看護理論家の特徴と看護過程
『新訂版 実践に生かす看護理論19 第2版』(サイオ出版)より転載。
今回は看護理論家の特徴と看護過程について解説します。
城ヶ端初子
聖泉大学大学院看護学研究科 教授
- ナイチンゲール(Florence Nightingale)
- ヘンダーソン(Virginia Henderson)
- ウィーデンバック(Ernestine Wiedenbach)
- アブデラ(Faye Glenn Abdellah)
- ペプロウ(Hildegard E. Peplau)
- オーランド(Ida Jean Orlando)
- トラベルビー(Joyce Travelbee)
- ロイ(Sister Callista Roy)
- オレム(Dorothea E. Orem)
- ロジャーズ(Martha E. Rogers)
- ベナー(Patricia Benner)
- キング(Imogene M. King)
- マーガレット・ニューマン(Margaret A. Newman)
- レイニンガー(Madeleine M. Leininger)
- ホール(Lydia E. Hall)
- パースイ(Rosemarie Rizzo Parse)
- ベティ・ニューマン(Betty Neuman)
- ワトソン(Jean Watoson)
- ゴードン(Marjory Gordon)
ナイチンゲール(Florence Nightingale)
アセスメント
・個人をめぐる物理的、心理的、社会的環境に関する情報を収集する
・環境が個人に及ぼす影響を判定する
看護診断
・健康を回復するために必要な環境や環境上不足している情報を明確にする
・患者の環境に対する反応をみていく
・収集した情報の判断によって必要な看護を判断する
看護計画
・患者の回復を促し、健康を増進するためのよい環境条件を提供するために変更あるいは調整を要する環境を明らかにし、具体的な計画を立案する
看護の実践
・患者を可能なかぎり最善の環境に置くように看護を実行する
・環境を調整し、患者がもつ自然治癒力を促進するための方法を実行に移す
看護の評価
・患者をめぐる環境の変化が回復に向けての過程を促進しているかどうかについて評価する
目次に戻る
ヘンダーソン(Virginia Henderson)
アセスメント
・14の基本的欲求の状態、基本的欲求に影響する常在条件、基本的欲求を変容させる病理的条件について情報を収集する
・未充足の基本的欲求と常在条件、病理的状態との関連を考える
・未充足の基本的欲求を充足させるために必要な能力(体力、意思力、知識)で、欠けているものは何かを考える
看護診断
・基本的欲求の未充足状態とその原因・関連因子および基本的欲求の未充足への反応(体力・意思力、知識)からその人の問題を総合的に判断する
看護計画
・基本的欲求を充足するための具体的計画を設定する
看護の実践
・計画に従って基本的欲求を充足するための行動をとる
看護の評価
・未充足であった基本的欲求がどの程度充足できたかについて、患者の反応や確認や観察などから、その目標や達成度とケア計画、ケア内容の適切性について総合的に評価する
目次に戻る
ウィーデンバック(Ernestine Wiedenbach)
アセスメント
・そのとき・その場の「援助を求めるニード」の明確化をはかる
看護診断
・個人(患者)によって「援助を求めるニード」が認識され、問題解決に必要な個人(患者)の力・能力を明らかにする
看護計画
・個人(患者)の「援助を求めるニード」を満たすための計画を立て、個人(患者)に確認する
看護の実践
・患者の哲学と看護師の哲学に基づき、看護師の思考や感情を吟味し、不一致がないか確認しながら実践する
看護の評価
・「援助を求めるニード」が満たされ、個人(患者)が「安楽」であり、「有能」であることについて確証を示しているか確認・評価する
目次に戻る
アブデラ(Faye Glenn Abdellah)
アセスメント
・21の看護問題をもとにデータ収集の方向づけを行い、さらに情報を顕在的なもの、潜在的なものに選択する
看護診断
・看護問題から導き出す。アセスメントされた顕在的・潜在的問題を、21の看護問題にまとめる
看護計画
・21の看護問題のうち、選択された問題は看護目標を表す。看護診断をすると目標が設定される
看護の実践
・目標を枠組みとして計画が立てられ、実践方法が決定される
看護の評価
・設定された目標に対する患者/クライアントの変化を評価する
目次に戻る
ペプロウ(Hildegard E. Peplau)
アセスメント
・不安や緊張に対してどんな行動をとっているか観察・アセスメントする
看護診断
・問題に対する患者の認識状況をみる
看護計画
・目標を相互に設定し、目標達成に向けて看護師と患者が協働して計画を立てる
看護の実践
・計画を立てた目標を達成するよう援助する
