肥満に関するQ&A

 

『看護のための症状Q&Aガイドブック』より転載。

 

今回は「肥満」に関するQ&Aです。

 

岡田 忍
千葉大学大学院看護学研究科教授

 

患者からの訴え

  • ・「太ってきました」

 

〈肥満に関連する症状〉

肥満に関連する症状

 

〈目次〉

 

肥満って何ですか?

肥満とは脂肪が過剰に蓄積し、その結果体重が著しく増加した状態をいいます。

 

また、肥満症という場合は、肥満によってさまざまな病気や健康障害が起こり、治療が必要な状態を指します。

 

どれくらい体重が増えると肥満なの?

肥満の目安として一般的に用いられているのが、BMI(「用語解説 BMI」参照)です。

 

わが国では、このBMI値が25以上になると「肥満」であると定義しています。なお、WHOの定義では30以上を肥満としています。

 

脂肪が過剰に蓄積する原因は?

摂取カロリーが消費カロリーを上まわると、余ったカロリーが、脂肪細胞の中に脂肪として蓄えられます(「やせが起こるメカニズムは?」参照)。その原因は、主に4つあげられます。

 

まず、食べ過ぎ(過食)、つまり摂取カロリーが過剰になる場合です。とりわけ、高カロリー、高脂肪の食品を取り過ぎると、肥満に直結します。

 

次に、運動不足などによって消費カロリーが減る場合にも、肥満をまねきます。

 

これら2つは、生活習慣に原因のある肥満です。メタボリック症候群で問題になっている内臓脂肪の蓄積には、このような過食や運動不足といった生活習慣が関係しています。

 

3つめとして、過食症に代表される、精神的な原因による肥満があります。

 

4つめは、何らかの基礎疾患があり、そのために起こる肥満です。たとえば、内分泌系の疾患によって脂肪代謝に関係するホルモンに異常をきたすと、肥満が起こることがあります。

 

代表例はクッシング病で、胴体が太ってくるのが特徴です(図1)。満月様顔貌も起こってきます。そのほかに、ステロイド薬服用の副作用として太るケースや、遺伝的な異常によって起こる肥満もあります。

 

図1クッシング病の太り方

クッシング症候群

脂肪が蓄積するメカニズムは?

脂肪は、脂肪細胞に蓄積します(図2)。脂肪細胞に脂肪が蓄えられると、細胞の体積と重さが増えます。つまり、細胞それ自体が太っていき、このことが肥満によって起こるさまざまな病気と関係してきます。

 

BMIが30を超えるとその体積は標準体重の2倍近くまで増加します。脂肪細胞は集まって脂肪組織を形成し、皮下や内臓のまわり(腸間膜や大網など)に多く存在します。

 

図2脂肪細胞への脂肪の蓄積

脂肪細胞への脂肪の蓄積

 

脂肪細胞の増殖は思春期終了ごろまでに終わり、大人では脂肪細胞が増殖することはまれです。

 

用語解説 メタボリック症候群

今やすっかりポピュラーになったメタボリック症候群ですが、もともとは多くの生活習慣病がしばしば合併することから、その背後には何か共通の原因があるのではないかという考えから生まれた病気の概念です。遺伝的な素因を背景に、過食や運動不足、ストレスなどの生活習慣が加わり、脂質異常症、肥満、動脈硬化症、高血圧糖尿病などの複数の生活習慣病を発症するリスクが非常に高まっている、あるいは発症している状態をいいます。

 

日本内科学会の診断基準(2005年)によると、ウエスト周囲長が男性で85cm以上、女性で90cm以上(内臓脂肪面積で100cm2以上に相当)あり、①空腹時血糖値110mg/dL以上、②収縮期(最大)血圧130mmHg以上かつまたは拡張期(最小)血圧85mmHg以上、③中性脂肪値150mg/dL以上かつまたはHDLコレステロール値が40mg/dL未満の3項目のうち、いずれか2項目以上があてはまれば、メタボリック症候群と診断されます。

 

メタボリック症候群のうちに生活習慣を改善し、心筋梗塞血管障害、糖尿病の発症などをぜひとも予防したいですね。

 

肥満はなぜ問題になるの?

肥満がいけない理由は、肥満によってさまざまな健康障害が引き起こされるからです。

 

肥満は、脂肪がどこに蓄積するかにより、皮下脂肪型肥満と内臓脂肪型肥満に分けられます。

 

このうち問題になるのは、内臓の周りに脂肪がつく内臓脂肪型肥満です。肥満になると動脈硬化が進行し、高血圧や糖尿病のリスクも高まります。

 

脂肪組織は脂肪を蓄えるだけでなく、アディポサイトカイン(「アディポサイトカイン 脂肪組織が産生するホルモン」参照)というホルモンを産生しており、肥満になるとアディポサイトカインの産生が減少することが、さまざまな生活習慣病を引き起こすと考えられています。

 

なお、腹部CTで、内臓周囲の脂肪の断面積が100cm2を超えていると、内臓脂肪型肥満と判定されます(図3)。より簡単な指標としては、お臍(へそ)まわり(臍周囲径)を測って、男性で85cm、女性で90cmを超えていると、内臓脂肪型肥満とみなされます。

