浮腫(ふしゅ)に関するQ&A
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『看護のための症状Q&Aガイドブック』より転載。
今回は「浮腫」に関するQ&Aです。
岡田 忍
千葉大学大学院看護学研究科教授
浮腫のある患者からの訴え
- ・「むくみが取れません」
〈浮腫に関連する症状〉
〈目次〉
- 1.浮腫って何ですか?
- 2.身体のどこに水分が溜まるの?
- 3.浮腫はどうして起きるの?
- 4.血管内圧が上昇すると、どうして浮腫が起きるの?
- 5.血漿膠質浸透圧が低下すると、どうして浮腫が起きるの?
- 6.ナトリウムが貯留すると、どうして浮腫が起きるの?
- 7.リンパ管障害があると、どうして浮腫が起きるの?
- 8.浮腫の観察のポイントは?
- 9.浮腫を緩和するためには?
浮腫って何ですか?
塩辛い物を食べすぎた翌日や1日中立ちっぱなしだったので夕方になって脚がむくんだ……。
いずれも、むくみの原因は「水分」です。塩辛い物を食べすぎると血漿の浸透圧を保つために血液中の水分が増加します。また、立ちっぱなしだと下肢の静脈血がうっ滞します。その結果、いずれも血管内圧が増加して血管内の水分が血管外に漏れ出し、脚がむくむわけです。
ただ、これらは一時的な現象で、時間が経てば大抵は解消されます。身体には、水分を調節する仕組みが備わっていて、たとえば「水分を摂取したら、その分だけ尿や汗として体外に出す」というように、いつも体内にある水分、つまり体液の量や組成が一定に保たれるようになっています。
ところが、この仕組みのどこかに障害が起こると、結果として身体に水分が滞留した状態になります。この状態を「浮腫」といいます。
身体のどこに水分が溜まるの?
浮腫で水分が貯留するのは、「間質(かんしつ)」です。間質というのは細胞と細胞の間のすき間のことです。間質の水分のことを間質液または組織液といい、浮腫とは間質液が増加した状態です。
水分はあらゆる器官で生命維持のために重要な役割を担い、成人では体重のおよそ60%を占めています。
体液の2/3(体重の40%)は細胞の中にあり、これを「細胞内液」といいます。体液の1/3(体重の20%)は、細胞の外にある「細胞外液」です。細胞外液は、組織中にある間質液と、血漿やリンパのように血管やリンパ管や体腔、結合組織、骨に存在するものとに分けられます(図1)。
図1体液の分布
血液やリンパと、間質の間では、たえず水の移動が行われています。水の移動に関係する主な力は、血管内圧、血漿膠質浸透圧(けっしょうこうしつしんとうあつ)です。血管内圧は血管内の水分を間質に移動させる力として働き、動脈側では静脈側よりも大きな値を示します。血漿膠質浸透圧は間質の水分を血管内に移動させる力として働き、血管の部位によらず一定です。
組織を見てみると、動脈側では、血管内圧が血漿膠質浸透圧より大きいので、水が血管から間質に移動します(図2)。静脈側では逆に、血漿膠質浸透圧が血管内圧より大きいので、水は間質から血管に移動します。また、間質液の一部はリンパ管にも吸収されており、間質の水分が増加した場合には、リンパ管への吸収量が増加します。
この水分の流れに障害が起こると、間質に水分が溜まって浮腫が起こります。
図2浮腫のメカニズム
用語解説 血漿膠質浸透圧
溶質(溶けているもの)は通さないけれど、溶媒(溶かしているもの、水分子)は通す膜を半透膜といいます。溶質の濃度が異なる溶液を、半透膜を隔てて隣り合わせに置くと、水分子が濃度の低いほうから高いほうに移動し、同じ濃度になろうとします。この「水を移動させる力」が、浸透圧です。
次に、溶質の濃度の異なる2つの液を血漿と組織液、半透膜を血管壁に置き換えて考えてみましょう。図3を見てください。ただ「浸透圧」といった場合に重要なのは、Na+です。しかし、Na+は血管壁を自由に通過するので、血漿と組織液のNa+濃度はほぼ同じで、血漿と組織液の間で水を移動させる力にはなりません。
では、血漿と組織液の間で濃度が異なる溶質は何でしょうか。答えは、膠質(タンパク質)です。タンパク質は分子が大きいため、Na+のように自由に血管壁を通過することができません。血漿のタンパク質の濃度と組織液のタンパク質の濃度を比べると血漿のほうが大きく、この差が組織液から血漿へと水を移動させる力、すなわち血漿膠質浸透圧になります。
低タンパク血症では、血漿と組織液のタンパク濃度の差が小さくなるので、組織から血漿に移動する水分も減少し、浮腫が起きます。
図3血漿膠質浸透圧
浮腫はどうして起きるの?