看護の評価
・相互に設定した期待される行動がとれたか評価する
目次に戻る
オーランド(Ida Jean Orlando)
アセスメント
・患者がいま必要としていることを確認する
・患者を不安や苦悩に陥らせているニードを患者自身が認識できているかについて情報を収集する
看護診断
(オーランドの理論では看護師の反応に該当)
・患者は自分の気持ちを表出でき、看護師も求められていることを自覚し、両者の相互作用が患者によい影響を与えているかをみる
看護計画
(オーランドの理論では看護師の行動計画に該当)
・患者がニードを表出できるようにする
・患者のニード解消に向けた計画を立案する
看護の実践
(オーランドの理論では看護師の行動に該当)
・ニードの確認し、熟慮した看護活動を行う
・ニード充足に向けての積極的な看護活動を行う
看護の評価
(オーランドの理論では看護師の行為の有効性の評価に該当)
・患者の不安や苦悩が改善されたか否かを評価する
・患者の行動の変化について評価する
目次に戻る
トラベルビー(Joyce Travelbee)
アセスメント
・知識・技能・能力を用いて、患者の苦悩をともに体験し、ニードの存在を判断する
看護診断
・その苦悩が患者にとってどのような意味をもっているかをみる
看護計画
・人間対人間の関係を確立するために、患者との相互関係を意図的に計画する
看護の実践
・患者がその病気や苦痛に意味を見いだせるよう行動する
看護の評価
・患者のニードをどこまで満たすことができたかを、患者とともに探究する
目次に戻る
ロイ(Sister Callista Roy)
アセスメント
・適応様式を示す行動と、行動に影響を及ぼす刺激を、2つの段階に分けてみる
看護診断
・適応様式に関する判断を記述(行動+刺激で示す)する
看護計画
・適応を促進するために期待される成果(行動)を設定する
看護の実践
・適応を促進するためにケアを選択し実施する
看護の評価
・期待される成果(行動)に対するケアの有効性を判断する
目次に戻る
オレム(Dorothea E. Orem)
アセスメント
・普遍的、発達的、健康逸脱によるセルフケア要件や、セルフケア能力を構成する要素について査定する
看護診断
・セルフケア能力と治療的セルフケア・デマンドとの関係から、セルフケア不足を見いだす
看護計画
・セルフケア能力を高めるために、セルフケア不足をどのように調整するか、患者の意思決定に基づき整理し、計画を立てる
看護の実践
・適切な看護システムを選び、看護行為を行う
看護の評価
・セルフケア能力がどの程度習得できたかを評価する
目次に戻る
ロジャーズ(Martha E. Rogers)
アセスメント
・統一体である人間に対して人間と環境の周期的なパターン、相互作用を探求する
看護診断
・ホメオダイナミクスの原理に基づき、人間と環境の場のパターンとパターン化を反映する
看護計画
・人間と環境の場、生命過程のパターンとパターン化の促進の計画を立てる
看護の実践
・統一体である人間に対して、人間と環境の場に働きかける介入を行う
看護の評価
・人間と環境の場のパターンとパターン化の評価を行う
目次に戻る
ベナー(Patricia Benner)
アセスメント
・かぎられた情報からその意味をとらえ、経験に基づいた直感的な予想を立てる
看護診断
・理論的知識と実践的知識を統合させた経験的な診断をする
看護計画
・経験を生かした気遣い(caring)のある計画を立てる
看護の実践
・気遣い(caring)のある看護を実践する
看護の評価
・何が、なぜできなかったのかを評価し、次の看護に生かす
目次に戻る
キング(Imogene M. King)
アセスメント
・個人と個人間システムを構成する主要概念をみていく
・成長発達、知覚、自己概念、身体像、時間、空間、コミュニケーション、役割、ストレス、相互作用、相互浸透行為をみる
・看護師-患者間の言語的・非言語的コミュニケーションが中心になる。患者とのコミュニケーションの客観的な観察と査定を行う
看護診断
・患者の社会システムや他者との相互関係、健康についての情報に関する分析・判断を行う
・アセスメントで得た情報から診断する
看護計画
・看護師-患者が互いに納得し合って目標を達成するための計画を立てる
看護の実践
・目標達成のために患者と相互に設定した目標を達成するための計画を実施する
看護の評価
・実施されたことが目標達成に繋がったか評価する
・看護ケアの有効性があったかどうかを評価する
目次に戻る
マーガレット・ニューマン(Margaret A. Newman)
アセスメント
・看護過程の考え方を支持しない
看護診断
・アセスメントに同じ
看護計画
・看護による「コントロールの慎重な放棄」を強調するので、あらかじめ計画を立てて予測することはしない
看護の実践
・患者に混乱する出来事が生じたときに、患者とパートナーとしての関係性を築くようにする
