-Jに用いる空腸瘻カテーテルは細く長いため、栄養剤が詰まりやすいなどの理由から管理が難しく、さらなるトラブルが予測されます。そのため、PEG-Jは、最終手段と考えるほうがよいでしょう。
環境整備
栄養剤を投与する際には、投与前の情報発信も大切です。
できる限り患者を車椅子に移乗し、食堂へと移動して、「ごはんですよ」と声をかけ、食事のにおいなどで刺激してから投与を開始するなど、環境へも配慮しましょう。
2下痢(図3)
経腸栄養を成功させるカギは「下痢を起こさないこと」です。特に、導入時には、注意が必要です。以下に、注意点を示します。
投与速度
液体の経腸栄養剤を使用する場合、表1の原則に従って投与速度を管理すると、下痢の発症を抑制できます。
初回は25mL/時ぐらいから開始して、徐々に投与速度を上げていきますが、この場合には経腸栄養ポンプを使用するとよいでしょう。 下痢が発生したときは、投与速度を50mL/時以下に落とします。それでも改善しない場合は、いったん投与を中止して、12~24時間後に再開します1。
ほとんどの経腸栄養剤は、血液の浸透圧(300mOsm/L)より高いため、急速に投与すると小腸上皮の毛細血管から腸管腔内への水分の拡散と、腸粘膜での水分再吸収とのバランスが崩れ、水分の拡散が優位になるため、腸の蠕動運動が亢進し、下痢や腹痛が起こります2。
濃度
成分栄養剤は、特に浸透圧が高いため、最初は2倍に希釈して、薄い濃度から開始します。
温度
冷蔵庫で保存していた冷たい経腸栄養剤をそのまま投与すると、下痢を起こします。必ず室温に戻してから投与しましょう。
栄養剤を温める必要はありません。温めても、投与中に冷めてしまいます。
その他
下痢が続く場合には、便培養を行い、CD(クロストリジウム・ディフィシル)毒素の有無をチェックしておくことも重要です。
腸管の感染がなく、腸管吸収障害のない患者であれば、半固形化栄養材を使用することで、下痢の改善が期待できます。
栄養剤の細菌汚染、器材の汚染が下痢の原因になることもあります。開封後の経腸栄養剤は、長時間室温で放置せず、すぐに投与しない場合は冷蔵庫に保管します。
投与容器に詰めた栄養剤は8時間以内に使用し、注ぎ足しは行わないようにします。
器材を再利用する場合には、水道水で洗った後、ミルトンⓇ(0.01%次亜塩素酸ナトリウム)に容器全体を1時間以上浸し、再度水道水で洗浄後、乾燥させてから使用します。この場合、消毒液は24時間で交換することが重要です3。
3便秘(図4)
下痢と同様に起こりやすい合併症が便秘です。便秘の原因として、脱水、宿便、腸閉塞が挙げられますが、一番の原因は脱水です。
脱水の予防が重要
予防としては、必要水分量をしっかり投与することが重要です。1日の必要水分量は、以下の計算式で算出します。
30(高齢者)~40(若年者)mL×体重(kg)
ただし、「経腸栄養剤の投与量=水分量」とはいえないことに、注意が必要です。
一般的に、経腸栄養剤に含まれる水分量は、以下のようになっています。
- 1kcal/mLの栄養剤 水分含有率は80~86%
- 1.5kcal/mLの栄養剤 水分含有率は76~78%
そのため、「1日必要水分量」から「経腸栄養剤に含まれる水分量」を引いた量を、白湯として栄養剤とは別に投与し、必要水分量を補います。
宿便への対応
宿便には、下剤(排便誘導を行う)、浣腸、摘便などで対応します。GFO(グルタミン・ファイバー・オリゴ糖)の投与が有効なこともあります1。
そのほか、食品として販売されている食物繊維の投与により便秘が改善される場合もあります。液体タイプの食物繊維強化食品(図6)は、水分投与時に白湯と一緒に混ぜて投与できるため、チューブの閉塞などが起こらず手軽です。
また、顆粒タイプの食物繊維補助食品もあります(図7)。これらは、白湯に混ぜて栄養剤とは別に投与し、投与後フラッシュしてから栄養剤を投与します。
4栄養剤の漏れ(図5)
瘻孔の開大や、外部ストッパーによる瘻孔への圧迫などによって、 瘻孔とPEGカテーテルの隙間から胃内容物(栄養剤)や消化液が漏れる場合があります。
また、逆流防止弁の破損によって、PEGカテーテルから直接漏れてくる場合もあります。
漏れが発生すると、着衣が汚染されるだけでなく、瘻孔周囲に皮膚炎をきたすことがあります。
「栄養剤の漏れ」の予防法
日ごろから、以下の点などに注意します。
- 瘻孔周囲の十分なケアと観察を行う。
- PEGカテーテルを寝かせず、なるべく垂直になるようにする。
- 外部ストッパーに、常に1.5cmくらいのあそびをもたせておく。
- 腹部膨満、便秘に気をつける。
「栄養剤の漏れ」発生時の対策
個々の症例で、漏れの原因を探ることが重要です。方針として、以下のようなことが考えられます。
- 栄養剤注入前の胃内の減圧
- 消化管運動機能改善薬の投与
- 栄養剤の半固形化
- PEGカテーテルのタイプ変更
逆流防止弁の破損が原因の場合には、PEGカテーテルを交換します。
瘻孔の開大が原因の場合には、外部ストッパーを締めつけたり、PEGカテーテル径のサイズを大きくしたりしてはいけません。症状を悪化させる原因となります。
