胃瘻の管理:造設~使用開始まで
『病院から在宅までPEG(胃瘻)ケアの最新技術』(照林社)より転載、Web掲載にあたり一部改変。
内容は書籍刊行当時のもの。
今回は胃瘻(PEG)の管理:造設~使用開始までについて説明します。
日下部俊朗
医療法人東札幌病院消化器内科副院長
Point
〈目次〉
はじめに
胃瘻は簡便で比較的安全な栄養療法ですが、静脈栄養と同様、強制的に栄養を摂取する手段でもあり、しばしば思わぬ合併症を引き起こします。しかし、その特徴を理解して活用できれば、胃瘻は摂食・嚥下障害のある患者にとって、まさに“第2の口”として、QOLを高める有用な手段となります。
胃瘻を安全かつ有効に利用するためには、いくつかのコツがあります。本項では、胃瘻を造設してから使用を開始するまでのチェックポイントを解説します。
胃瘻の使用開始前の観察
胃瘻の造設後、瘻孔部が安定するまでには、1~2日間かかります。当院では、その間はPEGカテーテルを排液バッグに接続して開放しておき、トラブル(瘻孔部や胃内からの出血・感染、腹膜炎など)の有無をチェックします(図1)。
また、外部ストッパーが正しい位置にあること、抵抗なくスムーズに回転することなどを確認する必要があります(→PEGの造設術 図8参照)。
便秘や腹部膨満、発熱などの感染徴候がある場合、嘔吐などのトラブルが起こることも多いため、原因を確認してから対応を決める必要があります。
1全身状態の把握
便秘や腹部膨満はないか
便秘や多量の消化管ガスによる腹部膨満は、嘔吐や胃内圧上昇による栄養剤の脇漏れの原因となります。そのため、適宜、緩下剤や消化管運動賦活薬などの調節による排便コントロールや、減圧用チューブを用いた栄養剤注入前の胃内の脱気など、消化管内の圧を下げることが必要です(図2)。
胃内の脱気を行うことで、ある程度、脇漏れを予防することができます。
発熱はないか
発熱がある場合、何らかの感染症を疑います。消化管の運動が低下していることも多いため、ある程度落ち着いてから胃瘻を使い始めます。
特に、咳嗽や痰の増加などが併発している場合は、明らかな嘔吐・誤嚥がなくても、胃から食道への逆流(胃食道逆流)が起きている場合があります。
逆流の程度は胃瘻造影(図3)によって判断できますが、逆流が著明な場合は、栄養剤の半固形化(文献1)や、PEG-J(percutaneous endoscopic gastro-jejunostomy:経皮内視鏡的空腸瘻、図4)なども考慮されます。
2PEGカテーテルのチェック
外部ストッパーの位置は正しいか
外部ストッパーの位置は、PEGカテーテルを軽く引き上げた状態で、腹壁との間隔が1.0~1.5cm程度あいている状態がよいでしょう。(図5)
外部ストッパーと皮膚との間隔がきつすぎると、瘻孔部局所の血流を阻害して、感染などの原因となることがあります。
逆に、ゆるすぎると、内部ストッパーが十二指腸にはまり込み、イレウスや潰瘍などの原因となることがあります。毎日確認するようにしましょう。
PEGボタン・PEGカテーテルがスムーズに回転するか
PEGボタンやPEGカテーテルがスムーズに回転しなくなる状況は、過度の締めつけや瘻孔部の感染により、内部ストッパーが粘膜内に埋没してしまうこと(バンパー埋没症候群、burried bumper syndrome:BBS)が原因で起こります。
放っておくと、栄養剤を注入できなくなるだけでなく、腹腔内にバンパーが逸脱して腹膜炎を起こす可能性があります。
バンパー埋没症候群が起こった場合、PEGカテーテルを抜去したうえで、胃瘻を再造設する必要があります。ただし、軽度の場合は、内視鏡透視下で再留置が可能なこともあります。
3瘻孔周囲の状況を確かめる
造設後に起こる瘻孔周囲のトラブルには、出血、感染、栄養剤の脇漏れなどがあります。
出血(図6)
瘻孔部から出血する場合と、内部ストッパー対側に生じた胃潰瘍から出血する場合があります。
いずれも、出血量が多いとショック状態に陥ることがありますので、ただちに内視鏡による確認・止血処置を行う必要があります。
感染
瘻孔の感染は造設術後間もなく起こることが多く、患者のQOLをしばしば低下させます。
瘻孔感染が悪化した場合には、栄養剤の投与を中止し、抗生物質の投与、切開・排膿などの処置が必要となるため、すみやかな対応が必要です。
栄養剤の脇漏れ
栄養剤の脇漏れの原因は多岐にわたるため、原因を確認したうえで対応します(表1)。
大量に漏れる場合は、スポンジなどを利用してチューブを立てる方法(図7)や、栄養剤の半固形化、PEG-Jへの変更も有効です(文献2)。
