やせに関するQ&A

 

『看護のための症状Q&Aガイドブック』より転載。

 

今回は「やせ」に関するQ&Aです。

 

岡田 忍
千葉大学大学院看護学研究科教授

 

患者からの訴え

  • 「やせてきました」

 

〈目次〉

 

やせって何ですか?

やせとは、身体の脂肪が減少し、体重が一定の基準を超えて減少している状態をいいます。このうち、脂肪の減少が著しく、高度なやせを特にるいそうといいます。

 

やせかどうかを判断するには、標準体重やBMI(体格指数)を用います。体重が標準体重より10%以上減っている(体重50kgの人なら、45kg以下に落ちている)時や、BMIが18.5より小さい場合は、やせとみなします。

 

用語解説BMI

BodyMassIndex(体格指数)の略で、体重(kg)を身長(m)の二乗で割ったものです。

 

例えば、体重50kg、身長160cmの人のBMIは、以下の通りです。

 

50÷1.6÷1.6=19.53

 

ただし、これらはあくまで目安であり、個人差があります。また、腹水や浮腫による体重増加もあるので、体重だけでなく、きちんと全身状態を観察したうえで判断することが必要です。

 

〈やせに関連する症状〉

〈やせに関連する症状〉

 

やせが起こるメカニズムは?

私たちの身体は、エネルギーを脂肪の形で脂肪組織に蓄え、必要になった時に、これをまたエネルギーに変換することができます。

 

消費するエネルギーが摂取するエネルギーを上まわった時、不足を補おうと脂肪を燃焼させると、脂肪組織が萎縮します。そのために体重が減るのが、やせるということなのです。

 

図1やせが起こるメカニズム

やせが起こるメカニズム

 

エネルギーの不足分が脂肪だけで補いきれない時は、身体を構成する蛋白質の分解も起こります。その結果、さらに体重が減少し、栄養状態も低下します。

 

エネルギーが不足する原因は?

食物の摂取不足、消化・吸収の異常、栄養の利用障害、代謝亢進状態、栄養分の喪失などがあげられます。

 

食物の摂取が不足するのはどんな時?

当たり前のことですが、食べなければやせます。

 

また、過激なダイエットや拒食症、食欲不振、嚥下障害などによっても、やせが起こります。いずれも、食べる量が極度に減ることが原因です。

 

COLUMN拒食症

拒食症は、太ることを異常に恐れるといった精神的な理由で食事を取ることができなくなってしまった状態です。

 

カロリーを極度に気にして、食べたものを嘔吐したり、下剤を使ったりすることもあります。その結果、極度のやせが起こり、身体はわずかなカロリーで生命を維持できるように、代謝を低下させます。成長は停止し、全身の臓器は萎縮して、女性では月経が止まってしまいます。神経細胞も栄養不足に陥るため、性格の変化が起こり、正常な思考ができなくなって些細なことで怒ったり、不安になったりします。このような性格の変化が、「少しでも食べたら太ってしまう」「まだ自分は太っている」といった歪んだボディイメージを生み、ますます食事を取れなくなります。

 

なぜ拒食症になるのか、その原因はよくわかっていませんが、成長発達の過程に問題があったり、自分に自信が持てなかったり、完璧主義で柔軟性のない人に多いなど、様々な要因がかかわっていると考えられます。

 

消化・吸収の異常でやせるのはどうして?

消化・吸収の力が落ちていると、食べた物をエネルギーとして利用することができません。このため、摂取エネルギー不足の状態になり、やせが起こります。

 

原因としては、潰瘍や癌による小腸の切除、クローン病潰瘍性大腸炎といった炎症性の腸疾患などが考えられます。これらの疾患では、消化酵素の不足や小腸の吸収面積の減少により、消化・吸収の障害が起こります。下痢では、食物の通過速度が増加するため、栄養の吸収が間に合わなくなります。

 

また、膵臓に異常があると、蛋白質や糖、脂肪などを消化する酵素の産生、分泌が低下します。このため、食物を小腸で吸収できる段階まで分解することができなくなり、エネルギーが不足してやせにつながります。

 

栄養の利用障害があるとやせるのはどうして?

