マージョリー・ゴードンの看護理論:機能的健康パターンによる看護診断
『新訂版 実践に生かす看護理論19 第2版』(サイオ出版)より転載。
今回はゴードンの看護理論「機能的健康パターンによる看護診断」について解説します。
堤かおり
園田学園女子大学人間健康学部人間看護学科 教授
ゴードンの看護理論
ゴードンの理論は、看護理論として紹介されているわけではない。
代表的な理論家たちのように「看護とは何か」を説明しているわけではないからである。
また、理論家の部類には入らないという指摘があるのも、事実である。
確かにゴードンは、看護の構成概念である人間、環境(社会)、健康、看護について明らかな言及はしていない。
また、わが国でも広く知られている「機能的健康パターン」は、1970年代に開発された多くのアセスメントを分析した結果から、人間の機能面に焦点を当てて11に分類した情報の枠組みである。
この枠組みはあくまで看護診断を導くためのデータベースとして開発されたものであり、看護理論として紹介されたものではない。
看護師がその教育や経験から得たものによって看護治療を行うことができ、またそのための免許も所有している。実在あるいは潜在する健康問題を表現したもの。健康問題を解決するための容認された療法が、薬物の処方、手術、放射線療法、そのほか法的に医学実践として定義されている治療の場合は、この定義は含まれない
しかし、その開発の過程にはゴードン独自の見解が述べられており、そこに「看護とは何か」という問いかけに対する答えをみることができる。
本章ではゴードンが看護過程、看護アセスメント、看護診断、機能的健康パターンをどのようにとらえているかを明らかにしながら、ゴードンの理論を考える。
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看護過程
1955年、リディア・E.ホール(Rydia E.Hall)が初めて看護過程(nursing process)という用語を使った。
さらに1967年には、ヘレン・ユラ(Helen Yura)とメアリー・B.ウォルシュ(Mary B.Walsh)が看護過程の段階を明らかにした書物を出版した。
それ以来、数々の研究の積み重ねから、現在の看護過程は①アセスメント、②看護診断、③計画立案、④実施、⑤評価という5段階、またはアセスメントと看護診断をまとめて4段階のプロセスとするのが一般的である。
ゴードンは、看護過程は看護師の「知識、判断力、ケア行為によって特徴づけられる援助関係を打ち立てる方法」であり、「クライエントと出会い、健康上の問題を確認した最初の段階から始まる」(1998)と述べている。
そして看護過程には、(表1)のようにクライエントのケアに対する問題確認と、問題解決の2段階がある。
それぞれの要素をていねいに書き出していくことが、客観的で科学的な視点を養うことにつながる。
また看護過程において看護師が行う専門的判断には、以下の3つがある。
- 1診断的判断(diagnostic judgment):看護アセスメントと問題の明確化の際に用いる技術。
- 2治療的判断(therapeutic judgment):ケア計画を立案し、実施する際に用いる技術。
- 3倫理的判断(ethical judgment):看護診断や治療の決定などクライエントと看護師の相互作用は、直接患者に影響するものであり、いずれの判断においても、批判的な思考が必要である。
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看護におけるアセスメント
ゴードンは、看護アセスメントとは「情報収集過程」であり、人や家族、または地域社会の健康状態の評価であると述べている(1998)。
そして看護アセスメントによってクライエントの実在する、または潜在する健康問題やクライエントのもつ強み(strengths)を把握することができる。
だからこそ、看護アセスメントは意図的、体系的、熟考されたプロセスでなければならないといえる。
アセスメントが意図的、体系的でなくてはならないということは、目的をもち、系統立った情報収集を行うとともに、その情報を分析・解釈しなくてはならないことを意味している。
看護アセスメントは、患者─看護師の相互作用が続くかぎり何度も継続して行われるのである。これは、私たちが常に臨床で経験していることである。
ゴードンは看護過程のなかで、この看護アセスメントの重要性を強調している。
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看護診断
看護診断の歴史をひもとくと、それはフローレンス・ナイチンゲール(Florence Nightingale)までさかのぼる。
