静注血栓溶解療法を受ける患者の看護|ICU における脳神経外科患者の看護
『ICU看護実践マニュアル』(サイオ出版)より転載。
今回は、「静注血栓溶解療法を受ける患者の看護」について解説します。
黒田明子
市立青梅総合医療センター 看護師
森崇博
市立青梅総合医療センター 脳神経内科医長
- 静脈血栓溶解(rt-PA)療法の対象が発症後4.5時間以内とされているが、治療開始が早ければ早いほど良好な転帰が期待できる。
- 準備を迅速に行い、連携をとって一刻も早く治療できるように心がけたい。
静注血栓溶解療法の目的・適応
静注血栓溶解(rt-PA)療法とは、rt-PAであるアルテプラーゼの静脈内投与による急性期脳梗塞の治療法である。
閉塞している脳血管を再開通させ、不可逆的な脳梗塞に陥ることを回避し、生命予後や機能予後を改善する目的で行われる。
超急性期脳梗塞(発症4.5時間以内)が適応となる。
静注血栓溶解療法の禁忌
rt-PA療法の適応外(禁忌)事項で1項目でも該当すれば実施できない。
「慎重投与」の1項目でも該当すれば適応の可否を慎重に検討する(表1)。
表1静脈血栓溶解療法のチェックリスト
出典:日本脳卒中学会,脳卒中医療向上・社会保険委員会,静注血栓溶解療法指針改訂部会:静注血栓溶解(rt-PA)療法 適正治療指針,第3版,脳卒中,41(3):217,2019より改変
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静注血栓溶解療法を受ける患者の受け入れ準備
必要物品
治療までの時間の制約があるため、以下の準備を迅速に行う。
ベッドサイドに準備するもの
書類
- NIHSS(National institutes of health Stroke Scale)値用紙:15枚程度
- 血圧モニタリング用紙1枚
- 神経学的評価用紙1枚
- NIHSS チェックシート
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モニター設定
血圧モニタリング
血圧測定を投与開始から2時間は15分間隔に設定する。
- 2時間以降、8時間は30分間隔に設定する。
- 8時間以降、24時間は1時間間隔に設定する(24時間以降は、医師の指示に基づく)。
神経学的所見
投与開始から1時間までは15分間隔にて観察を行う。
- 1時間以降、8時間までは30分間隔にて観察を行う。
- 8時間以降、24時間までは1時間間隔にて観察を行う(24時間以降は、医師の指示に基づく)。
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留意点
バイタル測定・神経症状の観察時間の間隔は、基本的に医師の指示に基づいて行うが、患者の状態に合わせ、必要時観察の間隔について医師に相談・確認を行う。
24時間以内は血圧180/105mmHg以下を保つようにする。
rt-PA投与後の後出血の多くは36時間以内に発症するので注意が必要である。
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rt-PA療法の実際
手順
1rt-PA(アルテプラーゼ〔グルトパ®〕)投与の準備をする。
- アルテプラーゼの規格は600万単位+溶解液20mL
- 体重69kg以下の場合:600万単位4本+溶解液を40mL
- 体重70kg以上の場合:600万単位6本+溶解液を60mL
2rt-PA治療の開始が決定。
3医師の指示に基づき、上記のように溶液を調整して、体重から計算した必要量をシリンジに詰めて、シリンジポンプにセットする。
4総量の10%を医師がシリンジポンプで急速投与する(1~2分程度)。
5医師の指示に基づき、残りをシリンジポンプにて1時間で静注する。
650mLのシリンジに入りきらない場合は、急速投与の分と持続静注分に分けて準備する。
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NIHSSを用いた評価
目的
NIHSS値に従い、rt-PA療法施行中の患者の変化および副作用症状を早期に発見することができる。
NIHSSは脳卒中神経学的重症度の評価スケールとして、世界的にもっとも広く利用されている評価法の1つである(表2)。
表2NIHSS評価用紙
出典:Brott T et al:Measurements of acute cerebral infarction:a clinical examination scale. Stroke 20(7):864, 1989
