出血・出血傾向に関するQ&A
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『看護のための症状Q&Aガイドブック』より転載。
今回は「出血・出血傾向」に関するQ&Aです。
岡田 忍
千葉大学大学院看護学研究科教授
出血・出血傾向にある患者からの訴え
- ・「知らないうちに青あざができています」
- ・「血が出ました」
- ・「血が止まりにくいです」
〈出血・出血傾向に関連する症状〉
〈目次〉
- 1.出血って何ですか?
- 2.出血傾向って何ですか?
- 3.どんな時に出血傾向になるの?
- 4.一次止血のメカニズムは?
- 5.二次止血のメカニズムは?
- 6.止血しにくくなるのはどんな時?
- 7.血小板数が減少したり、機能異常になったりする原因は?
- 8.凝固因子の異常って何ですか?
- 9.血管がもろくなる疾患にはどんなものがあるの?
- 10.出血や出血傾向はどうやってアセスメントするの?
- 11.出血や出血傾向のケアは?
出血って何ですか?
赤血球を含む血液の全成分が血管の外に出てくる状態を、出血といいます。
出血には、2つのタイプがあります(図1)。1つは、血管が切れて起こる破綻(はたん)性出血です。包丁で指を切るなど、外傷によって血管が損傷したときや、動脈瘤の破裂による出血などがあげられます。
もう1つのタイプは、血管が破れていなくても毛細血管のすき間から赤血球が漏れ出す、漏出(ろうしゅつ)性出血です。たとえば、肺うっ血では、毛細血管の圧が高くなるため、血液(赤血球)が血液中の水分とともに血管内皮細胞の間を通って肺胞に滲み出してきます。
図1破綻性出血と漏出性出血
出血傾向って何ですか?
出血傾向とは、出血しやすい、あるいは出血すると血が止まりにくい状態をいいます。
どんな時に出血傾向になるの?
何らかの原因で血管が傷ついて出血が起こっても、普通は短時間で止まります。それは血管が傷つくと血小板、凝固系が働き、止血が起こるからです。
この2つのいずれかに異常が起きたり、血管が傷つきやすくなったりすると、容易に出血したり、出血が長引いたりします。
一次止血のメカニズムは?
出血傾向を理解するためには、止血の仕組みを理解しておくことが大切です。
血管が傷ついて内皮細胞が傷つき、基底膜のコラーゲンが露出すると、ここにまず血小板が粘着します。粘着した血小板からは、周囲の血小板を出血部位に集める物質が放出され、血小板の塊(血小板血栓)をつくり、血管の穴をふさいで止血します。これらを一次止血といいます(図2)。
図2一次止血のメカニズム
二次止血のメカニズムは?
一次止血の後、カスケード反応といわれる血液凝固反応が起きて二次止血が始まります。カスケード反応とは、滝(カスケード)が流れるように、凝固因子が次々に活性化していく様をいいます(図3)。
血液中にはいろいろな凝固因子がありますが、まず、第XII因子が基底膜のコラーゲンなどの異物面に接触することによって活性化し、内因系凝固が始動します。
活性型第XII因子は第XI因子を活性化させ、活性型第XI因子は次に第IX因子を活性化させるというように、次々に凝固因子の活性化が起こります。
血管が傷つく場合は、血漿がその周囲の組織にも漏れ出していき、組織液と接触します。組織液に含まれる組織因子が第VII因子と反応すると、外因系凝固が活性化されます。
これらの凝固反応により、最終的にプロトロンビンからトロンビンが形成されます。トロンビンは、フィブリノーゲン(血漿中にある可溶性のタンパク質)をフィブリン(線維状のタンパク質)に変化させます。網の目のようになったフィブリンには、血小板や赤血球が引っかかり、止血血栓をつくって血管の破れ目を塞ぎ、二次止血が完了します(図3)。
このように、出血が止まるためには、凝固系がきちんと働くことが重要な伴を握っています。
図3二次止血のメカニズム
止血しにくくなるのはどんな時?