 

図3内臓脂肪型と皮下脂肪型

内臓脂肪型と皮下脂肪型

 

COLUMN アディポサイトカイン脂肪組織が産生するホルモン

脂肪組織が産生する生理活性物質はアディポサイトカイン(脂肪組織Adipose tissueが産生するサイトカインという意味)といわれ、脂肪の代謝やインスリンの作用とかかわっているといわれています。

 

アディポサイトカインの中のアディポネクチンにはインスリン抵抗性を改善し、骨格筋でのブドウ糖の取り込みや肝臓での脂肪の燃焼を促進したり、動脈硬化を防いでくれる働きがあります。その他に脂肪細胞はレプチンという食欲を抑えるホルモンも産生しています。

 

脂肪組織が蓄えられた脂肪によって肥大すると、周囲の血管が圧迫されて、脂肪細胞が酸素不足に陥り、レプチンやアディポネクチンの産生が減少します。さらに肥大した脂肪細胞では線溶系(「線溶系(線維素溶解系)」参照)の働きを抑える物質、血管を収縮させる物質を産生するようになり、血栓ができやすくなったり、血圧が上昇したりします。

 

メタボリック症候群で内臓脂肪の蓄積が問題になるのは、皮下脂肪よりもアディポサイトカインの分泌量が多く、より肥満による影響を強く受けるためと考えられています。

 

糖尿病の治療では運動療法が行われますが、その目的は実は脂肪組織を減らしてアディポサイトカインの分泌を増加させ、インスリンの効き目を改善することなのです。

 

動脈硬化や糖尿病以外に肥満に関係する疾患は?

肥満は、脂肪肝をまねきます。肝臓では脂質代謝が行われていますが、入ってくる脂肪が増えると、代謝しきれずに肝臓に脂肪が溜まってしまい、脂肪肝になります。脂肪肝の一部は肝炎へと進行しますが、最近は肥満や糖尿病のようにアルコール以外の原因によって起こる非アルコール性肝障害が増加しています。また、胆汁中のコレステロールが増加することにより、胆石胆嚢炎が起こりやすくなります。

 

さらに、気道の周囲や胸腔、横隔膜腹腔に沈着した脂肪は、睡眠時に気道や胸腔の容積を狭くします。その結果、肺の拡張が妨げられ、睡眠時無呼吸症候群を起こすこともあります。

 

この他、体重の増加によって膝に負担がかかるため、変形性関節炎などの膝や足首の炎症の原因になります。

 

肥満の観察のポイントは?

肥満の患者をみたら、生活習慣によるものなのか、それとも病気や薬の副作用によるものなのかを鑑別します。

 

まず、食事の習慣を尋ねてみましょう。脂肪やカロリーの高い物を取り過ぎていないか、1日3食バランスよく食事をしているか、寝る前に食べていないか、お酒を飲み過ぎていないかといったことを問診します。

 

また、身体のどの部分が太っているのか、いつごろから太りはじめたのか、肥満以外の症状はないか、ステロイド薬を服用していないか、精神的なストレスを抱えていないかを確認しましょう。

 

肥満の程度と治療の必要性をアセスメントすることも重要です。肥満の指標として使われるのはBMIですが、体脂肪計を使用したり、皮下脂肪厚の値から、体脂肪率を求めることもできます。ウエスト周囲長からは内臓脂肪の蓄積の程度を推測できます。

 

検査データでは、血清の総コレステロール値(TC)や、低比重リポタンパクコレステロール値(LDLコレステロール)、中性脂肪値(TG)、血糖値、尿酸値などから肥満に起因する生活習慣病のリスクの有無を判断します。

 

肥満のケアは?

肥満患者では、まず体重を減少、つまり体脂肪を減らすことが重要です。食事指導と適度な運動指導を中心に行い、摂取エネルギーを消費エネルギー以下に下げることが必要です。

 

カロリーが高く脂質の多い食品を減らし、栄養のバランスのとれた食事が取れるように援助します。同時に、食事の時間や回数を規則正しくし、よく噛んで時間をかけて食べ、体重をこまめに測定し、記録するようにアドバイスします。

 

注意が必要なことは、太っている人は呼吸機能が落ちており、動脈硬化があると、運動によって狭心症や心筋梗塞の発作を起こす危険があるということです。このため、運動をするときは、心臓や肺に負担をかけないように配慮する必要があります。また、膝や足に対しても、あまり負担がかからないようにしましょう。

 

脂肪を燃やすためには、有酸素運動が効果的です。ウォーキング、ジョギング、エアロビクス、自転車こぎ、水泳など、患者の状況に合った運動を勧めましょう。

 

※編集部注※

当記事は、2016年8月14日に公開した記事を、第2版の内容に合わせ、更新したものです。

 

⇒〔症状に関するQ&A一覧〕を見る

 


本記事は株式会社サイオ出版の提供により掲載しています。

 

[出典] 『看護のための 症状Q&Aガイドブック 第2版』 (監修)岡田忍/2024年7月刊行/ サイオ出版

SNSシェア

看護ケアトップへ