浮腫が起こるメカニズムは、「血管内圧の上昇」「血漿膠質浸透圧低下」「ナトリウムの貯留」「リンパ管障害」の4つに分類されます。
また、全身に起こるものを全身性浮腫、局所的に起こるものを局所性浮腫といいます。それぞれの特徴は、表1のとおりです。
このほかに炎症では、炎症部位の血管透過性が亢進することによって浮腫が起こります。
表1浮腫の種類と特徴
血管内圧が上昇すると、どうして浮腫が起きるの?
心臓が悪い人は、顔や手足に浮腫が出ることがあります。心臓が悪い、つまり心臓の収縮力が弱いと、「心臓→動脈→毛細血管→静脈→心臓」という血液の流れがスムーズにいきません。血液を車に例えるなら、静脈から心臓に入る辺りで車が渋滞している状態です。
すると、全身の静脈で血液がうっ滞し、それによって静脈の「血管内圧」が高まります。その結果、間質から血管へ水分を移動させる力が弱まって間質に水分が貯留し、浮腫が起こるのです。うっ血性心不全で起こる浮腫が、これに当たります(図4)。腎機能の低下などによって循環血液量が増加する場合も血管内圧の増加が浮腫を引き起こします。
また、静脈の一部にうっ滞や閉塞があるときにも、同じようなメカニズムで浮腫が起こります。このときの浮腫は全身ではなく、静脈のうっ滞や閉塞部位よりも末梢側にみられます。
静脈血の流れは、周囲の筋肉の収縮に依存しているので、筋肉量の少ない高齢者や長期に臥床している患者では静脈血がうっ滞して、静脈側の血管内圧が増加するため、浮腫が起こりやすくなります。
図4うっ血性心不全によって起こる浮腫
血漿膠質浸透圧が低下すると、どうして浮腫が起きるの?
組織から血管内に水分を移動させる力である血漿膠質浸透圧は、血漿中のタンパク質(主としてアルブミンというタンパク質)の濃度に左右されます(「用語解説 血漿膠質浸透圧」参照)。タンパク質の摂取量が減少すると、血漿中のアルブミンが減り、間質から血液に水分を移動させる力が弱まり、間質に水分が溜まってしまうのです。
また、肝硬変のときにみられる浮腫、腹水にも、低タンパク血症による血漿膠質浸透圧の低下が関係しています。肝硬変では、肝細胞が徐々に減少するため、食物中のタンパク質をアルブミンに作り替える肝臓の働きが弱まり、血漿のタンパク質が減って浮腫や腹水が発生します。しかし、低アルブミン血症による血漿膠質浸透圧の低下のみで浮腫が起こるのは、血清アルブミン値が1.5~2.0g/dL未満とかなり低下した場合とされています。
ナトリウムが貯留すると、どうして浮腫が起きるの?
血液中のNa+は、糸球体で濾過され、一部が尿細管で再吸収された後、尿中に出ていきます。
糸球体濾過に障害(急性糸球体腎炎など)が起きたり、Na+の再吸収が増加してNa+が貯留すると、浸透圧を保つために水の貯留が一緒に起こってきます。その結果、循環血液量が増えて血管内圧が上昇し、浮腫が起こります。
リンパ管障害があると、どうして浮腫が起きるの?
