緊急PCI施行患者の術前・術後の看護|ICU における循環器内科患者の看護
『ICU看護実践マニュアル』(サイオ出版)より転載。
今回は、「緊急PCI施行患者の術前・術後の看護」について解説します。
西田由佳子
市立青梅総合医療センター 看護副師長
北海道医療センター 診療看護師・クリティカルケア認定看護師
宮崎徹
市立青梅総合医療センター 看護師
- 緊急PCI施行された患者の受け入れ準備を行い、円滑に受け入れを行うことができる。
- 緊急PCI施行患者の観察項目を理解し、看護にあたることができる。
- 血管造影、その他の診断および治療時、橈骨動脈部のカテーテル挿入部位を圧迫止血するために用いる器具であるTRバンド®の安全な止血を行うことができる。
緊急PCI施行患者の受け入れ準備および帰室直後の対応
目的
急性心筋梗塞(acute myocardial infarction:AMI)により、緊急の経皮的冠動脈インターベンション(percutaneous coronary intervention:PCI)施行された患者の受け入れ準備を行い、円滑に受け入れを行うことができる。
目次に戻る
受け入れ準備の実際
必要物品
1受け入れベッドの準備
- バスタオル
- 酸素ボンベ
- 酸素ボンベ架台
- 点滴棒
- 小型心電図モニター
2ベッドサイドに準備するもの
3書類
- TRバンド®エア抜き・VSチェック表(病院施設に応じたもの)
受け入れ準備手順
1心臓カテーテル室より、PCIの施行が決定した段階で受け入れベッドを準備する(図1)。
図1受け入れ準備が整ったベッド
2準備したベッドをカテーテル室に準備する。心臓カテーテル室の処置台の高さに合 わせてベッドの高さをセッティングし、ICUのベッドサイドモニターの動作確認を行う。
3PCIが終了したら患者を迎えにいく。
4カテーテル室看護師より治療結果の申し送りを聞き、小型心電図モニターを装着してICUまたはCCUへ帰室する。
5ICUのベッドサイドモニターを装着してバイタルサイン、胸部症状を把握する。12誘導心電図を施行し、PCI終了時の心電図と比較し評価する。急変時や胸痛出現のときに迅速に対応できるように胸部誘導はテープ式として、施行後はそのまま貼付しておく。
6長時間仰臥位で緊急PCIを施行されていることがあるため、なるべく早く殿部の観察をし、褥瘡の有無の確認を行う。
7医師の指示に従い点滴指示を施行する。
8患者のバイタルサイン測定や処置が落ち着いた時点で、ご家族の体温測定および体調不良の有無を確認し、病院の規定に沿った面会を実施する。
9急変時に備え、ご家族の緊急連絡先を必ず確認しておく。
目次に戻る
緊急PCI施行患者の看護の方法
観察項目
以下の観察項目に沿い看護にあたる。
1心電図波形および不整脈
緊急PCI前後や、症状出現時のモニター心電図、12誘導心電図のSTの経時的変化を比較する。
胸部誘導の心電図は剥がさずに、不整脈出現時にすぐに状態が把握できるようにしておく。
2穿刺部位
検査施行時の穿刺部位は、橈骨動脈・上腕動脈・大腿動脈が選択される(図2)。
図2冠動脈造影検査の穿刺部位とカテーテルの挿入経路
出血、腫脹、血管雑音の有無を確認する。
穿刺部位に強い自発痛・圧痛・拍動性の腫瘤を触れ、連続性の血管雑音(シャント音様)が聴取された場合、動静脈シャントや仮性動脈瘤が形成されている可能性がある。
3末梢部位
穿刺部位の圧迫止血に際し、冷感・チアノーゼ・知覚低下・しびれ・足背動脈の触知の有無をバイタルサイン測定時に観察する。
橈骨動脈穿刺後の場合、止血用押圧器具(TRバンド®)による血流障害を発症することがあるため、穿刺部から遠位側の末梢循環の状態を観察する。
血栓や動脈硬化組織が遊離して、末梢血管に流れることで起こる末梢塞栓動脈症を発症する危険性がある(流れた部位により、下肢動脈塞栓、脳梗塞、腎梗塞、腸管壊死など重大な合併症となる)。
