急性大動脈解離患者の看護|ICU における循環器内科患者の看護

『ICU看護実践マニュアル』(サイオ出版)より転載。
今回は、「急性大動脈解離患者の看護」について解説します。

 

木村満美子
市立青梅総合医療センター 看護副師長

染谷毅
市立青梅総合医療センター 看護師

 

 

 

 

Key point
  • 急性大動脈解離(Acute Aortic Dissection;AAD)の病態生理を理解し、大動脈解離患者の看護にあたることができる。

 

 

急性大動脈解離の病態

大動脈解離とは、大動脈内に亀裂を生じ、亀裂から侵入する血液により中膜が内外2層に剥離され、その間に偽腔(解離腔)を形成する(図1)。

 

図1大動脈解離の断面図

大動脈解離の断面図

 

壁の破裂や内膜の破綻により、多様な症状を呈する。急性期の死亡率は高く、その予後は不良である。

 

 

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急性大動脈解離の症状

大動脈解離では、部位別に以下のような合併症を発症する(図2)。

 

図2大動脈解離の部位と合併症

大動脈解離の部位と合併症

出典:秦光賢監修:大動脈解離,偽腔による分枝への灌流障害-狭窄・閉塞による症状,病気がみえるvol.2,循環器,第5版,メディックメディア,2021,p.330をもとに作成

 

 

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急性大動脈解離の分類

大動脈の解離は、大動脈の壁が動脈に沿って中膜で解離した状態で、発症すると広範囲の血管に影響する。

 

そのため、血管の状態と解離をともなっている部位によって分類されている(表1)。

 

表1DeBakey分類とStanford分類

DeBakey分類とStanford分類

出典:秦光賢監修:DeBakey分類とStanford分類,偽腔による分枝への灌流障害-狭窄・閉塞による症状,病気がみえるvol.2,循環器,第5版,メディックメディア,2021,p.340~341を参考に作成

 

 

Stanford分類A型では外科的治療の適応となり、Stanford分類B型では保存的治療の適応となる。

 

 

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急性大動脈解離の診断

診断は、胸部レントゲン検査・胸部CT検査が用いられる。

 

胸部レントゲン検査では、縦隔の拡大が特徴的な所見である。しかし、縦隔の拡大が認められなくても症状から大動脈解離が疑われる場合には、CT検査を行う。

 

 

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急性大動脈解離の治療

治療は、大きく内科的治療と外科的治療の2つに分けられる。いずれの場合も、血圧の管理は非常に重要であり、合わせて神経学的所見の観察が必要である。

 

内科的治療時には、降圧薬の持続投与を行い、収縮期血圧を100~120mmHgの範囲を目標にコントロールする。

 

外科的治療に関しては、エントリー(内膜亀裂)によって術式が決定する。

 

弓部に解離があってもエントリーが上行で終わっていれば上行置換で済ませることが多い。弓部にエントリーが及んでいるときは弓部置換を選択する。

 

 

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急性大動脈解離の看護

内科的治療時の看護

当院では、大動脈解離を発症し内科的治療を受ける患者に対してクリニカルパスを適応し、患者の看護にあたっている。

 

以下が、クリニカルパスの患者説明用紙である(図3)。

 

図3当院の集中治療室における内科的治療時の大動脈解離患者に対するクリニカルパス患者説明用紙

 

 

1血圧

観血的動脈血圧にてモニタリングを行う。

 

血圧の左右差を把握するため、各勤務で四肢の非観血的血圧にて測定を行う。

 

 

2鎮痛

大動脈血管の解離によって疼痛を伴うことがあるため、鎮痛薬(フェンタニル®注射液)の持続注射による鎮痛が開始される。

 

疼痛の評価を行い、除痛に努める。

 

患者が強い背部痛・腰痛を発症した場合には、解離腔の伸展が疑われるため速やかに医師へ報告し、あわせてCT検査の準備を行う。

 

 

3不穏・せん妄

弓部分枝への解離腔の伸展・低心拍出症候群の発症に伴い、せん妄になることも考えられるため、意識レベルなどせん妄の評価を各勤務で行う。

 

 

4日常生活

排泄はベッド上となるため、患者に説明をしてベッド上で排泄をしてもらう。

 

患者は、思うように動けないことにストレスを感じることがあるため、常に病状の説明をしながらかかわる。

 

 

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外科的治療時の看護

1血圧

術直後は、ドレーンからの出血量を確認しながら血圧の管理を行う。

 

血圧管理については時期や患者状態によって異なるため、そのつど医師に確認する。

 

 

2出血

人工心肺・低体温の影響で出血傾向が遷延していることがあり、出血のモニタリングは重要である。

 

復温・凝固異常の評価(ACT値など)を行い、必要時、新鮮凍結血漿輸血・血小板輸血の投与を検討する。

 

ドレーンからの排液量・性状を観察する。

 

再開胸の目安は、

 

  1. 1出血量が400mL/時
  2. 2出血量100mL/時が4時間持続している場合
  3. 3心タンポナーデ・混合静脈血酸素飽和度(SvO2)値の低下が認められている場合

 

などである。

 

 

3尿量

大動脈解離を発症した患者では、術前より高血圧症を発症していることが多い。そのため、血圧が高めのほうが、尿量が維持しやすい患者もいる。

 

血圧と尿量は術直後より観察していき、医師に相談しながら投与する薬剤の調節を行っていく。

 

中心静脈圧酸素飽和度のモニタリングは、尿量把握とともに注意深く行っていく必要がある。必要時、利尿剤の投与をする。

 

 

4神経学的所見

術前から総頚動脈の閉塞・狭窄で虚血が起きている場合には、手術によって脳灌流が改善しているか否かを評価する必要がある。

 

大動脈置換術では、血行再建とともに体循環の停止・脳灌流が行われる。

 

どの術式でも上記を行うため適切に脳保護ができていたかどうかを術後に評価する必要がある。

 

麻酔からの覚醒とともに、四肢麻痺の有無・意識レベル・瞳孔所見などの神経学的症状を観察する必要がある。

 

鎮静薬の投与は、患者が麻酔から覚醒したことを確認してから投与を開始する。

 

 

5呼吸管理

術前情報で嗄声や嚥下障害などがあれば、抜管後には誤嚥性肺炎を生じる可能性が高くなる。

 

抜管後は、嗄声や嚥下障害、反回神経麻痺の評価を行いながら食事を開始する。

 

長期間人工呼吸器管理が必要な場合、気管切開が選択されることがある。

 

 

6術後せん妄

緊急手術・長期挿管などの影響で、患者はせん妄状態に陥る。

 

手術が終わったこと、現在の状況・日時などを説明しながらかかわっていく。

 

留意点

Stanford分類A型の急性大動脈解離でも、偽腔閉塞型では内科的治療が行われる場合がある。
反対に、Stanford分類B型で切迫破裂や臓器・下肢虚血などの合併症があれば外科的治療の適応となる。
そのため、患者の症状や循環動態を注意深く観察し、臨機応変に対応する。

 

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引用・参考文献 閉じる

1)秦光賢監修:大動脈解離,病気がみえるvol2,循環器,第5版,メディックメディア,2021,p.338~344
2)宮本伸二・芝田香織・松本鈴子:弓部大動脈置換術 術中管理からみた術後ケアのポイント,HEART nursing,2015,28(1):24~28

 

 


 

本連載は株式会社サイオ出版の提供により掲載しています。

 

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[出典] 『ICU看護実践マニュアル』 監修/肥留川賢一 編著/剱持 雄二 サイオ出版

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