ICUでの始業時に看護師が確認すること
『ICU看護実践マニュアル』(サイオ出版)より転載。
今回は、「ICUナースが始業時に確認すること」について解説します。
剱持雄二
市立青梅総合医療センター 看護主任
- 始業時に確認すべき項目がわかる。
- 始業したら行う身体所見の診方のポイントがわかる。
目的
担当患者の情報確認をし、患者・家族へ密な看護と治療を提供できる。
ベッドの準備
1ICU入室患者に対して、患者の状態に適したマットレス(ウレタンやエアマット素材など)を準備する。
2体重測定ができるベッドの場合、ゼロ点構成をしておく。
3術後など体温管理が必要な場合は、ベッドを保温しておく。
物品の準備
1医療機器に関するもの
- 1酸素吸入:使用できるか実際に酸素を流しチェックする。
- 2吸引ビン:吸引圧が上がるかチェックする。
- 3吸引セット:清潔な水500mLを1本、水を受けるプラスチックカップ1個、アルコール綿、吸引カテーテル。
- 4ECG電極、SpO2センサー:モニターコードに接続する。必要時、ART・CVPのコードをカセットに接続しておく。
- 5個人防護具:手袋、プラスチックエプロン、手指消毒用エタノールなどを準備する。
- 6人工呼吸器:点検されているか、使用できるか、電源を入れて確認する。加温加湿用蒸留水を準備する。
- 7輸液ポンプ、シリンジポンプ:必要な台数を準備する。コード類をまとめ、必要時、延長コードを使用する。
- 8バッグバルブマスク・ジャクソンリース回路
2書類の準備
- ICU経過表
- 診療録
- ベッドへ入室患者ネームラベル
- ネームバンド
- 注射指示書
- 輸血伝票
- 検査伝票
- 処方箋
- 注射管理情報票
- 看護計画
- 看護指示
- ベッドサイドメモ
- 集中治療室入室のご案内用紙
- 患者受け入れチェック表
など、必要書類をまとめておく。
指示の確認
1呼吸療法時の指示
酸素療法、人工呼吸療器の設定指示や、安静度、活動レベルの指示の確認する。
2ドクターコールの基準と条件
3心理・社会的なニーズの把握
- 1患者からのニーズ
- 2家族のニーズ
- 3治療方針:Advance Care Planningの有無
4申し送り
前勤務者からの個別的な申し送りを受ける。
患者情報と評価
1フィジカルアセスメントを行う
- 視診・聴診・打診・触診などフィジカルイグザミネーションを駆使する。
- 中枢神経(意識レベル:GCS、JCSなど)、見当識、記憶、言語、感情などの印象の評価
- 中枢神経系に異常がある場合は、瞳孔所見(サイズ、対光反射、眼球運動など)や麻痺の有無、聴力、視力、四肢の筋力、関節可動域、歩行力など
- 呼吸状態、循環動態、四肢血流の評価など全身の評価をする
- 鎮静中は鎮静深度(RASSなど)、鎮痛の程度(CPOTなど)の評価
- 疼痛(性状、部位、程度など)、口渇の有無
- せん妄のスクリーニング(CAM-ICUやICDSCなど)
2機器類の設定、点滴類の確認
3呼吸状態の確認
視診
呼吸の速さ、呼吸数、胸郭運動(左右差の有無)、胸骨上窩や肋間陥没の有無、補助呼吸筋使用の有無(努力呼吸がないか)を確認する。
聴診
図1副雑音の分類
触診
胸壁振盪(ラトリング)など・人工呼吸器との同調性、快適性
検査値
経皮的酸素飽和度(SpO2)値、呼気終末二酸化炭素分圧(EtCO2)値、動脈血ガス分析値の確認
4気道の評価
気管挿管している場合
- 気管チューブや人工呼吸回路から狭窄している、水分が貯留しているような音がしないか。
- 気管チューブに聴診器をあてて狭窄音がないか。
- 気管チューブからのカフリークの有無。
- 気管吸引時、抵抗がないか。
- 人工呼吸器回路やウォータートラップに水が溜まっていないか。
- 人工呼吸回路に水滴がないか、加音加湿器に電源が入っているか、加音加湿器に蒸留水が適切な量で保持されているか。
5循環状態の評価
表1浮腫評価スケール
- CRT(毛細血管再充満時間)、バチ状指
- 末梢が温かいか、冷たいか、皮膚の色調、mottled skin(斑状皮膚)がないか
- 血圧の左右差、平均血圧
- 水分出納、CVPの推移、尿量1時間以上の尿量低下(<0.5mL/kg)もしくは透析が必要
- 動脈圧波形の呼吸性変動の有無
- 末梢冷感、冷汗、SVRI
- 乳酸値>2mmol/L
- PAP、RA、PCWP、CO/CI
- 血管作動薬(昇圧剤、表2)投与量(μg/kg/分←これを通称ガンマ(γ)計算とよぶ)
表2アドレナリン受容体の特徴と主な血管作動薬の特徴
毛細血管再充満時間(capillary refill time)
爪床を5秒圧迫して離したとき、もとの赤みを帯びた色に戻るまでの時間。3秒以上かかると末梢循環不全である。
斑状皮膚(mottled skin)
末梢臓器循環不全を示すサインの1つで、ショックを疑ったときにチェックする項目の1つである。mottlingは膝から始まり広がっていく。それをscoringしたのがmottling score(0~5の6段階、図2)1)。
図2mottling score
平均血圧
心臓から遠ざかるほど収縮期血圧は高く、拡張期血圧は低くなる傾向がある。平均血圧は測定部位による変化はほとんどない。
平均血圧とは1周期(収縮期~拡張期)を通じて血液を末梢組織に流す圧で、収縮期血圧と拡張期血圧から求められる平均して動脈にかかっている血圧のこと。
平均血圧が極端に低下すると組織に十分な栄養と酸素が供給されなくなる。平均血圧=心拍出量×末梢血管抵抗または平均血圧={(収縮期血圧)+(拡張期血圧)×2}÷3。
