胃瘻(PEG)の日常ケア
『病院から在宅までPEG(胃瘻)ケアの最新技術』(照林社)より転載、Web掲載にあたり一部改変。
内容は書籍刊行当時のもの。
今回は胃瘻(PEG)の日常ケアについて説明します。
仙石真由美
函館五稜郭病院看護部副看護師長
Point
〈目次〉
はじめに
胃瘻のスキンケアの目標は、瘻孔と周囲皮膚を清潔に保ち、瘻孔をよい状態に保つことです。
そのためには、注意深く胃瘻を観察し、スキントラブルの要因を理解したうえで、予防的スキンケアとバンパー管理を行うことが重要です。
日常的なスキンケア
1胃瘻の観察
胃瘻を観察し、変化に気づくことは、異常の早期発見や、すみやかな対応につながります。
臥位や座位など体位による変化や、円背による影響、腹部脂肪層の厚さの変化なども考え、1日1回は観察を行いましょう。
図1のように観察すると、トラブルの原因を整理しやすくなります。
カテーテル近接部
出血、炎症徴候(発赤、疼痛、熱感、硬結、排膿など)、水疱、びらん、潰瘍、滲出液、栄養剤や腸液の漏れ(どの時間に多いか)、浸軟(ふやけた状態)などの有無や状態を観察します1、2。
カテーテル周辺部
外部ストッパーによる圧迫、潰瘍、発赤、水疱、びらん、かゆみ、発疹、浸軟などの有無や、その状態を観察します。
2胃瘻周囲の予防的スキンケア
機械的な刺激、化学的な刺激、皮膚の浸軟は、スキントラブルの大きな要因となります(表1)。
これらの刺激が皮膚に加わっていないか注意します。
洗浄や清拭により、瘻孔と周囲の皮膚を清潔に保ちます。刺激を予防・回避する「保護」も重要です。
1日1回は洗浄剤を用いて洗浄・清拭
洗浄や清拭には、弱酸性(皮膚pHに近いもの)で低刺激の洗浄剤を使用します。
よく泡立てた洗浄剤は、汚れを取り込みやすくし、摩擦刺激から皮膚を守るクッションの役目も果たします。しかし、1日に何回も洗浄剤を使用すると、必要以上に皮脂を取り除いてしまうため、洗浄剤の使用は1日1回を基本とします。
1日1回以上の洗浄・清拭が必要なときは、微温湯のみでの洗浄か、湿らせたガーゼ・不織布・お尻用のウェットティッシュなどでの清拭のみとしてください。
入浴できない場合や、処置を簡便にしたい場合には、泡立てと洗浄後の洗い流しが不要で、保湿効果のある弱酸性の洗浄剤を用いてもよいでしょう(図2)。
洗浄しにくい場合は綿棒などを活用
瘻孔と外部ストッパーの距離が狭い場合は、綿棒などでやさしく洗浄したあと、洗浄用ボトルを用いて洗い流し、水分をよく拭き取って自然乾燥させます(図3)。
栄養剤の注入前後などに、瘻孔周囲の粘液や汚れを拭き取ることも、清潔保持には望ましいでしょう。
ストッパー管理
1皮膚表面と胃壁の圧迫に注意
ストッパー管理は、「皮膚表面」と「胃壁」両者への圧迫を考えて行います。外部ストッパーの圧迫による皮膚潰瘍、内部ストッパーの胃壁圧迫による胃潰瘍形成やバンパー埋没症候群(burried bumper syndrome:BBS)の予防が必要です。
栄養状態が改善してくると、腹部脂肪層が厚くなり、外部ストッパーが食い込み、余裕がなくなる場合があります(図4)。
使用しているカテーテルの形態を確認する
内部ストッパーや外部ストッパーの形は、メーカーによってさまざまです。自施設で使っているカテーテルの内部ストッパーがどのような形をしているか、必ず確認しておきましょう。
外部ストッパーの位置は、チューブ型カテーテルでは調節できますが、ボタン型カテーテルでは調節できません。カテーテルの交換時期と、適切なシャフト長について、医師と検討する必要があります。
ストッパー管理のポイントを、図5に示します。
活動に応じて必要エネルギー量を見直す
長期的には、活動に合わせて、必要エネルギー量を見直す必要もあります。体格や姿勢による変化も観察しながら管理します。
2PEGカテーテルの根元を立てる
トラブルがなければ、基本的に、胃瘻を何かで保護する必要はありません。
