発熱に関するQ&A
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『看護のための症状Q&Aガイドブック』より転載。
今回は「発熱」に関するQ&Aです。
岡田 忍
千葉大学大学院看護学研究科教授
発熱患者からの訴え
- ・「熱があります」
- ・「寒気がします」
〈発熱に関連する症状〉
〈目次〉
- 1.発熱ってなんですか?
- 2.どうやって熱産生と熱放散のバランスをとっているの?
- 3.体温調整を司るのはどこ?
- 4.「うつ熱」は発熱とは違うの?
- 5.どうしてセットポイントが上昇するの?
- 6.機械的刺激ってどんなもの?
- 7.化学的刺激ってどんなもの?
- 8.熱が出る時に悪寒が伴うのはどうして?
- 9.熱はどんなメカニズムで下がるの?
- 10.発熱はどのように分類されるの?
- 11.熱型って何ですか?
- 12.稽留熱ってどんなもの?
- 13.弛張熱ってどんなもの?
- 14.間欠熱ってどんなもの?
- 15.発熱の原因になる疾患は?
- 16.発熱の観察ポイントは?
- 17.発熱のケアのポイントは?
発熱ってなんですか?
ヒトの体温は、熱産生と熱放散のバランスを維持することで、いつもほぼ一定に保たれています。発熱とは、脳の体温を調節する中枢の体温設定の変化により、体温が異常に上昇した状態をいいます。
どうやって熱産生と熱放散のバランスをとっているの?
私たちの身体の熱は、いろいろな物質の代謝の結果、生じます。この熱は血液を温め、血液が循環することによって体内に伝えられます。同時に、血液が皮膚の表面近くを流れる時に、通常体温よりも低い外気の影響を受け、熱が身体の外に放散されます。
さらに、発汗や不感蒸泄(ふかんじょうせつ)によっても、熱の放散が起こります。発汗や不感蒸泄で熱が放散されるのは、水が蒸発する時に気化熱が奪われるためです。
激しい運動をしたり、気温が高くなったりすると、顔が赤くなったり、汗をかいたりします。逆に寒いと、手足が冷えて蒼白になり、震えがきたりしますね。
これらの現象を、体温調節という視点から見てみましょう。激しい運動をすると物質代謝が亢進し、熱の産生が増加します。これを体表から放散しようとして血管が拡張し、顔が赤くなります。
また、汗が出るのは、熱の放散を増やすためです。逆に寒いと手足が冷えて蒼白になるのは、皮膚の血管を収縮させて熱が奪われるのを防ごうと、血流が減少するためです。熱が出るときに震えが起こるのは、筋肉を動かすことで熱を産生しようとする働きです。
用語解説 不感蒸泄
不感蒸泄とは、名前の通り、「汗をかいている」と感じることなく身体から水分が蒸発することをいいます。直接外界と接している皮膚のほか、肺や気道の粘膜からも、呼気中に水分が失われます。寒いと吐く息が白く見えますが、これは呼気中の水蒸気が冷やされて水滴になるために起きる現象です。
不感蒸泄として、1日当たり皮膚から500~700mL、肺・気道から150~450mLの水分が失われています。発熱時に体温が1°C上昇すると、不感蒸泄の量は約15%増加するといわれています。
体温調整を司るのはどこ?
体温をコントロールする中枢(体温調節中枢)は、視床下部にあります。体温調節中枢では、体温を何度に維持するかという、設定温度(セットポイント)というものを決めています。そして、実際の体温が設定温度と等しくなるように、熱産生や熱放散を行う命令を出すのです(図1)。
例えば外気温が上がると、熱を放散するために、「汗をかけ」「血管を拡張しろ」というように命令を出し、体温を下げるわけです。
図1設定温度(セットポイント)と体温の関係
「うつ熱」は発熱とは違うの?
