痙攣(けいれん)に関するQ&A

 

『看護のための症状Q&Aガイドブック』より転載。

 

今回は痙攣に関するQ&Aです。

 

岡田 忍
千葉大学大学院看護学研究科教授

 

痙攣状態の患者からの訴え

 

〈痙攣に関連する症状〉

痙攣に関連する症状

 

〈目次〉

 

痙攣ってなんですか?

痙攣(けいれん)とは、急激に起こる比較的大きな筋肉(骨格筋)の収縮のことです。

 

骨格筋の収縮は、運動神経細胞の興奮(命令)が筋肉に伝わることによって起こり、自分の意思でコントロールすることができます。骨格筋を随意筋というのはそのためです。

 

普通、身体を動かすときは、自分の意思で筋肉を収縮させて腕や脚を動かします(図1)。ところが痙攣時には、運動神経細胞が異常に興奮して電気的刺激を出してしまうので、筋肉が自分の意思に反して(不随意に)収縮してしまいます。つまり、痙攣は、神経細胞の異常な興奮の結果、起こるといえます

 

ポイントは、不随意であること、急激に起こることです。

 

図1平常時の筋肉収縮のメカニズム

筋肉収縮のメカニズム

 

運動神経細胞の興奮はどのように調整されているの?

身体の動きはいくつもの筋肉が協調して同時に収縮したり弛緩したりすることで生まれます。したがって、意思をもって身体を動かすときには、その動きにかかわる筋肉全体に対する命令が筋肉を支配する運動神経細胞に伝えられ、その結果、必要な筋肉を支配する運動神経細胞が興奮し、筋肉が協調して収縮し、意思に沿った動きをつくり出します。

 

つまり、運動神経細胞の興奮は、勝手に起こるのではなく、前頭連合野のようなより高次の機能を営む部位によって制御されているといえます。

 

痙攣にはどんな種類があるの?

痙攣は、「間代性(かんだいせい)痙攣」と「強直性(きょうちょくせい)痙攣」の2つに分けられます(図2)。両者の違いは、筋肉の収縮の起こり方です。

 

間代性痙攣では、筋肉の収縮と弛緩が交互に起こり、腕や脚は伸展と屈曲を繰り返します。収縮と弛緩の間隔には、ある程度のパターンがあり、たとえば「1分収縮した後に3分間弛緩する」といった状態を規則的に反復します。

 

強直性痙攣は、名前のとおり、筋肉がずっと収縮を続けている状態で、腕や脚は「突っ張ったまま」「こわばったまま」あるいは「曲がったまま」になります。

 

図2間代性痙攣と強直性痙攣

間代性痙攣と強直性痙攣

 

なお、痙攣発作が短い間隔で繰り返される状態を、「痙攣重積(じゅうせき)状態」といいます。

 

神経細胞の異常な興奮によって痙攣、意識消失などの種々の精神症状を発作性に繰り返す状態を、てんかんといいます。痙攣は、てんかんの発作として起こるもの(てんかん性の痙攣)と、そうではないもの(非てんかん性の痙攣)に分けられます。

 

どのような場合に痙攣が起こるの?

どのようにして神経細胞に異常な興奮が起こるのかは、よくわかっていません。しかし、痙攣を起こす原因としては、「脳の異常」「遺伝的な病気」「全身性疾患」があげられます。このほか、ヒステリーのような精神的な疾患によるものや、原因がわからない場合もあります。

 

痙攣を起こす脳の異常や遺伝的な病気にはどんなものがあるの?

痙攣を引き起こす代表的な脳の疾患としては、脳梗塞や脳出血などの脳血管障害、脳挫傷や硬膜下出血などの外傷、脳腫瘍などによる頭蓋内圧亢進、脳炎や髄膜炎などの炎症、小頭症などの先天奇形などがあげられます。

 

また、分娩時に吸引分娩などで赤ちゃんの神経細胞がダメージを受けると、後遺症として痙攣が起こることもあります。

 

遺伝的な疾患としては、結節性硬化症があります。

 

痙攣を起こす全身性疾患にはどんなものがあるの?