リストの順にチェックし、表の右の空欄に各項目の点数を記入し合計点にて評価する。0点が正常で、点数の高いほど重症となる。
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観察
バイタルサイン測定
出血性合併症の早期発見、血圧上昇に伴う出血性変化の増悪防止のために厳重なバイタルサインの管理(とくに血圧)が必要である。
神経症状の観察
意識レベル・神経症状の観察を行うことでNIHSSの急激な悪化に注意していく必要がある。
- 1頭痛・嘔気・嘔吐の有無
- 2NIHSS値の悪化(5点以上)
- 3脳ヘルニア徴候の有無:血圧上昇、徐脈(クッシング現象)、瞳孔所見(対光反射の消失・左右差・瞳孔不同〔1.0mm以上〕、散瞳)、麻痺の拡大-出現、異常肢位(除脳硬直・除皮質硬直)の有無、呼吸のリズム異常の有無
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方法
NIHSSに準ずる。
留意点
1血圧上昇予防
- Aライン・膀胱留置カテーテル・経鼻胃管挿入等の患者のストレスになるような処置はやむをえない場合を除き、なるべく避けるようにする。
- 医師の指示に基づき、血圧コントロールを行う。
- ベッドアップ15度~30度(医師の指示に基づく):頭蓋内の静脈還流を促す。
- 発熱、頭痛、嘔吐・嘔気出現時は速やかに指示された対症療法を実施し、苦痛軽減に努める。
- 不眠やストレス、不穏行動による興奮状態を避けるため、医師の指示に基づき、鎮痛薬・鎮静薬の投与を行う。
- 排尿時は尿器(男性)、差し込み式便器(女性)を使用し、体動を最小限にして介助を行う。
- 排便時は努責がかからないよう緩下剤の使用も検討する。
- 照度の調整や刺激を避けるための環境調整を行う。
2出血傾向に対する援助
- rt-PA投与後は出血性梗塞などの頭蓋内圧病変だけでなく、全身への影響もあるため、 出血に対する注意が必要となる。
- 出血傾向の早期発見のため検査データ(血小板、PT-INR、APTT、Hb)を確認する。
- 皮膚状態(皮下出血、発赤などの有無)の観察、投与開始前とを比較する。
- 尿の性状(血尿)や消化器症状(消化管出血の有無)を観察する。
- 採血、静脈注射の駆血は最小限にする。採血後は十分に止血を行う。
- 採血痕や末梢ルート刺入部を観察する。
- 血圧測定時のうっ血の予防(マンシェットをきつく締めすぎない)。
- 口腔ケアでは、歯ブラシは小さめのやわらかいものを使用する。
- 出血傾向が強い場合は、歯ブラシの使用を避け、口腔ケア用スポンジブラシや綿棒を使用し、歯肉を傷つけないように注意して行う。
- 点滴のルートやコード類、同一体位による圧迫予防に努める。
- 着衣のしわや乱れによる皮膚の摩擦を最小限にし、清拭は愛護的に行う。
3NIHSS施行時の留意点
- リストの順に施行すること。
- 逆行して評点を変更してはならない。
- 実際に患者が成しえた点数をつける。
- 評価者が推測した点数をつけない。
- 各観察項目の診察をしながら、その結果を記録する。
- とくに指示されている部分以外では、患者を誘導してはならない。
- NIHSS全体をとおして5~10分を目安に評価をする。
- いずれかの項目が実施されなかった場合は、その原因をアセスメントしておく。
- 最初の評価は医師が行う。
- 評価は左→右の順に、麻痺がある場合は健常肢→麻痺側の順に行う。
記録
バイタルサイン測定や観察項目に関しては、ICU経過記録、NIHSS値、血圧モニタリング用紙、神経学的評価用紙を用い観察・記録をする。
報告
NIHSS値の悪化、脳ヘルニア徴候が疑われる場合は、必ず、医師へ報告する。
1)日本脳卒中学会,脳卒中医療向上・社会保険委員会,静注血栓溶解療法指針改訂部会:静注血栓溶解(rt-PA)療法適正治療指針,第3版,脳卒中,41(3):217,2019
2)Brott T et al:Measurements of acute cerebral infarction:a clinical examination scale.Stroke 20(7):864,1989
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本連載は株式会社サイオ出版の提供により掲載しています。
[出典] 『ICU看護実践マニュアル』 監修/肥留川賢一 編著/剱持 雄二 サイオ出版
この連載

ICU看護実践マニュアル
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