血小板や凝固因子の数が減少する、もしくはそれらの機能に異常をきたす、血管が傷つきやすくなる(もろくなる)、凝固した血液を溶かすしくみである線維素溶解系(線溶系)が活性化しているといったことが考えられます。
血小板数が減少したり、機能異常になったりする原因は?
血小板は、骨髄で造血幹細胞からつくられます。骨髄に異常があると、血小板産生が低下し、その結果、血小板数が減少します。
代表的な疾患は、急性白血病や再生不良性貧血です。抗がん剤による骨髄抑制が原因になることもあります。
また、血小板の破壊や消費が亢進することによっても、血小板数は減少します。特発性血小板減少性紫斑(しはん)病(ITP)はその代表例です。
紫斑病とは、出血傾向によって皮下にできる出血斑を主な症状とする病気の総称です。
ITPでは、血小板に対する自己抗体が産生されることによって異物とみなされた血小板が破壊され、血小板が減少すると考えられています。肝硬変による門脈圧の亢進で脾臓に血液がうっ滞すると、血小板の破壊が進み、血小板が減少することがあります。
播種性血管内凝固症候群(DIC、「用語解説 DIC(播種性血管内凝固症候群」参照)も、凝固因子の減少による重症の出血傾向をまねきます。DICは、がんや白血病、重症感染症などを基礎疾患として発症します。これらの疾患では、凝固亢進によって全身の微小循環系(細動脈-毛細血管-細静脈)に多数の小さな血栓が形成されます。その結果、凝固因子が足りなくなり、また血栓を溶解しようと線溶系が活性化するため、出血しやすくなります。
凝固因子の異常って何ですか?
先天的なものとして、血友病があります。血友病Aは第VIII因子、血友病Bは第IX因子が生まれつき欠乏する、伴性潜性遺伝病です。原因となる遺伝子はX染色体にあり、女性では2つの染色体の両方が原因遺伝子をもっていないと発症しません。しかし、母親から原因遺伝子を受け継いだ男児の場合は、X染色体が1本だけなので、血友病を発症してしまいます。そのため患者はほとんど男性で、関節内出血や筋肉内出血がみられるのが特徴です。
後天的なものとしては、肝疾患による凝固因子の産生低下があります。フィブリノーゲンをはじめとする凝固因子の大部分は、肝臓でつくられるため肝硬変や劇症肝炎などで肝機能が低下すると、凝固因子が減少し、出血傾向をきたします。
また、凝固因子の1つであるプロトロンビンの合成には、ビタミンKが必要です。何らかの原因でビタミンKが欠乏しても、出血傾向になることがあります。
COLUMN 線溶系(線維素溶解系)
出血を止めるためには止血血栓が必要です。しかし、そのまま止血血栓が大きくなると、血管を塞いでしまうかもしれません。そこで、我々の身体には、ちゃんと止血血栓を溶解する仕組みが存在しています。
これが線維素溶解系(線溶系)です。血液中のプラスミノーゲンが、血管内皮細胞が作るプラスミノーゲンアクティベータの働きでプラスミンに変化すると、これがフィブリンを分解し、血中にフィブリン分解産物(FDP)が増加します。
血管がもろくなる疾患にはどんなものがあるの?
ビタミンCの不足で起こる壊血(かいけつ)病があげられます。
ビタミンCが不足すると、血管の基底膜のコラーゲンの生成と保持ができなくなり、血管が弱くなります。
毒素によって血管内皮細胞が傷害された場合も、出血傾向が起こります。O157として知られる腸管出血性大腸菌(EHEC=イーヘック)による溶血性尿毒症症候群では、細菌の毒素で腎臓の糸球体毛細血管の内皮細胞が傷害されます。すると、その部位に血小板血栓が形成され、血小板の減少と溶血を起こします。進行すると腎不全をきたす、重篤な状態です。
COLUMN 納豆とワルファリン
心臓弁膜症などで弁置換術を受けた患者は血栓ができやすくなるため、血栓の形成を予防するため、血栓の形成を抑える薬をずっと服用する必要があります。これがワルファリンです。
ワルファリンは、ビタミンKと競合する薬物です。ビタミンKは、肝臓でプロトロンビンなどの凝固因子が合成されるときに必要になります。ワルファリンは、ビタミンKの働きを抑えて凝固因子の生成を阻害することにより、抗凝固作用を示します。
納豆などのビタミンKを含む食品は、ワルファリンの働きを弱くするためワルファリン服用中は摂取を控えます。
出血や出血傾向はどうやってアセスメントするの?
