かゆみに関するQ&A

 

『看護のための症状Q&Aガイドブック』より転載。

 

今回は「かゆみ」に関するQ&Aです。

 

岡田 忍
千葉大学大学院看護学研究科教授

 

かゆみの患者からの訴え

  • 「かゆいです」
  • 「かきむしってしまいます」

 

〈かゆみに関連する症状〉

かゆみに関連する症状

 

〈目次〉

 

かゆみって何ですか?

かゆみとは、かきたいという欲求を伴う、皮膚や粘膜などの不快な感覚をいいます。

 

かゆみが起きるメカニズムは?

皮膚には、触覚、温覚、冷覚、痛覚、痒覚(ようかく)という5つの感覚が備わっています。

 

かゆみ(痒覚)を感じ取るのは、表皮と真皮の間に分布しているC線維からなる、知覚神経だと考えられています。

 

図1かゆみの知覚

かゆみの知覚

 

皮膚を介した刺激によってC線維が刺激され、これが脊髄を経由して大に伝わってかゆみが知覚されるのです。

 

かゆみの原因になる代表的な物質としては、アトピー性皮膚炎や花粉症では「ヒスタミン」、金属アレルギーなどの接触皮膚炎では「サイトカイン」があげられます。

 

また、脳の受容体が直接刺激されて生じる中枢性のかゆみや、全身疾患に伴うかゆみなどもあります。

 

蕁麻疹やアトピー性皮膚炎でかゆみが起きるメカニズムは?

蕁麻疹(じんましん)を例に取ってみていきます。蕁麻疹は、卵や魚などの食物や薬物、ハウスダストなどが抗原になり、強いかゆみを伴う境界明瞭な皮膚の隆起(膨疹)を引き起こす、Ⅰ型アレルギーです。

 

蕁麻疹の人は、抗原に対して特にIgE抗体が多く産生されます。

 

IgE抗体は肥満細胞という結合組織中に存在する細胞にくっつきやすい性質を持っているので、血清の中にはほとんどなく、この細胞の表面にくっついた状態で存在しています。摂取したり、吸い込んだりした抗原は、肥満細胞の表面のIgE抗体と結合し、これが刺激になって肥満細胞内にあるヒスタミンが細胞の外に放出されます。

 

その結果、ヒスタミンがC線維にあるヒスタミンの受容体と結合し、かゆみを起こすのです。

 

図2蕁麻疹でかゆみが起こるメカニズム

蕁麻疹でかゆみが起こるメカニズム

 

アトピー性皮膚炎でも、同様のメカニズムによってかゆみが起こります。さらに皮膚のバリア機能も弱くなっているために、刺激物質が表皮を通過しやすくなり、これもかゆみの発生に関係していると考えられます。

 

また、炎症が起こっている時は、炎症細胞や傷害された組織から放出されるサイトカインやインターロイキン、プロスタグランジンなどもC線維を刺激し、かゆみを呼びます。

 

用語解説アトピー

アトピーという言葉は、1923年にCocaとCookeという人が、喘息、蕁麻疹、食物アレルギーなどのⅠ型アレルギーの特徴を表現するために用いました。現在では、アトピー性素因、すなわちIgE抗体を産生しやすい遺伝的な素因に対して使用されます。
抗体には、IgEのほかにIgG、IgA、IgM、IgDがあります。このうち血清中の抗体の大部分を占めているのは、IgGです。なぜ、アトピーの人ではIgE抗体が産生されやすいのでしょうか。そのメカニズムは、Th2細胞とTh1細胞のバランスが、Th2細胞優位に傾くことだと推測されています。
Th2細胞は、抗原が侵入した時に活性化するヘルパーTリンパ球のうち、液性免疫の活性化にかかわっており、Th1細胞は、細胞性免疫の誘導にかかわっています。

 

接触皮膚炎でかゆみが起きるメカニズムは?

接触皮膚炎は、皮膚に金属やゴムなどの化学物質が触れることで、かゆみを伴う水疱(すいほう)が形成される、Ⅳ型アレルギーです。

 

皮膚から抗原が侵入すると、表皮に存在しているランゲルハンス細胞により、侵入した抗原の情報が免疫系に伝えられ、抗原と反応するTリンパ球が作られます。再び抗原に接触すると、ランゲルハンス細胞から情報を受け取ったTリンパ球がサイトカインを産生し、表皮細胞を活性化させます。

 

活性化した表皮細胞は、インターロイキンなどの炎症性サイトカインを産生し、これが刺激になってかゆみが起こります。

 

炎症性サイトカインは、同時に表皮へのマクロファージやTリンパ球の遊走を起こし、その結果表皮が破壊されて水疱ができます。

 

中枢性のかゆみって何ですか?

