ショックに関するQ&A
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『看護のための症状Q&Aガイドブック』より転載。
今回は「ショック」に関するQ&Aです。
岡田 忍
千葉大学大学院看護学研究科教授
ショック状態の患者からの訴え
- なし(訴えられない)
〈ショックに関連する症状〉
〈目次〉
- 1.ショックって何ですか?
- 2.ショックが起こる原因は?
- 3.どんな時に循環血液量の減少によるショックが起こるの?
- 4.血液量が減らないのに起こるショックってどんなもの?
- 5.心原性ショックって何ですか?
- 6.閉塞性ショックって何ですか?
- 7.血液分布異常性ショックって?
- 8.アナフィラキシー・ショック、エンドトキシン・ショックって何ですか?
- 9.神経原性ショックって何ですか?
- 10.ショックはどう進行するの?
- 11.ショックによる重要臓器の機能の障害って何が起こるの?
- 12.ショック状態の患者さんに遭遇した時は、何を観察し、どう行動すればいいの?
ショックって何ですか?
ショックとは、血液の循環に何らかの障害が起きて、急激に全身の組織に十分な酸素が行きわたらなくなった状態(急性の全身の末梢循環不全)です。
酸素が不足することで細胞が正常な機能を営むことができなくなり、早急に適切な処置を行わないと重要臓器が障害されたり死に至ることもある、とても重篤な状態です。
ショックが起こる原因は?
ショックが起こる原因は、循環血液量が減る場合と減らない場合の、大きく2つに分けられます。後者はいろいろな異常によって血液がうまく流れなくなるため、ショックが起こります。
どんな時に循環血液量の減少によるショックが起こるの?
わかりやすい例は大出血です。出血が起こると、心臓に戻ってくる血液が少なくなります。そのため、全身に送り出される血液も減少し、血圧が低下します。その結果、末梢の血流が減少して酸素不足をきたします。
出血以外には、広汎(こうはん)な熱傷や下痢・嘔吐をくり返すなど、大量に体液が喪失した場合にも、循環血液量が減少し、ショックが起こります(図1)。循環血液量が減少することから「循環血液量減少性ショック」とよばれます。
図1循環血液量減少性ショック
血液量が減らないのに起こるショックってどんなもの?
低容量性ショック以外には、主に次の4つのタイプのショックがあります。
- 心臓のポンプ機能の障害によって生じる「心原性ショック」
- 心臓あるいは肺動脈などの大血管が閉塞し、血液を送り出せなくなって起こる「閉塞性ショック」
- 末梢血管の急激な拡張によって血圧が低下して生じる「血液分布異常性ショック」
- 感情の動揺や痛みによって起こる「神経原性ショック」
心原性ショックって何ですか?
血液は、心臓がポンプの働きをすることによって全身に送り出され、末梢組織に酸素や栄養分を運んでいます。心筋梗塞や重症の不整脈によって心臓のポンプ機能が障害されると、十分な血液を送り出すことができなくなってショックが起こります(図2)。
図2心原性ショック
閉塞性ショックって何ですか?
主要な動脈や静脈が血栓や塞栓あるいは外部からの圧迫などによって閉塞し、血液循環が妨げられるために起こるショックです。代表的なものが肺動脈塞栓症です。
たとえば、飛行機に乗っているときなど長時間同じ姿勢で座っていると、血液の緩やかな下肢の静脈に大きな血栓ができます。歩くことによる筋肉の運動で、血栓が流れていって肺動脈の太い枝を塞ぎ、循環不全が起こるのです。
血液分布異常性ショックって?
末梢血管が拡張するとその部分の容積が増え、末梢に血液が多く集まります。すると血圧が下がり、血液がうまく流れなくなります。
アナフィラキシー・ショックや、エンドトキシン・ショックが、このタイプです。
アナフィラキシー・ショック、エンドトキシン・ショックって何ですか?
食物や薬剤などに対するI型アレルギーによる即時型の全身性過敏反応(アナフィラキシー)では、アレルゲンが侵入すると肥満細胞からヒスタミンが放出されます。ヒスタミンには血管を拡張させ、血管透過性(「腹膜の炎症で腹水が溜まるメカニズムは?」を参照)を亢進させる作用があり、血圧が低下してショックが起きます(図3)。
エンドトキシン・ショックは、虫垂炎や潰瘍などによって腸壁に穴が開いたり、薬の副作用で腸管の粘膜が傷ついたりしたときに、腸内にいる細菌や、その一部が血液中に入ると起こります(図3)。
エンドトキシンはグラム陰性桿菌(いんせいかんきん)の細胞壁の一部です。これが血液中に入ると、マクロファージなどの炎症細胞からサイトカインが放出されます。その結果、一酸化窒素やプロスタサイクリンなどの血管拡張作用をもつ物質が生じるため、ショック状態になります。
図3アナフィラキシー・ショック、エンドトキシン・ショック
COLUMN 大動脈内バルーンパンピング法
心不全で心臓のポンプ機能が障害を受けたときには、低下した循環機能をサポートする補助循環法を行います。このうち、臨床で最も広く用いられているのが、大動脈内バルーンパンピング法です(図4)。
大動脈内バルーンパンピング法は、大腿動脈や上腕動脈などから胸部大動脈にバルーンカテーテルを挿入し、拡張期にバルーンをふくらませることによって拡張期血圧を上昇させ、冠状動脈の血流を増やして、心筋への酸素供給を行います。収縮期には、バルーンをしぼませ、左室への負担を減らして酸素消費量を減少させます。
心原性ショックの治療のほか、不安定狭心症や人工心肺からの離脱時にも使用されます。ただし、大動脈弁の機能不全や、大動脈解離などの大動脈の病変がある人、出血傾向がある人には実施できません。合併症として、動脈の損傷、下肢の虚血、感染、血栓の形成を起こすことがあります。
図4大動脈内バルーンパンピング法
神経原性ショックって何ですか?
