観血的動脈圧測定

『ICU看護実践マニュアル』(サイオ出版)より転載。
今回は、「観血的動脈測定」について解説します。

 

田中絵梨砂
市立青梅総合医療センター 看護師

石田光寿
市立青梅総合医療センター 看護師

野口和男
市立青梅総合医療センター 看護師

 

 

 

Key point
  • 動脈圧ラインの挿入介助時に必要なことを知る。
  • 動脈圧波形でわかることを知る。

 

 

観血的動脈測定の目的

  • 持続的に血圧モニタリングが必要な場合
  • 血管作用薬の滴下、経時的な動脈血ガス測定、その他の検査検体採取を行う必要がある場合
  • 静脈採血が困難な場合

 

 

動脈圧ラインの挿入介助

必要物品(図1参照)

  • 生理食塩液500mL
  • ヘパリンナトリウム注射液3万単位/10mL(各施設の基準に準じた量で使用)
  • 5mLの注射器
  • 18G針
  • メディクイックプラス(加圧バッグ)

 

図1動脈圧ライン挿入介助の必要物品

動脈圧ライン挿入介助の必要物品

 

 

挿入時の必要物品

  • 血管内留置針(成人:20~22G)
  • 小枕(橈骨動脈穿刺時、手根関節伸展用)
  • アルコール綿(穿刺部消毒用)
  • ルート固定用テープ
  • カテーテル被覆保護剤(点滴固定用ドレッシングフィルム)
  • ディスポーザブルシーツ(血液による周囲の汚染を防ぐために使用)
  • 使い捨て手袋
  • 針捨て容器
  • 動脈圧ライン固定用物品(シーネ、不織布ガーゼ、布絆創膏、伸縮布粘着包帯 or 粘着弾力包帯〔必要に応じて〕、伸縮性包帯、図2
  • 観血的動脈圧モニタリングキット
  • スタンド
  • インターフェースケーブル
  • 圧トランスデューサー
  • レーザーポインターまたは水準計

 

図2動脈圧ライン固定用物品

動脈圧ライン固定用物品

 

 

刺入部位

手首・正中・足背・鼠径部などがあげられる。

 

血管が比較的太く留置しやすく、万が一空気が入り込んでもほかの動脈からの血流があるため、塞栓症リスクが少ないという点と固定性や清潔面から、主に橈骨動脈・足背動脈が用いられる。

 

外傷や骨折、シャントがある場合などはその部位を避ける。

 

 

加圧バックの作成

  1. 118G針をつけた5mLの注射器を使用し、施設に準じたヘパリンナトリウムを吸い上げる。
     
  2. 2生理食塩液500mLのバック内にヘパリンを注入する(ヘパリン加生理食塩液)。
     
  3. 3ヘパリン加生理食塩液に、ローラークランプを閉じた状態で観血的動脈圧モニタリング・キットを接続する。
     
  4. 4輸液バックのゴム栓部が上向きになるようにバックを保持し、ローラクランプを開く。フラッシュキャップ部分をつまみながらバックを押し、ヘパリン加生理食塩液内の空気を抜く。
     
  5. 5ローラクランプを閉じ、輸液バックを加圧バックに取り付け輸液スタンドに吊りさげる。
     
  6. 6輸液セット、トランデューサシステム(アスピレートシリンジ、血圧チューブ、採血ポート)への充填。

 

Point

加圧はせずに、輸液セット側が下になるようにしてローラクランプを開放する。フラッシュキャップを摘まみながら輸液セットのチューブに、気泡が残らないように液を充填する。

液を満たす速度が速いと細かい気泡が発生してしまうので、ゆっくりと満たして気泡を混入しないように注意する。とくに三方活栓や耐圧チューブの接続部に気泡が入りやすいので注意する。

 

 

  1. 7加圧バックの加圧。観血的動脈圧モニタリング・キットを接続したヘパリン加生理食塩液を加圧バックにセットし、加圧バッグは300mmHg(40kPa)まで加圧する。

 

 

挿入介助

  1. 1患者の元へ行き、インターフェースケーブルと観血的動脈圧モニタリング・キットをつなげる。トランスデューサをホルダーに取り付ける。
     
  2. 2医師の指示に基づき、動脈圧ライン挿入の介助を行う。橈骨動脈に穿刺を行う場合には、挿入部位が軽く伸展位になるよう、小枕やテープを使用し工夫する。
     
  3. 3医師により動脈圧ラインが留置されたら、用意した観血的動脈圧モニタリング・キットを接続する。血液の逆流を確認し、システム内の空気の混入を確認し、空気が混入されている場合は除去する。
     
  4. 4システムをフラッシュして、カテーテルから血液を除去する。
     
  5. 5穿刺部位に点滴固定用ドレッシングフィルムを貼り、ルートはループをつくりテープで固定し(図3)、穿刺部位が観察できるようにする。

 

図3動脈圧ラインの固定

動脈圧ラインの固定

粘着弾力包帯を使用する際には、ノンアルコール性保護膜形成剤(リモイス®コート)などを活用して、粘着弾力包帯から皮膚を保護する。

 

