全身倦怠感に関するQ&A
【大好評】看護roo!オンラインセミナー
『看護のための症状Q&Aガイドブック』より転載。
今回は「全身倦怠感」に関するQ&Aです。
岡田 忍
千葉大学大学院看護学研究科教授
全身倦怠感に悩む患者からの訴え
- ・「だるいです」
- ・「すぐに疲れます」
- ・「やる気がでません」
〈全身倦怠感に関連する症状〉
〈目次〉
- 1.全身倦怠感って何ですか?
- 2.単なる疲れやだるさと全身倦怠感の違いは?
- 3.全身倦怠感はどうして起こるの?
- 4.全身倦怠感の背後にはどんな疾患があるの?
- 5.呼吸器疾患、心疾患や貧血でどうして全身倦怠感が起こるの?
- 6.栄養不足で、どうして全身倦怠感が起こるの?
- 7.肝・腎疾患と全身倦怠感の関係は?
- 8.慢性の感染症と全身倦怠感の関係は?
- 9.悪性腫瘍でも全身倦怠感が起こるの?
- 10.内分泌疾患と全身倦怠感はどう関係するの?
- 11.患者が「だるい」と訴えたら?
- 12.全身倦怠感の観察のポイントは?
- 13.全身倦怠感に関する検査はどうやって進めるの?
- 14.全身倦怠感を緩和するためのケアは?
全身倦怠感って何ですか?
全身倦怠感とは、「だるい」「疲れやすい」「やる気が出ない」といった訴えの総称です。
「出血している」とか、「浮腫が出ている」というように、第三者からみてわかるものではないのでつい軽視しがちですが、その背景には重篤な疾患が隠れていることがあります。
全身倦怠感は、身体に異変が起きていることを知らせるアラームと受け止めましょう。
単なる疲れやだるさと倦怠感の違いは?
普通、疲れやだるさは休息を十分取れば回復します。それに対し、激しい運動や仕事をしたわけでもなく、休息も十分とっているのに、だるさや疲れが続くときは、病的と考えなければなりません。
全身倦怠感はどうして起こるの?
「だるい」と感じる病態のメカニズムは、まだ十分に解明されていません。
私たちの身体は、生命活動のためにエネルギーを必要として絶えず物質代謝を行っています。物質代謝に必要なエネルギーが不足すると、だるくなったり、疲れやすくなったりします。また、身体のなかに有害な老廃物が溜まったときにも、全身倦怠感が生じます。
このように、エネルギーの供給に不可欠な酸素や栄養が不足したり、老廃物が貯留したりするような疾患があると、全身倦怠感が起きると推測されます。
全身倦怠感の背後にはどんな疾患があるの?
背後に隠されている疾患としては、心疾患や呼吸器疾患、貧血(「貧血」参照)、栄養不足や代謝疾患、肝疾患や腎疾患、慢性の感染症、悪性腫瘍、内分泌疾患、うつ病などの精神疾患など、さまざまなケースが考えられます。
呼吸器疾患、心疾患や貧血でどうして全身倦怠感が起こるの?
呼吸器疾患、心疾患、貧血に共通するのは細胞のエネルギーの産生に必要な酸素が不足することです。
酸素は呼吸によって肺で赤血球のヘモグロビンと結合して血液中に取り込まれ、心臓のポンプ機能によって全身への運ばれます。
しかし、何らかの原因によって酸素が十分に補給されない状態が持続する場合は、細胞も慢性的なエネルギー不足に陥り、倦怠感が出現するのです(図1)。
たとえば、心不全によって心拍出量が低下すると、酸素が全身に十分に行きわたりません。呼吸器疾患では、血液中に酸素を十分に取り込むことができなくなります。また、貧血になると、酸素を運ぶ能力が低下し、細胞に酸素が届きにくくなります。
その結果、いずれの場合もエネルギー供給が低下し、細胞が機能を十分に果たせなくなって全身倦怠感が生じます(図1)。
図1呼吸器疾患、心疾患や貧血で全身倦怠感が起こる理由
栄養不足で、どうして全身倦怠感が起こるの?
絶食や飢餓で細胞の活動に必要な栄養素が不足して全身倦怠感が生じます(図2)。
また、きちんと食事をしても、消化器に疾患があって栄養の消化吸収が障害されると栄養状態が低下し、同様に全身倦怠感が出現します。栄養の吸収を行う腸管粘膜に潰瘍ができるクローン病などがこれに当たります。
栄養素の他にナトリウムなどの電解質も細胞の活動に必要なので、低ナトリウム血症や高カリウム血症といった電解質異常、下痢や嘔吐による電解質の喪失も全身倦怠感を引き起こします。
図2栄養不足で全身倦怠感が起こる理由
肝・腎疾患と全身倦怠感の関係は?
