腹腔内膿瘍ドレナージ | ドレーン・カテーテル・チューブ管理

ドレーンカテーテル・チューブ管理完全ガイド』(照林社)より転載、Web掲載にあたり一部改変。
内容は書籍刊行当時のもの。

 

今回は腹腔内膿瘍ドレナージについて説明します。

 

土井隆一郎
大津赤十字病院副院長/第一外科部長
岡村 泉
大津赤十字病院看護部

 

《腹腔内膿瘍ドレナージについて》

 

主な適応
臨床的に発熱、疼痛などの症状があり、CT、MRI、USなどの画像診断によって腹腔内膿瘍の位置・大きさが同定でき、限局性の場合
目的
一期的な排膿と効果的なドレーンの留置
合併症
ドレナージ手技によるもの出血、腸管損傷、菌血症、気胸・胸水、膿胸、アレルギー、実質臓器膿瘍、腹膜炎
ドレーン留置によるもの:ドレーン逸脱、ドレーン閉塞、臓器損傷、腸閉塞
抜去のめやす
原因疾患が治癒し、排液量が減少して漿液性となり、全身状態、画像所見、血液検査データが改善した時期
観察ポイント
ドレナージ穿刺時:腹腔内圧が減少し静脈圧が低 下するため、特に血圧低下に注意
ドレーン排液は、「量」「色調」「粘度」「におい」を観察し、異常所見がみられる場合は早期に処置を行う
ケアのポイント
挿入直後 : 一定量の排液流出があることを確認する。急な量の減少はドレーンの屈曲や閉塞を疑い、固定方法やミルキングを検討する
合併症 : 菌血症を発症すると、一時的に寒気や震え、動悸を生じたり、重篤な場合は血圧が低下しショック状態になるため注意する

 

〈目次〉

 

はじめに

横隔膜下膿瘍、ダグラス窩膿瘍の多くは消化器外科手術に合併して起こる病態である。さらには生殖器、泌尿器外科手術においても合併しうる。

 

1933年のOchsnerら1による3,372例の横隔膜下膿瘍の集計では、横隔膜下膿瘍の60%が虫垂炎および十二指腸穿孔に起因するものであった。当時は手術が行われなかった場合、90%以上が死亡し、またドレナージ手術が行われた場合でも死亡率は30%以上であり、重大な合併症の1つと考えられていた。

 

今日では画像診断が進歩し、抗菌薬の改良が進み、また安全な手術に加えて栄養管理法が確立され、Ochsnerらが集計した当時とは病因も疾患病態もまったく異なってきている。

 

しかしながら、一方では高齢者をはじめとするリスクの高い患者に対する手術が行われており、違った形で腹腔内膿瘍形成の機会が増加している。

 

横隔膜下膿瘍、ダグラス窩膿瘍に対する処置の方法を的確に理解しておくことは今日においても重要である。

 

腹膜内膿瘍ドレナージの定義

消化管の外傷や穿孔、また消化管手術後の縫合不全によって、消化管内容が漏れる(リーク)ことで、腹腔内に形成された感染性液体貯留を「腹腔内膿瘍」という。上部消化管からの漏れは下部消化管からの漏れと異なり、腹膜炎の進行が緩徐で劇症化することが少なく、液体貯留辺縁の被膜形成により腹腔内膿瘍となることが多い。

 

膿瘍は腹腔内のどこにでも形成されるが、重力ならびに体腔内コンパートメントの影響で、①右横隔膜下、②左横隔膜下、③モリソン窩、④ダグラス窩、⑤右傍結腸窩に多い。非手術患者では、⑥網囊腔、⑦肝下面、⑧小腸間膜の間にも膿瘍形成をみることがある。

 

腹膜内膿瘍ドレナージ

腹膜内膿瘍ドレナージ

 

消化管に無関係な腹腔内膿瘍として、経腟的に子宮、卵管を通って感染し、骨盤腹膜炎から腹腔内膿瘍を形成することがある。

 

非代償性肝硬変の患者で、特発性細菌性腹膜炎を発症し、膿瘍形成に至ることがあるが、これらはまれである。

 

腹膜内膿瘍ドレナージの目的と適応・禁忌

1目的

ドレナージの目的は、一期的な排膿と効果的なドレーンの留置である。

 

症例に応じて画像診断を駆使し、膿瘍の個数、局在、全身状態ならびに緊急性などについて十分検討し、ドレナージ方法を選択する。

 

2適応

臨床的に発熱、疼痛などの症状があり、CT、MRI、超音波検査(ultrasonography:US)などの画像診断によって腹腔内膿瘍の位置、大きさが同定でき、限局性の場合にドレナージの適応となる(図1)。

 

図1横隔膜下膿瘍の画像診断

横隔膜下膿瘍の画像診断

 

非限局性に炎症性液体貯留を認める場合は「汎発性腹膜炎」である。敗血症に至る前に腹腔内全体の洗浄およびドレナージが必要で、ただちに開腹手術などの介入を行う状況である(→『上腹部腹膜炎ドレナージ』参照)。

