脱水に関するQ&A

 

『看護のための症状Q&Aガイドブック』より転載。

 

今回は「脱水」に関するQ&Aです。

 

岡田 忍
千葉大学大学院看護学研究科教授

 

脱水症状の患者からの訴え

  • ・「皮膚に張りがなくなりました」
  • ・「のどが渇きます」

 

脱水に関連する症状〉

脱水に関連する症状

 

〈目次〉

 

脱水って何ですか?

脱水とは、体内の水分、つまり体液が減った状態です。身体は半分以上が水分で占められていて、たった数%の水が不足しても、のどの渇きを覚えたり、さまざまな影響が現れたりします。

 

脱水を理解するためには、体液がどこにどれくらい分布しているかを知っておくことが大切です。

 

体液はどのように分布しているの?

身体に占める体液の割合は、成人では体重の約60%です。細胞の中(細胞内液)にあるのは約40%で、残りは細胞の外(細胞外液)に分布しています(図1)。

 

細胞外液の分布をみると、血管内やリンパ管内に血液やリンパとして体重の約5%、細胞と細胞の間に間質液(組織液ともいう)として約15%となっています。

 

図1体液の分布

体液の分布

 

脱水にはどんな種類があるの?

体液は水だけではなく、いろいろな電解質を含んでいます。なかでもナトリウムイオン(Na+)は、浸透圧の調節に重要です。

 

脱水は失われる水分とナトリウムのバランスによって、①ナトリウムも失われるが、それ以上に水分が失われる場合(高張性脱水、水欠乏性脱水)、②水分とナトリウムの両方が同じくらい失われる場合(等張性脱水、混合性脱水)、③水分も失われるがそれ以上にナトリウムが失われる場合(低張性脱水、ナトリウム欠乏性脱水)の3つに分けられます。

 

COLUMN 細胞内液と細胞外液

細胞内液と細胞外液の電解質の組成には大きな違いがあります。

 

陽イオンについてみると、細胞内液にはK+が多いのに対し、細胞外液にはNa+が多くなっています。陰イオンでは、細胞内液はHPO42-、細胞外液はCl-が、それぞれ多くなっています。

 

細胞内液と細胞外液は、細胞膜によって隔てられています。電解質は、その間を自由に通過することができず、チャネルやポンプといった構造によって出入りが調整されています。

 

なかでも重要なのがNa+-K+ポンプでエネルギーを使って3個のNa+を細胞内から細胞外へ、それと入れ換えに2個のK+を細胞外から細胞内に運びます。

 

細胞外液である血清のK+基準値は3.5~5mEq/Lという非常に狭い範囲にあり、この値を外れると不整脈や筋力低下などの症状が現れてきます。とくに高カリウム血症では心室細動などの致死的な不整脈を引き起こしますので、塩化カリウム注射液の投与を指示されたときには、投与方法を十分に確認する必要があります。

 

浸透圧って何ですか?

溶かしているもの(溶媒)は通すけれど、溶けているもの(溶質)は通さない膜を半透膜といいます。

 

たとえば、食塩水では水が溶媒で、食塩が溶質になります。溶質の濃度が異なる水溶液を半透膜を隔てて隣り合わせに置くと、溶媒である水分子が濃度の低い液から高い液に移動し、同じ濃度になろうとします。この「水を移動させる力」を浸透圧といいます。

 

浸透圧は、溶質の濃度によって決まります。細胞外液の溶質で最も多いのはナトリウムイオンで、細胞外液の浸透圧はナトリウムイオン濃度に大きく影響されます。また、体液の浸透圧は、細胞外液、細胞内液ともほぼ等しく、285mOsm(ミリオスモル)という一定の値を保つように調節されています。

 

細胞内液と細胞外液とは、細胞膜という半透膜を隔てて存在しています。細胞外液のナトリウムイオン濃度が変化すると、浸透圧を一定に保とうとして、細胞外液と細胞内液との間で水の移動が起こります。

 

どんなときに高張性脱水になるの?

いちばん多いのは、水の摂取不足です。大量の汗をかいたときや嘔吐下痢などでも起こります。

 

また、尿崩症(にょうほうしょう)や、利尿薬を服用している場合に、腎臓での水の再吸収が障害されて水分を多く含んだ尿が多量に出てしまうため、脱水になることもあります。

 

尿崩症とは、抗利尿ホルモンの不足により、溶質の少ない低比重の尿を慢性的に大量に排出し、脱水と極度の口渇を伴う状態のことです。

 

どんなときに低張性脱水になるの?

低張性脱水は、高温下での作業や激しい運動によって大量の汗をかいたときなどに、水分と一緒にナトリウムイオンが体外に失われているにもかかわらず、水分だけを補給した場合、相対的にNa+が不足して起こります。

 

また、嘔吐や下痢、熱傷でも、水分だけでなく電解質が失われるために電解質の補給が不十分だと低張性脱水が起こることがあります。

 

高張性脱水ってどんな状態?

水分摂取が不足したり、大量の汗をかいたりすると、細胞外液の水分が少なくなります。その結果、細胞外液のナトリウムイオン濃度が高くなり、高張液になります。

 

すると、これを薄めるようとして細胞の中の水分が細胞の外に出ていき、細胞は脱水状態になってしまいます(図2)。野菜に塩をふると、野菜から水分が出てくるのと同じメカニズムです。

 

図2高張性脱水(水欠乏性脱水)

水欠乏性脱水

 

 

低張性脱水ってどんな状態?

