腹水に関するQ&A

 

『看護のための症状Q&Aガイドブック』より転載。

 

今回は「腹水」に関するQ&Aです。

 

岡田 忍
千葉大学大学院看護学研究科教授

 

腹水の患者からの訴え

  • ・「おなかが張っています」
  • ・「急に体重が増えました」

 

腹水に関連する症状〉

腹水に関連する症状

 

〈目次〉

 

腹水って何ですか?

腹腔内には、腹腔内臓器の動きをスムーズにするために常に20~50mLの水分が貯留しています。それ以上の液体が溜まった状態を、腹水とよびます。

 

 

腹腔内の水の量はどうやって調整されているの?

間質液(「身体のどこに水分が溜まるの?」参照)と同じように、腹腔内の水分も絶えず循環しています。腹腔の内面は腹膜でおおわれていますが、この腹膜の毛細血管をとおして水分が腹腔内に滲み出しています(図1)。

腹腔内に滲み出した水分は、一方で横隔膜や大網のリンパ管、腸管に分布する静脈を介して門脈に吸収されており、腹腔内の水分は一定量に保たれています。

 

門脈は、脾静脈、上腸間膜静脈、下腸間膜静脈が脾臓の背側で合流してできる静脈で、消化管で吸収された栄養分を肝臓に運ぶ血管です。

 

腹腔内への水分の滲み出しから吸収の過程に何らかの障害があると、両者のバランスが崩れて腹腔内に水分が溜まり、腹水が貯留します。

 

図1腹水

腹水

 

腹水が溜まる原因は?

腹水は腹腔の水分代謝の異常であり、その原因は浮腫とある程度共通しているので、全身性浮腫の症状として腹水が起こってくることがあります。腹水については主に以下の4つが原因となります。

 

①門脈圧が高くなるため、水分の吸収が妨げられる。また、門脈に注ぐ静脈の圧が亢進して水分の滲み出しが起こる。

血漿タンパク質の減少によって血漿膠質浸透圧が低下する。

③腹部のリンパの量が増え、リンパ管への吸収が妨げられる。また、リンパが腹腔に滲み出す。

④ 腹膜に炎症が起き、血管の透過性が亢進する(血管から水が滲み出しやすくなる)。

 

これらが腹水を起こすメカニズムは、浮腫(「浮腫」)を参照してください。

浮腫と同様に腹水の貯留にも複数のメカニズムが関係します。

 

腹水の見られる代表的な疾患と、そのメカニズムは?

腹水をきたす代表的な疾患は、肝硬変です。

 

肝硬変では、門脈から肝静脈という通常の血行が障害されるため、門脈血のうっ滞が起こって門脈圧が亢進します。肝臓内の血流の障害は、肝臓内の静脈のうっ滞を起こし、その結果、肝臓内のリンパが増加するため、リンパ管への吸収が妨げられたり、過剰になったリンパが腹腔内に滲み出します。また、肝細胞の減少によって血漿タンパクの合成が低下した結果、血漿膠質浸透圧の低下も起こります。つまり肝硬変では、上記「腹水が溜まる原因」の①、②、③のメカニズムがかかわっています。

 

また、腹水の貯留による循環血液量の減少は、レニン―アンジオテンシン系(「高血圧」参照)を作動させます。その結果、さらに腹水の貯留が助長されるという悪循環をまねきます。

 

このように肝硬変では、腹水の貯留に傾く要因がいくつも存在しています。そのため、数千ミリリットルもの非常に大量の腹水が貯留し、いわゆる「かえる腹」という状態になります。

 

腹膜の炎症で腹水が溜まるメカニズムは?