そこではまだ看護診断という用語は使用されてはいなかったが、ナイチンゲールはクリミア戦争での負傷者の健康問題をすでに診断していたといわれる。
看護診断という用語が実際に登場したのは、1950年代になってからである。
1973年には看護診断開発の始まりである第1回全米看護診断分類会議(National Conference on Classification of Nursing Diagnosis)が開催された。
その後1982年の第5回会議でカナダが加わり、北米看護診断協会(NANDA, North America Nursing Diagnosis Association)と名称が変更され、現在も発展を続けている。
1977年の第3回会議の場で、看護診断分類のためのカテゴリーを組織立てる理論的枠組みを開発することを目的に、シスター・カリスタ・ロイ(Sister Callista Roy)を中心とした理論家集団が結成された。ゴードンは、この理論家集団の1人である。
ゴードンは、看護診断とは「免許を持つ看護師が教育と経験を通して治療することができる、現にある、あるいは起こる可能性のある健康問題を表現したもの」(1988)と定義している。
また、それは意図的で体系的な分析プロセスから生まれる「臨床判断」(clinical judgment)であると述べている。
さらにゴードンの看護診断は、看護によって解決可能な生活機能上の問題を診断するものであり、医学診断とは区別されている。
看護診断上には以下の3つの構成要素がある。
- 1健康問題(problem)
- 2原因または関連因子(etiology)
- 3症状・徴候、定義上の特徴(symptoms & signs)
これらは、それぞれの頭文字を取ってPES形式とよばれている。これらを明確にすることが看護診断における根拠になり、さらにケア計画の焦点になる。
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機能的健康パターン
私たち看護師は患者を前にしたとき、その人がどのような健康問題を抱えた人間であるのかを、意図的・体系的・論理的にアセスメントしたうえで、必要なケアを導き出さなくてはならない。
これは看護師としての腕の見せどころであり、それ相応の知識と技術が必要になる。
前述したようにゴードンは、看護過程におけるアセスメントを「健康状態の評価」とし、その重要性を述べている。
そして看護アセスメントを意図的・体系的に行うための枠組みが「機能的健康パターン」である。
ゴードンは、看護ケアの提供される場ごとに異なるアセスメントツールが使用されていることに注目し、その多様性はかえって看護の発展を妨げている、と主張した。
そしてすべての理論に共有できる情報の枠組みが必要であると結論づけた。そこで開発されたのが「機能的健康パターン」分類である。
「機能的健康パターン」は、人間の統合された生活機能に焦点をあて、人為的に11のパターンに分類したもので、アセスメントのための看護の視点であり、看護診断を導くための枠組みである。
この枠組みはどのような看護理論、看護モデルとも使用することができるといわれている。
パターンという用語は、人間の生活機能上の問題が単独で起きているのではなく、パターン同士が相互に関連し合っていることを意味している。
つまり、1つのパターンのみを明らかにするだけでは、本当の問題をとらえることができない、ということである。
健康パターンには以下の2つの状態がある。
- 1機能的パターン:健康パターンが機能的に働いているときで、健康とウェルネスを意味する。
- 2機能障害的パターン、機能障害的パターンの潜在状態:実在または潜在する健康問題を意味する。
クライエントの機能的健康パターンについてのアセスメントは、看護歴(質問)と診査(観察)によって行われる。そして、すべてのパターンについて得た結果を統合し、看護問題(看護診断)を明らかにしていくのである。
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機能的健康パターンにおける焦点
ゴードンは、機能的健康パターンを開発するうえで、いくつかの重要な焦点があることを紹介している。機能的健康パターンを活用する際には、これらを念頭に置く必要がある。
1 機能の焦点
看護でいう機能とは、生活機能を表し、健康増進、援助、リハビリテーション活動における焦点になる。
一方、医学における機能は、生物学的機能を表し、看護とは視点が異なる。
看護において生物学的機能を情報収集する目的は、クライエントの生活機能面のどこに問題があるのかを部分ではなく、クライエント全体からとらえて判断していくためである。
2クライエント─環境の焦点
環境はクライエントに影響し、またすべての機能的パターンと相互作用をもつ重要な要素である。
