高血糖に関するQ&A

 

『看護のための症状Q&Aガイドブック』より転載。

 

今回は「高血糖」に関するQ&Aです。

 

岡田 忍
千葉大学大学院看護学研究科教授

 

高血糖に関連する症状〉

高血糖に関連する症状

 

〈目次〉

 

高血糖って何ですか?

血液中の糖質は、ブドウ糖グルコース)が大部分を占め、ごくわずかに果糖(フルクトース)、ガラクトースが含まれています。高血糖とは、血液中に含まれるブドウ糖が増えすぎ、正常値を超えてしまう状態をいいます。

 

ただし、食事をした後は、食物中のブドウ糖が消化管から吸収されるので、誰でも血糖値が上がります。そのため、血糖値が正常かどうかをみるための検査は、空腹時に行います。正常な血糖値は、空腹時で60~110mg/dLで、110mg/dLを超えると高血糖になります。

 

血糖値はどのように調節されているの?

食後に増加した血糖値が時間とともに低下するのは、血糖値の上昇に対してインスリンが分泌されるためです。

 

インスリンは骨格筋、肝臓、脂肪細胞が血液中のブドウ糖を取り込むのを促進します。また、肝臓や筋肉に対しては取り込んだブドウ糖からグリコーゲンへの合成を促進したり、タンパク質からのブドウ糖合成を抑えます。脂肪組織では取り込んだブドウ糖は中性脂肪となって蓄えられます。これらの作用を通じてインスリンは血糖値を低下させます。

 

反対に、血糖値を上昇させる作用をもつホルモンには、グルカゴン、コルチゾール(糖質コルチコイド)、アドレナリン成長ホルモンがあります。

 

これらのホルモンは、肝臓や骨格筋、脂肪組織に蓄えてあったグリコーゲンやタンパク質、中性脂肪からブドウ糖を産生したり、インスリンの作用を抑えたり、腸管からの糖の吸収を増加させたりして血糖値を上昇させます(図1)。

 

図1血糖値の調節

血糖値の調節

 

血糖値の上昇に働くホルモンが多いのは、神経細胞はブドウ糖を主なエネルギー減としているため、血糖値が下がると神経細胞の働きが低下して生命の危機に結びつくためです。生体にとっては血糖値を保つことのほうがはるかに重要なのです。これらの血糖値の低下や上昇にかかわるホルモンの分泌は、血糖値によって調節されており、血糖値が高いときはインスリンが、逆に血糖値が低下したときはグルカゴンなどが分泌され、血糖値を維持しています。

 

以上のことから、高血糖が起こるのは、血糖を下げるインスリンが不足する場合と、血糖を上げるホルモンが増加する場合が考えられます。しかし、実際に重要になるのは、前者のインスリンの不足によるものです。

 

さらにインスリンが不足するメカニズムとしては、インスリンの分泌量そのものの減少とインスリンの効き目が表れにくくなるインスリン抵抗性の2つがあります。

 

血糖値の調整の異常をみる検査は?

高血糖に対する反応をみる検査として、「75gブドウ糖負荷試験」を行います。これは、空腹時に75gのブドウ糖を口から摂取し、その後30分ごとに採血して2時間後までの血糖値を測定する検査です(図2)。

 

糖尿病患者は、インスリンの働きが低下しているため、ブドウ糖摂取によって上昇した血糖値が正常に戻るのが遅れます。

 

図275gブドウ糖負荷試験

75gブドウ糖負荷試験

 

 

75gブドウ糖負荷試験以外にはどんな検査データに異常がみられるの?

通常、身体の中では物質同士の反応は酵素によって行われます。しかし、高血糖が持続すると、酵素がなくてもブドウ糖がさまざまな物質と結合するようになります。

 

このような現象を糖化といい、代表的なものが、ブドウ糖と結合したヘモグロビンである、糖化ヘモグロビン、またはグリコヘモグロビン(HbA1c:ヘモグロビンエーワンシー)です(「用語解説 グリコヘモグロビン(糖化ヘモグロビン)」参照)。高血糖が続くことでグリコヘモグロビンの値が増加します。グリコヘモグロビンを測定することで1~2か月間の血糖の変動を知ることができます。

 

糖化した血漿タンパク質としては他にグリコアルブミンがあり、アルブミンは半減期が短いため過去2~3週間の血糖値を反映しています。

 

そのほかには、血液中のインスリン濃度の低下や、血中や尿中のインスリンの代謝物であるCペプチドの減少がみられます。

 

用語解説 グリコヘモグロビン(糖化ヘモグロビン)