投与栄養量が少ないため、栄養状態が改善せずに瘻孔がゆるんでいることがありますが、この場合は栄養剤を増量すると、栄養状態が改善し、解決することがあります。
胃瘻への注入開始
1注入開始のタイミング
造設後間もなくは胃の動きがあまりよくないことがあるため、少量の水分から注入を始め、徐々に栄養剤を増やしていく必要があります。
一般的には、造設後24~48時間後から、50~100mL程度の水または5%ブドウ糖液から開始することが勧められています(文献3)。
その後、1~3日で栄養量を徐々にステップアップしていき、5~10日かけて最終的に目的の栄養投与量まで増やしていきます。
投与速度は、開始当初は50mL/時程度が標準ですが、慣れてきたら100~200mL/時程度まで増やして、間欠的投与に移行します(図8)。
2栄養剤や水分の注入法の工夫
胃内に注入した栄養剤は、蠕動運動によって徐々に小腸へと送られていきます。一般に、水分よりも栄養剤のほうが、胃内に留まる時間が長い傾向にあります。
嘔吐しやすい患者の場合
水分と栄養剤のどちらを先に投与するかに一定の決まりはありません。
ただし、嘔吐しやすい患者の場合は、水分を先に注入したほうが、嘔吐の頻度が減るという報告もあります(図9、文献4)。
絶食・低栄養患者の場合
胃瘻造設前に、長期間絶食していたり、極端に低栄養状態だったりした場合は、消化管の粘膜が萎縮していることが多く、通常の投与スケジュールでは下痢などの消化管トラブルを起こしやすくなります。そのため、投与スケジュールを変更する必要があります。
このような患者の場合、栄養剤の濃度を薄め(通常の1/2~1/3)にして、経腸栄養ポンプなどを用いてより時間をかけ、徐々に増量していくことで、トラブルを軽減できます。
チューブ型PEG・PEG-Jなどの場合
取り外しのできないチューブ型PEGやPEG-Jなどは、薬剤や栄養剤の投与後に十分なフラッシュ(洗い流し)を行っても、チューブの内腔が細菌により汚染され、下痢などの原因となります。
このような場合は、注入終了後に水でフラッシュを行ったあと、酢水(10倍に希釈した食用酢)を充填しておくことで、清潔状態を保つことができます(図10)。
また、PDNブラシなどによる洗浄を行ってもよいでしょう。
3経腸栄養ポンプの使用
胃瘻を使い始めたとき、下痢・嘔吐を繰り返すときは、通常より遅めの速度で注入すると、症状を軽減できることがあります。しかし、経腸栄養剤は粘性が高いため、滴下が不安定になりやすく、頻繁な速度調節が必要です。
このような場合は、経管栄養専用の経腸栄養ポンプを使用することで、速度調整が容易に、安全に管理できます(図11)。特に、PEG-Jを使用する際は、チューブが詰まりやすいため、経腸栄養ポンプを利用したほうがよいでしょう。
経腸栄養ポンプは現在、数種類が販売されています。専用の栄養セットを用いるため若干のコストがかかりますが、衛生的で管理が容易であり、合併症の発生が減少することに加えて、安全で、看護業務の軽減につながるという利点があります。
在宅療養の場合には、使用する栄養剤の種類によっては健康保険が適用されます(エレンタール®、ツインライン®などの消化態栄養剤のみ)。「在宅成分栄養法指導管理料」(2,500点)や、栄養セット(2,000点)やポンプの費用(1,000点)も、合わせて算定できます。
栄養剤投与開始後の観察(図12)
胃瘻を用いて適切な栄養療法を行うと、患者の栄養状態は著明に改善していきます。
しかし、開始当初に設定した栄養量には、しだいに過不足が生じてくることが多く、定期的なモニタリングと見なおしが必要です。
1腹部症状への対応
投与速度を遅くする
下痢・腹痛・嘔吐などの腹部症状は、胃瘻などの経腸栄養では比較的頻度の高い症状です。
経腸栄養剤の投与速度が速すぎるときに起きやすいため、症状出現時には、栄養剤の投与速度を遅くすることで軽減できることが多いでしょう。
また、浸透圧の高い栄養剤(エレンタール®など)が下痢や腹痛の原因となった場合にも、投与速度を遅くすることで症状が軽減できることが多いです。
栄養剤の浸透圧が、体液とほぼ同じもの(300mOsm/L、メモ1)については、希釈の必要はありません。希釈することによって全体の水分量が増えてしまい、嘔吐などの原因になることがあります。
上記以外の下痢の原因として、①栄養剤の温度が低い、②抗生剤の長期連用、③栄養投与ルートや栄養剤の細菌汚染なども考えられます。
下痢・嘔吐が続く場合の対応