低張性脱水では、水分の喪失よりもNa+の喪失が大きいため、細胞外液のNa+濃度が低くなり、低張液になります。

 

すると細胞外液と細胞内液の電解質濃度を等しくしようとして水が細胞外液から細胞内に移動し、その結果、脱水による細胞外液の減少はますます助長され、細胞内液の電解質濃度が低下してしまうことになります(図3)。

 

図3低張性脱水(ナトリウム欠乏性脱水)

ナトリウム欠乏性脱水

 

脱水の観察のポイントは?

脱水のタイプによって対応が異なるので高張性脱水、等張性脱水、低張性脱水のいずれなのかを見極めることが大切です。

 

体液には血液も含まれますから、脱水によって循環血液量が減少すると血圧が下がります。とくに低張性脱水では細胞外液中の水分が細胞内に移動するために循環血液量の減少が大きく、血圧低下はより著しく現れます。それに伴い、心臓が末梢組織に必要な酸素を供給しようと心拍数を増加させるため、頻脈になります。また、血液が濃縮するためヘモグロビンヘマトクリット値が上がります。

 

高張性脱水では、のどの渇き、体温上昇、発熱などを伴い、尿量が著しく減少します。舌や腋の下など、いつもは湿っている場所が乾いているかどうかが、脱水の有無をみるよい目安になります。皮膚の張りはなくなり、しわが目立つようになります。重症の場合は、口渇感を訴えることができず、せん妄などの精神症状が現れます。

 

一方、低張性脱水では、のどの渇きはありません。尿量も変化はないか、多少減少する程度です。嘔吐、頭痛に加え、重症になると昏睡などの意識障害が起こってきます。放置すると循環血液量が減り、ショックをきたすことがあります。

 

脱水になりやすいのはどんな人?

乳幼児と高齢者です。乳児や幼児は身体の水分の割合が約70%と高く、かつ身体が小さいために水の絶対量が少なく、下痢や嘔吐によってすぐに脱水症状に陥ります。また、尿の濃縮力が未熟なため、身体の水分を保持することができません。

 

一方、高齢者は筋肉量が減少するため細胞内液の水分が減り、体内の水分量が約50%になります。尿を濃縮する機能も低下しているため、同じ量の老廃物を排泄するために、より多くの水分を必要とします。

 

これに加えてのどの渇きを感じにくい、水を飲む量が少ない、トイレに行くのが面倒で水分摂取を控えがちであるなど、脱水を起こしやすい状況にあるので注意が必要です。また、高血圧のために利尿薬を服用している人も多いので、内服薬の確認が必要です。

 

脱水のケアはどうするの?

症状が軽く、水分だけが欠乏しているときは、通常は水を飲めば回復します。しかし、症状が重く、電解質も失われていると判断される場合は、循環血液量の減少によるショックを防止し、失われた水分と電解質を補うため、医師の指示の下で輸液が必要になります。

 

輸液は、脱水の原因や程度に応じて適したものが選択されます。ただし、過剰な輸液は心臓への負担となり、浮腫(「浮腫」参照)の引き金になることもあるので、注意が必要です。

 

輸液中は、適正な輸液量か、輸液の速度は速すぎないか、入れる量と排出される量のバランスが取れているか、尿量や尿比重などを常にチェックすることが大切です。

 

また、脱水になりやすい乳幼児と高齢者については、脱水が起こらないように予防することが大切です。とりわけ高齢者は、周りが気づかないうちに重篤な脱水に陥っているケースが少なくありません。

 

こまめに水分補給を行い、尿量をチェックをすることが大切です。嚥下障害(「嚥下障害」参照)をもつ人は水でもむせることがあるので、少量ずつ水分を補給するように心がけましょう。

 

COLUMN 脱水時の輸液

中等度以上の脱水時や、口から水分を補給できない場合には、輸液(点滴静脈内注射)が必要になります。ショックや血圧低下、意識障害が起きている場合、脱水の原因が不明な場合には、循環血液量を回復させるため、生理食塩水乳酸リンゲル液などの細胞外液の組成に類似した等張液を投与します。循環動態が安定したら、脱水のタイプや病態に応じて、不足しているものを補います。

 

水分、電解質の補給に用いられる輸液は、電解質の濃度が血漿と同じであるため、細胞内への水分の移動は起こらず、細胞外液が増加する等張電解質輸液と、血漿よりも電解質濃度が低く、細胞外液だけでなく細胞内液も増加する低張電解質輸液に分類されます(表1)。低張電解質輸液はさらに以下の1~4号液に分かれ、3号液が最もよく使われます。

 

表1輸液の分類

輸液の分類

 

失われた水分量を一気に補うと心臓への負担が大きいので、最初の24時間でその半分くらいを補うようにします。

尿量をみて腎機能が正常であることを確認したら、必要に応じてK+を加えます。

脱水があると、循環血液量の減少を補うためにレニン-アンギオテンシン-アルドステロン系が作動し、K+の排泄が促進します。そのため、脱水が改善されるとともに、低K+血症が現れてくる場合があるためです。

 

※編集部注※

当記事は、2016年6月26日に公開した記事を、第2版の内容に合わせ、更新したものです。

 

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本記事は株式会社サイオ出版の提供により掲載しています。

 

[出典] 『看護のための 症状Q&Aガイドブック 第2版』 (監修)岡田忍/2024年7月刊行/ サイオ出版

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