貧血に関するQ&A
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『看護のための症状Q&Aガイドブック』より転載。
今回は「貧血」に関するQ&Aです。
岡田 忍
千葉大学大学院看護学研究科教授
貧血の患者からの訴え
- ・「くらくらします」
- ・「息切れがするようになりました」
- ・「疲れやすくなりました」
- ・「手足が冷えます」
〈貧血に関連する症状〉
〈目次〉
- 1.貧血って何ですか?
- 2.朝礼の時などに倒れるのは、貧血ではないの?
- 3.正常時の赤血球やヘモグロビンの量はどのくらい?
- 4.貧血はどうして起こるの?
- 5.赤血球をつくる過程の問題って何ですか?
- 6.鉄欠乏性貧血ってどんな疾患?
- 7.鉄欠乏性貧血の原因は?
- 8.再生不良性貧血ってどんな疾患?
- 9.悪性貧血ってどんな疾患?
- 10.どうして白血病では貧血が起こるの?
- 11.どんな時に赤血球の破壊が亢進するの?
- 12.溶血性貧血ってどんな疾患?
- 13.貧血の観察のポイントは?
- 14.貧血のケアのポイントは?
貧血って何ですか?
酸素は生命を維持するためになくてはならないもの。この酸素を全身に運ぶ役割を担っているのが、赤血球とその中に含まれるヘモグロビンです。
ヘモグロビンはグロビンというタンパク質とヘムからなり、酸素はヘムの部分に結合して運ばれます。
貧血とは血液中の赤血球の数や、ヘモグロビンの量が減少した状態をいいます。
朝礼の時などに倒れるのは、貧血ではないの?
長時間立っていたときなどにめまいや立ちくらみを起こすのは、脳への血液の供給が一時的に不足するために起こる一過性の脳虚血で、貧血とは異なります。
正常時の赤血球やヘモグロビンの量はどのくらい?
男性と女性では基準値が異なり、赤血球数は成人男性でおよそ430万~570万/μL、成人女性でおよそ380万~500万/μL。ヘモグロビン量は、男性がおよそ13~17g/dL、女性が11~15g/dL(妊娠中は10~12g/dL)です。
貧血はどうして起こるの?
赤血球やヘモグロビンの減少の原因は、赤血球をつくる過程に問題がある場合と、赤血球が生理的なレベルを超えて破壊されたり失われたりする場合の2つに分けられます。
赤血球をつくる過程の問題って何ですか?
赤血球は、骨髄で造血幹細胞からつくられ、約120日の寿命を迎えると脾臓で壊されます。通常はつくる量と壊れる量のバランスがとれており、赤血球数は一定に保たれています。ところが、造血幹細胞や骨髄に異常があったり、赤血球の材料が不足したりすると、赤血球の産生が障害されます。
このタイプの貧血には、鉄欠乏性貧血、再生不良性貧血、悪性貧血、白血病で起こる貧血などがあります。
鉄欠乏性貧血ってどんな疾患?
貧血のなかでいちばん多いのが、鉄欠乏性貧血です。男女比は1:5~6で、女性に多い貧血です。健康な身体の中には総量5000mgほどの鉄があります。その半分は赤血球中のヘモグロビンに含まれ、残りは肝臓や脾臓、骨髄に貯えられています。
赤血球をつくる力は正常でも、ヘモグロビンの材料である鉄が不足すると、赤血球あたりのヘモグロビン量は減少し、その結果組織に十分に酸素を運ぶことができなくなります。
鉄欠乏性貧血とは、このように鉄の欠乏が原因で起こる貧血をいいます。
鉄欠乏性貧血の原因は?
1つは、偏食や吸収機能の低下による鉄分の摂取不足です。女性では、月経、妊娠、出産などによる鉄需要や鉄排泄の増加も、原因としてあげられます。また、発育・成長時期の鉄需要の増加や、胃潰瘍、子宮筋腫、子宮内膜症、悪性腫瘍などからの慢性的な出血による赤血球の喪失も原因になります。
再生不良性貧血ってどんな疾患?
赤血球のもとになる造血幹細胞に原因があり、赤血球を産生する力が低下して起こる貧血です。造血幹細胞からは白血球や血小板も産生されるため、これらも減少し、感染や出血も起こりやすくなります。
悪性貧血ってどんな疾患?