クライエントの環境に関する情報は、どのパターンにおいても不可欠である。
3年齢─発達の焦点
看護は、あらゆる発達段階にある人間を対象にしている。
人間の成長の発達は、それぞれの機能パターンに反映される。
したがって、クライエントの年齢からどのような発達段階にある人なのかをとらえることは重要であり、機能的パターンのなかに取り込んで分析していかなければならない。
4文化の焦点
私たちの行動や性別による規範などは、文化が基盤になっている。
それは意識しようとしまいと、社会のなかに、また私たちのなかに息づいているものである。
ゴードンは、「文化は機能的パターンの発生に重大な影響を与える」と述べている。
また「健康パターンは環境と文化の産物」であるとし、クライエントの置かれた状況の個人的・文化的意味を理解していくことは、「クライエントの経験を理解するための大きな助けになる」(1998)としている。
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機能的健康パターンの分類と定義
情報収集で浮彫りになったパターンは、単独で理解していくものではない。それぞれを相互に関係づけ、統合し、理解していかなくてはならない。
そのうえで、看護ケア提供上の問題、および予測される問題についてを分析する。11の機能的健康パターンの分類と定義を表2に示す。
1健康知覚―健康管理パターン
「クライエントが知覚する健康と安寧(well-being)のパターン、健康管理の方法」
クライエントが自分の行動をどのように知覚しているか、それが現在のクライエントの行動や今後にどのような関係をもっているか(クライエント自身が行っている健康増進方法や疾病予防活動、医師や看護師の療養上の指示や勧め、フォローアップも含まれる)
2栄養―代謝パターン
「代謝に必要な飲食物消費に関するクライエントのパターン、身体各部への栄養補給状態がわかるパターンの指標」
個人の食習慣、毎日の食事時間、摂取する飲食物の種類と量、嗜好、栄養剤やビタミン剤など、クライエントの食生活全般(皮膚病変と全般的な治癒力も含まれるため、皮膚、毛髪、爪、粘膜、歯などの状態、体温、身長、体重の測定値の情報も該当する)
3排泄パターン
「排泄機能(腸、膀胱、皮膚)のパターン」
規則正しい排泄機能についてのクライエントの知覚、個人の排泄習慣、薬剤などの使用、排泄コントロールに使用する器具、排泄量や性状に伴う変化やクライエントの反応、家族や地域の廃棄処理パターン
4活動―運動パターン
「運動、活動、余暇、レクリエーションのパターン」
清潔、料理、買い物、仕事、家庭維持などエネルギー消費を伴う日常生活行動、スポーツをはじめとする運動の種類、量、質(個人にとって望ましい、または期待されるパターンを妨げる因子も含まれる)
5睡眠―休息パターン
「睡眠、休息、くつろぎのパターン」
1日24時間内の睡眠と休息、くつろぎの時間パターン(睡眠と休息におけるパターン、質、量、エネルギー水準に対する知覚、使用している薬剤、睡眠時の日課なども含まれる)
6認知―知覚パターン
「感覚―知覚と認知のパターン」
視覚、聴覚、味覚、触覚、臭覚などの感覚の適切さ、障害のために利用される代償(眼鏡、補聴器、義肢などの人工装置の適切性)、言語、記憶、意思決定といった認知機能(状況によっては疼痛の知覚、管理方法も含まれる)
7自己知覚―自己概念パターン
「クライエントの自己概念のパターン」
自己に関する態度、諸能力(認知、感情表出、身体)への知覚、ボディ・イメージ、自己同一性、一般的な価値観、一般的情動パターン(身体の姿勢や動き、視線、声、話し方のパターンも含まれる)
8役割―関係パターン
「役割任務と人間関係についてのクライエントのパターン」
個人の現在の生活状況における主な役割、それに伴う責任、それらに対する認識(家族関係、職場での人間関係など社会的な関係における個人の葛藤や障害などが含まれる)
9セクシュアリティ―生殖パターン
「セクシュアリティ・パターンに対する満足と不満足についてのクライエントのパターン、生殖パターン」
個人が男性、女性としてのセクシュアリティに関して知覚する満足、または障害(女性の生殖期、閉経前後期、問題を感じたすべての事柄が含まれる)
10コーピング―ストレス耐性パターン
「クライエントの一般的なコーピングパターン、およびストレス耐性の観点からそのパターンの有効性」
自己完全性への挑戦に耐える個人の予備力や能力、ストレス解消法、家族やそのほかのサポートシステム、個人が状況を制御し管理する能力をどのように知覚しているか
11価値―信念パターン
「価値、信念(宗教的信念を含む)、クライエントの選択や決定の手引きになる目標についてのパターン」