  1. 6穿刺部位の屈曲防止のため、穿刺部と反対側(前腕外側等)にシーネを当て、挿入部をそらせた状態で不織布ガーゼ(ソフキュアガーゼ®)と布絆創膏を使って、手掌とシーネの肘関節に近い部分をしっかりと固定し包帯を巻く。
     
  2. 7手首を動かしてしまう場合や、浮腫が強い場合、浸潤があり固定がはがれやすい場合には、伸縮布粘着包帯or 粘着性弾力包帯を使用し補強を行う。
     
  3. 8ゼロ点設定をする(p.20参照)。
     
  4. 9動脈圧ラインモニター波形に異常がないかどうか確認する。

 

 

波形からわかること

  • トランスデューサーや圧ライン、穿刺針などデバイスが原因で起こる波形の異常が以下にあげられる(図4)。

 

図4デバイスが原因で行う波形異常

デバイスが原因で行う波形異常

 

  • 共振波形の原因:ヘパリン生理食塩液のフラッシュ、やわらかいチューブの使用。
  • オーバーシュート波形の原因:長いチューブの使用や血管の動脈硬化。
  • なまり波形の原因:カテーテル先端が血管壁に当たっていたり、留置カテーテルの折れ曲がり。

 

 

1動脈圧波形から病態アセスメントをする

波形の立ち上がりは収縮期の血圧の始まりで、大動脈弁が開いたところがゼロ点とし、左室から大動脈へ血液が流出し波形が立ち上がることが波形からわかるので、この立ち上がりが急激であれば、収縮能がよいと判断する。図5

 

図5動脈圧波形から病態をアセスメントする

動脈圧波形から病態をアセスメントする

 

動脈硬化やショック状態や昇圧薬など使用時に血管抵抗が高い場合にはさらに立ち上がりが急激になる。

 

敗血症アナフィラキシーショックの場合は立ち上がりが鈍くなる。

 

大動脈弁閉鎖ノッチ(dicrotic notch)とよばれ、大動脈弁の閉鎖による血液の逆流から形成され、測定する部位が心臓から遠ざかるほど小さくなり、大腿動脈から測定されている場合は平坦化し、足背動脈で消失する。

 

ノッチの位置が低く、その後の圧低下が急激なほど末梢血管抵抗が低いことを示す。

 

循環血液量にも左右され、脱水でもノッチの位置は低くなる。

 

波形の面積で1回拍出量を予測できる。

 

収縮期に相当する赤い部分の面積は、1回拍出量を表している。

 

 

2脈圧から病態をアセスメントする

収縮期圧と拡張期圧の差のことを脈圧といい、波形の高さによりそれがわかる(図6)。

 

図6脈圧から病態をアセスメントする

脈圧から病態をアセスメントする。脈圧が拡大している。脈圧が縮小している図

 

脈圧が拡大する病態:大動脈弁閉鎖不全症、貧血、動静脈シャント、敗血症性ショックなどによる血管拡張、頭蓋内圧亢進などがある。

 

脈圧が狭小化する病態:大動脈弁狭窄症、心原性ショック、循環血液量減少性ショック、末梢血管収縮などがある。

 

動脈圧波形が呼吸性変動する場合があり、呼吸性に収縮期血圧や脈圧が変動する。

 

循環血液量低下の特徴的な所見で、その他心タンポナーデや収縮期心膜炎でも起こる。

 

脈圧変動をPPV(pulse pressure variation)、1回拍出量変動をSVV(stroke volume variation)といい、モニタリングできる。

 

この変動が大きいほど循環血液量が低下しており、輸液を負荷したときにPPVとSSVがともに13%以上で輸液負荷効果的1)といえる。

 

 

column

患者の安楽につながる正しい動脈圧管理

動脈圧とマンシェットにより得られる血圧には差が生じることは知られています。体格、カフサイズの不適合、カテコラミンや降圧薬の使用などは動脈圧とマンシェットによる血圧の誤差に影響を与える要因と考えられています。

動脈圧が正しく機能していれば、あえてマンシェットによる血圧を測定しなくても、十分に管理は行えます。たとえば、寝ている患者の睡眠を妨げてまでマンシェットによる血圧測定が必要なのかと考えると、患者の安楽を提供するために、正しく動脈圧を管理すれば、マンシェットによる頻回な血圧測定を避けることができます。

また平均血圧は動脈圧とマンシェット圧とも近い値を示します。

 

 

引用・参考文献 閉じる

1)Marik,P.E.,Cavallazzi,R.,Vasu,T.,& Hirani,A.Dynamic changes in arterial waveform derived variables and fluid responsiveness in mechanically ventilated patients:a systematic review of the literature.Critical care medicine,2009,37(9),2642-7

 

 


 

本連載は株式会社サイオ出版の提供により掲載しています。

 

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[出典] 『ICU看護実践マニュアル』 監修/肥留川賢一 編著/剱持 雄二 サイオ出版

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