脳血管造影|ICU における脳神経外科患者の看護

『ICU看護実践マニュアル』(サイオ出版)より転載。
今回は、「脳血管造影」について解説します。

 

山本里美
市立青梅総合医療センター 看護副師長

桒原佳世
市立青梅総合医療センター 看護師

藤井照子
市立青梅総合医療センター 脳神経外科医長

 

 

 

Key point
  • 脳血管造影がスムーズに行えるように準備する。
  • 検査中の流れや合併症が理解できる。

 

 

脳血管造影とは

脳血管造影の目的

血管造影検査とは、デジタルサブトラクション血管造影(DSA〔digital subtraction angiography〕)を用いて、脳血管自体や血行動態の正常/異常、脳動脈瘤などの手術適応の評価を行うものである。

 

 

脳血管造影の適応

脳の血管病変を疑うときや、またこれらの術前および術後の血行動態の評価をする際に適応となる。

 

 

脳血管造影の検査の概要

脳血管をヨード系造影剤で造影し、連続的にX線撮影して、頭蓋内部のさまざまな病気を診断する検査である。

 

 

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脳血管造影の準備(各施設ごとの基準による)

患者の準備(病棟または救急外来)

手順

1患者にオリエンテーションを行う(点滴、排泄方法、移動方法、安静時間、食事など)。

 

2テープ式のおむつ、検査着に着替える。

 

3膀胱留置カテーテルを挿入する(検査時間による)。

 

4除毛する(橈骨動脈穿刺、大腿動脈穿刺ともに左右除毛)。

 

5マーキングをする(橈骨動脈・上腕動脈穿刺の場合は左右の橈骨動脈・上腕動脈、大腿動脈穿刺の場合は左右の足背動脈の触知可能な所にマジックでマーキング)。

 

6点滴ルートは基本的に左上肢に留置する(延長チューブ75cmを2本、三方活栓2個、輸液セット)。

 

左上肢に点滴留置できない場合は右上肢でもよいが、その場合は延長チューブを1本追加する。橈骨動脈付近を避けることがコツである。

 

7前投薬指示があれば投与し、鎮静薬のときはストレッチャーで検査室へ移送する。

 

 

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検査前の確認事項

  • 同意書
  • 既往歴
  • 薬剤アレルギーの有無(とくに造影剤)
  • 感染症の有無
  • 腎機能
  • ビグアナイド系糖尿病薬の服用の有無(留意点:ヨード造影剤の投与で乳酸アシドーシスを起こす可能性があるため、一時的な休薬が必要)
  • 抗凝固薬や抗血小板薬服用の有無(当院では休薬しない)
  • 穿刺部位
  • 前投薬の有無
  • 金属・装飾品装着の有無(義歯・眼鏡・コンタクトレンズ・補聴器・指輪・ネックレス、ヘアピンなどの髪留め、金属入りのマスクなど)

 

 

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必要物品の準備(当院の場合)

必要物品(共通物品)

 

脳アンギオキット(図1参照)
  • トレイ(2個)
  • オイフテープ(4枚)
  • 滅菌透明フィルム被覆材(テガダーム®、1枚)
  • 滅菌8つ折ガーゼ(マルチテトラガーゼ®、10枚)
  • ロック付きシリンジ10mL(4本)
  • ロック付きシリンジ5mL(1本)
  • 消毒用深型トレイ(1個)
  • 500mLビーカー(2個)
  • 300mLビーカー(2個)
  • アンギオドレープ(1枚)
  • 鉗子ケリー(直)(1個)
  • 機械台用滅菌ドレープ120×150cm(1枚)

 

図1脳アンギオキット

脳アンギオキットの写真

 

  • 500mL 用加圧バッグ(1個)
  • 注射針18G(1本)
  • 注射針23G(2本)

 

  • バルーン拡張式血管形成術向けカテーテル用コネクタ(Yコネクタ)(1個)
  • 耐圧活栓(ストップコック®)(1個)
  • アンジオグラフィコントロールシリンジ(1個)
  • 灌流チューブ(ディスポーザブルアンギオキット®、2個)(図2参照)

 

図2脳アンギオキット 2

脳アンギオキットの物品

 

大腿動脈穿刺時止血用物品

  • 滅菌アンギオ止血綿®(1個)
  • 粘着性弾力包帯(エラテックスS®40cm1枚、35cm2枚)
  • 創傷用粘着ドレッシング材(デルマポア3号®、1枚)
  • 鼠径部圧迫帯(1本)
  • 非アルコール性皮膜スプレー(図3参照)

 

図3大腿動脈穿刺時止血用物品

大腿動脈穿刺時止血用物品

 

 

留意点

鼠径部圧迫帯は患者の体格に合うサイズを選択する。サイズが合わない場合は、圧迫止血ができない、または下肢の虚血のリスクがある。

 

