栄養剤の半固形化
『病院から在宅までPEG(胃瘻)ケアの最新技術』(照林社)より転載、Web掲載にあたり一部改変。
内容は書籍刊行当時のもの。
今回は栄養剤の半固形化について説明します。
阿部かずみ
北美原クリニック看護師
Point
- 栄養剤の半固形化は、栄養剤投与に伴うトラブルを改善するだけでなく、介護に伴う労力・費用を軽減させるメリットもある。
- 半固形化には、寒天または市販の半固形化補助食品を使用する。あらかじめ半固形化されたチアーパック入り製剤もある。
- 半固形化に使用する製品は「食品」扱いであることに注意し、患者の状態に合わせて、適切な方法を選択することが重要である。
〈目次〉
はじめに
液体の栄養剤を使用している場合に起こるトラブルの予防策として、近年、注目を集めているのが「半固形化栄養材」です。
本コラムでは、半固形化の方法や、投与時の注意点などについて解説します。
半固形化のメリットと注意点
1半固形化によるメリット(表1)
栄養剤投与によるトラブルを防ぐ
胃瘻の栄養管理で、液体の栄養剤を使っている際、「胃食道逆流」「胃瘻周囲からの栄養剤の漏れ」「下痢」などが問題となることがあります。
特に、免疫能の低下している高齢患者の場合、胃食道逆流が「誤嚥性肺炎」を引き起こし、致死的になる危険性もあります。
これらのトラブルや合併症を予防するには、経腸栄養剤を半固形化(液体と固体の両方の属性をもつが、液体より固体に近い半流動体)して投与することが効果的だといわれています。
ただし、トラブルにいち早く気づくために、経腸栄養剤の投与が終わるまで付き添って、患者の体位が崩れていないか、嘔吐していないか、常に観察することが必要です。
胃の機能を促進させる
胃は、食物などの固形物が入ることで蠕動運動を開始し、食塊を混和し、十二指腸に排出する機能をもっています。つまり、栄養剤を半固形化して投与することで、胃の生理的な貯留・排出機能が起こるのです1。
介護側にもメリットがある
特に在宅介護を行っている状況で下痢が起きると、おむつ交換のための労力や費用がかかります。臀部がただれてしまった場合には、その処置も必要です。瘻孔からの漏れも同様です。
半固形化した栄養剤の投与は、患者だけでなく、介護する側にもメリットがあるという報告が増えています。
2実施にあたっての注意点
半固形化の施行によるさまざまな効果が報告されていますが、実施にあたって注意すべき点もあります。
半固形化の適応・開始は慎重に進める
胃瘻をもつ患者は、基礎疾患や嚥下機能障害など、さまざまな問題を抱えています。そのため、半固形化栄養材の適応については、慎重な検討が必要です。半固形化栄養材の開始は、必ず医師の指導のもとで進めてください。
また、半固形化栄養材を投与する際、当初は患者の状態を特によく観察するとともに、慎重に進める必要があります。誤嚥や腹痛などの症状が出ないかを、注意深く観察しましょう。
栄養剤の「水分含有量」に注意する
通常、経腸栄養剤の約80%は水分です。
しかし、水分の含量が少ない栄養剤もありますので、添付文書で水分割合を確認し、必要水分量を補給する必要があります。
なお、1mLあたり1.5kcal、2.5kcalの製品の水分含量は、50~70%です(CZ2.0など)。
半固形化の方法
液体の経腸栄養剤を半固形化する場合、「寒天」または「半固形化補助食品」を使用します。
1寒天を使用する方法(図1)
寒天による経腸栄養剤の半固形化は、蟹江治郎医師が考案した方法2で、全国的によく知られています。くわしくは蟹江医師のホームページ3や、成書4、5を参照してください。
粉末寒天を用いて栄養剤を半固形化するこの方法は、安価であり、特に「粘度を増さない」「体温で溶解しない」ことが最大の利点といえます。
また、寒天には、経腸栄養剤だけでなく、水でもお茶でも、液体の種類を選ばず固められるメリットもあります。
しかし、投与後、寒天が便中の水分を吸収してしまうため、過剰な量を投与するのは控えましょう。
2半固形化補助食品を使用する方法
半固形化補助食品には、リキッド状(液状)タイプと、粉末状タイプがあります。
水分を半固形化する際には、粉末状タイプ、もしくは増粘剤を使用します。
リキッド状(液状)タイプ
リキッド状の半固形化補助食品には、イージーゲル(大塚製薬工場)や、リフラノン(ヘルシーフード)などがあります。リキッド状タイプの半固形化補助食品を用いる方法を図2に示します。
リキッド状タイプの利点は「常温で栄養剤と混ぜるだけで、簡単にすばやく半固形化できる」ことです。加熱処理などの手間がかからず、簡便であることから、北美原クリニックでもよく使用しています。
しかし、食品なので保険がきかず、実費で購入してもらう必要があります。また、お茶・水は固まりにくいという特徴もあります。
粉末状タイプ
粉末状の半固形化補助食品であるリフラノンパウダーPG(ヘルシーフード)も発売されています。
液状リフラノンは水を半固形化できませんが、リフラノンパウダーPGは、先に常温の水にパウダーを入れ、かき混ぜてから、常温の濃厚流動食に入れることで半固形化できます(図3)。つまり、半固形化によって水分を同時に補給できるのです。