個人が人生で重要であると感じていること、生活(生命)の質、そして健康に関連した価値観、信念、予想に伴う葛藤などを情報収集し分析する
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ゴードンの看護理論から得るもの
私たち看護師は、初めて患者を前にしたとき、できるだけ早期にその人のもつ健康上の問題をとらえていこうと考える。
そのとき、人間が社会のなかで生活を営んでいる存在であることを忘れてはならない。人間がもつ健康問題は、生活という視点をもち、患者全体からとらえていくことで初めて明らかになるからである。
しかし、人間を全体でとらえていくことは簡単なことではない。だからこそ、私たちには何か手がかりになるものが必要である。そのようなとき、ゴードンの理論は有効である。
ゴードンは、看護はあくまでクライエントの生活機能面の問題を診断し、アプローチするものだとして、医学と明確に区別している。私たち看護師が医学的知識を必要とする理由は、クライエントの生活機能面のどこが障害されているのかを分析、予測していくためなのである。
彼女の考えは、ともすれば看護診断が医学診断と混同されがちな臨床の場で、看護の本質とは何かということに立ち返らせてくれるのではないだろうか。
またゴードンは、クライエントのケアに対する専門職としての責任を強調する。当然、知識、技術、態度を切磋琢磨することが求められている。
それらをしてこそ、看護師はゴードンという「考える実践家」になるのである。
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看護理論のメタパラダイム(4つの概念)
先述しているように、ゴードンの看護のメタパラダイムである4つの概念について明確に言及しているわけではない。
彼女の著書(1998)に論じられているなかから導き出していくことにする。
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1人間
人間は、自らの環境内で統一体として機能する。
行動は個人─環境複合体の産物であり、統合されたすべての人間は、その健康、生活の質、人間の可能性の達成に寄与するような機能的健康パターンをもつ。
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2環境
人間と環境とは、常に相互作用をしている。
どの機能的健康パターンにおいても、クライエント─環境の相互作用は重要であり、情報収集において不可欠な要素である。
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3健康
人間の健康を生活機能面からとらえ、健康とは個人や家族、地域社会がその可能性を最大限に発揮することができるような最適な機能状態である。
健康上の問題とは機能障害の状態またはその潜在的状態である。
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4看護
ゴードンは、看護の視点を常にクライエントに置いている。
看護における基本的核心は、人間の生活機能に対する関心である。
看護師はクライエントの機能障害の予防と治療にかかわる専門職であり、社会のニードから生まれたもので、それを満たしていく責任と責務を負う。
発達、文化といった焦点をもつ。これらはすべてのパターンにおいて考慮されるべき重要な要素である。
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看護理論に基づく事例展開
ゴードンと看護過程
患者のもつ健康問題を明らかにし、看護ケアを提供するためには、情報収集を綿密に行うことが大切である。
収集した情報は、パターンごとに整理して分析・解釈・統合を行い、看護診断と照らし合わせながら、まず仮の看護診断(看護問題)を導く。
そして、仮の看護診断の妥当性を検証し、最終的な看護診断を決定する。
さらに、それに対する看護目標・看護計画を立案するという過程をたどる。
紙面の都合上、情報やアセスメント、また診断の妥当性の検討について簡略にまとめた。
これはゴードンの機能的健康パターンによる看護がイメージできるようにしたものであり、看護診断自体には力点を置いていない。
Aさん、55歳、女性。1年前から2型糖尿病を指摘され、薬物療法を続けていた。2週間ほど前から右殿部中央に発赤し、疼痛が持続しているため受診。2型糖尿病による高血糖、皮膚障害の疑いで入院。
医師からAさんの現在の状況は糖尿病と関係しており、血糖コントロールが必要であると説明され、糖尿病教室への参加が勧められた。
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機能的健康パターンによる看護アセスメント
