悪性貧血とは・・・
悪性貧血(あくせいひんけつ)とは、ビタミンB12欠乏によっておこる大球性貧血(平均赤血球容積[mean corpuscular volume;MCV] >100 fL)のうち、胃粘膜の萎縮による内因子欠乏が原因で起こるものを指す。原因が不明で死亡することもあった時代に、「悪性貧血;pernicious anemia」と命名されたが、いわゆる「悪性腫瘍」とは異なる疾患群である。
食物から摂取したビタミンB12は、胃粘膜の壁細胞から分泌された内因子と呼ばれる糖タンパクと結合し、回腸末端で吸収される。吸収されたビタミンB12は肝臓に蓄えられ、必要に応じて骨髄へ供給され、DNA合成に必須の役割を果たす。胃壁細胞に対する自己抗体(自己免疫化生性慢性萎縮性胃炎)や、内因子とビタミンB12の結合、あるいは回腸末端でのビタミンB12・内因子複合体吸収を阻害する自己抗体が産生されると、ビタミンB12吸収が1/50程度まで低下するため、DNAの異常、減少から核の成熟や分裂障害を起こし、骨髄で成熟不良な赤血球である赤芽球が作られる。この赤芽球由来の赤血球は脆弱なため、血液中で正常の1/2~1/3程度の寿命しかなく結果として貧血になる。骨髄での顆粒球や血小板の成熟も阻害される。
悪性貧血は、ヨーロッパの成人白人に多い。日本では欧米に比べ少なく、年間発症率は人口10万人あたり1~5人と推定されている。発症年齢の中央値は60歳前後である。
症状
ビタミンB12は肝臓に大量に貯蔵されているため、吸収障害が起こっても貯蔵ビタミンB12が枯渇して欠乏症状が出るまで数年以上かかる。貧血による息切れ、動悸、疲労感、頭痛などのほか、Hunter舌炎と呼ばれる有痛性の舌炎や、末梢神経障害による知覚障害、進行すると脊髄での髄鞘形成障害による振動覚、位置覚の低下や、歩行障害、抑うつ、不眠、認知機能障害などを認める。脊髄症状を示すものを亜急性連合性脊髄変性症と呼ぶ。早期診断、治療が可能となった現在は、神経症状まで認める症例はまれである。
検査
血液検査では、大球性貧血、血小板減少、白血球減少、過剰に分葉した好中球が見られ、骨髄は過形成で巨赤芽球が見られる。血清ビタミンB12濃度の低下、間接ビリルビンの上昇、LDH上昇、ハプトグロビン低下を認める。抗胃壁細胞抗体や抗内因子抗体が検出される場合もある。上部消化管検査では、萎縮性胃炎を認める。症状とこれらの検査結果を合わせて総合的に診断する。シリング試験はビタミンB12の吸収障害を証明する検査だが、日常診療ではほとんど行われていない。
悪性貧血の患者では、慢性萎縮性胃炎と関連した胃癌や胃カルチノイドの発症が多いことも知られており、定期的な上部内視鏡検査が勧められている。
治療
治療は、ビタミンB12の静注あるいは筋注である。内因子を介さないビタミンB12の吸収を期待して、経口投与が試みられる場合もあるが、効果ははっきりしていない。