リフラノンパウダーPGは、液状リフラノンと同様、半固形化後に崩しても離水せず、再固形化します。また、胃液に溶けにくく、腸液に溶けやすいという特徴もあります。
リフラノンパウダーPGのほかにも、ソフティアENS(ニュートリー)、つるりんこ(クリニコ)など、いくつかの種類がありますので、実際に試用してみて使いやすいものを患者に勧めましょう。
水分の半固形化には増粘剤を使用
イージーゲルも、液状リフラノンも、水やお茶を半固形化することはできません。そのため、水を半固形化して別に投与したい場合は、別の固形補助食品(増粘剤)を使用します。
トロミスマイル(ヘルシーフード)は、粉末状ですが、常温で水に溶けます。また、イオンサポート(ヘルシーフード)は、80℃以上のお湯に溶かして冷やすだけで、電解質バランスのとれたゼリーになります。増粘剤は、このほかにも約20種類あります。
増粘剤を用いて半固形化した水は、栄養剤と同じように、シリンジでボーラス注入します。
3チアーパック入り半固形化栄養材
あらかじめ半固形化(粘度調整)された高カロリー栄養材(チアーパック入り半固形化栄養材)は、そのまま、あるいは専用の接続コネクターを使うことで、胃瘻に注入することができます(図4)。
チアーパック入り半固形化栄養材には、いくつか種類があり、それぞれ内容やパックの形状などに工夫が施されています(図5)。
実際の注入時には抵抗が強く最後まで搾り出すのが難しいという報告もあり、その注入方法に課題は残りますが、加圧バッグ(図6)などの使用により、比較的らくに注入することも可能です。
チアーパック入り半固形化栄養材の粘度
合田文則医師は「胃瘻からの短時間注入法で胃食道逆流防止に効果があり、注入しやすい粘度は20,000mPa・s(ミリパスカル秒)」と報告しています1。チアーパック入り栄養材のうち、PGソフト®EJ(テルモ)は、この20,000mPa・sに粘度調整されています。
一方、メディエフ®プッシュケア®(味の素ファルマ)の粘度は、PGソフト®EJよりゆるく、約2,000mPa・sほどです。ただし、粘度がゆるくても、下痢や瘻孔からの漏れがなく短時間投与のメリットがあれば、患者によっては使用可能だと思います。
そのほか、ハイネゼリー(6,000mPa・s、大塚製薬工場)、リカバリーニュートリート®(5,000mPa・s、三和化学研究所)、マステル5000(5,000mPa・s、クリニコ)など、チアーパック入り半固形化補助食品の種類も、徐々に増えてきています。
チアーパック入り「半固形化水分」もある
チアーパック化された水分として、アイソトニック・ゼリー(ニュートリー)、OS-1ゼリー(大塚製薬工場)、PGウォーター®EJ(テルモ)などが発売されています。
これらも、直接PEGカテーテルに接続して投与することが可能です(別アダプタが必要なものもあります)。
半固形化栄養材投与のポイント
1PEGカテーテルの種類を考慮
半固形化された栄養材や水は、当然ながら、液体よりも注入時の抵抗が増します。そのため、内径の太いPEGカテーテルが推奨されます。
特に、ボタン型のPEGカテーテルは、コネクターとの接続部分が細くなっているため、高齢の介護者などにとって、半固形化栄養材の注入は骨の折れる作業となります。介護者と相談のうえ、可能であればPEGカテーテル交換時に“太め(20Fr以上)”のカテーテルにしてもらったり、チューブ型に変更してもらったりすることも必要になります。
また、ボタン型であっても、接続コネクターの種類に「L字型(持続注入用)」「直線型(ボーラス注入用)」があるメーカーもあります(図7)。L字型より直線型のほうが注入に抵抗がないので、直線型を利用するとよいでしょう。
2患者・家族への説明と指導
費用を含めたメリット・デメリットを検討
これまで述べてきた増粘剤や栄養材は、すべて「食品タイプ」で、保険がききません。入院中は食費でまかなえるとしても、退院後は患者が実費で購入しなければならないことを、忘れずに説明します。
そして、さまざまな半固形化法のメリット・デメリットを考慮し、患者が個々に合った半固形化法を選択できるような環境が作れれば、患者・家族のQOL向上につながるでしょう。
液体投与法しか指導されずに退院した患者・家族は、「病院でこう指導されたから…」と、液体投与法に固執しがちです。特に高齢の介護者では、その傾向が強いように感じます。入院中には、半固形化を実際にできないとしても、方法やメリットを説明しておくだけでもよいのです。
半固形化栄養材と液体栄養剤の使い分けも検討
毎食・毎日同じ方法で半固形化することにこだわる必要はありません。下痢・逆流がない患者は、介護者が忙しい朝だけ半固形化して投与し、用事が済んで時間ができたら、従来の液体のままで滴下投与してもかまいません。
チアーパック入り半固形化栄養材の費用は高くつきますが、手間がかからないことを考えると、これを“高い”と思うかどうかは人それぞれです。現に旅行、ショートステイ、半固形化を知らない病院に入院するときなどに限定して使っている方もいます。
当院で半固形化を行っている状況の例を表2に示します。
事例:退院前カンファレンスによって、スムーズに半固形化栄養法を導入できた!