発熱は、体温調節中枢のセットポイントが高く設定されてしまった状態です。
これに対し、うつ熱ではセットポイントの上昇はありません。熱の産生と放散のバランスが崩れた結果として、産生された熱がこもってしまい、体温が上がります。代表例は、熱中症です。
この他に、バセドウ病のように甲状腺機能の亢進によって甲状腺ホルモンが過剰になると、甲状腺ホルモンには基礎代謝を増加させる作用があるため、熱産生が増加して体温が高くなります。この場合には、高体温とよばれます。
どうしてセットポイントが上昇するの?
セットポイントは、視床下部の体温調節中枢が刺激されることで上昇します。体温調節中枢への刺激は、機械的刺激と化学的刺激の2つに分けられます。
機械的刺激ってどんなもの?
脳腫瘍、脳出血、頭蓋骨骨折などによって体温調節中枢が損傷を受けたり、直接刺激されたりすると、発熱をきたします。
化学的刺激ってどんなもの?
発熱の多くは、化学的刺激によるものです。
血液中に体温調節中枢に作用する化学物質が存在すると、セットポイントが上昇します。たとえば、本来36~37°Cに設定されているセットポイントが40°Cに設定されてしまいます。すると体温調節中枢は、40°Cになるまで体温を上昇させる指令を出し続けます。
このような作用をもつ化学物質を発熱物質といい、炎症にかかわる細胞などが産生する内因性発熱物質と、グラム陰性桿菌の細胞壁の成分であるリポ多糖(LPS)のように身体の外から侵入する外因性発熱物質に分けられます。
たとえば、風邪をはじめとする感染症で熱が出る場合を考えてみましょう。
細菌感染症では、細菌の外因性発熱物質がセットポイントの上昇をもたらします(図2)。同時に、細菌の侵入に対して遊走してきたマクロファージが、内因性発熱物質であるインターロイキン1(IL-1)というサイトカインを産生します。IL-1は脳内にプロスタグランジンE2を産生させ、これが体温調節中枢に働き、セットポイントを上昇させて発熱を起こします。
また、けがをしたときに発熱するのは、傷ついた組織を処理するためにやってきたマクロファージが、感染症と同様にIL-1などの内因性発熱物質を産生するためです。
図2発熱物質によるセットポイントの上昇
熱が出る時に悪寒が伴うのはどうして?
悪寒とは全身がぞくぞくするような寒気をいい、しばしば震えを伴います。セットポイントが上がると、相対的にまわりの温度が下がったように感じ、悪寒が起こります。
また、筋肉を動かすことで熱を産生し、体温をセットポイントまで上げようとして、震えがきます。
用語解説 内因性発熱物質インターロイキン1
炎症部位のマクロファージが産生するインターロイキン1は、本来は、免疫系のサイトカインとして見つかったものです。インターロイキン1が体温調節中枢にも作用して発熱を起こすことから、免疫系と神経系が、サイトカインを通じて情報を伝達しあっていることが明らかになってきました。
インターロイキン1によって発熱が起こると、視床下部や下垂体からエンドルフィンというモルヒネ様物質が分泌され、神経細胞の活動や消化管運動を抑制することが知られています。熱が出ると身体がだるくなって食欲が落ちるのはそのためで、このことはエネルギーを免疫系に集中させて、発熱の原因になった微生物などをできるだけ早く身体から排除することにつながります。
熱はどんなメカニズムで下がるの?
炎症が終息に向かい、発熱物質の作用がなくなると、セットポイントは再び低い温度に設定されます。すると今度は、発汗などによって熱を放散し、体温が低下します。熱が下がるときに大量の汗をかくのはそのためです。
発熱はどのように分類されるの?
まず、熱の高さにより、①微熱:37°C以上38°C未満、②中熱:38°C以上39°C未満、③高熱:39°C以上の3つに分けられます。
また、熱型によって分類することもできます。とくに注意が必要なものとして、①稽留(けいりゅう)熱、②弛張(しちょう)熱、③間欠(かんけつ)熱があげられます(図3)。
図3熱型の種類
熱型って何ですか?