腹膜に炎症があると、炎症にかかわる物質(フィブリンやグロブリン、補体)や細胞(白血球)を炎症部位に運ぶために血管の隙間が広がり、これらが血管を通りやすい状態になります。これを「血管透過性の亢進」といいます。血管透過性が亢進すると、水分だけでなく、血漿タンパクも血管から漏れ、腹腔に滲み出します。血漿タンパクが腹腔に滲み出すと、血漿膠質浸透圧が低下し、これがさらに腹水を貯留させます。

 

腹膜が炎症を起こす原因としては、虫垂炎の波及や、癌や膵臓癌などが腹膜まで達して腹腔内で癌細胞が増殖し、癌性腹膜炎を起こした場合などがあります。

 

COLUMN 滲出液と漏出液

腹水や浮腫で貯留する液体は、その成分によって滲出液(しんしゅつえき)と漏出液(ろうしゅつえき)に分けられます。滲出液は、炎症の部位に抗体や炎症細胞を運ぶため、身体が自ら血管からの滲み出しやすさを増加させた結果、貯留するもので、グロブリンやフィブリンのように分子量の大きなタンパク質や細胞成分をたくさん含んでいます。

 

漏出液は、血管内圧の増加や血漿膠質浸透圧の低下など、水分の移動にかかわる力の変化が組織への水分の貯留に傾くことで、受動的に貯留してきます。したがって漏出液のタンパク質含有量は少なく、細胞もほとんどみられません。

 

腹水はどうやってアセスメントするの?

腹水は、おなかが張った感じ(腹部膨満<ぼうまん>感)や体重の増加など、自覚症状で気づくケースが多いようです。横隔膜が圧迫され、息苦しさを覚えることもあります。腹水が1000mLを超えると、外から見てもわかるようになります。

 

腹水があると皮膚がきつく引き伸ばされたようになり、お臍(へそ)が突出してきます。また、門脈圧の亢進があるとお臍まわりの静脈が怒張し、血管が浮き出る、いわゆる「メズーサの頭」が現れます。

 

聴打診も腹水のアセスメントに役立ちます。腹水が貯留している部分は濁った音(濁音<だくおん>)、貯留していない部分は太鼓のような乾いた音がするので、音の変化によってどのくらい水分が溜まっているかを、ある程度知ることができます(図2)。

 

図2腹水のアセスメント

腹水のアセスメント

 

腹水のケアは?

楽な体位を工夫し、腹水による腹部膨満感や息苦しさなどの苦痛を軽減します。また、腹水を起こしている原因に応じた食事療法を実施します。低タンパク血症があるときは高タンパク食にしたり、腎臓に原因がある場合にはナトリウムや水分が貯留しないように水分や食塩を制限します。

 

薬物療法としては、尿の排泄によって循環血液量を減らし、血管内圧が下がることを狙って利尿薬が使用されます。

 

薬物療法が効果を示さないときは、腹水の直接穿刺による排液(腹腔穿刺)を行います。ただし、急激に腹水を抜くと、電解質やタンパク質を失ってショックをまねきやすいため、1回1000mL以下に留めます。

 

また、皮膚がパンパンに張っていると、細胞と細胞の間が広がって傷つきやすくなります。腹部皮膚への刺激を避けて、皮膚を清潔に保つようにしましょう。

 

用語解説 腹腔穿刺

腹腔穿刺は、貯留した腹水を除くだけでなく、腹腔内臓器の病変の診断を目的としても実施されます。抜いた液に血液が混じっていれば腹部臓器の外傷が、がん細胞が認められればがん性腹膜炎を起こしていることが推測できます。

 

検査は、腹腔内臓器や血管を傷つける危険の少ない部位を選んで針を刺します。通常は臍と左上前腸骨棘を結ぶMonro-Richter線の外側1/3またはその反対側から穿刺します。エコー画像を見ながら安全に穿刺できる部位であることを確認します。

 

図3腹腔穿刺の部位

腹腔穿刺の目安

a:モンロー点〔臍と左前腸骨棘を結ぶ線(モンロー・リヒター線) の外側1/3の点〕
b:マックバーニー点:モンロー点の反対側
c・d:左右の肋骨弓下
e:臍から2.5~5cm下
a、bは、最も血管損傷が少なく、穿刺しやすい
c、dは、超音波で確認してから穿刺する

 

※編集部注※

当記事は、2016年7月10日に公開した記事を、第2版の内容に合わせ、更新したものです。

 

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本記事は株式会社サイオ出版の提供により掲載しています。

 

[出典] 『看護のための 症状Q&Aガイドブック 第2版』 (監修)岡田忍/2024年7月刊行/ サイオ出版

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