しかし、チューブ型カテーテルを腹帯などで固定している場合、カテーテル全体が倒れた状態になり、内部バンパーによって倒れた反対側の胃壁が蹴り上げられ、圧迫壊死につながることがあります(図6)。
このような場合は、カテーテルの根元を立てる工夫をしたうえで固定します。具体的には、こよりティッシュ、スポンジ、化粧用パフに切り込みを入れて挟むなどの方法があります(図7)。
ただし、挟み込むものが厚すぎると、圧迫の原因になってしまうため、適切な厚さのものを選択する必要があります。
3PEGカテーテルの動きを減らす
外部ストッパーと皮膚との距離が適切でも、以下のような場合には、カテーテルが上下に動くことで摩擦刺激が加わりやすく、瘻孔の炎症・拡大による漏れが発生することがあります。
このような場合は、圧迫を加えすぎないよう注意しながらカテーテルの動きを減らす工夫も必要です。
入浴の方法と注意点
シャワーや入浴が許可され、全身状態やバイタルサインに問題がなければ、積極的に入浴してもらい、清潔を保持します。もちろん、ガーゼや防水テープなどで保護する必要はなく、瘻孔に直接シャワーをかけたり、浴槽に浸かったりしてかまいません。
「胃瘻からお湯が入るのでは?」と、心配される場合は、胃の内圧のほうが高いため、お湯が入る心配はないことを説明しましょう4。
1入浴時のカテーテル抜去を防ぐ
チューブ型カテーテルの場合、患者が自分で引き抜いてしまったり、移動・脱衣の際に介助者が誤って抜いてしまったりする危険性があります。
できるだけ腹壁に近い位置でカテーテルを小さくまとめ、輪ゴムで束ねるなどします(図8)。
2入浴時の注意点
胃瘻の洗浄は、予防的スキンケアと同様の注意を払って行います。
洗浄後、よく洗い流すことが重要です。洗浄剤の成分が残っていると、栄養剤や粘液・汗などと混じって化学的刺激が生じ、スキントラブルの原因になります。
3入浴後はよく水分を拭き取る
終了後は、タオルで押さえるように水分を拭き取り、自然乾燥させます。瘻孔と外部ストッパーの“あそび”に余裕がなく、タオルで十分に拭き取れないときは、綿棒やカット綿、ティッシュペーパーなどで拭き取ります。
早く乾燥させようとしてドライヤーを使用すると、火傷や皮膚の乾燥を引き起こすことがあります。熱によるカテーテルの劣化も招くため、ドライヤーは使わないようにしましょう。
「漏れ」の原因と対応・予防策
1「漏れ」によって起こるトラブル
「漏れ」の成分は、栄養剤・胃液・腸液などです。
漏れが持続すると、皮膚が浸軟します。浸軟した皮膚は、漏れの成分を吸収しやすく、スキントラブル(発赤、びらん、瘙痒、真菌感染など)が生じやすくなります。また、漏れが続くと、本人や家族の不安も大きくなり、QOLも低下します。
ただし、「漏れるから」といってカテーテルを太いサイズにしたり、外部ストッパーをきつく締めたりしてはいけません。局所の圧迫をより強くすることで壊死を招き、瘻孔をさらに拡大させてしまいます5。
2「漏れ」の原因と対策
漏れの主な原因は、不適切な太さのカテーテル、カテーテルの破損、腹腔内圧の上昇、胃内のガス・栄養剤停滞、便秘などです6。
原因をアセスメントしたうえで対策を行いますが、改善するまでの間は「適切なバンパー管理」「洗浄とスキンケア」「皮膚の保護」の継続が重要です。
こよりティッシュによる漏れ対策
漏れを何かで吸収する必要がありますが、ガーゼを用いると、周囲皮膚まで浸軟しやすく、感染の原因にもなります。また、一部の繊維が固着し、取り除くときに組織を損傷する場合もあるため、ガーゼの使用は避けましょう。
現在、漏れの対策として“こよりティッシュ”を瘻孔と外部ストッパーのあそび部分に巻く方法が一般化しています。しかし、たくさん吸収しようとして厚く巻き、ゆとりがない状態にしてしまうと、内部ストッパーと外部ストッパーの間の組織をさらに圧迫してしまうため、注意が必要です。