看護の評価
(あえて評価するとすれば)
・患者も看護師も高いレベルの意識の拡張ができたか、患者との関係を終わりにする準備ができたかを評価する
目次に戻る
レイニンガー(Madeleine M. Leininger)
アセスメント
サンライズ・モデルに関連してデータを収集する
・患者の社会構造、世界観、言語、環境状況
・患者が個人、家族、集団、社会のいずれにあるのか
・患者のヘルスシステム(民間的・専門的システム)
・文化的ケアの多様性と普遍性
看護診断
・文化的ケアの多様性と普遍性に関する、患者のもつ問題を明確にする
看護計画
・患者のニーズを満たすために、文化的ケアの保持、調整、再パターン化のうちいずれか、または組み合わせのうち、どの看護行為の様式を用いるかを判断し、計画に盛り込む
看護の実践
・看護行為の様式に基づいて看護の実践を行う。文化的ケアを保持する
看護の評価
・レイニンガーの看護理論でとくに取り上げられていないが、文化的な多様性、普遍性が充足されたかどうかを評価する
目次に戻る
ホール(Lydia E. Hall)
アセスメント
・ケア・サークル、コア・サークル、キュア・サークルの枠組みで情報を収集し、アセスメントする
看護診断
・3つのサークルの枠組みにしたがって、患者のニードを導き出す
看護計画
・患者の自己認知力が高まるよう、ケア・サークル、コア・サークル、キュア・サークルに対する計画を立てる
看護の実践
・ケア・サークルでは身体的、コア・サークルでは心理的、キュア・サークルでは医学的処置、リハビリテーション等への患者および家族への援助を行う
看護の評価
・ケア・サークル、コア・サークル、キュア・サークルへのケア、および患者の自己認知力が高まったか否かについて評価する
目次に戻る
パースイ(Rosemarie Rizzo Parse)
アセスメント
・アセスメントや看護診断の考えを支持しない
看護診断
・アセスメントに同じ
看護計画
・意図的なかかわりをもつことはしない。その人の健康体験を尊重し、生命と生活の質を高めるために、あくまでもガイド的なかかわりを計画する
看護の実践
・患者とともにあることで患者の示す-示さないものから意味を明らかにするガイド、リズムに同調できるようなガイド、そこから超越できるようにガイドするといったかかわりをする
看護の評価
・意味を明らかにできたか
・リズムへの調和ができたか
・可能性に向けて超越することができたか
を評価することはできる
目次に戻る
ベティ・ニューマン(Betty Neuman)
アセスメント
(ニューマンの理論では看護診断に該当)
・患者の生理的・心理的・社会文化的・発達的・霊的な変数に関する情報
・顕在的あるいは潜在的なストレッサー(人間内部、対人的、人間外部の力)に対する反応に関する情報
・基本的な中核構造の統合性や防御線、抵抗線に関する情報
看護診断
(ニューマンの理論では看護診断に該当)
・患者に関して収集した情報を分析し、ニーズや問題を明確にする
看護計画
(ニューマンの理論では看護診断と看護目標に該当)
・患者が安定性を獲得し、回復(あるいは維持)するために有効な計画を立案する
看護の実践
(ニューマンの理論では看護の結果に該当)
・可能な範囲での高いレベルに再構成するために必要な事柄を実行する
・看護行為は、1次、2次、3次で行われる
看護の評価
(ニューマンの理論では看護の結果に該当)
・再構成がどの程度達成されたか評価する
目次に戻る
ワトソン(Jean Watoson)
アセスメント
・心・体・魂の主観的混乱および不調和の有無をみる
・認知している自己と経験している自己との個人内不一致の有無をみる
看護診断
・心・体・魂の主観的混乱および不調和における患者の行動と反応をみる
・認知している自己と経験している自己との個人内不一致における患者の行動と反応をみる
看護計画
・10のケア因子について計画を立案する
看護の実践
・患者と看護師の人間対人間としての間主体的な関係、つまりトランスパーソナルを実施する
看護の評価
・心・体・魂の統一と調和がはかれたか、プラスの変化が生じたか、ケアの受け手がこれでよいと思える状態になったかを評価する
・看護師にケアの意思と意図、愛情があったかを評価する
目次に戻る
ゴードン(Marjory Gordon)
アセスメント
・意図的・系統的に行われた情報収集に基づいて健康状態を判断する
看護診断
・看護ケアを行うことができる顕在/潜在する生活機能上の問題を表す
看護計画
・望ましい成果に到達するための看護ケアを計画する
看護の実践
・直接的なケアを実施する
看護の評価
・望ましい成果に到達できたかどうかを判断する
目次に戻る
本連載は株式会社サイオ出版の提供により掲載しています。
[出典] 『新訂版 実践に生かす看護理論19 第2版』 編著/城ヶ端初子/2018年11月刊行/ サイオ出版