 

①US(CT)ガイド下穿刺ドレナージ法

単発性で、膿瘍壁により十分隔離されており、膿瘍までの到達経路が直線的に確保できる場合は、「US(またはCT)ガイド下穿刺ドレナージ法」(図2)の適応となる。

 

図2ドレナージの穿刺手技

ドレナージの穿刺手技

 

②手術的ドレナージ法

膿瘍までの経路に消化管が介在するなどUSガイド下に膿瘍穿刺が困難な場合、あるいは膿瘍が複数、広範囲、形状が複雑、などの場合は、緊急性と全身状態を考慮して「手術的ドレナージ法」の適応となる。開腹下に行う方法と非開腹下に行う方法がある。

 

3禁忌

血液凝固異常がある場合や、抗凝固薬を服用している場合は、穿刺部位や穿刺経路からの出血時に止血しにくいため、穿刺ドレナージは禁忌と考えられている。

 

凝固異常が正常化するまで待機する、または薬剤を中止して作用が消失するまで待機することになるが、全身状態と膿瘍の状況によって、時間的余裕がなければ、手術的ドレナージを選択することになる。

 

腹膜内膿瘍ドレナージの挿入経路と留置部位

1ドレナージに使用する器材

手術によってドレナージを行う場合は、一般の開腹術に準じて「開腹セット」または「腹膜炎セット」があればよい。

 

閉鎖式ドレナージが可能なプリーツドレーン®図3-❶)を準備しておく。洗浄孔付きプリーツドレーン®図3-❷)があれば、術後の膿瘍腔洗浄に有利である。

 

図3プリーツドレーン®チューブ

プリーツドレーン®チューブ

 

USガイド下穿刺ドレナージに使用する器材を表1に示す。

 

表1USガイド下穿刺ドレナージの器材

USガイド下穿刺ドレナージの器材

 

2ドレナージ穿刺時の体位

ドレーン位置を確認するために、X線透視台の上で行う。

 

膿瘍のある側が上になるように体位をとる。

 

患者の苦痛を緩和するため、透視台の上にやわらかいマットかスポンジを敷いておく。

 

穿刺予定部位を色素でマークした後、広範囲に皮膚消毒し、周囲を滅菌覆布で覆い、清潔操作を開始する。

 

3ドレナージ穿刺手技

穿刺手技の流れを図2(上述)に示す。

 

4ドレーンの固定

透視下で最終的なドレーンの位置と深さを決定し、ドレーンを固定する。ドレーンを延長チューブなどに接続し、全体をテープなどで固定する。

 

穿刺部位は穿刺時に医師が縫合糸で皮膚に縫着しているので、この部位からさらにドレーンをしっかりとしたテープなどで数10cmにわたって皮膚に固定する。

 

穿刺または手術によって適当な位置に挿入されたドレーンは、絶対に抜けないようにしっかり固定する必要がある。ドレーン1本が患者の経過を左右することを認識する。

 

固定位置は、多少強く引っ張っても抜けないように、また、患者のベッド上での姿勢と、歩行時にベッドのどちら側から降りるかなどを参考にして決定する。

 

5ドレナージのバリエーション

  • 膿瘍腔が小さい場合:穿刺吸引で膿瘍のほとんどをドレナージできれば、ドレーンを留置しないこともある。
  • 膿瘍が複数個ある・隔壁がある場合:複数回穿刺し、複数のドレーンを留置する。
  • 膿が極端に粘稠な場合生理食塩水で膿瘍内を洗浄する(膿瘍腔の内圧を上げすぎると血中に起炎菌が流入し菌血症症状が出現する)。

 

6ドレーンの抜去

いったん抜去したドレーンを再挿入するためには、初回と同様の操作または手術が必要なため、患者にとっては大きなリスクとなる。また、ドレーンを抜去後の膿瘍腔は縮小しており、初回と同じように挿入できない可能性がある。

 

ドレーン抜去は非常に重要なイベントであり、抜去時期は慎重に決定しなければならない。

 

原因疾患の治癒を優先し、そのうえでドレーンからの排液量が減少して「漿液性」となり、全身状態、画像所見、血液検査データが改善したならば抜去する。

 

抜去したドレーン孔は自然閉鎖するまで清潔に保ち、分泌の有無を観察する。

 

腹腔内膿瘍ドレナージの合併症(表2

表2穿刺ドレナージに伴う合併症

穿刺ドレナージに伴う合併症

 

1出血

穿刺ドレナージの場合、USで針先をリアルタイムに確認しながら、安全な経路を通して穿刺するが、針を用いて穿刺する操作である以上、出血性の合併症が起こることがある。

 

すでに膿瘍内に出血している場合などは、一時的に排液に血液が混じることがある。また、穿刺経路上の小さな血管を損傷することにより、穿刺部周囲に出血が起こる。このような少量の出血はしばしば見られるが、多くは症状が軽微で自然に止血する。

 

大量の出血が起こった場合は、輸血や保存的治療で対処する。止血が困難な場合は、経カテーテル的血管塞栓術や外科手術などによって止血を図る。

 