半固形化栄養法は、ここ数年で広く普及してきています。当初は、主に液体栄養に伴う経腸栄養法の合併症(胃食道逆流、漏れ、下痢など)対策として導入されていましたが、最近では、短時間に注入できることによる患者・介護者の負担軽減の観点から導入されるケースも増えています。
北美原クリニックでは、在宅患者や介護施設入居者に対して半固形化栄養法を紹介・指導しており、多くの症例で半固形化のメリットが得られ、良好な療養生活を続けることができています。ただし、半固形化にはいろいろな方法があるため、患者やその療養環境に合った方法を選択する必要があります。
患者の情報
78歳、全盲の女性。3年前、脳腫瘍(髄膜腫)・脳梗塞のため脳外科専門病院に入院したところ貧血を指摘され、総合病院に転院。S状結腸癌と診断され、ハルトマン手術を受け、人工肛門が造設された。
その後、摂食・嚥下障害が出現したため胃瘻を造設。病状が落ち着いたところで、本人が強く在宅療養を希望したため、当院に訪問診療が依頼された。
1退院前カンファレンスの実施
患者は全盲であるため、自分で人工肛門の処置やPEGからの経腸栄養を行うことができません。娘夫婦が同居していたものの、2人とも月曜~金曜の日中は仕事で家におらず、患者一人である点も問題となりました。
ケアマネジャーからの「1日2回訪問看護師が訪問し、昼に1時間昼食、夕方に約40分人工肛門の処置を行う」プランで、患者も家族も納得しました。
栄養に関しては、病院から「朝と夜は液体栄養剤を2~3時間かけて滴下で落とし、訪問看護師が1時間しかいない昼は半固形化栄養材を約15分で注入する」プランが呈示されました。しかし、この方法だと、仕事をもつ娘にとっては、忙しい朝に2~3時間栄養剤注入に時間がとられ、負担となってしまいます。
そこで、当院側から「朝・昼・夕の3回分の栄養剤をあらかじめ半固形化(増粘剤を使用)しておき、そのつど冷蔵庫から出して注入する」方法を提示し、患者・家族と一緒に検討した結果、この方法が選択されました(表3)。
2その後の患者の状況
退院後、2年が経ちますが、良好な在宅療養生活を続けています。栄養投与と並行して在宅でのリハビリテーションを行い、投与カロリーを増量したことによって全身状態も改善したため、嚥下機能の評価を行い、現在は楽しみ程度に経口摂取できるようになりました。
PEG造設時には、患者の状態や療養環境を考慮して、PEGキットや半固形化法も含めて、関係職種で検討することが大切です。
コラム:在宅医療の現場から
半固形化栄養材「投与時に強い力が必要でうまく注入できない!」を軽減するコツ
❶「太い」PEGカテーテルへの変更
内腔が細いPEGカテーテルへの半固形化栄養材の注入には、相当な力が必要です。可能であれば、20Fr以上のPEGカテーテルへの変更を考慮します。
❷「チューブ型」への変更
ボタン型PEGカテーテルでは、接続部が細くなっているものも多くあります。チューブ型PEGカテーテルでは、そのまま接続できるため、投与しやすくなります。
❸シリンジ内筒の抵抗を減らす工夫
経腸栄養用シリンジを再利用している場合、何回か使うと内筒のすべりが悪くなり、注入しにくくなることがあります。注入前に内筒にオリーブオイルなどを塗っておくと、抵抗も減り、長期間の使用が可能になります。
❹注入時の圧を調整する装置を使う(図6)
経腸栄養用シリンジの場合はPEGソリッド、チアーパック入り半固形化栄養材の場合はインフューザブル加圧バッグなど、新しいデバイスも開発されています。患者や家族の状況に応じて、導入を検討するとよいでしょう。
❺「粘度」の再検討も必要
胃食道逆流が問題である場合は、高い粘度のほうが安心です。しかし、下痢や瘻孔からの漏れがなく、単に注入時間を短縮したいだけの場合には、低い粘度を検討してみてもよいでしょう。北美原クリニックでは、消化器合併症がなく自分で栄養剤や水分を注入できる患者には2,000mPa・s(メディエフ®プッシュケア®)を、介護者が注入しており誤嚥の心配がない患者には5,000mPa・s前後(マステル5000など)をお勧めしています。
