頭痛に関するQ&A
【大好評】看護roo!オンラインセミナー
『看護のための症状Q&Aガイドブック』より転載。
今回は「頭痛」に関するQ&Aです。
岡田 忍
千葉大学大学院看護学研究科教授
頭痛の患者からの訴え
- 「頭痛がします」
〈頭痛に関連する症状〉
〈目次〉
- 1.頭痛って何ですか?
- 2.頭痛のとき痛みを感じるのは脳?
- 3.頭痛のときどこで痛みを感じるの?
- 4.頭痛の種類は?
- 5.脳腫瘍で頭痛が起こるメカニズムは?
- 6.脳出血で頭が痛くなるのはどうして?
- 7.クモ膜下出血で頭が痛くなるのはどうして?
- 8.髄膜炎で頭が痛くなるのはなぜ?
- 9.目や耳の病気と頭痛の関係は?
- 10.「病気がないのに頭が痛い」。このメカニズムは?
- 11.どんな時に片頭痛が発生するの?
- 12.血管を異常に拡張させる原因は?
- 13.肩が凝ると頭が痛いのはどうして?
- 14.頭痛の観察のポイントは?
- 15.頭痛の痛みの種類の見分け方は?
- 16.頭痛を緩和するケアは?
- 17.コラム『脳動脈瘤の塞栓術』
頭痛って何ですか?
頭痛とは、首から上、つまり頭部に感じる痛みを指します。ズキズキ、ガンガン、ズシーン・・・頭の痛みを表す言い方はいろいろです。
ただし、にきびや傷などの表面上の痛みや歯の痛みは頭痛とはいいません。
頭痛のとき痛みを感じるのは脳?
いいえ、違います。頭痛のとき、脳そのものは痛みを感じません。
例えば、指先に針を刺すと「痛い!」と感じますね。これは、皮膚に痛みを感じる受容体があり、そこで受けた刺激が知覚神経を通じて脳に伝わり、「痛み」という感覚として認識されるわけです。
ところが、脳の神経組織自体には痛み刺激に対する受容体がないので、痛みを感じません。
頭痛のときどこで痛みを感じるの?
頭痛のとき痛みを感じる受容体があるのは、血管と脳を取り巻く硬膜(こうまく)やクモ膜、頭にある筋肉、頭蓋骨を覆う骨膜などです。これらが刺激を受けると、痛みを感知して頭痛が生じるのです。
頭痛の種類は?
頭痛の種類は大きく分けると、脳に病気があって起きる頭痛と、そうでないものに分類されます。
脳の病気からくるものとしては、脳腫瘍やクモ膜下出血、髄膜炎に伴う頭痛が代表的です。これらは、生命に重大な危険をもたらします。一方、脳の病気がなく、危険性が低い頭痛としては、「頭がズキズキする」といった片頭痛や、「肩が凝って頭が重い」といった緊張型の頭痛があります。
脳腫瘍で頭痛が起こるメカニズムは?
脳の腫瘍そのものは痛くありません。では、なぜ痛みが生じるのでしょう。
それは、腫瘍が脳の血管などを圧迫するために、血管の位置がずれたり、引っ張られたりするからです。すると、血管の受容体が刺激され、痛みが発生します(図1)。
脳出血で頭が痛くなるのはどうして?
脳は、硬い頭蓋骨で囲まれた、かぎられたスペースの中に位置しています。内部で出血が起こると、溢れた血液によって頭蓋内の圧が上がり、脳の中の血管や硬膜が引っ張られて血管の受容体が刺激され、痛みが起きるのです。
クモ膜下出血で頭が痛くなるのはどうして?
クモ膜下出血は、脳の血管にできた動脈瘤が破れたものです。出血した血液は、脳と脊髄全体を覆うクモ膜下腔に充満し、クモ膜全体が刺激されます(図2)。こうして、激しい頭痛が起きます。
髄膜炎で頭が痛くなるのはなぜ?
髄膜炎では、血液を介してクモ膜下に細菌が侵入してきます。すると、それをやっつけるために白血球が集まってきます。その結果、クモ膜下腔に膿が溜まってクモ膜が刺激され、頭痛が発生します。
目や耳の病気と頭痛の関係は?
緑内障によって眼圧が高まると、強い頭痛が発生します。中耳炎などの耳の病気からくる頭痛もあります。
「病気がないのに頭が痛い」。このメカニズムは?
片頭痛を例にとって説明しましょう。
片頭痛というのは、特定の場所がズキズキ痛むのが特徴です。これは、血管の拍動が関係していると考えられています。
まずは、図3を見てください。
血管は血流に応じて拡張と収縮を繰り返しています。何らかの原因で血管が過度に拡張すると、血管の外側にある痛みを感じる受容体が刺激されます。その結果、痛みを感じる知覚神経が脳に信号を伝え、「痛い」となるわけです。
なお、痛みは血管が拡張する時に強まり、収縮すると弱まるため、片頭痛は「ズキズキ」いう間欠(かんけつ)的な痛みとしてと表現されます。
どんな時に片頭痛が発生するの?