乳癌の手術で転移を防ぐために腋の下のリンパ節を摘出すると、摘出した側の腕と手に浮腫が起こることがあります。
子宮癌で鼡径リンパ節を摘出したときは、摘出した側の下肢に浮腫が起きます。これがリンパ(性)浮腫です。
間質液の水分の一部はリンパ液としてリンパ管に吸収されています。リンパ節に吸収される水分の量は血管に水分が戻っていく量が少なくなると増加し、リンパ管への吸収は浮腫が起こるのを防ぐ働きがあります。
したがって、リンパの流れがうっ滞するとリンパ管への水分の吸収が減少して次第に間質に水分が溜まり、浮腫が発生するのです。リンパ管に吸収される水分の量はそれほど多くないため、リンパ節を摘出してからリンパ(性)浮腫が発生するまでには通常数か月~数年かかります。また進行すると、皮膚が線維化して硬くなるため予防が重要です。
COLUMN センチネルリンパ節ナビゲーションサージェリー
がんのリンパ液がいちばん最初に流入するリンパ節を、センチネルリンパ節といい、がんがリンパ行性転移を起こすときには、まずセンチネルリンパ節に転移します。センチネルとは「見張り」という意味です。
リンパ浮腫が発生する原因の1つが、がんの摘出手術に伴うリンパ節の郭清(摘出)です。手術中にがんのまわりに色素や放射性同位元素を注入することによってセンチネルリンパ節を見つけ出し、これにがんが転移しているかどうかを手術中に診断(摘出した組織を凍らせて標本をつくり、病理医が転移の有無を顕微鏡で診断する)し、リンパ節の摘出の範囲を決めるという方法をセンチネルリンパ節ナビゲーションサージェリーといいます。この方法によって郭清の必要のないリンパ節を摘出しなくてもよくなりました。
浮腫の観察のポイントは?
浮腫の原因を把握し、それに応じた対応を行うことが大切です。
まず、浮腫が全身に生じているのか、身体の一部なのか、身体の一部である場合は浮腫の出ている部位を観察します。全身性の浮腫では胸水や腹水の貯留を伴っている場合があります。一般に心原性浮腫は、下肢に強く出ます。腎性浮腫のうち、急性糸球体腎炎では、顔に強く出ます。ネフローゼ症候群では、全身に強い浮腫をきたします。どの部位にどの程度の浮腫があるかを把握しましょう。
浮腫の程度を評価するときに下腿の脛骨や足の甲の表面を強く数秒間押してできる皮膚のへこみ(圧痕)の陥凹をみる方法がよく用いられます。また、圧痕の回復のスピードや、いつから浮腫が起こっているのか、つまり急性の浮腫なのか、慢性的な浮腫なのかを把握しましょう。
心原性浮腫や肝性浮腫は、浮腫が出る前に原因になる疾患で治療を始めているケースがほとんどで、浮腫の発生を予測してかかわります。子どもに多い急性糸球体腎炎の際に起こる腎性浮腫の場合のように、浮腫を訴えて病院に来るケースもあります。
急性糸球体腎炎では数週間前に扁桃炎を起こしている可能性が高いので、「のどが腫れて熱が出ませんでしたか」と質問し、浮腫の原因となるような出来事がなかった、尋ねましょう。高血圧の患者が服用しているCa拮抗薬、糖尿病による自律神経障害も浮腫の原因になります。
また、浮腫があると、尿量が減少したり体重が増加したりするので、尿量や体重の変化なども尋ねます。実際の浮腫、とくに慢性的な浮腫では複数の原因が浮腫の発生にかかわっています。
浮腫を緩和するためには?
まずは楽な姿勢をとってもらいます。
急性糸球体腎炎の場合は、安静を保ちます。心原性の場合は脚を少し持ち上げると血流の戻りがよくなり、浮腫が軽減します。ただし、心臓への負担が増さないように注意が必要です。
浮腫のある部位の皮膚は機械的な刺激に対して弱くなっているため、衣服の紐、袖口など、圧迫するものがあれば、緩めます。血行も悪く冷感を生じやすいので、室温や寝具などを調節して保温しましょう。
皮膚を清潔に保ち、リンパ(性)浮腫であれば圧迫やマッサージも有効です。既往歴からリンパ(性)浮腫の発生が予測される場合は、患者さんにも圧迫やマッサージを行ってもらい、予防することも重要です。
このほか、浮腫の原因によっては水分制限、塩分制限などの食事の管理、利尿薬を中心とする服薬の管理なども必要になります。なお、浮腫の原因や強さによって処方される利尿薬の種類が違ってきます。どの利尿薬を服用しているか把握したうえで、服薬管理をしていくことが求められます。
※編集部注※
当記事は、2016年7月3日に公開した記事を、第2版の内容に合わせ、更新したものです。
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本記事は株式会社サイオ出版の提供により掲載しています。
[出典] 『看護のための 症状Q&Aガイドブック 第2版』 (監修)岡田忍/2024年7月刊行/ サイオ出版