(S情報:主観的情報、O情報:客観的情報)
1健康知覚 ─ 健康管理パターン
《S情報》
血糖が高いっていわれても何の症状もないから、私の糖尿病は軽いほうよね。糖尿病教室ってほんとに必要なのかしら。
お尻のことは糖尿病とは絶対関係ないと思うの。受診はきちんとしているし、薬を飲んでいるから、食事や運動療法はしなくてもいいと思っています。
《O情報》
1年前から2型糖尿病を指摘され薬物療法を続けている。
主治医から「現在の状況は糖尿病と関係しており、血糖コントロールが必要である」と説明されている。教育入院の経験なし。糖尿病教室には参加しているが消極的。
体温:36.6℃、脈拍:80回/分(規則的)、呼吸:18回/分、血圧130/78mmHg、全般的な外見(印象)についてはとくに問題なし。
《アセスメント》
Aさんには、右殿部中央に2型糖尿病による影響と考えられる発赤、疼痛がある。しかしそれは糖尿病とは無関係であると考えている。
Aさんにとって自覚症状がないことが糖尿病の重症度の基準になっていること、糖尿病教室に参加することへの疑問、受診や内服を継続しているために食事や運動療法は必要ないと述べていること、またこれまで教育入院などの経験もないことなどから、Aさんは疾患に対する知識が不足していると考えられる。
この知識不足が、食事運動療法を日常生活に取り入れた健康管理がとられていないことと、糖尿病教室への消極的な参加につながっていると考えられる。
したがって、仮の看護診断は「非効果的治療計画管理:食事・運動療法」にする。
《妥当性の検討:「非効果的治療計画管理:食事・運動療法》
Aさんは、日常生活に治療法を取り入れるための行動ができていない。
その原因は自覚症状がないことで疾患を軽く受け止めているなどの疾患の知識不足であり、診断は妥当であると考える。
2栄養 ─ 代謝パターン
《S情報》
食欲もあるし、好き嫌いはない。子どもや孫、夫の食事と一緒でふつうの食事をとっています。
とくに注意していることはありません。水分は、食事のときに緑茶を2〜3杯飲みます。
甘いものが大好きで、食事の後に食べるのが習慣になっています。あまり動かないし、だから太るのよね。
《O情報》
入院時指示:糖尿病食1500kcal、食事摂取: 全量、身長:152m、体重:60kg、肥満度:18%、体重は3か月で2kg増、義歯:あり(部分)、右殿部中央に直径3cm程度の発赤と疼痛がある。
検査値:BS 260mg/dL、HbA1c 8.0%、TC 250mg/dL(HDL 30、LDL 176)、TG 220mg/dL、TP 7.8g/dL、Alb 4.6g/dL、WBC 7000/μL、CRP 2mg/dL
《アセスメント》
食後に甘いものを摂取する習慣があり、また標準体重から約18%過剰で肥満傾向であること、3か月で2kgの体重増加があることから、摂取─消費エネルギーバランスの不均衡が置きていると考えられる。
またコレステロール、中性脂肪の値が高く、高血糖が持続していることからも、日頃の食事内容にも問題がある。
血糖コントロールのためにはバランスのとれた食事に是正し、標準体重に近づける必要がある。
これらの結果から仮の看護診断は「栄養摂取の変調:肥満」とする。
また、Aさんの殿部の発赤は2型糖尿病による免疫機能の低下により引き起こされた炎症の可能性が高い。現在のところ検査データの異常は軽度であるが、血糖値が高い状態が続いているため十分な観察をしていく必要がある。
これらの結果から仮の看護診断は「皮膚統合性障害のリスク状態:右殿部」にする。
《妥当性の検討:「栄養摂取の変調:肥満」》
Aさんは標準体重からみると18%で10%以上の過剰体重である。また食後に甘いものを摂取する習慣があること、食物摂取─エネルギー消費量の不均衡があることから、診断は妥当であると考える。
《妥当性の検討:「皮膚統合性障害のリスク状態:右殿部」》
右殿部に発赤、それに伴う疼痛があり、2型糖尿病による代謝の変調があることから、診断は妥当であると考えられる。
3排泄パターン
《S情報》
《O情報》
尿糖(+)、尿たんぱく(−)、微量アルブミン16mg/gCr、排泄障害なし。
《アセスメント》
血糖増加のため尿細管で吸収しきれない糖が尿中に流出していく状態ではあるが、血糖値によって徐々に改善していくと考えられる。
そのほかの排泄については、いまのところ問題はない。
4活動─運動パターン
《S情報》
とくに運動はしていないの。歩いたり、走ったりするのに支障はないわ。歳の割にはしっかりしているほうよ。
《O情報》
日常生活についてはすべて自立している。運動障害なし。循環器、呼吸器などの異常を表すデータなし。
《アセスメント》
Aさんの活動に影響を及ぼすような運動機能障害はない。