こよりティッシュは、厚みを抑えて吸収させるように巻きつけ(図9)、こまめに交換するのがポイントです。
多量の漏れがある場合の対処法
多量の漏れがある場合には、ストーマケアに用いるストーマ袋(下部開放型)を使用して対処することがあります(図10)。
ストーマ袋の面板(皮膚に貼付する部位)は皮膚保護剤でできているため、漏れの成分が皮膚に直接付着することを予防するだけでなく、すでにトラブルを生じている皮膚に対しては治癒環境を作ります。
3皮膚の保護方法
漏れがある場合は、皮膚の保護も重要です。刺激物を直接皮膚に接触させないようにして、皮膚への浸軟を予防します。
撥水性のあるワセリンやクリームを薄く塗布したり、ストーマ管理に用いる皮膚被膜剤や粉状皮膚保護材、PEG専用の被覆材を使用するのも効果的です(図11)。
事例:外部ストッパーの形状別 スキントラブルの実際
1「ボタン型」によって起きたトラブル
患者の情報
80歳代の男性。ボタン型PEGカテーテルを使用している。
外部ストッパーの向きを計画的に変更しているが、潰瘍が形成されてしまった。
ボタン型の場合、外部ストッパーの位置を毎日ずらしていても、シャフト長の不足・円背・腹部の横シワなどの影響でいつも同じ向きになってしまい(図12-1)、その結果、外部ストッパーに一致する部位に、潰瘍が形成されてしまうことがあります。この患者の場合、外部ストッパーがあたる3時9時の方向に潰瘍が形成されてしまいました(図12-2)。
そこで、潰瘍部分は、毎日洗浄したあと、潰瘍の治癒を促進するためにアルギン酸塩創傷被覆材を使用しました。さらに外部ストッパーが動かないよう毎日位置を変えながら医療用テープで固定しました(図12-3)。この処置方法で潰瘍は改善しましたが、医療用テープ固定は継続しています(図12-4)。
2「チューブ型」によって起きたトラブル
患者の情報
60歳代の女性。チューブ型PEGカテーテルを使用している。
外部ストッパーと皮膚の間に1.5cmの余裕をもたせていたのに、過剰肉芽が形成されてしまった。
チューブ型の場合、栄養注入時以外はカテーテルを束ねていることがあります。
この患者の場合は、外部ストッパーと皮膚の間は1.5㎝の余裕がありますが、束ねたカテーテルの重みで9時の方向に傾いていました(図13-5)。さらに、喀痰吸引の刺激によって咳が誘発され、カテーテルが上下動することで過剰肉芽が形成されました(図13-6)。
そこで、医師の指示のもと、ステロイド軟膏*を使用しました(図13-7)。
上記に加え、毎日、カテーテルが同じ方向に傾かないように医療用テープで固定位置を変え、カテーテルの上下動を少なくするためこよりテッシュを巻いたところ、改善がみられました(図13-8)。現在でも、こよりテッシュとカテーテルの固定位置を毎日変更することを継続していますが、再発なく経過しています。
[引用・参考文献]
- (1)梶西ミチコ:日常的なスキンケアの手順について教えてください.胃ろうのケアQ&A,岡田晋吾監修,照林社,東京,2005:28.
- (2)内藤亜由美,安部正敏編:病態・処置別スキントラブルケアガイド.学習研究社,東京,2008:77.
- (3)紺家千津子,真田弘美:スキントラブルへの対応.PEGパーフェクトガイド,小川滋彦編著,学習研究社,東京,2006:123.
- (4)栗井一哉:術後は、どれぐらいからガーゼ交換をやめますか?入浴はいつから?.胃ろうのケアQ&A,岡田晋吾監修,照林社,東京,2005:17.
- (5)小川滋彦:栄養剤の漏れ.PEGパーフェクトガイド,小川滋彦編著,学習研究社,東京,2006:108.
- (6)内藤亜由美,安部正敏編:病態・処置別スキントラブルケアガイド.学習研究社,東京,2008:78.
本記事は株式会社照林社の提供により掲載しています。/著作権所有(C)2010照林社
[出典] 『PEG(胃瘻)ケアの最新技術』 (監修)岡田晋吾/2010年2月刊行/ 照林社