 

橈骨動脈・上腕動脈穿刺用物品

  • 橈骨動脈穿刺時:橈骨動脈止血器(TRバンド®、図4
  • 上腕動脈穿刺時:ブラキアル用止血用押圧器具(ブリードセーフ®)

 

図4橈骨動脈止血器(TRバンド®)

 

 

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薬剤準備

  • 生理食塩液(大塚生食注 広口開栓®)500mL+ヘパリンナトリウム注N®5000単位(3個)
  • 生理食塩液(大塚生食注ソフトバッグ®)500mL+ヘパリンナトリウム注N®5000単位(1個、以下「ヘパリン生食」とする)
  • リドカイン塩酸塩キット(キシロカイン注シリンジ1%®、1個)
  • ポビドンヨード
  • 非イオン性尿路・血管造影剤(イオパミドール300®)50mL(1個)
  • ハイポアルコール®、ペンタゾシン(ソセゴン®)、ジアゼパム(ホリゾン®)

 

 

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受け入れ準備

手順

1書類(コスト台紙、IVR看護記録)

 

2処置台にバスタオルを敷き、その上に防水シートを敷く(図5参照)。

 

3患者の右側にワゴンを設置する。ワゴンの上にアンギオセットを清潔操作で広げる(図6参照)。

 

図5処置台の準備

脳血管造影の際の処置台の準備

 

図6物品の準備

脳血管造影の際の物品の準備

 

4共通物品と1%キシロカインシリンジをワゴンに清潔操作で出す。

 

5医師が指示したカップに広口ヘパリン生食を7分目程度入れる。残りのヘパリン生食はトレイの中に底から2cm程度まで注ぎ入れる。

 

6造影剤を医師に指示されたカップに注ぎ入れる。

 

7ソフトバッグのヘパリン生食をエア抜きし、加圧バッグに加圧せずにセットし、処置台の点滴台に吊るす(図7)。

 

図7ヘパリン生理食塩液の準備

ヘパリン生理食塩液の準備

 

8線量計を、男性は胸ポケット、女性は腰ポケットに装着する。

 

9プロテクター、X線防護用グラス(パノラマシールド®)を装着する。

 

10適切な個人用防護具(PPE)を選択し、装着する。

 

 

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脳血管造影検査の実際

患者入室

手順

1患者確認(患者にフルネームで名乗ってもらう、ネームバンドの確認、同意書の氏名)

 

2患者用マスクを非金属のサージカルマスクに付け替える。

 

3患者を処置台へ臥床させる。心電図モニター血圧計(穿刺部位と対側に装着)・SpO2モニター(足趾に装着)を装着し、血圧はインターバル設定で定時測定する。

 

4術中の体位保持ができるよう、必要時固定具を使用する(安静が保持できない場合は、転落、不用意なカテーテル抜去による出血の危険がある)。

 

5「術中は動かずに、苦痛などあれば声で知らせるよう」患者に説明する。

 

6穿刺部の下に吸水シートを敷き、大腿動脈穿刺時は陰部を局所カバーでおおう。

 

7医師が穿刺部を消毒し、滅菌穴あきドレープをかける。大腿動脈穿刺時は右鼠径部を消毒、橈骨動脈穿刺時は右手首を消毒する。

 

8清潔野の医師からディスポーザブルアンギオキット®の針側を受け取り、灌流用の加圧バッグにセットしたヘパリン生食につなぐ。医師の指示があったら加圧バッグを加圧する。

 

 

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検査手順

手順

1局所麻酔直前に、タイムアウトを実施。

氏名・検査内容・穿刺部位・使用予定薬剤などを確認し、情報共有する。

 

2穿刺部位に局所麻酔を行う。

 

3麻酔後、シースを挿入する。

 

4ガイドワイヤーを挿入する。

 

5造影カテーテルを挿入する。

 

6医師より指示があればペンタゾシン(ソセゴン®)、ジアゼパム(ホリゾン®)の指示量を静脈注射する。

 

留意点

薬剤使用後は、患者の状態変化を十分に観察する。とくに、血圧低下・呼吸抑制に留意する。

 

 

7正面・側面3Dをそれぞれ造影撮影する。

 

8プロタミン®全量投与後、シースを抜去しアプローチ部位の止血をする。

 

 

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止血

大腿動脈穿刺時は、10分程度用手圧迫する。

 

用手圧迫後、創傷用粘着ドレッシング材を貼り、止血綿を当てた上から粘着性弾力包帯とアンギオバンドで圧迫固定する(図8)。

 

図8大腿動脈穿刺部位の圧迫固定

大腿動脈穿刺部位の圧迫固定

 

粘着性弾性包帯を貼付前に非アルコール性皮膜スプレーを皮膚に噴霧し、皮膚保護を行う。

 

