排尿障害に関するQ&A

 

『看護のための症状Q&Aガイドブック』より転載。

 

今回は「排尿障害」に関するQ&Aです。

 

岡田 忍
千葉大学大学院看護学研究科教授

 

排尿障害の患者からの訴え

  • 「頻繁にトイレに行きたくなります」
  • 「おしっこを出す時に痛みます」
  • 「おしっこがなかなか出ません」
  • 「おしっこが漏れてしまいます」

 

排尿障害に関連する症状〉

排尿障害に関連する症状

 

〈目次〉

 

排尿障害って何ですか?

尿意を感じてから尿を排泄するまでの排尿のプロセスに何らかの異常や障害が起きている状況を、排尿障害といいます。

 

例えば、回数が頻繁になる「頻尿」、量が異常になる「多尿」や「乏尿(ぼうにょう)」・「無尿」、排尿時に痛みを伴う「排尿痛」、尿をうまく出せない「排尿困難」、尿意と関係なく排尿が起こる「失禁」などがあります。

 

このように、ひと口に排尿障害といっても、いろいろな種類があります。それらを理解するためには、まず、排尿の仕組みをマスターすることが大切です。

 

排尿にはどんな神経が関係しているの?

排尿には、膀胱と尿道括約筋が関係しています。まず、これらに分布している3つの神経を覚えましょう。

 

図1を見てください。上から順番に、「下腹神経」、「骨盤神経」、「陰部神経」です。この3つが、脊髄の排尿反射中枢・幹の排尿中枢を介して膀胱や尿道括約筋(膀胱括約筋)の弛緩や収縮を調節しています。

 

図1排尿に関する神経と筋肉

排尿に関する神経と筋肉

 

下腹神経は、膀胱に尿がある程度溜まるまでは、膀胱の筋肉を緩める働きを持っています。

 

骨盤神経には、①膀胱の内圧の上昇を排尿中枢、排尿反射中枢に伝える、②排尿時は膀胱の筋肉を収縮させ、膀胱の出口にある内尿道括約筋を緩めるという2つの役目があります。

 

3つめの陰部神経は、尿を漏らさないように尿道を閉じる筋肉である、外尿道括約筋を支配しています。この陰部神経は、先の2つと異なって大脳皮質と連絡しているので、外尿道括約筋の弛緩・収縮、つまり「尿を出すこと」「止めること」は、自分の意思でコントロールできるのです。

 

3つの神経と排尿との関係は?

膀胱に尿が溜まって膀胱壁の平滑筋が伸びると、その刺激が骨盤神経から脊髄の排尿反射中枢と脳幹の排尿中枢に伝えられます。すると、反射的に下腹神経に対し、「膀胱の平滑筋の緊張を緩めて膀胱にかかる圧力を減らし、内尿道括約筋を収縮させてしばらく尿を溜めておきなさい」という命令が出ます。同時に、陰部神経に対しても、排尿反射中枢を介して外尿道括約筋を収縮させるように命令が行き、尿が漏れないようにします。

 

図2尿を溜めておく仕組み

尿を溜めておく仕組み

 

膀胱に溜まった尿量がある一定量を超え、膀胱の内圧が急に増加すると、今度は大脳皮質にも尿が溜まったという信号が届き、これが尿意として感じられます。膀胱の内圧の上昇は排尿中枢にも伝わって骨盤神経が刺激されます。その結果、膀胱の平滑筋が収縮するとともに内尿道括約筋が緩んで、排尿の準備が整います。最後に、大脳皮質が「排尿しなさい」と命令を出し、それが陰部神経を介して伝えられて外尿道括約筋が緩み、排尿が起こります。

 

これらのプロセスに関係する膀胱、尿道、神経に外傷や炎症、腫瘍などがあると、尿がスムーズに出づらくなったり、溜めておけなくなったり—といった排尿障害が起きるのです。

 

尿の回数が異常になる原因は?