身体の中で物質が代謝されるには、酵素が必要です。糖尿病では、血糖値が高い状態が持続するため、血液中の糖とタンパク質が酵素の働きを介さずに結合してしまう現象が起きます。これをタンパク質の糖化といいます。

 

血糖値は食事の影響などで変動しやすいものですが、一度糖化したヘモグロビンは赤血球の寿命が尽きるまではなくなりません。したがって、糖化したタンパク質が血液中にどのくらい存在するかを測定すると、長期(1~2か月くらい)の血糖値の変動、つまり血糖値のコントロールがうまくいっていたかを知ることができます。

 

実際の測定には、糖化したヘモグロビンがよく用いられます。これがグリコヘモグロビンで、HbA1Cと表記されます。基準値は5.6%未満、5.6~5.9%で要注意、6.0~6.4%で糖尿病の疑い、6.5%以上で糖尿病とされています(NGSP値)。

 

血糖値の上昇と疾患の関係は?

インスリン分泌量が絶対的に不足していることが原因で起こる糖尿病を 1型糖尿病、インスリンの分泌量は必ずしも不足していないのに、その働きが低下するインスリン抵抗性が関係して起こる糖尿病を2型糖尿病といいます。現在、日本には多くの糖尿病患者がいるとされていますが、その大部分は 2型糖尿病です。

 

2型糖尿病は、遺伝的に糖尿病になりやすい人に、過食や肥満などの生活習慣が加わることによって発症することが知られています。肥満ではインスリンの分泌量が足りていても、その作用が十分に現れず、高血糖になりやすくなります。このようにインスリンの効き目が低下することをインスリン抵抗性といいます。日本人は、欧米人と比べて遺伝的にインスリンの量が少なく、それほど太っていなくても糖尿病を発症しやすいので、注意が必要です。

 

その他には膵臓癌や肝疾患、グルカゴンや糖質コルチコイドといった血糖値を上昇させるホルモンが過剰になる疾患(グルカゴノーマやクッシング症候群など)でも高血糖が起こります。肝疾患で高血糖になるのは肝臓の機能が低下すると、ブドウ糖をグリコーゲンとして蓄えることができなくなるためです。

 

また、妊娠中は胎盤由来のホルモンがインスリンの作用を抑えたり、胎盤からインスリンを分解する酵素の産生により血糖値が上昇しやすく、一定の基準を超えると妊娠糖尿病とよばれます。

 

インスリン抵抗性って何ですか?

インスリンが血糖値を下げるためには、細胞のインスリン受容体と結合する必要があります。

 

インスリンとインスリン受容体は、伴と伴穴に例えられます。インスリンという伴が、細胞膜上にあるインスリン受容体という伴穴に差し込まれると、その情報がブドウ糖を細胞内に取り込む扉であるグルコーストランスポーターに伝わって扉が開き、細胞の中にブドウ糖が入っていけるのです。

 

脂肪組織や骨格筋に存在するグルコーストランスポーターは、普段は細胞質のなかにあります。インスリン受容体にインスリンが結合するとグルコーストランスポーターが細胞表面に移動して、ブドウ糖を取り込むことができるのです(図3)。

 

図3インスリンが血糖値を下げる仕組みや

インスリンが血糖値を下げる働き

 

しかし、肥満になると脂肪細胞から血液中に遊離脂肪酸が放出され、これがインスリン受容体に作用して、インスリンが受容体に結合してもグルコーストランスポーターが細胞表面に移動できないようになってしまいます。

 

すると、ちゃんとインスリンが分泌されているにもかかわらず、血液中のブドウ糖が細胞内に取り込まれなくなり、インスリンが血糖値を下げる役割を果たせなくなるのです。

 

他にインスリン受容体の数が減少したり、インスリンと結合できなくなったりすることでもインスリンの効き目が悪くなります。

 

インスリンの分泌が悪くなる病気には何があるの?

1型糖尿病や膵臓癌があげられます。

 

インスリンは、膵臓のランゲルハンス島にあるβ細胞でつくられています。先天的な素因をもった人がウイルスに感染すると、B細胞に対する自己免疫によってランゲルハンス島に炎症が起きてβ細胞が破壊され、インスリンの分泌が低下します。これが1型糖尿病です。

 

膵臓癌では、がんによってランゲルハンス島が破壊され、インスリンの分泌が悪くなります。

 

糖尿病が引き起こす合併症は?