栄養剤投与時の体位
1望ましい体位
座位が可能であれば「90度座位」がよいですが、座位がとれない場合は、ずれによる褥瘡発生を予防するため「ギャッチアップ30度(図8)」とします。胃食道逆流を予防するためにも、この体位は重要です。投与終了後1時間程度は、この体位を保つのが理想です。
せっかく十分な栄養を投与しても、長時間の投与によって仙骨部にずれが生じると、褥瘡の発生・悪化が起こります。
PEGを造設している患者の多くは、「痛い」と訴えられない、自力で体位変換できない、などの状況にあります。栄養投与時には、いつも体位に気を配るようにしましょう。
2体位の設定
栄養剤の投与を開始する際は、上体を起こすのが基本です。その際、仙骨部にかかる一定の圧力や外的な摩擦を最小限にするため、先に膝を約15cm挙上してから上体をギャッチアップし、その後、背抜き(背中を少し浮かせて圧を逃がす)をして上半身を整えます。
仙骨部には、圧力が分散するように、上体の右側や左側にクッションを入れて体位変換を行います。その際、急な体位変換により、栄養剤が逆流しないように注意が必要です。
褥瘡発生のリスクが高い患者に対しては、体圧分散式マットレスや褥瘡予防マットレスを優先して使用します。
定期的な栄養評価と再プランニングの実施
経腸栄養の開始後は、定期的に栄養状態を評価・モニタリングし、問題があれば、そのつど栄養管理の再プランニング(プランの修正)を行うことが重要です。一般的にモニタリングでは以下の指標を用います。
1身体計測
身体計測では、体重減少率、BMI(body mass index:体格指数)、TSF(triceps skin fold:上腕三頭筋部皮下脂肪厚)、AC(arm circumference:上腕周囲)とAMC(arm muscle circumference:上腕筋囲)を評価します。
体重減少率(表2)
最も大切な栄養指標です。PEGを造設している患者は、寝たきりの方が多く、体重測定は難しいかもしれません。しかし、定期的な体重測定は栄養アセスメントの基本です。車椅子用の体重計やストレッチャー式体重計をうまく利用し、必ず測定しましょう(図9)。
短期間に体重減少を認めるようなら、それがたとえわずかな量でもプランの修正が必要です。
BMI(体格指数)
BMIは、以下の式で計算します。
BMI=体重(kg)/身長(m)2
TSF(上腕三頭筋部皮下脂肪厚)
利き腕でないほうの上腕三頭筋(上腕の中点)の脂肪組織を軽くつまみ、キャリパーを使って脂肪の厚みを測定します(図10-左)。
TSFの測定により、体脂肪量を推定できます。
AC(上腕周囲)・AMC(上腕筋囲)
まず、利き腕でないほうの上腕の中点でACを測定します(図10-右)。その後、以下の式で、皮下脂肪の厚さを除いたAMCを算出します。これにより、筋蛋白量を推定できます。
AMC(cm)=AC(cm)-0.314×TSF(mm)
筋蛋白量は、上腕周囲でも推定できますが、上腕筋囲のほうがより正確です2。TSF・ACの計測は、測定者によってかなりの誤差が生じる場合があるため、ある程度の訓練が必要です。
可能であれば、1人の患者は同一の人が計測し、時間的経過で評価するほうがよいでしょう。
TSFおよびAMCの測定値は、JARD2001(Japanese Anthropometric Reference Data:日本人の新身体計測基準値、表3)の性別・年齢別測定基準値と比較し、パーセンテージ(%AMC、%TSF)を算出して栄養評価指標とします。栗山赤十字病院では、%AMCが80%未満、%TSFが50%未満でプラン修正を検討します。
2血液検査
血液検査では、アルブミン値、TLC(末梢血中総リンパ球数)、ヘモグロビン値を評価します。
血清アルブミン値(表4)
アルブミンは、肝臓で合成される最大の蛋白質です。
血中半減期が21日と長いため、短期間の代謝変動が激しい場合には鋭敏さに欠けますが、PEGで病態の安定している患者の栄養指標としては最適です。
TLC(末梢血中総リンパ球数、表5)
栄養障害が生じると免疫能が低下することから、TLCの測定により、栄養障害の有無・程度を評価できます。
細胞性免疫能を現すTLCは、代表的な栄養指標です。蛋白エネルギー、各種ビタミン、微量元素の不足で低下します2。ただし、感染が存在する場合には、栄養状態以外の因子の影響を受けることに注意が必要です。
3その他のモニタリング項目
体温、脈拍、血圧、SpO2、AST、ALT、BUN、Cr、T-Cho、TG、CRP、Na、K、Cl、FBS、HbA1c、意識レベル、口腔内の状態、爪・皮膚の状態、浮腫の有無、食事摂取量(経口摂取併用時)、消化吸収能、摂食・嚥下機能などの評価も定期的に行い、栄養プランの修正に反映させます。
栄養投与に伴う代謝性合併症としては、水分過剰、脱水、電解質異常、糖代謝異常が重要です。モニタリングの際には注意しましょう。
これらの情報を多職種で総合的に評価し、問題があれば栄養管理の再プランニングを行います。
事例:胃瘻造設後、栄養剤投与を開始したら脱水が起きた!