個人差はありますが、排尿回数は1日当たりおよそ5〜7回です。

 

回数がそれ以上に増え、「何度もトイレに行かなくてはならなくて困る状態」を、頻尿といいます。では、なぜ頻尿になるのでしょうか。

 

水やビールを飲み過ぎた時には、尿の回数が増えます。しかし、これは、過剰に摂取した水分を排出するためなので、病的なものではありません。頻尿は、水分摂取量の増加以外の原因によるものをいいます。その代表例が膀胱炎です。

 

膀胱炎になると、膀胱にそれほど尿が溜まっていないのに、しょっちゅうトイレに行きたくなります。これは、膀胱に炎症が起きると膀胱粘膜が刺激され、まだ一定量を超える尿量が溜まっていないのに、脳がこの刺激を尿意として感じてしまうためです。

 

膀胱の容量が減少して、溜められる尿量が少なくなった時にも、頻尿が起こります。

 

前立腺肥大では、尿道が狭くなるので、膀胱は狭いすき間から尿を出そうと収縮力を強めます。すると、平滑筋の壁がしだいに厚くなり、梁状(りょうじょう)膀胱(用語解説1)という状態になって膀胱の容積が減少し、頻尿になります。

 

このほかの頻尿の原因としては、骨盤神経などの異常で尿が溜まっていないのに「溜まった」という刺激が伝えられてしまう神経因性膀胱や、精神的な緊張などがあります。最近、40歳以上の人で増加している過活動膀胱でも頻尿が起こります。

 

用語解説1梁状膀胱

前立腺肥大のように、膀胱よりも下部の尿路に通過障害があると、膀胱はより強く収縮して尿を押し出そうとします。その結果、膀胱壁の平滑筋細胞が肥大し、まるで天井に渡した梁(はり)のように膀胱の内側に突出します。この状態を、梁状(りょうじょう)膀胱といいます。膀胱壁も厚くなります。

 

梁状膀胱

 

頻尿はどうやってアセスメントするの?

頻尿が起きている原因を推測させるような症状がないかを観察します。頻尿の原因として多いのは膀胱炎ですが、膀胱炎では、頻尿に加えて排尿時に痛みがあり、尿量は少量で、細菌や白血球の混入によって濁って見えることもあります。

 

また、70歳代以上の男性の9割が、前立腺肥大を持っているといわれています。前立腺肥大では、頻尿に加え、トイレに行っても、尿がなかなか出ない」、「残っている感じがする」といった排尿困難を伴います。

 

頻尿はどうやってケアするの?

頻尿の原因疾患が明らかな場合は、その治療を行います。膀胱炎は9割が大腸菌の感染によるものです。たくさん水分を取り、菌を尿と一緒に流してしまうことが大切です。陰部を清潔に保つようにアドバイスすることも必要です。

 

また、高血圧で利尿薬を服用している患者については、夜中にトイレに起きなくてもいいように、薬を服用する時刻や量が適切かどうかも注意します。

 

排尿時痛の原因は?

排尿時の痛みの原因は、膀胱、尿道およびその周囲の炎症が多くを占めます。

 

排尿時痛のアセスメントとケアは?

排尿のどのタイミングで痛むのか聞き、原因疾患の治療につなげます。「排尿時に痛い」のは尿道の炎症、「排尿後に痛い」のは膀胱炎、「排尿の間中ずっと痛い」のは膀胱炎が悪化しているサインです。また、身体を冷やしたり、尿意を長く我慢したりすると、膀胱炎になりやすくなります。暖めること、水分を十分摂取して定期的にトイレに行くことを勧めましょう。

 

排尿困難の症状と原因は?

尿意はあるのに排尿に時間がかかる、もしくは普通以上に力を入れないと排尿できない状態を排尿困難といい、いくつかのタイプに分けられます。(表1

 

表1排尿困難のタイプ

 

遅延(ちえん)性排尿 尿が出始めるまで時間がかかる状態
漸延(ぜんえん)性排尿 尿を出し切るのに時間がかかる状態
尿線細小(にょうせんさいしょう) 尿が勢いよく出ず、チョロチョロ出る状態
排尿終末時滴下(てきか) 尿の切れが悪く、ぽたっぽたっと続く状態

高齢の男性の排尿困難は、前立腺肥大や前立腺癌によって尿道が狭くなるために起こるものが大部分を占めます。なお、前立腺肥大は尿道の周囲に起こるので、早くから排尿障害が出現します。これに対して前立腺癌は、尿道から遠い外腺と呼ばれる部位に発生することが多いので、一般に排尿障害が現れるまでに時間 がかかります。

 

また、直腸、膀胱、子宮は近接しているので、直腸癌や子宮癌が排尿障害の原因になることもあります。

 

尿を作る機能には問題がなく、膀胱に尿が溜まっているのに排尿できないことを、尿閉(にょうへい)といいます。尿量そのものが減少する無尿や乏尿とは区別します。

 

排尿困難はどうやってアセスメントするの?