中枢神経のオピオイド受容体に、モルヒネやエンドルフィンなどの麻薬が結合すると、それがかゆみとして知覚されることがあります。

 

このほかに薬物がかゆみを起こす例としては、向精神薬、下痢止め、抗結核薬などがあげられますが、これらによるかゆみはヒスタミン分解酵素の障害を介してヒスタミンが蓄積することによって起こる、末梢性のかゆみです。

 

かゆみを起こす全身疾患にはどんなものがありますか?

胆汁のうっ滞を伴う閉塞性黄疸があると、半数近くにかゆみが起こります。これは、オピオイド受容体の刺激による中枢性のかゆみだと考えられています。また、血液中や皮膚で増加した胆汁酸がC線維を刺激する可能性もあります。

 

腎不全の患者も、かゆみに苦しむことが少なくありません。カルシウムやリン、尿酸などの代謝異常や、オピオイド受容体が刺激されることが原因ではないかと考えられていますが、まだよく分かっていません。

 

また、高齢者や冬季に多いドライスキンでは、天然保湿因子やセラミドなどの角質細胞間脂質が少なくなるため、皮膚のバリア機能が低下します。その結果、外界からの刺激物質を通しやすくなるのです。

 

このほか、ダニや寄生虫が身体の中にいるといった妄想がかゆみを引き起こすなど、精神的な原因によるかゆみもあります。

 

かゆみはどのようにアセスメントするの?

何がかゆみを起こしているのか、その原因をアセスメントします。

 

まず、かゆい部分の皮膚状態を観察しましょう。蕁麻疹は皮膚が盛り上がるのが特徴で、接触皮膚炎なら水疱ができます。

 

アトピー性皮膚炎では、紅斑(こうはん)や丘疹(きゅうしん)、水疱、びらんなどが混在し、介や口腔周囲、四肢の関節部などに好発します。もちろん、皮膚の変化を伴わないかゆみもあります。

 

図3皮膚状態の特徴

皮膚状態の特徴

 

アレルギーが原因の場合は、「いつかゆくなったか」「どんな時にかゆくなったか」が観察のポイントです。かゆみが出た状況を理解すると、原因が見えてきます。そのうえで、パッチテストや皮膚プリックテスト、血清中のIgE抗体を調べるCAP-RAST検査などで、原因をつきとめます。

 

また、ドライスキンでは、皮膚のかさつきや落屑がみられます。経皮水分蒸散量を計測する器具があれば、皮膚のバリア機能を客観的に知ることができます。

 

一方、背後に何らかの疾患が疑われる時は、かゆみ以外の症状や検査データに注意しましょう。

 

閉塞性黄疸では、直接型ビリルビンや、特にALP値が上がっていないかを確認します。

 

また、悪性リンパ腫がかゆみを呼ぶこともあるので、リンパ節の腫れの有無も観察しましょう。

 

腎疾患が疑われる時は、血中のクレアチニン値、BUN(血中尿素窒素)値を見て腎機能をチェックします。BUNが100mg/dLを超えると、かゆみが起こるといわれています。

 

かゆみのケアは?

かゆみは、イライラ感や不快感を招き、集中力を低下させ、不眠や食欲不振を起こすこともある、不快な症状です。

 

かゆみは、かゆいとかく、かくと皮膚が傷つく、皮膚が傷つくとますますかゆくなる—という悪循環を招きます。

 

そのため、症状を悪化させないためには、「かかないこと」「かき傷を作らないこと」が大切です。

 

皮膚を清潔に保つとともに、こまめに爪を切り、睡眠時は手袋をするなどの工夫をアドバイスします。

 

冷やすことでかゆみが治まる場合があります。逆に入浴後など身体が温まるとかゆみが強くなることがあるので注意します。

 

皮膚の乾燥によるかゆみには、クリームなどによる保湿を進めます。アレルギーによるかゆみでは、原因になる物質を摂取したり、接触したりしないようにします。また、ヒスタミンを多く含有する食物の摂取も控えるようにします。

 

かゆみが強い時は、薬が処方されます。抗ヒスタミン薬でもかゆみが治まらない時は、ステロイド薬が用いられます。ステロイド薬は長期に使用すると副作用が現れるので、適切な使用法を守れるように、また副作用を早期に発見できるように気をつけましょう。

 

COLUMNステロイド外用薬の副作用

かゆみを抑えるためだけでなく、アレルギーや自己免疫疾患など、過剰な免疫応答がかかわっていると考えられる疾患では、免疫応答や炎症を抑えるためにステロイド薬の塗布、場合によっては内服を行います。
ステロイド外用薬を長期に使用すると、使用部位の皮膚が萎縮し、毛細血管が拡張します(これをステロイド皮膚といいます)。毛深くなったり、傷の治りが遅くなったり、白癬(はくせん)菌などの真菌感染症を起こす場合もあります。

 


本記事は株式会社サイオ出版の提供により掲載しています。

 

[出典] 『看護のための 症状Q&Aガイドブック』 (監修)岡田忍/2016年3月刊行/ サイオ出版

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