出血が起きているときは、局所の出血なのか、それとも背景に出血傾向があるかを見極めることが大切です。
外傷による破綻性出血のときは、出血の部位、量、状態(「じわじわ」なのか「いきなり大量に」なのかなど)をみます。
背景に出血傾向がある場合は、ほかの部位の皮膚や粘膜に出血斑がないか、皮下に血腫が形成されていないかを観察します。
また、現病歴や既往歴、家族歴を聞き、血友病などの先天性疾患や、血小板や凝固因子の減少や機能異常につながる疾患の有無についても確認します。
出血傾向が疑われる場合は、その原因を鑑別するための検査が重要になります。血小板の数や、出血から血が止まるまでの時間(出血時間)、プロトロンビン時間(PT)や活性化部分トロンボプラスチン時間(APTT)などの凝固時間を測定し、凝固系のどこに異常があるのかを判断して治療につなげます。また、線溶系が活性化していないかをみるためにはD-ダイマーなどのフィブリン分解産物(FDP)の値を参考にします。
出血や出血傾向のケアは?
出血のケアの基本は出血部位を特定し、止血を行うことです。出血部位が太い血管であれば、その中枢側(心臓に近い側)を強く圧迫します。ただし、長時間の圧迫は虚血をまねくので、必要以上に圧迫し続けないように注意しましょう。吐血は十二指腸より上部の消化管の出血、下血は消化管からの出血、喀血は気道からの出血を考えます。
出血傾向が疑われる場合は、その原因を特定し、原因疾患に応じた治療を行います。ITPのように自己免疫が関与している場合には、免疫反応を抑える目的でステロイドが投与されることがあるので、副作用に注意します。
ケアとしては、出血による不安や恐怖などの精神的緊張を和らげることが大切です。また、出血傾向がある場合は出血をまねくおそれのある行動をしないようにアドバイスします。転ばないように歩きやすい靴を履く、毛先のやわらかい歯ブラシを選ぶ、身体を圧迫する服を着ない、便通を整えるなど、患者によるセルフケアを支援しましょう。
用語解説 プロトロンビン時間、活性化部分トロンボプラスチン時間
血液凝固のどの段階に異常があるかをみるために行う検査で、プロトロンビン時間(PT)は外因性凝固、活性化部分トロンボプラスチン時間(APTT)は内因性凝固の検査です。PTでは、被験血漿に外因性組織トロンボプラスチンと塩化カルシウムを加え、血液が凝固するまでの時間を測定します。正常値は14±1秒で、組織液中の第VII因子、第V因子、第X因子が減少すると延長します。また、検査に用いる組織トロンボプラスチンは製造業者やロットによって異なるので、PTから国際標準比INRを求めます。INRの値は1.0~1.4の間が正常です。
APTTは、被験血漿に、十分量のリン脂質(血小板第III因子の働きをする)、異物面との接触によって活性化する第XII因子、第XII因子によって活性化する第XI因子、塩化カルシウムを加え、凝固までの時間を測定します。基準値は40~50秒です。
※編集部注※
当記事は、2016年7月17日に公開した記事を、第2版の内容に合わせ、更新したものです。
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本記事は株式会社サイオ出版の提供により掲載しています。
[出典] 『看護のための 症状Q&Aガイドブック』 (監修)岡田忍/2016年3月刊行/ サイオ出版