外傷などによる脊髄損傷や脊髄麻痺などで血管の収縮にかかわる交感神経の働きが低下することによって、血管が拡張して血圧が下がり、ショック状態になるものをいいます。
ショックはどう進行するの?
ショックは、適切な治療を行って原因を除けば回復可能な「代償(だいしょう)期」と、後遺症を残したり、最悪の場合は死に至ることもある「非代償期」の2段階に分けられます。
代償期には、身体が代償機能を使い、脳と心臓以外の血管を収縮させて、生命の維持に欠かせない脳と心臓に血液を集め、心拍数を増加させて血圧を上げようとします。
各組織がダメージを受けていないこの時点で、出血などのショックの原因を取り除ければ、回復可能です。
ところが、末梢の循環不全が進行した非代償期に移行すると、酸素不足によって血管の内側をおおう内皮細胞や組織が損傷を受けます。すると血漿が血管外に漏れ出し、損傷した組織から放出された物質が血管を拡張させ、その結果、血圧がさらに低下して低酸素による血管や組織のダメージが進行し、これがまた血漿の血管外への漏出をまねくという悪循環が繰り返され、多くの重要臓器の機能が障害されて重篤な後遺症を残したり、死に至ってしまうのです。
ショックによる重要臓器の機能の障害って何が起こるの?
1つは血液凝固の異常(DIC)です。組織や内皮細胞が障害されると、組織因子の放出や内皮細胞の抗血栓作用の低下によって血管内に多数の血栓が形成されます。DICでは重要臓器の循環障害による機能障害が起こったり、大量の凝固因子の消費と線溶系が活性化することによって出血しやすくなります。
また、酸素をたくさん使う腎臓はショックに弱く、しばしば急性腎不全(急性尿細管壊死)が起こります。
肺では、血管から血漿中のタンパクが肺胞に漏れ出して肺水腫となり、さらに肺胞の内側に膜をつくってガス交換が妨げられ、急性呼吸不全(急性呼吸促拍症候群:ARDS)が起きます。そのほかには、胃や腸管粘膜に出血、びらん、潰瘍がみられます。
用語解説 DIC(播種血管内凝固症候群)
いろいろな原因で凝固系と線維素溶解系(線溶系)のバランスが崩れると全身の血管内で血液凝固が亢進し、多数の微小血栓が形成されます。その結果、循環障害による多臓器の機能障害(MODS)や凝固因子の消費と線溶系の活性化による出血傾向をきたす病態を、DIC:Disseminated Intravascular Coagulation Syndrome(播種<はしゅ>性血管内凝固症候群)といいます。
ショック以外にDICを起こしやすい基礎疾患としては、白血病(とくに急性前骨髄性白血病)、がん、重症の感染症、前置胎盤早期剥離などの産科疾患があります。
ショック状態の患者さんに遭遇した時は、何を観察し、どう行動すればいいの?
ショックの代表的症状は、血圧低下(収縮時血圧90mmHg以下)、顔面蒼白、チアノーゼ、微弱な脈、頻脈、虚脱(無欲、無関心、意識障害)、呼吸不全、尿量減少、体温低下、冷や汗などです。また、血圧の低下は重篤さを表す指標になります。看護師は、ショック状態に陥った患者の第一発見者になる可能性が高いので、これらの症状を発見したらショックを疑い、速やかに適切な処置につなげなくてはいけません。
ショック時には、原因のアセスメントと並行して、呼吸と循環の確保を行います。安静にし、頭を低く足を上げるようにし、心臓への還流を増やし、脳への血流を維持します。気道を確保し、酸素吸入や挿管も考慮に入れるとともに、輸液のための静脈を確保します。
頻回に、バイタルサインや意識レベルを把握し、パルスオキシメータで動脈血酸素飽和度をチェックします。腎不全の発見のために尿量もチェックします。
※編集部注※
当記事は、2016年6月5日に公開した記事を、第2版の内容に合わせ、更新したものです。
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本記事は株式会社サイオ出版の提供により掲載しています。
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[出典] 『看護のための 症状Q&Aガイドブック 第2版』 (監修)岡田忍/2024年7月刊行/ サイオ出版