(岡田晋吾)
半固形化栄養材の「水分量」
栄養剤だけで、必要な水分量をすべてまかなうのは難しいことが多いのは、皆さんもご存じのことでしょう。しかし、追加水の投与方法や投与するタイミングに悩んでいる方も多いと思います。
特に半固形化栄養法を実施している場合には、水分も半固形化したり、少量ずつこまめに注入したり、意外と手間がかかってしまいます。また、製品ごとに含まれる水分量も異なるため、そのつど追加水の投与量を計算しなければなりません。
そこで、最近では、もともとの水分を多く含む半固形化栄養材が登場し、注目を集めています。また、水分量の多い半固形化栄養材を用いると、PEGカテーテルも汚れにくく、20mL程度の水でフラッシュするだけで、カテーテル内腔への残存がほとんどなくなる、というメリットもあります。
(岡田晋吾)
バルーン型PEGカテーテルが引き込まれる?!
バルーン型PEGカテーテルを使用している場合は、バルーンに注入している蒸留水(バルーン水)が漏出していないか確認することが大切です。注意すべき点は「メーカーによってバルーン水の量が違う」ということです。
北美原クリニックでは、2週間に1回訪問する患者の場合は、訪問診療時にバルーン水を交換します。状態が落ち着いており、月1回の訪問の患者では、訪問看護師に交換を依頼しています。
また、訪問時には、「カテーテルに余裕があって外部バンパーが動くか」も確認します。
もう1つ大切なのは「外に出ているカテーテルの長さを必ず確認すること」です。胃の蠕動に伴って、バルーンが十二指腸に運ばれてしまうことがあるからです。
***
以前、訪問看護師から「栄養剤を落としはじめたら、冷汗著明、血圧が低下しています。意識も落ちてきています」という電話がかかってきたことがあります。
さて、何が起こったのでしょうか?
このような病態を胃切除後に経験したことがあるはずです。いわゆるダンピング症状に似ています。バルーンが十二指腸に送り込まれたために、栄養剤が急速に小腸に入り、ダンピング症状を起こしたのです。これがわかれば、私の指示は簡単です。「カテーテルの長さを確認して、いつも以上に胃内に入っているようなら栄養剤は中止して、水分だけ入れてください」と言うだけです。これで改善したので、翌日訪問してバルーン水を抜き、元の適切な長さに戻しました。
このようなことを防ぐために、カテーテルに印をつけておき、中に引き込まれていないかを定期的に確認しましょう。
(岡田晋吾)
[引用・参考文献]
- (1)合田文則:胃瘻からの半固形短時間摂取法ガイドブック.医歯薬出版,東京,2006:9-15/23.
- (2)蟹江治郎:胃瘻PEG合併症の看護と固形化栄養の実践.日総研出版,名古屋,2004:120-167.
- (3)ふきあげ内科胃腸科クリニックホームページ:http://www.fukiageclinic.com/peg.htm[2009.8.27アクセス].
- (4)蟹江治郎:胃瘻PEGハンドブック.医学書院,東京,2002.
- (5)蟹江治郎:経腸栄養剤固形化の実際.胃ろうのケアQ&A,岡田晋吾監修,照林社,東京,2005:49-51.
- (6)小川滋彦:栄養剤の固形化とはどのような方法でしょうか?.胃瘻のケアQ&A,岡田晋吾監修,照林社,東京,2005:48.
- (7)小川滋彦:PEG長期管理と在宅医療の基本.PEGパーフェクトガイド,学習研究社,東京,2006:88.
- (8)吉田貞夫,嶺井強成:特集・半固形化栄養法の安全・安楽な進め方.月刊ナーシング2007;27(9):20-23/25-32.
本記事は株式会社照林社の提供により掲載しています。/著作権所有(C)2010照林社
[出典] 『PEG(胃瘻)ケアの最新技術』 (監修)岡田晋吾/2010年2月刊行/ 照林社