訴えの内容からどのようなタイプの排尿困難かを見極め、年齢や性別なども考慮に入れて原因疾患を推測して治療につなげます。尿流測定(用語解説2)という検査を行うと、排尿の様子を客観的に知ることができます。

 

用語解説2尿流測定

尿流測定とは、専用の装置を用いて1秒当たりの尿量(尿流率mL/秒)を経時的に記録するもので、尿の勢いや尿線が途切れたりする様子を知ることができます。尿の勢いをみる測定値としては、最大尿流率が重要です。

 

尿流は排尿ごとに違うので、何回か測定することが必要です。自宅でも、排尿量と排尿に要した時間から平均排尿率を求めることができます。最大尿流率と平均尿流率は相関しているので、尿の勢いを推測することが可能です。

 

尿流測定

 

排尿困難のケアは?

尿閉のように、膀胱に尿が溜まっているのに出せない人には、導尿が必要になります。継続的に導尿が必要な場合は、患者が自分で導尿を行えるように方法を伝えます。尿路感染症を起こしやすいので、陰部の清潔を保つこと、導尿時の用具は消毒したものを使用すること、導尿前には手を洗うことが大切です。

 

前立腺肥大による排尿困難は、手術や薬物療法で改善することができます。

 

尿失禁の原因とメカニズムは?

尿失禁とは、自分の意思に反して尿が漏れ出してしまう状態をいいます。失禁が起こるメカニズムは、原因によって様々です。

 

出産後や年をとった時には、などをして腹圧がかかると尿が漏れることがあります。これを、腹圧性尿失禁といいます。妊娠や加齢によって膀胱を支えている骨盤底筋の筋力が衰えたりすると、膀胱が下がってきます。そこに腹圧がかかると、膀胱が圧迫されて尿が漏れ出してしまうのです。

 

また、強い尿意を感じて排尿を我慢できずに失禁してしまうことを、切迫(せっぱく)性尿失禁といいます。脳梗塞や脳出血の後遺症、排尿に関係する神経の障害による神経因性膀胱や膀胱が過敏になる過活動膀胱などが原因となります。

 

尿閉が続いているところに圧がかかり、尿がチョロチョロと漏れ出してくるのは溢流(いつりゅう)性失禁で、前立腺肥大などが原因になります。

 

排尿そのものには障害がないのに、ADLが低下しているなどの理由でトイレが間に合わずに失禁してしまう状態は、機能性尿失禁といいます。

 

膀胱の括約筋が傷つき、収縮できないために尿が漏れてしまう場合は、真性尿失禁といいます。

 

また、子宮癌の浸潤などで尿道と腟の間に通り道ができると、腟には括約筋がないので、腟から尿が漏れることもあります。

 

尿失禁のアセスメントは?

尿失禁について質問する時は相手を傷つけないよう、十分に言葉を選びましょう。失禁が起こる状況や尿意の有無などを尋ね、どのタイプの尿失禁に当たるのかをアセスメントします。

 

年齢や性別、既往歴も重要な情報です。男性で70歳代以上であれば前立腺肥大による溢流性失禁を、経産婦や高齢の女性では腹圧性尿失禁を疑ってみましょう。

 

また、高齢者については、ADLをチェックし、「トイレまで遠くないか」「トイレにうまくしゃがめるか」「衣服や下着が上手に下ろせないなどの障害はないか」など、排尿行動を妨げている要因がないかを観察しましょう。

 

なお、生後4年を過ぎても子どもに頻繁に夜尿がみられるようであれば、尿道、膀胱の神経機能の障害が疑われるので、検査を受けるように勧めます。

 

尿失禁のケアは?