しかし、血糖コントロールのためには運動療法が重要になるので徐々に取り入れていくことが必要になる。
5睡眠─休息パターン
《S情報》
主婦なので忙しくしています。でもよく眠れています。
《O情報》
入院前の睡眠時間は7時間、薬剤などの使用はしていない。入院中、睡眠障害なし。
《アセスメント》
いまのところ睡眠は効果的にとれていると考えられ、問題はない。
6認知─知覚パターン
《S情報》
しびれやふらつきなど、全くありません。お尻が赤くなっているところが少し痛いけど、我慢できないほどじゃないの。
薬局で買った軟膏を塗っていたんだけど、なかなか治らなくてね。
《O情報》
殿部疼痛については自制範囲内であり、それによる心身の影響は出ていないためいまのところ問題には挙がらない。
しかし、高血糖の持続により炎症の悪化の可能性もあるため、今後、十分な観察が必要である。そのほか、感覚、認知、言語機能に問題はない。
7自己知覚─自己概念パターン
《S情報》
病気のことなんかもあんまり深く考えないようにしているの。
糖尿病でも何ともないから、いままでと何も変わりないわ。
《O情報》
明るい表情、はっきりとした口調で話す。
《アセスメント》
いまのところ自己知覚に関する問題はない。
8役割─関係パターン
《S情報》
夫と子ども、それに孫まで世話をしなくてはならないの。
だから早く退院しなくてはね。でもしばらくの間だから、みんな協力してくれているわ。
《O情報》
Aさんは専業主婦。夫(60歳)は工場勤務。夫の前妻の子ども2人、実子1人の計3人を育ててきた。
現在は夫、前妻の子どもである長男(30歳、会社員)と孫(2歳、男の子)の4人暮らし。家事の一切をAさんが行っている。家族は面会によく来ている。
《アセスメント》
発達段階や役割上、また家族関係にはいまのところ問題はない。
しかし今後Aさんは糖尿病を自己管理していかなければならない。それには家族の協力が必須である。
9セクシュアリティ─生殖パターン
《O情報》
既婚、子どもは前妻の子ども2人と実子1人の計3人。とくに訴えはない。
《アセスメント》
いまのところ問題はない。
10コーピング─ストレス耐性パターン
《S情報》
夫の子どもが離婚して、その孫を連れて帰ってきたの。それで私が面倒をみているのよ。近所の友だちがいい話し相手になってくれているわ。でもストレスがたまったときは甘いものをいっぱい食べちゃうのよね。だから太るのね。
《O情報》
家族や友人の面会があり、楽しそうに話している。
《アセスメント》
いまのところ問題はない。しかし、ストレスの対処として甘いものを摂取するという習慣を徐々に見直していく必要がある。
11 価値─信念パターン
《S情報》
とくに宗教はない。大事なものはやっぱり家族よね。
《O情報》
家族の面会時にはとりわけ表情が明るい。実践している宗教習慣はない。
《アセスメント》
とくに問題はない。
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看護診断
それぞれの機能的健康パターンを分析した結果、看護診断(看護問題)は3つあがった。Aさんの場合は、健康知覚─健康管理パターンにおける問題が、栄養─代謝パターンに影響を与えていると判断できる。
この看護問題の統合は、関連図などを書くことで、より理解が深まる。
看護診断の記載は「〜に関連した***」という2部形式か、P(看護問題)、E(原因または関連要因)、S(症状・徴候、定義上の特徴)の3部形式で表現する。3部形式で文章が複雑化する場合は、そのまま表現するとよい。
今回のAさんの看護診断は、とらえ方が理解できるよう3部形式で表現した。
1
P | 非効果的治療計画管理:食事・運動療法 |
E | 自覚症状がないことで疾患を軽く受け止めている 糖尿病教室に参加することへの疑問がある 受診や内服を継続しているために食事や運動療法は必要ないと考えている、教育入院などの経験がない |
S | 食事・運動療法が日常生活に取り入れられていない 糖尿病教室への参加が消極的である |
2
P | 栄養摂取の変調:肥満 |
E | 18%の過剰体重、食後に甘いものを摂取する習慣、摂取─エネルギー消費量の不均衡 |
3
P | 皮膚統合性障害のリスク状態:右殿部 |
E | 右殿部中央の直径3cm大の発赤と疼痛、2型糖尿病による代謝の変調 |
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看護目標
看護診断では、看護問題に対する原因や関連因子が示される。それが解決されたときの理想、つまり「望ましい成果」が看護目標である。
ここでは、Aさんの優先順位の高い「非効果的治療計画管理:食事・運動療法」について述べる。
看護問題
非効果的治療計画管理:食事・運動療法