骨髄で赤血球をつくるために必要な、ビタミンB12が不足して起きる貧血をいいます。
ビタミンB12が吸収されるためには、胃から分泌される内因子が必要です。胃の切除や胃炎、自己免疫などで胃の中にある内因子をつくる細胞が破壊されたときにも、ビタミンB12が欠乏し、赤血球の産生が障害されます。
かつては原因がわからず、治療が難しかったことから「悪性貧血」と名づけられました。今では、ビタミンB12を補充すれば、治療可能な貧血です。
また、ビタミンB12と同様に、赤血球の産生に必要な葉酸(ようさん)が欠乏した場合にも、同じタイプの貧血が起こります。
COLUMN 骨髄
骨髄とは、長幹骨(大腿骨や上腕骨のような長い骨)の骨幹部の内腔や、海綿骨の骨梁の間(髄腔)に存在するやわらかい組織をいいます。細網組織とよばれる結合組織の一種が存在し、そのなかにさまざまな分化・成熟段階にある血球を含んでいます。ヒトの場合、骨盤に最も多く、次いで脊椎骨や頭蓋・顔面骨、肋骨、胸骨に存在しています。
骨髄は、さかんに造血を行っているために赤く見える赤色髄と、造血が低下して脂肪組織が増加したために黄色っぽく見える黄色髄に分けることができます。黄色髄の割合は加齢と伴に増加しますが、造血が必要になると赤色髄に変化します。
再生不良性貧血では、造血全体が障害されるために骨髄にほとんど造血細胞が存在しない、汎骨髄癆(はんこつずいろう)という状態になります。
治療をしていない白血病では、増殖した白血病細胞が骨髄に充満し、細胞髄とよばれます。抗がん剤で白血病細胞が死んでしまうと、再生不良性貧血のようにほとんど造血細胞が見られない状態になります。
どうして白血病では貧血が起こるの?
白血病は、白血球をつくる過程にある造血細胞から発生するがんです。
増殖したがん細胞が骨髄を占領してしまうため、赤血球をつくる場所がなくなって貧血が起こります。
また、白血病の治療に用いられる抗がん剤は造血を抑制するため、さらに貧血が助長されます。
どんな時に赤血球の破壊が亢進するの?
寿命がきた赤血球は、脾臓でマクロファージという食細胞によって破壊されます(図1)。
通常、赤血球は真ん中がへこんだ円盤のような形をしています。ところが、さまざまな原因によって球形や三日月状に変形することがあります。
このような赤血球は、寿命がこなくてもマクロファージが「異物だ」と認識し、破壊してしまいます。また、抗体が結合した赤血球も、同様に異物とみなされて破壊されてしまいます。このように赤血球の破壊が亢進し、産生が間に合わないと貧血が生じます。このような貧血を、溶血性貧血といいます。
図1マクロファージによる赤血球の破壊
溶血性貧血ってどんな疾患?
赤血球が壊れることを溶血といいます。溶血が亢進して赤血球の寿命が短くなり、産生が追いつかなくなった結果生じるのが、溶血性貧血です。
溶血性貧血には、自分の赤血球に対する抗体が産生されてしまう自己免疫性溶血性貧血、生まれつきヘモグロビンに異常があるために赤血球の形の異常をきたす鎌状赤血球症、サラセミアなどが含まれます。
溶血性貧血になると、貧血の症状以外に黄疸がみられます。これは、破壊された赤血球からヘモグロビンが放出されるために起きる症状です。
ヘモグロビンのヘムの部分から鉄が取れて間接型ビリルビンとして肝臓に運ばれ、そこでさらに代謝を受けた後、直接型ビリルビンとして胆汁中に排泄されます(「その後ビリルビンはどうなるの?」参照)。
溶血の亢進によってビリルビンの産生が増加すると、肝臓の処理能力が追いつかなくなり、血液中のビリルビンが増加して黄疸をきたします。
溶血の場である脾臓は腫大します。
貧血の観察のポイントは?