代謝異常や電解質異常、中毒などによって脳の機能が障害される場合にも痙攣が起こります。

 

たとえば、低血糖に陥ったときや糖尿病性昏睡時に、痙攣が起こることがあります。低血糖では、神経細胞のエネルギー源であるブドウ糖の不足、糖尿病性昏睡では、高血糖による浸透圧の上昇やケトン体の増加による体液のpHの異常(アシドーシス)が、原因と考えられます。

 

また、肝硬変で肝機能障害が進行すると肝性脳症を起こし、痙攣がみられることがあります。門脈血中には腸内細菌が産生したアンモニアなどの有害物質が含まれていますが、肝硬変の末期にはこれらの物質を解毒する能力が落ちます。そのため血液中のアンモニア濃度が上がり、これが神経細胞に影響を与えます。

 

腎不全の末期に尿毒症を起こした場合も、老廃物の排泄障害によって痙攣がみられることがあります。また、ナトリウムカリウムなどの電解質の異常によっても、痙攣が起こります。

 

乳幼児に多い熱性痙攣は、急激な体温の上昇に伴う痙攣です。高熱が、神経細胞の異常な興奮を起こすと考えられています。この他には、脳が低酸素に陥ったときにも痙攣がみられることがあります。

 

COLUMN 子どもの熱性痙攣

熱性痙攣とは、乳幼児が急に高熱を出したときにみられる全身の痙攣で、生後6か月~6歳の乳幼児にみられます。乳幼児は脳の神経細胞が未発達でわずかな刺激に対しても興奮してしまうこと、それを抑制する神経細胞の働きも未熟なことから、大人に比べるとずっと痙攣を起こしやすくなっています。 

 

てんかんによる痙攣との鑑別のポイントは、熱性痙攣は通常1~3分、長くても10分以内で治まり、あとは元どおりになることです。また、熱性痙攣は高熱の原因になる病気にかかっている間に、1度起こるだけです。

 

熱性痙攣の大部分は自然に治まるものです。

 

しかし、なかには重篤な疾患が隠されていることもあるので、初めての熱性痙攣では必ず医師の診察を受ける必要があります。熱性痙攣を起こす年齢は3歳ごろまでといわれており、それ以降に初めて痙攣を起こした場合や、7歳を過ぎても起こすような場合は、熱性痙攣ではない可能性があるので、詳しく検査する必要があります。

 

てんかんの発作はどのように分類されるの?

次に、痙攣を主な症状とするてんかんの発作について、もう少し詳しくみていきましょう。

 

てんかんの発作は、痙攣が身体の一部から始まるか、全体で始まるかによって「部分発作」と「全般発作」に分類されます。部分発作はさらに、意識障害のない「単純部分発作」と、意識障害を伴う「複雑部分発作」に分けられます。

 

単純部分発作は、脳の特定部分の運動神経細胞に興奮が起きている状態で、その神経細胞が支配する骨格筋に痙攣が起こります。

 

複雑部分発作における意識障害では、周囲の人と意思疎通ができなくなるのが特徴です。多くのケースで、自動症とよばれる症状がみられます。自動症とは、周囲の状況とは無関係に急に奇声を発する、走り出す、泣き出す、笑い出すといった行動をとることで、本人はこうした行動を覚えていません。

 

全般発作は、左右の脳の神経細胞で興奮が起きている状態です。全般発作はさらに、欠伸(けっしん)性発作、強直性発作、強直性間代性発作に分けられます。欠伸発作は、短時間の意識障害をいいます。

 

ミオクロニー発作は、いきなり急激な筋肉の硬直が起こる発作で、全身の筋肉が硬直すると急にバタンと倒れることもあります。間代性発作では間代性痙攣と意識障害が、強直性発作では強直性痙攣と意識障害がみられます。

 

強直性間代性発作は、強直性痙攣で始まり、次第に間代性痙攣に移行するもので、大発作ともいいます。ミオクロニー発作、強直性間代性発作は、多くのてんかんを起こす疾患で共通してみられます。

 

この分類は国際抗てんかん連盟の1981年の分類に基づいたもので、現在でも用いられています。しかし、その後てんかんの原因遺伝子の解明が進み、てんかんの定義や分類が見直され、2017年に新たなてんかんの分類体系が発表されました。2022年には発症年齢、発作型・病型、予後、病因、特徴を記述した「てんかん症候群」という名称が提唱されています。

 

2017年の分類では発作については以下のようになっています。

 

焦点起始発作:大脳の片側の一部の興奮から始まる発作

  焦点意識保持発作

  焦点意識減損発作

  焦点起始両側強直間代発作

全般起始発作:大脳の両側が同時に一気に興奮

起始不明発作:発作をみただけでは、焦点起始発作か全般起始発作か判断できないもの

 

痙攣の観察のポイントは?

