ショックに関するQ&A

 

『看護のための症状Q&Aガイドブック』より転載。

 

今回は「ショック」に関するQ&Aです。

 

岡田 忍
千葉大学大学院看護学研究科教授

 

ショック状態の患者からの訴え

  • なし(訴えられない)

 

〈目次〉

 

ショックって何ですか?

ショックとは、血液の循環に何らかの障害が起きて組織に十分な血液が行きわたらなくなった状態(急激な全身性末梢循環不全)です。

 

細胞が正常な機能を営むことができなくなり、適切な処置を行わないと重要臓器が障害されたり死に至ることもある、とても重篤な状態です。

 

ショックが起こる原因は?

ショックが起こる原因は、循環血液量が減る場合と減らない場合の、大きく2つに分けられます。後者はいろいろな異常によって血液がうまく流れなくなるため、ショックが起こります。

 

〈ショックに関連する症状〉

ショックに関連する症状

 

どんな時に循環血液量の減少によるショックが起こるの?

循環血液量の減少によるショックとして、わかりやすい例は大出血です。出血が起こると、心臓に戻ってくる血液が少なくなります。そのため、全身に送り出される血液も減少し、血圧が低下します。その結果、末梢の血流が減少して酸素欠乏をきたします。

 

出血以外には、広汎(こうはん)な熱傷や大量の嘔吐でも、体液の喪失によって循環血液量が減少し、ショックが起こります。これらを「低容量性ショック」といいます。

 

図1低容量性ショック

低容量性ショック

 

血液量が減らないのに起こるショックってどんなもの?

血液量が減らないのに起こるショックには、主に次の4つのタイプのショックがあります。

 

  1. 心臓の機能障害によって生じる「心原性ショック」
  2. 血管が閉塞して心臓あるいは肺動脈などの大血管から血液を送り出せなくなって起こる「閉塞性ショック」
  3. 血管の急激な拡張によって血圧が低下して生じる「血液分布異常性ショック」
  4. 感情の動揺や痛みによって起こる「神経原性ショック」

 

心原性ショックって何ですか?

血液は、心臓がポンプの働きをすることによって全身に送り出され、末梢組織に酸素や栄養分を運んでいます。心筋梗塞や心タンポナーデによって心臓のポンプ機能が障害されると、十分な血液を送り出すことができなくなってショックが起こります。

 

このような、心機能の低下によって起こるショックを、心原性ショックといいます。

 

図2心原性ショック

心原性ショック

 

閉塞性ショックって何ですか?

閉塞性ショックとは、主要な動脈が血栓や塞栓、あるいは外部からの圧迫などによって閉塞され、血液循環が妨げられるために起こるショックです。代表的なものが肺動脈血栓症です。

 

例えば、飛行機に乗っている時など長時間同じ姿勢で座っていると、血流の緩やかな静脈に大きな血栓ができます。これが流れていって肺動脈の太い枝を塞ぎ、循環不全が起こるのです。

 

血液分布異常性ショックって?

末梢血管が拡張するとそこの容積が増え、血液が多く集まります。すると血圧が下がり、血流が悪くなるのです。

 

アナフィラキシー・ショックや、エンドトキシン・ショックが、このタイプです。

 

図3血液分布異常性ショック

血液分布異常性ショック

 

アナフィラキシー・ショック、エンドトキシン・ショックって何ですか?

食物や薬剤などによる即時型の全身性過敏反応(アナフィラキシー)では、アレルゲンが侵入すると肥満細胞からヒスタミンが放出されます。ヒスタミンには血管を拡張させ、血管透過性を亢進させる作用があるため、ショックが起きます。

 

エンドトキシン・ショックは、虫垂炎や潰瘍などによって腸壁に穴が開いたり、薬の副作用で腸管の粘膜が傷ついたりした時に、腸内にいる細菌や、その一部が血液中に入ると起こります。

 

エンドトキシンはグラム陰性桿菌(いんせいかんきん)の細胞壁の一部です。これが血液中に入ると、マクロファージなどの炎症細胞からサイトカインが放出されます。その結果、一酸化窒素やプロスタサイクリンなどの血管拡張作用を持つ物質が生じるため、ショック状態になります。

 

COLUMN大動脈内バルーンパンピング

心不全で心臓のポンプ機能が障害を受けた時には、低下した循環機能をサポートする補助循環法を行います。このうち、臨床で最も広く用いられているのが、大動脈内バルーンパンピングです。

 