意識レベル、麻痺症状、構音障害、下肢末梢冷感、チアノーゼ、感覚・知覚の変化、足背動脈の触知、腸蠕動運動や腹痛の有無、尿量の減少の観察などを行う。
4造影剤使用による副作用症状の有無
検査中の造影剤使用によるアナフィラキシーショックの危険性があるため、発疹、胸部症状、嘔気、呼吸困難感などを観察する。
目次に戻る
薬剤投与
PCIの施行により、冠動脈血流が再開後に有毒な代謝物や乳酸、カリウムなどが末梢に流れ、一過性の心室性不整脈やST上昇などが出現すること(再灌流障害)が起こりやすい。
そのため、冠動脈拡張効果と、虚血時に心筋を保護する虚血プレコンディショニング効果から、心筋へのダメージを最小限に抑える目的としてシグマート®の持続静注が帰室時より開始される。
また、心不全も合併している場合はドブトレックス®、利尿薬の投与も行う。
目次に戻る
酸素投与
帰室時酸素投与をしていない場合には、心不全を併発していない場合であっても医師に開始するか確認する。
目次に戻る
検査
図3ST上昇に基づく心筋梗塞部位の判断
出典:井上茂亮編著、剱持雄二著:ICUケア観察ポイント帳、日総研出版、2017、p.24より改変
血液検査は、医師指示に応じて帰室後4~6時間ごとに実施し検査データを確認する。
CK、CK-MBは、心筋梗塞時に正常の3倍を超えるとされており、ある量を超えると低下する(=ピークアウト、心筋の梗塞がストップしたことを意味する)。
心不全の評価のため胸部X-P検査がある。
目次に戻る
安静度・飲水量・食事摂取について
心筋梗塞により壊死に陥った組織は脆弱であり、心破裂や心室中隔欠損など機械的合併症を生じる危険があるため、安静を保ち血圧の上昇を抑える必要がある。
検査当日は、嘔気・嘔吐を伴うこともあるため、絶食でベッド上安静としている。
飲水は可能であるが、心不全を併発している場合は水分制限がある。飲水制限量が記載されていない場合などは、医師に確認をする必要がある。
食事摂取は、CKもしくはCK-MBがピークアウトしてから開始となることが多い。
目次に戻る
内服薬
PCI施行後の翌朝から、抗血小板薬(バイアスピリン®100mg、エフィエント®錠3.75mg)、スタチン(脂質異常症治療)薬、PPI(プロトンポンプ阻害)薬などが開始となる。
- 不整脈出現時は、早期に医師に報告をして指示を仰ぐ必要がある。
- 血圧低下時の対応について、昇圧剤の使用によって不整脈が誘発されてしまうこともあるため、患者の状態や不整脈出現の有無などを把握してから、医師に状態を報告し医師の指示を仰ぐ必要がある。
目次に戻る
TRバンド®の管理
穿刺の部位と止血方法は、出血性合併症の少ない方法が選択される。
橈骨動脈アプローチは、止血や疼痛、術後の安静度の管理面で優れている。
止血デバイスのなかのエアバッグタイプの1つである止血用押圧器具(TRバンド®)を例に取り上げる(図4)。
図4止血用押圧器(TRバンド®)
①止血ベルト、②面ファスナー、③緑マーカー、④止血バルーン(大)、⑤止血バルーン(小)、⑥湾曲支持板、⑦逆流弁付き空気注入口、⑧内圧確認用バルーン
看護師は、止血器具の使用方法を知り、安全で確実な操作と観察が必要である。
目次に戻る
TRバンド®の適応
橈骨動脈部のカテーテル挿入部位の止血を目的に使用される。
TRバンド®使用の実際
必要物品
- TRバンド®本体
- TRバンド®専用注射器
- 清潔ガーゼ
- 固定テープ
手順
1手技終了後、刺入部に血液などが付着しないようにガーゼで拭き取り、シースイントロデューサーを2~3cmほど抜いた状態にする。
2TRバンド®止血バルーン(大)中心の緑色マーカーを皮膚穿刺部に合わせ、止血ベルトを手首にまっすぐ密着するように保持し、本品の面ファスナーで手首に固定する。