ひと口に痙攣といっても、現れ方はさまざまです。

 

発現の仕方はどうだったのか、どのくらい持続するのか、どの部位に現れているのか、意識はあるのかについて観察します。発作的に繰り返す場合はてんかんの可能性があります。

 

また、年齢によって痙攣の原因をある程度推測することができます。乳幼児であれば、分娩時の脳損傷、先天奇形、先天性代謝異常(フェニルケトン尿症など)、脳腫瘍、熱性痙攣などが主な原因です。成人では、脳の外傷や炎症、中高年では脳血管障害を疑います。

 

このほか、糖尿病や肝機能障害、腎機能障害を起こすような疾患をもっていないかなど、痙攣を起こす全身疾患の既往についても確認しましょう。

 

さらに、てんかんのなかには遺伝するものもあるので、家族にてんかんをもつ人がいないか、家族歴も尋ねましょう。

 

痙攣にはどんな検査が行われるの?

代謝異常、電解質異常の有無をみるため血液検査尿検査が行われます。

 

脳そのものに原因があると考えられた場合には、画像検査(頭部のCT、MRI)で、脳腫瘍や脳血管障害などの器質的異常がないかをみます。また、脳波をとり、異常な電気的興奮の有無を調べます。

 

痙攣を予防するケアは?

症状にもよりますが、てんかんでは抗痙攣薬を使い、発作のコントロールを行います。抗痙攣薬の飲み忘れは、重大な事故につながる可能性もあるのできちんと服用するすることが重要です。

 

抗痙攣薬の有害事象(副作用)には眠気や肝障害、腸障害などがあります。痙攣を誘発する刺激が何かわかっているときには、それを避けるようにします。糖尿病やフェニルケトン尿症などの代謝異常や肝疾患、腎疾患が背景にあるときには、基礎疾患のコントロール、治療を行います。

 

用語解説 脳波検査

脳波とは、脳の神経細胞が興奮したときに発生する電気的な変化をとらえたものです。現在では、国際標準電極配置法により、電極の標準的な位置が決められており、それぞれの電極がとらえた電気的な信号を約10,000倍に増幅して記録します(図3)。

 

脳波はいろいろな周波数をもった波を合わせたものですが、主となる波の周波数によってδ(デルタ)波(0.5Hz~4Hz)、θ(シータ)波(4Hz~8Hz)、α波(8Hz~13Hz)、β波(13Hz~30Hz)に分けられています。神経細胞の異常な興奮があると、脳波上に特有な波が出現するため、てんかんの診断によく利用されます。

 

そのほか、覚醒レベルや睡眠の深さによって脳波に特徴的な波形が表れるので、意識水準や睡眠深度の判定などにも利用されています。

 

図3電極の配置(国際10-20法)

電極の配置(国際10-20法)

 

痙攣を起こした患者を見たらどうすればいいの?

まず、まわりに危ないものがないか確認します。

 

呼吸が妨げられないよう衣服を緩め、側臥位にして気道を確保します。口の中に食べ物などがあれば吸引し、誤嚥を予防します。噛まないように口腔内に何か入れることは気道閉塞を起こす危険があるため行っていけません。

 

身体をゆすったりせずに、痙攣の状態について観察することは診断の助けになります。長く続く場合やチアノーゼ、意識障害を伴う場合は、すぐに救急車をよぶ、医師に連絡するなどの対応をとります。

 

痙攣を繰り返す場合は転倒による傷害を避けるために、ヘッドギアをつけることもあります。また、なるべく1人にならないなど、痙攣を想定した日常生活の心がけをアドバイスしましょう。

 

※編集部注※

当記事は、2016年6月12日に公開した記事を、第2版の内容に合わせ、更新したものです。

 

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本記事は株式会社サイオ出版の提供により掲載しています。

 

[出典] 『看護のための 症状Q&Aガイドブック』 (監修)岡田忍/2016年3月刊行/ サイオ出版

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