吐血・下血・血便に関するQ&A
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『看護のための症状Q&Aガイドブック』より転載。
今回は「吐血・下血・血便」に関するQ&Aです。
岡田 忍
千葉大学大学院看護学研究科教授
吐血・下血・血便の患者からの訴え
- ・「血を吐きました」
- ・「便に血が混じっていました」
〈吐血・下血・血便に関連する症状〉
〈目次〉
- 1.吐血って何ですか?
- 2.下血・血便って何ですか?
- 3.吐血や下血・血便の原因は何?
- 4.吐血の観察のポイントは?
- 5.吐血した血液の性状から何が分かるの?
- 6.下血の観察ポイントは?
- 7.吐血と下血のケアは?
吐血って何ですか?
吐血とは、上部消化管の出血を嘔吐することです。十二指腸空腸曲(トライツ靭帯<じんたい>)より口側にある十二指腸、胃、食道からの出血で起こります(図1)。出血が少量の場合は、嘔吐されずに肛門から排泄されます。
なお、気管支や肺などの呼吸器からの出血は喀血(かっけつ)とよび、吐血とは区別します(「用語解説 喀血と吐血」参照)。
図1トライツ靭帯などの位置
用語解説 喀血と吐血
上部消化管からの出血である吐血と、肺や気道からの出血である喀血を区別するポイントを、下の表1に示します。性状に関しては、吐血でも、急激に起こる大量の出血で胃酸の作用を受ける時間がないような場合には鮮やかな赤色になることがあるので、注意してください。また吐血では酸っぱいにおいがするときがあります。吐出あるいは喀出されたものの性状だけでなく、全身状態の観察も併せて総合的に判断することが重要です。
なお、喀血の原因としては、喉頭癌、肺結核、肺癌、肺化膿症、気管支拡張症などが考えられます。
表1吐血と喀血の違い
下血・血便って何ですか?
消化管の出血は、出血部位に関係なく便に混じって肛門から排泄されますが、出血している部位や出血後の時間により色調などが異なります。食道や胃などの上部消化管から出血した場合は、便として排出されるまでに8~10時間ほどかかります。そのため、胃酸や消化液の作用を受けて血液が変色し、黒っぽい便(タール便)になります。
また、小腸や上行結腸から横行結腸の口側1/2までの出血でも腸管内に滞っている時間が長いと腸内細菌の作用で便が黒っぽくなり、これもタール便とよばれます。下血という言葉は、タール便に対してのみ使用されます。
横行結腸の肛門側1/2よりも肛門側で出血した場合は、鮮紅色に近い血液が便に混じるため、血便として下血とは区別します。小腸、上行結腸からの出血でも、大量で、腸内に停滞している時間が短ければ、便に混じる血液は鮮紅色に近くなるので、このときは血便とよびます。
血液に粘液と膿が混じった粘血便は、炎症で消化管の粘膜が傷害されている場合にみられます。また、肉眼ではわかりませんが、便に血液が混じっている場合があります。これを便潜血(べんせんけつ)といいます。便潜血検査は大腸癌のスクリーニング検査として利用されています。
吐血や下血・血便の原因は何?
吐血も下血・血便も、背後に消化管出血を起こす疾患があります。
吐血の原因になる重要な疾患としては、食道静脈瘤の破裂や胃潰瘍があげられます。食道の静脈が瘤(こぶ)のように膨らむ食道静脈瘤は、肝硬変などに伴って門脈圧亢進症がある場合に形成されます(図2)。
図2食道静脈瘤の発生
胃潰瘍による出血は、潰瘍に血管が巻き込まれることが原因です。太い動脈が巻き込まれた場合は、大量の吐血が起こります(図3)。
図3胃潰瘍による出血
下血の原因になる疾患の代表例は、上部消化管では胃や十二指腸の潰瘍、下部消化管では腸管出血性大腸菌などの感染症、潰瘍性大腸炎など腸管の炎症、ポリープやがんが考えられます。
吐血の観察のポイントは?
まず吐血の量と性状に注意しましょう。大量で、鮮やかな赤色の血液を吐いたときは動脈からの出血が疑われ低容量性ショック(「ショック」参照)に陥る危険があります。バイタルサインを測定し、顔面蒼白や冷や汗などのショック症状がないかを観察します。
吐いたもの以外に胃内に血液が残っていたり、下血として後から観察されることもあるので、実際の出血量は吐血量を上まわっていることがあります。
大量の吐血を起こす原因としては食道静脈瘤の破裂や胃潰瘍による胃部の動脈の破綻が疑われるので、既往歴の確認も行います。肝硬変があれば食道静脈瘤の破裂が、慢性胃潰瘍の場合は胃部動脈からの出血の可能性が考えられます。
その他には、吐血したときの状況、繰り返しているのかどうか、食事や飲酒との関係などについても観察、聴取します。繰り返す嘔吐のあとに吐血が起こる場合は、食道と胃の境界部の粘膜が裂けてしまうマロリーワイス症候群の可能性があります。マロリーワイス症候群の約半数は飲酒による嘔吐が関係していると報告されています。
吐血した血液の性状から何が分かるの?