看護目標
- 1糖尿病教室に毎回参加できる。
- 2糖尿病について質問すると正しく答えることができる。
- 3血糖コントロールのために必要な治療計画について説明できる。
- 4日常生活に食事・運動療法を取り入れるという意思を表現できる。
- 5フォローアップに必要な機関やサービスを紹介する。
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看護計画
「望ましい成果」に達するための看護ケア計画を立案する。
- 1 日常生活における血糖コントロールに影響している要因、学習を阻害している要因を見いだす。
- 2糖尿病教室で得た知識をすぐに活用し、学習への積極的な参加につながるようにする。
- 3日常生活を踏まえながら疾患や治療についてよく話し合う。
- 4Aさんを尊重し、自尊心が保てるかかわりをもつことで信頼関係をつくる。
- 5フォローアップに必要な機関やサービスを紹介する。
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実施・評価
クライエントへの直接的なケアが「望ましい成果」に実際に達したかどうかを判断する。
機能的健康パターンは、疾患に関連する1つのパターンだけの情報をアセスメントして問題を明らかにするのではなく、すべてのパターンについて情報収集し、アセスメントしなければならない。
それは「各パターンは相互に依存し合う関係」にあるからであるとゴードンは述べている(1998)。
そして機能的健康パターンは、「あらゆる場や専門分野で、またすべての年齢層に適用することができる」(1998)という。
私たちは、これらのことを臨床の場で、また看護実習をとおして理解することができるだろう。
看護診断を導くための1つの上方の枠組みとして「機能的健康パターン」を示したのが、マージョリー・ゴードン(Marjory Gordon)である。
ゴードンは、看護診断における第一人者である。
彼女自身のもつ親しみやすい雰囲気と、その理解しやすく実践的な考えが、多くの人々に賞賛されていることは数々の文献で紹介されている。
では、ゴードンはどのような理論を展開しているのだろうか。それを紹介する前にまず、彼女が影響を受けたであろうと思われる看護における社会背景と臨床・教育背景を概観する。
1950年代の看護での動き
ゴードンが看護学生だった1950年代のアメリカでは、ブラウン・レポートの影響から、看護を科学として位置づけ、専門職として看護独自の機能や役割を明らかにしようとする動きがあり、看護師の高等教育の必要性が主張されはじめていた。
チームナーシングという新たな看護方式や、看護診断という言葉が登場したのもこの頃である。またこの年代から、優れた看護理論が多数誕生していった。
ゴードンの歩み
ゴードンは1955年、ニューヨークのマウントサイナイ病院附属看護学校を卒業後、1962年までニューヨークで主任看護師、さらに教育師長を務めるなどの臨床経験を積んでいる。
その間、ニューヨーク市立ハンター・カレッジで看護学学士号と看護学修士号を取得している。
1962年からボストン・カレッジ看護学部で成人看護学を担当し、助教授、准教授を経て、1978年には教授に就任した。1997年に退官した後は、同カレッジの名誉教授として活躍を続けている。
ゴードンは、看護診断の世界的リーダーとして有名であるが、彼女の理論が実践的かつ倫理的な思考プロセスをしているのは、これらの職歴・学歴が影響している。
著作活動
ゴードンの著作は、看護診断に関するものが多い。
彼女の博士論文のテーマは『Probabilistic Concept Attainment:A Study of Nursing Diagnosis』(蓋然的概念の見込み:看護診断の研究)であった。このことからも、彼女が早期から看護診断概念に関する研究に取り組んでいたことがわかる。
著書では『Manual of Nursing Diagnoses』『Nursing Diagnoses:Process and application』(『看護診断 その過程と実践への応用』)があり、再販、翻訳されている。
また、論文では、看護過程の教授および研究のための統合モデルを提案した『The Nurse as a thinking Practitioner』(1987)、『Nursing Process and Clinical judgment』(1990)などがある。
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本連載は株式会社サイオ出版の提供により掲載しています。
[出典] 『新訂版 実践に生かす看護理論19 第2版』 編著/城ヶ端初子/2018年11月刊行/ サイオ出版