面ファスナーの端をテープなどで補強しTRバンド®が安易に外れないようにする。バンドは、仕様書に従い正しい向きで装着する。
3専用の注射器を用いて、逆流防止弁付き空気注入口から空気を注入しバルーンを膨らませ刺入部を圧迫止血する。TRバンド®専用空気量調節シリンジを接続する際は、押子をしっかり保持しながら操作する。
4シースイントロデューサーを抜去し穿刺部から出血、皮下出血時の膨隆が起こらない事を確認する。
5その後各施設で決められたプロトコールに従い、バンド内の空気量を調整する(表1)。
表1TRバンド®減圧プロトコールの一例
出典:テルモ:TR bandの使用方法とプロトコール例、https://www.youtube.com/watch?v=NkJb6oXNGfcより一部改変
6圧迫止血終了時、出血した際に再度圧迫できるようにバンドをすぐに外さない。バンド内の空気を抜き、出血がないことを観察する。出血を認めた場合はすぐに同量の空気を注入し医師へ報告する。
- TRバンド®の装着が不安定だと十分な圧迫効果が得られないため、しっかりと密着して固定する。必要であればテープなどで面ファスナーを固定する。
- TRバンド®専用の空気量調節器を使用する際、空気が一気に抜けたり、注入した空気量が不正確になってしまうため、押子をしっかり保持しながら操作する。
- 止血部の観察を定期的に行い、出血や皮下血腫などの変化がない事を確認する。
- 止血に伴う疼痛や末梢循環の観察を行う。
目次に戻る
術後の観察ポイント
出血・皮下出血
TRバンド®は刺入部が見えるため、止血終了の際など刺入部が観察できる利点がある。
出血や皮下出血は圧迫を解除する際に起きやすいため注意深く観察し、出血を確認した場合すぐに空気量を調整する。
橈骨動脈閉塞
橈骨動脈の径、性別、シースのサイズ、検査時間や圧迫時間などが関与しているといわれ、血腫や解離、また内膜増殖に伴う狭小化で血流低下を来す可能性がある。
止血後の動脈触知や末梢側の血流などを観察し、異常があれば医師へエコーによる観察を依頼する。
仮性動脈瘤・動静脈瘤
不十分な止血などで生じる場合がある。聴診での血管雑音を観察し、異常がある場合は医師へエコーによる観察を依頼する。
1)矢島純二:これから始まる心臓カテーテル検査,2013,メジカルビュー社,p.146~161
2)木島幹博:カテーテルスタッフのためのPCI必須知識,第2版,2015,メジカルビュー社,p.195-198
3)https://www.terumo.co.jp/medical/equipment/me209.html,2021年12月6日閲覧
4)Sadaka,M.et al.Incidence and predictors of radial artery occlusion after transradial coronary catheterization. The Egyptian Heart Journal:(EHJ):Official Bulletin of the Egyptian Society of Cardiology,(2019), 71(1).https://doi.org/10.1186/S43044-019-0008-0
5)https://www.youtube.com/watch?v=NkJb6oXNGfc,2021年12月13日閲覧
目次に戻る
本連載は株式会社サイオ出版の提供により掲載しています。
[出典] 『ICU看護実践マニュアル』 監修/肥留川賢一 編著/剱持 雄二 サイオ出版
この連載

ICU看護実践マニュアル
ICU看護に必要なことを収載した書籍の目次ページ。ICUの現場で新人への指導や自身の知識の再構築にも役立つとともに、ICU看護の標準化・手順の見直しにも活用できます。