出血してから吐血するまでの経過によって血液の性状は変わってきます。
胃酸の作用を受けると、血液中のヘモグロビンが黒褐色の塩酸ヘマチンに変わります。そのため、食道や胃からの出血がいったん胃に溜まってから吐出された場合は、塩酸へマチンのために吐血はコーヒーの搾りかすのような性状をしています。
胃潰瘍に太い動脈が巻き込まれるなどして急速に大量の血液を吐出する場合は、胃酸の作用を受ける時間がないため、真っ赤な鮮血色の血液を吐出します。
COLUMN 便潜血検査
消化管の出血による目に見えない便の中の血液、つまり便潜血を証明するために、以前は食物中の肉や魚に含まれる血液の影響を除くために何日も食事制限をする必要がありました。
しかし、現在の便潜血検査は免疫学的な方法を用いているため、このような食事制限の必要がなくなって簡単に実施できるようになりました。
この検査(図4)では、ヒトのヘモグロビンとだけ結合する抗体を、あらかじめコロイド粒子(青色)の表面に結合させておきます。そして、このコロイド粒子を含む液を、便のサンプルに加えます。もし、便潜血が陽性なら、コロイド粒子がヘモグロビンを介して大きな塊を作るので(右端)、できた塊の量、すなわちヘモグロビンの量に応じて液の色が、濃い赤紫色から、薄い赤紫色または灰色に変化するような試薬をさらに追加します。この色調変化を測定し、便サンプル中のヘモグロビン濃度を求めます。
検査はすでに自動化されていて、大量のサンプルを迅速に処理することが可能です。便潜血検査が、健康診断の一環として行われるようになり、大腸癌の早期発見に役立っている背景には、こんな検査技術の進歩があったのです。
図4便潜血検査の仕組み
下血の観察ポイントは?
出血部位や出血の原因によって下血の性状が異なります。そのため、便の性状や、便に付着した血液の状態、既往歴を尋ねます。
タール便であれば、上部消化管から潰瘍などによる慢性的な出血があると考えられます。ただし、盲腸や上行結腸からの出血でも、黒色になることがあります。
暗赤色の下血では、食道静脈瘤の破裂や胃部の動脈からの出血など大量の出血があったと推測されます。
横行結腸以下の出血では、出血部位が肛門に近づくほど鮮紅色の血便になります。
便の表面に鮮血が付着しているときは、S状結腸、直腸や肛門からの出血が疑われます。
血液以外に粘液や膿が混じるようなら、潰瘍性大腸炎や感染による腸炎を考えます。
また、下痢の有無や、食事との関係、どのくらい続いているのかも尋ねましょう。長引く下血では、貧血を起こしている場合もあります。
なお、痔からの出血の場合、血液の色は鮮やかで肛門の痛みや肛門の違和感を伴います。
吐血と下血のケアは?
吐血したときは、吐物の誤嚥を防ぐため、顔を横に向けるなどの体位をとり、安静を保ちます。また、口腔内が汚れていると、不快であるばかりか、不快感から再吐血を引き起こすこともあるので、口腔内の清潔ケアも大切です。
大量の吐血で出血性ショックに陥る可能性がある場合は、ただちに対処しなくてはいけません。出血が続いているようなら出血部位を確認して止血を行い、ショックの重症度に応じた治療が実施されます。すぐに医師に連絡して患者の状況を伝え、これらの処置の準備をするとともに、バイタルサインをこまめにチェックします。出血によって血圧が下がると血管に針が入りにくくなるので、静脈路(輸液ルート)の確保は重要です。
吐血は患者や家族にとってはとても不安な症状なので、精神的なケアも忘れないようにしましょう。
下血や血便で来院する患者は少なくありません。下血・血便が続き、貧血を起こしている場合は、貧血に対するケアも必要になります(「貧血のケアのポイントは?」参照)。また、痔がある患者では、「痔だろう」と決めつけて受診が遅れてしまい、重要な疾患を見逃してしまうこともあるため、便に血が混じっているときにはきちんと検査を受けるように勧めます。
胃潰瘍や潰瘍性大腸炎では、ストレスが病気を悪化させます。消化管は自律神経に支配されているため、緊張、不安、恐怖などによる影響を受けやすいからです。そのため、患者の生活のなかにストレスを引き起こすような要因がないかを確認し、これを除くことも重要です。
※編集部注※
当記事は、2016年11月20日に公開した記事を、第2版の内容に合わせ、更新したものです。
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本記事は株式会社サイオ出版の提供により掲載しています。
[出典] 『看護のための 症状Q&Aガイドブック 第2版』 (監修)岡田忍/2024年7月刊行/ サイオ出版