2腸管損傷

膿瘍が腸管の近くに存在する場合は、穿刺ドレナージの穿刺針による腸管損傷を起こす可能性がある。

 

腸管損傷のリスクを最小限にするためにUSやCTを用い、安全な経路を確認しつつ穿刺する。

 

小腸や大腸を損傷した場合、ドレーン刺入部周囲から内容が流出し、腹膜炎を発症するか、あるいは新たな膿瘍を形成することになる。

 

3菌血症

穿刺ルートを介して、あるいはドレーンが膿瘍腔の壁を圧迫することで、少量の膿が血管内に混入し、一過性の菌血症を発症することがある。

 

発症時は一時的に寒気や震え、動悸が起こったり、重篤なものではまれに血圧が低下してショック状態になることがある。

 

4気胸・胸水

穿刺時のルートに胸膜が介在していた場合に、気胸や胸水を発症する可能性がある。

 

5アレルギー

麻酔薬や造影剤に対するアレルギー性の血圧低下がみられることがある。

 

6ドレーン逸脱

膿瘍腔に挿入されたドレーンが逸脱すると、膿がドレーン挿入部から腹腔内へ漏れて腹膜炎を起こすことがある。

 

腹腔内膿瘍ドレナージの利点と欠点

穿刺ドレナージが可能であれば、非手術的に膿瘍ドレナージができ、繰り返し行えるという利点がある。

 

欠点としては、穿刺ドレナージでは上記のような合併症が起こる可能性がある点が挙げられる。

 

ケアのポイント

1穿刺ドレナージ実施時の観察とケア

処置に対する患者へのインフォームド・コンセント、同意書の記入、患者・家族の理解や不安の有無を確認する。

 

清潔・滅菌操作で準備・介助を行い、感染予防に努める。

 

疼痛や不安の有無を観察し、安全に処置が行えるよう患者への声かけや体位を調整する。

 

必要時に医師の指示のもと、鎮痛・鎮静管理を行う。

 

モニタリングによりバイタルサインを評価し、患者の表情などの変化にも注意する。穿刺中はドレナージにより腹腔内圧が減少し静脈圧が低下するため、特に血圧低下には注意する。

 

2ドレーン留置直後の観察とケア2

排液量は膿瘍の大きさにより違うが、挿入直後は一定量の流出があることを確認する。急な排液量の減少はドレーンの屈曲や閉塞を疑い、固定方法やミルキングによる流出を確認する。

 

ドレナージした当初の排液の色は、起炎菌の種類によるが、通常、「黄緑色」で、場合によって血性成分が混入する。性状は粘稠で異臭を有する。

 

起炎菌同定のために培養検査の検体を採取する場合は、感染予防に注意して行う。

 

ドレーンの誘導や固定は、体位変換や患者のADLを考慮する。

 

刺入部の観察を行い、圧迫やテープ固定による皮膚障害を予防し、清潔に保つ。

 

患者の基礎疾患とそれに伴う症状(腹痛・悪心・腹部緊満・出血傾向)の観察を行う。

 

疼痛スケールによる痛みの評価と鎮痛緩和を行う。

 

水分出納バランス(尿量・排液・体重、in-out)の正確な記録と輸液管理を行う。

 

長期留置は感染源にもなりうるため、排液量の減少、体温、採血データなど炎症の鎮静化をアセスメントしたうえで医師に報告し、適切な時期にドレーン抜去ができるようにする。

 

3ドレーン留置中の排液の量・性状(色、粘度、におい)の観察

排液は、1日排出量および性状の観察事項を記録する。

 

培養検査のほか、必要に応じて、排液中のビリルビン濃度やアミラーゼ濃度を測定するために生化学検査に提出する。

 

色調:初期には「暗い黄緑色」で多少血性成分が混じる。うまくドレナージが効いているときは徐々に薄くなり、「淡血性」から「黄色透明」に変わってくる。

 

粘度:初期には通常粘凋であるが、しだいに粘度が下がってくる。

 

臭気:ドレーン排液のにおいは、起炎菌特有の悪臭である。ドレナージの効果があれば、においは次第になくなる。

 

排液の異常所見を表3に示す。

 

表3排液の異常所見とその対応

排液の異常所見とその対応

 

4ドレナージからドレーン留置中の看護アセスメント

患者にとって苦痛を伴う処置のため、十分な説明を行い、同意・協力を得る。

 

処置中は患者の苦痛を最小限にとどめ、十分な観察を行い、合併症予防に努める。

 

清潔・滅菌操作で介助を行い、感染予防に努める。

 

ドレーン排液の肉眼的所見・検査結果より、正常より逸脱した場合は原因検索を行う。

 


[引用・参考文献]

 

 


本記事は株式会社照林社の提供により掲載しています。/著作権所有(C)2015照林社

 

[出典] 『ドレーン・カテーテル・チューブ管理完全ガイド第一版』 (編著)窪田敬一/2015年7月刊行/ 株式会社照林社

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