貧血の症状には、すべての貧血に共通する症状と、貧血のタイプによって特徴的な症状があります。
すべてに共通する症状は、次のようなものです(表1)。
表1貧血で起こる症状
貧血になると、身体は酸素不足に陥り、活動に必要なエネルギーを十分に供給できなくなります。
脳の酸素不足では、頭痛やめまい、立ちくらみが起きます。顔色や眼瞼結膜(がんけんけつまく、まぶたの裏)の色が蒼白になるのは、血液中の赤血球、ヘモグロビン量の減少によるものです。
動悸や息切れは、心拍数や呼吸数を増やすことによって酸素不足を補おうとする反応です。
また、エネルギーが不足するので、疲れやすくなります。これらは貧血に共通する症状ですが、ある程度重症にならないと観察されないこともあります。
次に、貧血のタイプごとの特徴は、以下のとおりです。
鉄欠乏性貧血では、舌炎や口角炎、嚥下障害、爪の変化(図2)などがみられます。
これは、鉄が欠乏するような状況では、ビタミンや他の無機質も欠乏しているために起こると考えられています。
図2鉄欠乏性貧血での爪変化
また、再生不良性貧血や白血病による貧血では、白血球と血小板の減少に伴う、発熱(「発熱」参照)や出血傾向(「出血傾向」参照)などの症状がみられます。
溶血性貧血では、黄疸がみられます。
悪性貧血では、知覚異常や腱反射の減弱といった中枢神経症状が観察されます。
これらの症状を、貧血の原因を推測するうえでの参考として覚えておきましょう。
貧血の原因を区別するには、MCV、MCH、MCHCといった赤血球恒数や、血液塗抹(とまつ)標本での赤血球の形態や染まり方、網状(もうじょう)赤血球数が参考になります。
用語解説 赤血球恒数
赤血球恒数とは、以下の3つを指します。
MCV:Mean cell volume(平均赤血球容量)
赤血球1個の大きさを表すもので、基準値(86~98fL)内なら正球性、これより大きければ大球性、小さければ小球性といいます。
MCH:Mean cell hemoglobin(平均赤血球ヘモグロビン量)
赤血球1個当たりのヘモグロビン量を表すもので、基準値は27〜35pg。
MCHC:Mean cell hemoglobin concentration(平均赤血球ヘモグロビン濃度)
赤血球の一定体積当たりのヘモグロビン量を濃度として表したもので、基準値内(31~35%)なら正色素性、これより小さければ低色素性といいます。
鉄欠乏性貧血では小球性低色素性、溶血性貧血や再生不良性貧血では正球性正色素性、悪性貧血では大球性正色素性になります。
貧血のケアのポイントは?
貧血の大多数を占める鉄欠乏性貧血については、鉄剤の服用や鉄分の多い食品を積極的にとるなどの食事指導が中心になります。
もちろん鉄だけでなく、バランスのとれた食事をとることも重要です。なお、鉄剤は消化器系の副作用を起こすので、便秘や下痢、吐き気などの症状に注意しましょう。また、鉄剤はお茶と一緒に飲むとお茶の成分と結合して吸収されにくくなるため、お茶で服用してはいけません。
動悸や息切れ、だるさがあるときは、無理をせずに休息をとります。貧血があると手足が冷えるので、保温も大切です。
めまいや立ちくらみがあるときは、転倒防止に配慮し、急に立ち上がらないようにアドバイスします。
自己免疫性溶血性貧血では、長期にわたってステロイド製剤が投与されるので、副作用の発現を最小限にするように努めましょう。
用語解説 網状赤血球
赤血球には核がありませんが、その前の段階である赤芽球(せきがきゅう)は核をもっています。赤芽球の核がなくなることを脱核といいます。
脱核したばかりの若い赤血球は、核があったときのなごりとして、細胞質内にリボゾームの凝集物をもっています。特殊な染色をすると、これが網状の構造として観察されるため、網状赤血球とよばれています。
網状赤血球の増加は、骨髄で赤血球の造血がさかんに行われ、まだ若い赤血球が血液中に出ていることを意味します。
溶血性貧血では、網状赤血球数の増加がみられます。
溶血性貧血では赤血球の寿命が短縮しますが、赤血球を産生する機能には異常がないので、失われた赤血球を補おうとして赤血球の産生が亢進するためです。
※編集部注※
当記事は、2016年7月24日に公開した記事を、第2版の内容に合わせ、更新したものです。
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本記事は株式会社サイオ出版の提供により掲載しています。
[出典] 『看護のための 症状Q&Aガイドブック』 (監修)岡田忍/2016年3月刊行/ サイオ出版