ガンマ計算
薬剤投与に使用する計算式。成分が1mLあたり●mgの薬剤を体重■kgの患者に▲μg/kg/分(=▲γ)で投与する場合の投与速度(◆mL/時)は▲μg/kg/分=0.06×▲×WT/●=◆mL/時となる。
たとえば、体重50kgの患者に3mg/1mL(イノバン注0.3%シリンジ:150mg/50mLなど)の薬剤を3γで投与する場合、0.06×3×50/3=3mL/時で投与することになる。
6ルート・ドレーン・ライン類の管理
- 点滴導入針の刺入状態、コネクタは緩んでいないか。
- 刺入部の感染兆候(発赤・熱感・疼痛・圧痛・腫脹・硬結・浸出液・排膿、静脈炎の兆候として索条発赤、索条硬結の有無)
- 挿入日、ドレッシング交換日、留置期間、ライン交換日
- 点滴投与量、投与速度が指示通りか、指示が妥当か、時間通り投与されているか(点滴ボトルにマーキングをして適切に投与されているか確認をする、輸液ポンプ使用時は高カロリー輸液など輸液粘度が高い製剤は特に設定通り投与されているか確認する)。
- 中心静脈カテーテルなど複数のルートから投与されている場合は、どのルートから何系の点滴が投与されているのか把握し記録する。
- 緊急時に静脈投与できる静脈ラインのカテーテルラインを決めておく。
- 同ラインから配合変化をきたす薬剤が投与されていないか。
- 不要なラインはないか。
- 胃管、胸腔・腹腔ドレーン、尿道など排液性状・量
- 胸腔ドレーン開存性、固定、排液性状、エアリークの有無、フルクテーション(呼吸性変動)などを確認する。
- 気管チューブからの固定位置、固定方法
- 直近に撮影された単純X-Pなどでドレーンなど留置位置が適切か確認しておく。
- 以上を患者の挿入部位からライン類をたどり、ポンプや点滴バッグ、排液バッグなどを確認する。
7皮膚トラブルの観察
1視診(とくに背部の観察を念入りに行う)
- 皮膚の色(蒼白、チアノーゼ、黄疸、紅斑、紫斑など)
- 皮膚の弾力、しわ、たるみなど
- 皮膚の乾燥と湿潤
- 浮腫
- 皮膚病変や創傷(斑、丘疹・結節、膨疹、水疱・膿疱、鱗屑、痂皮、表皮剥離、びらん、潰瘍、亀裂、萎縮、瘢痕など)
2触診
- 皮膚温(熱感と冷感、全身か局所か)
- 皮膚の弾力性(皮膚をつまんで確認)
- 皮膚の滑らかさ(ザラザラ、ツルツルなど)
- 皮膚の湿潤(ベトベト、シットリ、サラサラなど)
- 浮腫(皮膚を指の腹で軽く押し、元に戻る時間を確認)
- 皮膚の変調:腫脹、硬結など
8口腔状態の評価
機器類の確認
- 人工呼吸器設定・加温加湿器、実測値、アラーム設定値を確認する。
- 動脈ライン、中心静脈ラインなどトランスデューサーを確認する。
- 補助心肺機器の作動状況、設定、実測値、アラーム設定値を確認する。
- 身体モニター、不整脈設定基準、アラーム設定値、音量を確認する。
緊急時対応のための確認
- バッグバルブマスク、ジャクソンリース回路はすぐに使える状態にあるか。
- 吸引はすぐ行えるか。
- 緊急時のための必要な薬剤はストックされているか。
- 緊急時に使用する資材・機材は使用できる状態になっているか(喉頭鏡の点灯具合など)。
- 人工呼吸器、心肺補助装置など生命維持機器は非常用電源に接続されているか。
ケアの計画
清拭、更衣、口腔ケアなどのケアを全身状態を考慮して行う。
皮膚トラブル予防に全身の保湿を十分に行う。
点滴ラインの交換時間など確認をする。
療養前と比べた身体、精神、認知能力の変化などを確認する。
家族やキーパーソンの精神状態を把握する。家族の面会時間、面会方法(直接対面、オンラインなど)の確認をする。
心理的安全性の確保こそ、高い業務基準の維持につながる
看護師の引き継ぎの際に、気兼ねなく意見交換ができることはとても重要です。
心理的安全性が保たれた状況であると、確認したいことが素直に確認できたり、健全な衝突ができ、遠慮なく質問ができたりします。
この心理的安全性の概念2)はエイミー・エドモンドソンが1999年に提唱した心理学用語です。
簡単にいうと、職場のなかで自分の考えを誰に対してでも気兼ねなく発言できる環境を高い業務基準で維持できる状態のことと言っています。
心理的安全性が確保されることで、コミュニケーションのなかでお互いにポジティブな見返りを常に受けることができ、オープンで生産的な話し合いができるなど職場全体のパフォーマンスにつながるのです。
1)R.Coudroy et al:Incidence and impact of skin mottling over the knee and its duration on outcome in critically ill patients,Intensive Care Med.2015 Mar;41(3):452-9.https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/25516087
2)AmyEdmondson:Psychological Safety and Learning Behavior in Work Teams.Administrative Science Quarterly,Vol.44,No.2.1999.350-383
本連載は株式会社サイオ出版の提供により掲載しています。
[出典] 『ICU看護実践マニュアル』 監修/肥留川賢一 編著/剱持 雄二 サイオ出版
この連載

ICU看護実践マニュアル
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