糖尿病では、糖化した血漿タンパクが血管の受容体に結合することで、酸化ストレスが発生し、血管がダメージを受けます。

 

このような変化は、とくに腎臓の糸球体の毛細血管に強く現れます。糸球体は滲み出したタンパク質によってしだいに硬くなって機能を失い、糖尿病腎症になります。糸球体の基底膜も障害され、タンパク尿が出現し、進行すると人工透析が必要になります。

 

眼にも影響が出ます。弱くなった眼底毛細血管壁にできた瘤(こぶ)が破裂して出血を起こし、失明につながることもあります。

 

また糖尿病では、血液中のブドウ糖を取り込めず、エネルギーとして利用できなくなるため、タンパク代謝や脂肪代謝にも影響を及ぼし、血液中のアミノ酸や脂質が増加してアミノ酸血症や脂質異常症が起こります。

 

糖尿病による脂質異常症では動脈硬化が進行しやすく心筋伷塞や伷塞の発症リスクが高まります。

 

さらに、末梢神経の知覚が鈍ったり、排尿障害や排便障害を招いたりする糖尿病神経障害も、重要な合併症です。知覚障害によって足先の小さな傷に気づかず放置すると、傷に感染を起こし、免疫能が低下しているため感染が拡大します、さらに動脈硬化によって血流も悪化しているために広汎(こうはん)な壊死(えし)をきたし、いわゆる糖尿病性壊疽(えそ)が起こる可能性が高くなり、最悪の場合は切断が必要になります。

 

この他、高血糖による浸透圧の上昇や、ケトン体の増加によるケトアシドーシス(血液が酸性に傾くこと)が、意識障害を起こすこともあります。

 

糖尿病のケアは?

糖尿病は慢性疾患なので、患者自身によるセルフケアが中心となります。

 

糖尿病で最も重要なことは、合併症の発症をいかに防ぐかということで、そのためには血糖のコントロールが重要です。1型糖尿病のようにインスリンを作るβ細胞が破壊されている場合には、生涯にわたってインスリンを投与する必要があります。

 

そこで、患者や家族に自己注射の指導を行います。現在は、インスリンポンプなどの方法もあるので、患者にとって最良の方法が選択できるような情報提供を行います。

 

2型糖尿病の患者では、血糖のコントロールに加えて生活習慣の改善が重要で、薬物療法、食事療法、運動療法が治療の中心になります。

 

経口糖尿病薬は作用機序によって服用するタイミングが異なるので、正しいタイミングで服用できるよう支援します。指示されたカロリーでバランスのよい食事を、1日3回きちんととるように指導します。食後の急激な血糖値の上昇は予後を悪化させるので、ゆっくりよくかんで食べることも大切です。また、適度な運動によって筋肉を動かし、脂肪を減らすと、インスリンの効きがよくなります。ただし、動脈硬化による虚血性心疾患などの合併症があるときは、心臓に過度の負担がかからないように気をつけます。

 

また、糖尿病の患者は、靴ずれなど足の小さな傷が糖尿病性壊疽などにつながることがあります。伸びた皮膚を傷つけないようにこまめに爪切りをする、足浴で循環をよくする、皮膚を清潔に保つ、傷がないかよく観察するといったケアも大切です。

 

尿中に糖が排泄されるときに水分も排泄されるので、のどが渇き、渇きを潤すために水分を過剰摂取し、多尿になります。微生物に対する抵抗力も低下しているので、尿路感染症にかかりやすいことから、陰部を清潔に保つことも重要です。

 

2型糖尿病でも、自己血糖測定やインスリンの自己注射が必要になることがあります。インスリンは投与量を誤ったりすると低血糖発作を起こして、重大な事故につながる危険がありますので、定期的にきちんと自己注射が行えているか確認したり、低血糖を防ぐための対策、低血糖になった時の対応がとれるように準備しておきましょう。

 

COLUMN 糖尿病のフットケア

糖尿病の患者は、糖尿病神経障害による知覚異常のために傷ができても気づかず、さらに動脈硬化による血流障害によってに傷の治りも悪くなります。そのため、靴ずれのような小さな傷が、大きな傷につながることがあります。また、好中球の機能も低下するので、傷口に感染を起こしやすくなっています。

 

壊死組織に嫌気性(けんきせい)菌が感染すると、組織の破壊が進んでいわゆる糖尿病性壊疽に発展し、最悪の場合は切断ということになりかねません。その結果、歩行障害が起きれば、患者のQOLは著しく低下してしまいます。

 

したがって、糖尿病の患者には、足に傷ができないように気を配り、足浴で足の血流を促すなどのフットケアがとても重要です。

 

※編集部注※

当記事は、2016年12月4日に公開した記事を、第2版の内容に合わせ、更新したものです。

 

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本記事は株式会社サイオ出版の提供により掲載しています。

 

[出典] 『看護のための 症状Q&Aガイドブック 第2版』 (監修)岡田忍/2024年7月刊行/ サイオ出版

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