下痢が続く場合は、早めに対応するとともに、原因について考えます。高齢者は脱水や電解質異常を起こしやすいため、長期化するときは末梢静脈点滴を併用することも必要です。
嘔吐は、前述の点に加えて、食道裂孔ヘルニアなどによって胃から食道への逆流が起こる患者の場合にも起こりやすく、栄養剤の半固形化・ゲル化が有効なこともあります。
2長期的な栄養状態と代謝性の変化
胃瘻からの栄養を開始したあとは、定期的に体重や尿量、血液検査データ(アルブミン、電解質、血糖など)をチェックし、再評価します。過不足が生じている場合には、栄養剤や水分を補正し、不足した電解質などを補います。
ナトリウム不足に注意
市販の栄養剤には、ナトリウムが少なめに配合されているものがあります。
内分泌・代謝性疾患や併用薬の影響がないにもかかわらず、血清ナトリウム値が低下する場合には、食塩(塩化ナトリウム)を補います。
低血糖にも注意が必要
胃瘻栄養の患者は、意識障害などがあり、自分で異常を訴えられないことも少なくありません。糖尿病のため経口糖尿病薬やインスリン注射を行っている患者の場合は、低血糖に注意が必要です。
さらに、胃瘻から注入した液体の栄養剤は、通常の食事と比べて、胃からすみやかに十二指腸へ移行します。そのため、胃手術後に起こるダンピング症候群(メモ2)と同様の高血糖や、低血糖症状を起こすことがあります。
栄養終了後に動悸や冷汗などの症状が現れたら、低血糖が起きている可能性があります。このような場合は、経腸栄養ポンプを用いて投与速度を遅くしたり、糖尿病用の栄養剤(グルセルナ®、インスロー®など)に変更したりすると、改善することがあります。
3リフィーディングシンドローム
胃瘻造設前に極端な栄養不良であった患者は、慢性の飢餓状態となっています。そのため、急に栄養療法を開始すると、体液量や電解質などの異常が生じ、心肺機能や神経系の重篤な合併症を引き起こして、致死的状況に陥ることがあります。これを「リフィーディングシンドローム」といいます。
慢性の栄養障害があった患者の場合は、より少なめの栄養量から開始し、より時間をかけて増量するとともに、細かなモニタリングを行う必要があります。
【事例】長期絶食の影響により難治性の下痢が生じた!
適切な投与スケジュールに則って栄養剤投与を開始してもなお、下痢が発生するケースは比較的多いといえます。特に、静脈栄養が長期間行われていた患者などでは、通常よりも注意深い管理が必要となります。
患者の情報
83歳、女性。脳梗塞後遺症のため療養型病院に入院中だったが、誤嚥による呼吸器感染を繰り返すため、食事の経口摂取が困難となり、1か月間、末梢静脈栄養のみが行われていた。今後も経口摂取が困難と予想されたため、家族の希望もあり、PEG造設を行うこととなった。
1栄養剤開始後に下痢が出現
PEG造設は問題なく行われ、造設後2日目に水100mL/回から間欠的に投与を開始しました。嘔吐などのトラブルがなかったため、3日目に栄養剤を開始したところ、頻回の水様下痢が出現しました。
下痢は、栄養剤を注入するたびに起こり、いっこうに改善する様子がありません。そのため、いったん栄養剤注入を中止し、末梢補液を開始せざるを得ませんでした。
2栄養剤投与の再開
下痢が治まった後、経腸栄養ポンプを用いて、より時間をかけて持続的に(50mL/時程度)、水分から投与を再開しました。
2~3日のあいだ下痢が起こらないことを確認してから、1/2程度に希釈した栄養剤を1日あたり400mLから開始。
その後は、数日おきに栄養剤の量をアップし、濃度も通常のものに戻して、栄養再開後3週間目には通常の栄養投与方法に変更可能となりました。
***
この患者の場合では、長期間の絶食によって消化管粘膜の萎縮が起こったため、下痢が遷延したものと思われます。このような場合は胃腸における消化吸収能力が落ちているため、その機能の回復に時間がかかります。最初は少量の栄養剤から開始し、2~3週間かけて目標の栄養量まで増量していくことが肝心です。
経腸栄養ポンプを用いる方法のほかに、寒天で栄養剤を固めて半固形化する方法も下痢に有効との報告もあります。
また、発熱を伴う下痢の場合や頻回の嘔吐を繰り返す場合は、消化管感染症による場合もあるため、主治医に相談が必要です。特に在宅などでは、半固形化栄養材の作り置きや、栄養ボトル・栄養セットのリユースを行わざるを得ないこともしばしばあります。感染が起こらないよう、十分に対策を練っておく必要があります。
[引用・参考文献]
本記事は株式会社照林社の提供により掲載しています。/著作権所有(C)2010照林社
[出典] 『PEG(胃瘻)ケアの最新技術』 (監修)岡田晋吾/2010年2月刊行/ 照林社