外から取り込んだ栄養を利用するには、自分の身体で利用できるかたちに代謝することが必要です。この過程に異常があると、きちんと栄養を取っているのに利用できないため、やせが起こります。

 

図2栄養の利用障害

栄養の利用障害

 

腸で消化・吸収された栄養素は、一度、肝臓に送られます。肝細胞は、栄養素を身体の各組織が使いやすいかたちに変えて(代謝)血液中に送り出し、各組織は自分が必要な物を取り込みます。肝硬変などの肝障害があると、摂取した栄養を代謝できないため、組織は栄養を利用できなくなり、やせが起こります。

 

利用障害のもう1つのタイプは、栄養素は取り込めるかたちに代謝されているのに、細胞への取り込みに問題がある場合です。

 

例えば、インスリンは血液中のブドウ糖を細胞が取り込む時に必要なホルモンです。1型糖尿病では、インスリンを産生する細胞が破壊されてしまうので、血液中にブドウ糖があっても細胞内に取り込めなくなります。すると、細胞はエネルギー不足のために機能が低下し、やせてしまうのです。

 

代謝が亢進するとやせるのはどうして?

物質代謝が亢進すると、そのために必要なエネルギーの消費が増加してやせが起きます。例えば、バセドウ病では、基礎代謝を増加させる甲状腺ホルモンの産生が増加するため、細胞の代謝が活発になり、エネルギーの消費が亢進します。

 

また、癌になると、増殖する癌細胞が大量のエネルギーを消費してしまうため、急激にやせてきます。

 

このほか、高熱が続くと、熱を産生するために脂肪や体蛋白の分解が亢進し、やせが起こります。

 

栄養分の喪失が起こるのはどんな時?

栄養分の喪失が起こるケースでは、身体の主な構成成分である蛋白質が失われるような場合が重要です。

 

手術や広範な熱傷では、大量の滲出液がみられます。その中には多くの蛋白質が含まれているため、滲出液と一緒に蛋白質の喪失も起こり、やせにつながります。

 

癌では、癌細胞が壊死に陥ったり、増殖によって正常組織が破壊されることにより、蛋白質の喪失が起こります。癌の末期では、高度のやせ、貧血、全身の衰弱などがみられます。このような状態を特に、悪液(あくえき)質と呼びます。

 

やせの観察のポイントは?

やせの観察のポイントは、まず、やせの原因を探ります。いつ頃から始まったのか、食事はきちんと摂取しているのか、やせに至った経過などを問診します。急激なやせでは、癌を疑います。身体的に異常がなく、精神的な原因が疑われる時は、専門のカウンセラーへの紹介なども視野に入れます。

 

やせが起きている時には、体重の減少以外に、倦怠感倦怠感に関するQ&A参照)、疲労感、無気力、皮膚の乾燥、口角炎・口内炎、身体活動の低下などがみられます。これらの症状の有無も観察しましょう。

 

血液検査では蛋白質、特にA/G比(アルブミン/グロブリン比)などに注目し、栄養状態を把握します。

 

やせに対するケアは?

やせの原因に応じた食事の指導を行います。不足したエネルギー、栄養を効率よく補うために、高エネルギー、高蛋白の食品を紹介します。

 

食欲が低下している時には好きなものを中心に摂取する、一度にたくさん食べられない場合は何回かに分けて食べるなどの工夫を勧めましょう。食事の環境を整えることも大切です。

 

消化・吸収の力が落ちている時は、食後1時間程度の安静を勧め、消化・吸収の効率を高めます。また、消費エネルギーを少なくするために運動量を減らし、必要に応じて身のまわりの援助をします。

 

食物を口から摂取することが困難であれば、輸液や経管栄養を行います。中心静脈栄養で長期に血管内にカテーテルを留置する場合は、カテーテルを介した感染が起こらないように適切な管理が必要です。

 

長期臥床している患者では、やせて皮下脂肪が減ると、骨と皮膚の間のクッションがなくなって圧がかかり、褥瘡(じょくそう)ができやすくなります。このため、褥瘡ができやすい部位を観察し、こまめに体位変換を行う、エアマットを使用するなどして1か所に圧がかからないように気を配ります。

 

また、やせでは同時に貧血や低血圧を起こしている場合が多く、血糖値も低下しているので、転倒防止にも注意しましょう。

 

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本記事は株式会社サイオ出版の提供により掲載しています。

 

[出典] 『看護のための 症状Q&Aガイドブック』 (監修)岡田忍/2016年3月刊行/ サイオ出版

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