大動脈内バルーンパンピングは、大腿動脈などから胸部大動脈にバルーンカテーテルを挿入し、拡張期には、バルーンをふくらませることによって拡張期血圧を上昇させ、冠状動脈の血流を増やして、心筋への酸素供給を行います。収縮期には、バルーンをしぼませ、左室への負担を減らして酸素消費量を減少させます。

 

心原性ショックの治療のほか、不安定狭心症や人工心肺からの離脱時にも使用されます。ただし、大動脈弁の機能不全や、大動脈解離などの大動脈の病変がある人、出血傾向がある人には実施できません。合併症として、動脈の損傷、下肢の虚血、感染、血栓の形成を起こすことがあります。

 

図4大動脈内バルーンパンピング

大動脈内バルーンパンピング

 

神経原性ショックって何ですか?

神経原性ショックとは、外傷などによる脊髄損傷や脊髄麻酔などで血管の収縮に関わる交感神経のはたらきが低下することによって、血管が拡張して血圧が下がり、ショック状態になるものをいいます。

 

ショックはどう進行するの?

ショックは、適切な治療を行って原因を除けば回復可能な「代償(たいしょう)期」と、後遺症を残したり、最悪の場合は死に至ることもある「非代償期」の2段階に分けられます。

 

代償期には、身体が代償機能を使い、血管を収縮させてや心臓などの生命の維持に欠かせない臓器に血液を集め、心拍数を増加させて血圧を上げようとします。

 

各組織がダメージを受けていないこの時点で、出血などのショックの原因を取り除ければ、回復可能です。

 

ところが、末梢の循環不全が進行した非代償期に移行すると、低酸素によって血管の内側の細胞(内皮細胞)が損傷を受けます。すると血漿が血管外に漏れ出し、その結果、血圧がさらに低下して低酸素による組織のダメージが進行し、これがまた血漿の血管外への漏出を招く—という悪循環が繰り返され、多くの重要臓器の機能が障害されて重篤な後遺症を残したり、死に至ってしまうのです。

 

ショックによる重要臓器の機能の障害って何が起こるの?

ショックによる重要臓器の機能の障害として、まず1つめは血液凝固の異常(DIC)です。組織や内皮細胞が傷害されると、血管内に多数の血栓が形成されます。その際に大量の凝固因子が消費され、また線溶系が活性化することによって出血しやすくなります。

 

また、いつも酸素をたくさん使う腎臓はショックに弱く、しばしば急性腎不全(急性尿細管壊死)が起こります。

 

肺では、血管から漏れ出た血漿中の蛋白が肺胞の内側に膜を作り、急性呼吸不全(成人呼吸促迫症候群:ARDS)が起きます。

 

用語解説DIC(播種性血管内凝固)

いろいろな原因で全身の血管内で血液凝固が亢進すると、多数の微小血栓が形成されます。その結果、梗塞による多臓器の機能不全と、凝固因子の消費と線維素溶解系の活性化による出血傾向をきたす病態を、DIC:DisseminatedIntravascularCoagulation(播種性血管内凝固)といいます。

 

ショック以外にDICを起こしやすい基礎疾患としては、白血病(特に急性前骨髄性白血病)、癌、重症の感染症、前置胎盤早期剥離などの産科疾患があります。

 

ショック状態の患者さんに遭遇した時は、何を観察し、どう行動すればいいの?

ショックの代表的症状は、血圧低下(収縮時血圧90mmHg以下)、顔面蒼白、チアノーゼ、微弱な脈、頻脈、虚脱(無欲、無関心、意識障害)、呼吸不全、尿量減少、体温低下、冷や汗—などです。また、血圧の低下は重篤さを表す指標になります。看護師は、ショック状態に陥った患者の第一発見者になる可能性が高いので、これらの症状を発見したらショックを疑い、速やかに適切な処置につなげなくてはいけません。

 

ショック時には、安静にし、頭を低く足を上げるようにし、心臓への還流を増やし、脳への血流を維持します。気道を確保し、酸素吸入も考慮に入れるとともに、血圧が低下する前に輸液のための静脈を確保します。

 

同時に、バイタルサインや意識レベルを把握します。可能であれば、パルスオキシメータで動脈血酸素飽和度をチェックします。また、多臓器不全の予防にも気を配ります。腎不全の発見のために尿量をチェックすることも、重要なポイントです。

 

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本記事は株式会社サイオ出版の提供により掲載しています。

 

[出典] 『看護のための 症状Q&Aガイドブック』 (監修)岡田忍/2016年3月刊行/ サイオ出版

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