軽症の腹圧性尿失禁の場合は、膀胱や子宮などを支える骨盤底筋群の筋力を鍛える、骨盤底筋体操を勧めます。切迫性尿失禁の場合は、尿意を感じる前に早めにトイレに行く、時間を決めてトイレに行くことなどをアドバイスします。また薬物による治療も効果がある場合もありますので、専門医の受診を勧めます。

 

ADLの低下による機能性尿失禁は、排尿パターンを把握してトイレに誘導したり、環境を整えることで防止できます。安易にオムツを使うのは避けましょう。

 

コラム機能性尿失禁のケア

実際の排尿行動には、純粋な排尿以外に、トイレまで行く、下着を脱ぐ、排尿の姿勢を取るという行為も含んでいます。機能性尿失禁は、このような排尿に関係する条件を整えさえすれば、防ぐことができるものです。

 

まず重要なのは、その人の排尿のパターンをつかんで、余裕を持ってトイレに誘導することです。尿意を自分で伝えられない人でも、注意深く観察すると尿意を感じているサインを見つけることができるかもしれません。

 

着脱が容易な衣服や下着を着用する、便器にしゃがみやすいようにトイレに手すりを付けるなど、自立して排泄が行えるように利用できる道具を活用します。利尿薬を服用している場合は、服用時刻にも配慮します。

 

機能性尿失禁のケアはまさに、生活を整えるという看護の腕の見せどころといえるでしょう。

 

尿量が減少する原因とメカニズムは?

尿は、腎臓で絶えず作られています。健康な人の1日の尿量は、800〜1500mLです。物質代謝によって生じた老廃物を排出するためには、1日最低でも400mLの尿量が必要です。

 

これよりも尿量が少ないと、老廃物の排泄が不十分になって体内に蓄積されてしまいます。従って、問題になるのは、尿量が400mL以下の場合で、これを乏尿といいます。100mLを下回ると無尿といいます。

 

乏尿と無尿は、腎臓を中心に尿ができる過程のどこに異常があるかにより、腎前性、腎性、腎後性に分けられます。

 

腎前性の無尿や乏尿は、腎臓に入ってくる血液量が減るために起こります。ショック脱水心不全などが原因として考えられます。

 

腎性の無尿や乏尿は、腎臓そのものの障害によって起こるものです。糸球体腎炎や尿細管の壊死などによって尿が作れなくなる状態です。腎後性の無尿や乏尿は、結石、腫瘍、血腫、前立腺肥大などによる尿の通過障害によって起こります。

 

逆に尿量が2500mLを超える場合を多尿といいます。原因としては、水分摂取の過剰と、抗利尿ホルモンが関与する尿崩症が考えられます。抗利尿ホルモンは下垂体後葉から分泌され、集合管からの水分の再吸収を促進するホルモンです。下垂体の腫瘍などで抗利尿ホルモンが減少すると、水分の再吸収が低下して尿量が増加します。

 

尿量減少のアセスメントは?

まず、尿量の減少が急激に起きたのか、徐々に起きたのかを把握します。急激に起きる乏尿や無尿は、ショック脱水、尿細管壊死による急性腎不全などの重篤な病態が背景にあり、すぐに適切な対応をとらないと生死にかかわります。

 

尿量とともにバイタルサインをチェックし、全身状態を観察して原因を推測します。尿細管壊死は、ショックなどによる腎虚血のほか、抗生剤や抗癌剤、血管造影剤などによっても起こるので、これらの使用歴も確認しましょう。

 

結石による腎後性の乏尿では、腎疝痛(じんせんつう)と呼ばれる激しい痛みを伴うことがあります。また、超音波検査で腎盂(じんう)の拡張があるかどうかをみることによっても判断できます。

 

尿量減少のケアは?

原疾患の治療とケアを優先します。循環血液量の減少があれば輸液をし、尿を出すようにします。外から与えた水分の量(in)と、尿量(out)をチェックし、両者のバランスがとれているかに注意します。

 

急性の腎不全を起こしている場合は、安静が必要になります。また、仰臥位をとる時間を意識的に作り、腎血流量を増加させます。糸球体腎炎などによる腎性の乏尿では尿を作れないため、水分や塩分の制限が必要になることがあります。このように、日常生活上の制限が必要になることが多いため、患者や家族にその必要性を十分に説明し、セルフケアができるように促すことも大切です。

 

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本記事は株式会社サイオ出版の提供により掲載しています。

 

[出典] 『看護のための 症状Q&Aガイドブック』 (監修)岡田忍/2016年3月刊行/ サイオ出版

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