腸内細菌が産生するアンモニアなどの有害物質は門脈を介して肝臓に運ばれ、そこで尿素などに代謝され無毒化されます。肝臓の機能が低下するとこの解毒力が落ち、有害な物質を無害な物質に代謝する力が弱まり、体内に有害物質が蓄積されます。
腎臓に障害がある場合も、老廃物を尿中に排出することができなくなり、これらが蓄積されていきます。
いずれの場合も、体内に有害物が蓄積されることで、全身倦怠感が出現します。
慢性の感染症と全身倦怠感の関係は?
代表的な疾患が結核です。炎症を起こしている組織の一部が絶えず破壊され、結核菌との戦いや、組織の修復のためにエネルギーを消耗すると、全身倦怠感が出現します。
また、炎症のときに細胞が分泌するサイトカインというホルモン様物質も、全身倦怠感を起こすといわれ、感染症だけでなく慢性の炎症の全身倦怠感の原因となります。
悪性腫瘍でも全身倦怠感が起こるの?
がん細胞は、自らが増殖するときに周囲の組織を破壊し、身体の栄養を奪って全身の栄養状態を低下させます。食欲の低下は栄養不足を加速させます。また、もろくなった血管から出血し、貧血を起こしたり、免疫力の低下によって感染症が発生し、それらが全身倦怠感を生じさせると考えられます。
COLUMN 慢性疲労症候群(Chronic Fatigue Syndrome)
生活に支障をきたすような原因不明の強い全身倦怠感、微熱、リンパ節腫脹、頭痛、脱力感や、思考力の障害、抑うつなどの精神神経症状などが、6か月以上持続、あるいは再発を繰り返す状態を慢性疲労症候群とよびます。
全身倦怠感のために1か月に数日以上は社会生活や仕事ができず、自宅で休息が必要、あるいはそれ以上の生活への支障が生じます。診断にはうつ病などの精神的疾患や全身倦怠感をきたす身体疾患が除外できることが条件になります。
内分泌疾患と全身倦怠感はどう関係するの?
代謝をはじめ、生命活動の調節を行っているのはホルモンです。内分泌臓器に異常があると、ホルモンの分泌が影響を受け、物質代謝が障害されて全身倦怠感を生じます。
患者が「だるい」と訴えたら?
全身倦怠感は自覚症状なので、「気のせいだろう」とか、「愚痴をこぼしている」などと偏見をもたず、共感をもって患者の話に耳を傾けることが大切です。
「どこも悪くないですよ」と訴えを否定する態度もいけません。患者と接することが多い看護師の役目は、患者の声に耳を傾け、きちんと観察・判断し、必要があれば治療に結びつけることにあります(図3)。
逆に、全身倦怠感があっても我慢して訴えてこない患者もいます。表情や仕種などからそれを見抜くことも大切です。
図3全身倦怠感の背後にある疾患
全身倦怠感の観察のポイントは?
まず、いつから全身倦怠感が続いているのか、どんなときに強いのかを聞きましょう。
背後に重篤な疾患がある可能性を念頭に置きながら、これまでの病歴を聞くとともに、全身倦怠感の症状に注意します。たとえば、貧血では手足が冷えたり、皮膚が蒼白になるといった症状、慢性感染症では発熱がみられます。全身倦怠感以外の症状から原因疾患をある程度絞り込むことができます。
なお、全身倦怠感を訴える人のうち器質的な疾患があるのは1/3。残りはうつ病、神経症などの精神的な疾患、もしくは原因がわからないといわれています。
全身倦怠感に関する検査はどうやって進めるの?
問診と身体の観察である程度、全身倦怠感の原因を推測したら、必要な検査(尿検査、血液検査など)をし、先にあげた全身倦怠感をきたす疾患が疑われるかどうかを見極めます。
全身倦怠感を緩和するためのケアは?
全身倦怠感の原因が明らかな場合は、原因になる疾患に適したケアを行います。原因疾患が改善されれば、基本的には全身倦怠感も消失しますが、慢性的な全身倦怠感に対しては、症状の軽減を図ります。
十分栄養を取り、休息と安眠が確保できるように、環境を整えます。足浴やマッサージなどで血液循環を促したり、個々の患者が「気持ちいい」と感じることをうまく見つけ出すことも大切です。
※編集部注※
当記事は、2016年7月31日に公開した記事を、第2版の内容に合わせ、更新したものです。
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本記事は株式会社サイオ出版の提供により掲載しています。
[出典] 『看護のための 症状Q&Aガイドブック』 (監修)岡田忍/2016年3月刊行/ サイオ出版