発熱時にみられる特徴的な体温変動のパターンを、熱型といいます。疾患によっては、特徴的な熱型を示すものもあるので、発熱の原因を推測するのに役立ちます。代表的な熱型は、稽留熱、弛張熱、間欠熱です。
稽留熱ってどんなもの?
体温の日差(最高体温と最低体温との差)が1°C以内で、高熱が持続するものをいいます。
以前は腸チフスでよくみられましたが、現在では白血病、悪性リンパ腫、髄膜炎などで多くみられます。
弛張熱ってどんなもの?
体温の日差が1°C以上で、低いときでも平熱にはならない状態をいいます。敗血症、化膿(かのう)性疾患、ウイルス疾患、悪性腫瘍などでみられます。中心静脈カテーテルなど血管内にカテーテルを挿入している患者は、血流感染から敗血症を起こすリスクがあるので、この熱型にはとりわけ注意が必要です。
間欠熱ってどんなもの?
体温の日差が1°C以上で、平熱に戻ることもあります。マラリアや薬剤アレルギーなどでみられます。
発熱の原因になる疾患は?
発熱は炎症の四徴の1つであり、炎症を引き起こす疾患は通常発熱を伴います。多いのは感染症による発熱です。食中毒(腸管の炎症)、結核、インフルエンザ、肺炎、髄膜炎、尿路感染症などがあげられます。また、自己免疫疾患や悪性腫瘍でも発熱がみられます。組織の破壊は、炎症を引き起こし、発熱を伴います。
発熱の観察ポイントは?
急激な発熱かどうか、熱の出方や持続時間はどのようかなどをチェックします。本当に発熱なのか、女性で微熱が続く場合は、妊娠によって高温期が持続している可能性も視野に入れておきましょう。
また、感染の有無や、随伴症状も観察します。気道の炎症では咳嗽・痰(「咳嗽・痰」参照)、胸痛(「胸痛」参照)、腸管の炎症では腹痛(「腹痛」参照)、下痢(「下痢」参照)や嘔吐(「悪心・嘔吐」参照)、髄膜炎では頭痛や項部硬直、嘔吐を伴います。
発熱のケアのポイントは?
高熱の場合は、安静を保ち、患者が楽な姿勢を保てるように心がけます。エネルギーの消耗を防ぐことで、合併症を予防することにもつながります。
悪寒を伴うときは、体温がセットポイントに到達していない状態なので、無理に体温を下げようとせず、むしろ湯たんぽや温かい飲み物を用意し、保温に努めます。
体温がセットポイントに達して悪寒がなくなったら、氷枕などで冷やし、発熱による苦痛を和らげます。熱を下げる必要があるときには、腋窩や鼡径部など、太い血管が皮膚の表面近くを走行している部位を冷却すると効果的です。
代謝が亢進して不感蒸泄も増加し、さらに解熱時には汗をかきます。衣類交換や手早い清拭などで清潔を保つとともに、水分も補給しましょう。なお、代謝が亢進すると体タンパクが失われ、消化器系の働きも低下するので、栄養価が高く消化のよい食物を取るように留意しましょう。
COLUMN 熱は下げないほうがいい
熱は無理に下げないほうがいいということを、耳にしたことはありませんか。
発熱は、体温調節中枢がセットポイントを高く設定して起こるわけですから、体温を上げることは身体にとって有利に働くはずです。
体温が上昇すると、免疫系の細胞が活発になる、ウイルスの活動が抑制されるといったメリットがあり、人が進化のなかで微生物に対して獲得した防衛反応といえます。
ですから、悪感・戦慄があるときは、冷やしたりせずに身体を暖かくし、体温を早くセットポイントまで到達させたほうがいいのです。
※編集部注※
当記事は、2016年6月19日に公開した記事を、第2版の内容に合わせ、更新したものです。
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本記事は株式会社サイオ出版の提供により掲載しています。
[出典] 『看護のための 症状Q&Aガイドブック 第2版』 (監修)岡田忍/2024年7月刊行/ サイオ出版