常に拡張・収縮している血管に、どのような変化が生じると片頭痛になるのか—。そのメカニズムはまだよくわかっていません。
例えば、皮膚をちょっと押したくらいでは痛みは感じず、「痛い!」と感じるのは、それなりの力が加わった時です。これと同じように、一定の限度を超えた拍動が起き、血管が強く拡張すると受容体が痛みをキャッチし、片頭痛が起きるのではないかと考えられています。
血管を異常に拡張させる原因は?
セロトニン(用語解説参照)という物質が関係しているといわれています。これは、血管を拡張させる物質で、ヒスタミンと似た働きを持っています。
用語解説セロトニン
セロトニンは、中枢神経および末梢神経のセロトニン作動性ニューロンに神経伝達物質として作用します。血小板にも多く含まれており、血管を収縮させて止血にもかかわります。
炎症での痛みは、組織が傷害された時に肥満細胞や血小板から放出されたセロトニンが、炎症に関係するほかの化学伝達物質とともに、痛覚神経線維のセロトニン受容体に結合し、これを刺激することによって起こります。
片頭痛は、セロトニンによっていったん収縮した血管が拡張する時に生じるのではないかと推測されています。
肩が凝ると頭が痛いのはどうして?
ストレスが溜まると、気がつかないうちに顔もしかめっ面になってくることがありますね。
このような状態では、顔面の筋肉の緊張が続きます。また、読書、手芸、執筆、あるいはコンピュータなどの仕事を長時間続けた場合も、同じように頭部、頸部、肩甲部の筋肉の緊張が続くことになります。
筋肉が緊張した状態が持続すると、乳酸が溜まります。乳酸は痛みを生じさせる性質を持っているため、それが頭痛を招くのです。このような筋肉の緊張が続くことによって生じる頭痛を、「緊張性頭痛」と呼びます(図4)。こうした頭痛は、休息によって解消することができます
頭痛の観察のポイントは?
まずは頭痛の背後に重大な病気があるかどうか見分けること、病気によるものなら緊急度を見極めることがとても大切です。
例えば、頭痛が脳腫瘍によるものであれば即手術にはなりませんが、クモ膜下出血からきている時には手術も含め、一刻も早い処置が必要です。CTやMRIなど検査の手配から手術の準備まで、すばやい対応が求められます。
頭痛の痛みの種類の見分け方は?
いきなり痛みだしたのか、慢性的な痛みか我慢できる痛みかなど、頭痛の「起こり方」と「強さ」を観察します。また、一過性のものなのか、痛みが続いているのか、痛みが増しているのかといった「経過」も大切です。さらに、悪心・嘔吐、流涙、痺れ、めまいなどの「随伴症状」についても問診します。
クモ膜下出血であれば「体験したことのない激痛がいきなり現れる」、髄膜炎では「項部(こうぶ)硬直(首の後ろが硬くなる)や嘔吐を伴う」というように、原因によって頭痛のタイプや随伴症状が異なります。疾患別の頭痛の特徴をきちんと把握しておきましょう。
また、幼児は「頭が痛い」と訴えることができず、機嫌が悪くなったり、「おなかが痛い」と言うことがあります。本当に痛いのはどこか、実際に指で示すなどして確認しましょう。
頭痛を緩和するケアは?
まずは安静です。楽な姿勢で臥床し、休息が取れるように、刺激の少ない落ち着いた環境を整えます。痛みが強くて睡眠が妨げられるような場合は、鎮痛薬が処方され、その与薬管理を行います。
片頭痛や緊張型頭痛は、精神心理的ストレスや身体的ストレスとの関係が強いと考えられています。これらを解消するためには、患者に合ったリラクゼーションも効果的です。必要に応じてマッサージやアロマテラピーを試みるのもいいでしょう。片頭痛の場合は、冷やすことで痛みが和らぐこともあります。
また、精神的イライラや緊張は、頭痛を誘発・増悪させやすいので、ドアの開閉音や足音、話し声、消毒薬や花の強い香りなどの刺激を避けるよう、環境調整も大切です。
コラム『脳動脈瘤の塞栓術』
現在は、脳ドッグで、クモ膜下出血の原因になる脳底部の動脈瘤の有無をあらかじめ知ることができるようになりました。動脈瘤の塞栓術は、脚の血管から動脈瘤までカテーテルを挿入し、その中に柔らかいコイルのようなもので人工的に塞栓を作ることにより、動脈瘤の破裂を予防しようとする手術です。
開頭する必要がないので、患者への負担が軽くてすみますが、動脈瘤の形によっては効果が期待できなかったり、誤って血管を破ったり、血栓ができて脳梗塞を起こしてしまう場合もあります。また、動脈硬化の強い人では、動脈瘤までカテーテルを誘導しにくいといった欠点もあります。
⇒〔症状に関するQ&A一覧〕を見る
本記事は株式会社サイオ出版の提供により掲載しています。
[出典] 『看護のための 症状Q&Aガイドブック』 (監修)岡田忍/2016年3月刊行/ サイオ出版