患者の情報
70歳代、男性。投与スケジュールに沿って栄養剤を投与しているのに、脱水が起きてしまった。
高濃度栄養剤使用時の脱水予防
高濃度栄養剤(1mL=1.5kcal、2kcal)の長期投与を行う場合は、高濃度栄養剤そのものの水分量が少ないため、実際に必要な水分量が不足し、患者が便秘や脱水症状を起こさないように注意します。
多くの場合、1mL=1kcalの栄養剤を使用しますが、褥瘡患者、褥瘡発生リスクが高く頻繁に体位交換を行わなければならない患者、体動の激しい認知症の患者には、投与時間短縮のために高濃度栄養剤を投与します。その際は、水分不足にならないよう栄養剤の水分量を考慮し、不足水分を投与します。特別な疾患が見られない場合、必要水分量は「体重(kg)/水分量30~35mL」で算出します。
経腸栄養剤の場合、栄養剤投与量=栄養剤水分量とはなりません。特に高濃度栄養剤は、濃度が高くなるにつれ、水分量が減少しています(70~75%)。それぞれの栄養剤に含まれる水分量を確かめたうえで、不足水分量を投与することが大切です。
COLUMN:造設後のトラブルを防ぐ!
胃瘻・腸瘻造設後、栄養剤投与開始にあたり、消化管トラブルの発生に注意しなければなりません。特に絶食期間が長期で、腸管機能が低下している場合、栄養剤の成分を考慮した投与開始スケジュールに添って栄養剤を投与することが大切です(図11)。
また、絶食により飢餓状態が長く続いている場合、糖質摂取量減少のため、インスリン分泌も減少しています。そのため糖質のかわりに脂質や蛋白質がエネルギー源として使用され、細胞内の「リン」が特に枯渇します。
この状態で栄養を投与すると、エネルギー源が主に糖質へと急激に変化してインスリン分泌が増加し、細胞外から細胞内へ、ブドウ糖のみでなく電解質(リン、カリウム、マグネシウムなど)の取り込みが促進されてリンが細胞内へ取り込まれ、細胞外での『低リン』血症が起こります。これをリフィーディングシンドロームといい、生命に重篤な影響を及ぼします。
これらを予防するために、長期絶食後、胃瘻・腸瘻造設患者の栄養剤投与開始に関しては、投与速度を低速にし、成分栄養剤から行うことをお勧めします。
図11胃瘻造設前に絶食期間が長期に及んだ場合の投与スケジュール
[引用・参考文献]
- (1)東口髙志:NST実践マニュアル.医歯薬出版,東京,2005:75/99/105.
- (2)東口髙志編:NSTの運営と栄養療法.医学芸術社,東京,2006:54-57/118-128.
- (3)東口髙志:感染予防からみた経腸栄養管理、EBNURSING2005;5(3):70-76.
- (4)日本静脈経腸栄養学会編:コメディカルのための静脈・経腸栄養ガイドライン.南江堂,東京,2003:3.
- (5)児玉佳之,浅田友紀,真井睦子:NSTが作成した地域連携PEGパス.看護きろく2007;17(3):16-25.
- (6)岡田晋吾監修:胃ろうのケアQ&A.照林社,東京,2005:33/56-58.
本記事は株式会社照林社の提供により掲載しています。/著作権所有(C)2010照林社
[出典] 『PEG(胃瘻)ケアの最新技術』 (監修)岡田晋吾/2010年2月刊行/ 照林社