橈骨動脈・上腕動脈穿刺時はTRバンド®やブリードセーフ®で圧迫止血する。TRバンド®使用時は、エア注入量を確認し、医師にエアを抜く量と時間を確認する。

 

 

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検査後

大綿球またはガーゼにハイポアルコール®をかけて消毒し、清拭する。

 

病棟看護師へ検査結果・穿刺部位・薬剤使用の有無、圧迫解除時間(検査4時間後)、安静解除時間(翌朝)を申し送り、該当病棟へ移動する。

 

患者の被曝線量が多い場合は、病棟スタッフへ申し送る。

 

退室後は、止血状況と末梢循環の観察を行う。

 

留意点

大腿動脈穿刺時は、穿刺部位の安静保持のため下肢伸展と臥床安静となるため療養環境を調整する。

 

 

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観察ポイント

1検査中のバイタルサイン

2頭痛、嘔気、嘔吐の有無

3穿刺部からの出血の有無、腫脹の有無、知覚・動き・しびれの有無、末梢冷感・チアノーゼの有無、穿刺部痛の有無、足背動脈触知左右差の有無

4薬剤を使用した際の副作用の有無

5患者の被曝線量

 

 

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記録内容

  • 入退室時間
  • バイタルサイン
  • 投与中の輸液内容の残量
  • 尿量
  • 薬剤使用の有無・時間
  • アプローチ部位
  • 使用したデバイスの種類・規格
  • 造影部位
  • 造影剤の使用量
  • 被曝線量
  • 圧迫解除時間

 

などを記録する。

 

 

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脳血管造影検査の合併症と看護のポイント

1穿刺部の止血不全

止血が不十分だと皮下血腫や仮性動脈瘤を形成する場合がある。

 

ヘパリンを使用しており、通常より止血しにくい状態となっている。

 

症状がみられた場合は迅速に圧迫止血をし、医師へ報告をする。また、後腹膜血腫を疑い、バイタルサインに注意する。

 

頻脈頻呼吸、血圧低下があったら、穿刺部などに出血がなくても医師へ早急に報告する。また、仮性動脈瘤を形成した場合は、外科的な血管形成術が必要となる。

 

 

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2虚血性合併症

血栓、血管壁プラーク、空気などにより脳血管を閉塞するリスクがある。

 

意識障害麻痺、構音障害、失語、視野障害などが生じた場合は、CTやMRIなどの画像検査、造影中であれば追加治療をすることもある。

 

出棟時と変化がないか、検査直後、申し送り時の所見など異常の早期発見が重要となる。

 

 

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3血管損傷・過灌流による出血

血管内の機械的操作により、血管損傷などで出血性合併症の危険性がある。

 

頭痛、嘔気や出血部位に準じて虚血性合併症と同様の症状が生じる。

 

 

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4アナフィラキシー

造影剤投与によりアレルギー症状(発疹、瘙痒感、紅斑、口唇や口蓋垂などの浮腫)が出現する危険性がある。造影剤投与後数分~数時間で発生することが多い。

 

皮膚所見、患者の訴えに注意する。

 

呼吸困難・血圧低下・意識障害などの重篤な副作用に進行する場合もあり、すぐに対応できるよう、バイタルサイン測定、酸素投与、アドレナリン投与など準備しておく必要がある。

 

 

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5X線の過度の被曝

一定以上の放射線を被曝した場合に、皮膚障害(紅斑、脱毛など)が生じる危険性がある。

 

一過性紅斑は皮膚線量2グレイ(Gy)から発生する可能性があるとされている。再診時の外来看護師にも申し送る。

 

 

引用・参考文献 閉じる

1)青梅市立総合病院 脳血管造影検査手順
2)野口純子:メディカルスタッフのための血管内治療シリーズ,メディカテ②,全身疾患・血管内治療の流れと看護のキホン早見帳,野口純子編著,メディカ出版,2019,p.22~41
3)野口純子:④画像診断を応用した治療-IVRにおける看護,IVR看護:総論,看護技術,2011,57(11):34-36201
4)小島隆生:1からわかる脳血管内治療,特集脳血管治療とは,脳神経看護は“ 知れば知るほど” おもしろい!,BRAIN NURSING,2017,33(11):8~13
5)厚生労働省ホームページ:電離放射線障害防止に関する参考資料,https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/roudoukijun/anzen/0000186714_00001.html より2012年12月8日検索
6)医療スタッフの放射線安全に係るガイドライン,suisyoutai_pnf_0807final.pdf(umin.ac.jp) より2012年12月8日検索

 

 


 

本連載は株式会社サイオ出版の提供により掲載しています。

 

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[出典] 『ICU看護実践マニュアル』 監修/肥留川賢一 編著/剱持 雄二 サイオ出版

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