内分泌機能検査|検体検査(血液検査)
『看護に生かす検査マニュアル』より転載。
今回は、内分泌機能検査について解説します。
高木 康
昭和大学医学部教授
〈目次〉
- 内分泌機能検査とはどんな検査か
- 下垂体機能検査
- ・成長ホルモン(GH)
- ・プロラクチン(PRL)
- ・黄体化ホルモン(LH)・卵胞刺激ホルモン(FSH)
- ・甲状腺刺激ホルモン(TSH)
- ・副腎皮質刺激ホルモン(ACTH)
- ・バソプレシン(抗利尿ホルモン、ADH)
- 甲状腺機能検査
- 副腎皮質機能検査
- ・コルチゾール
- ・アルドステロン
- 副腎髄質機能検査
- 性腺機能検査
- 内分泌機能検査の看護上の注意点
内分泌機能検査とはどんな検査か
内分泌疾患の診断は、血中、尿中ホルモンの基礎値や代謝産物の測定により行われる(内分泌検査参照)。しかし、内分泌系の調節はフィードバック機構などが関与するため、上位ホルモンと標的臓器ホルモンの基礎値だけでなく、その調節因子を組み合わせて測定することが必要になる。また、内分泌疾患は、単回測定で得られる検査結果のみでは正確な病態判断ができない場合がある。そこで、ホルモン分泌の動態を把握するために種々の負荷試験が行われる。
内分泌負荷試験には、分泌不全を疑う場合の分泌刺激試験と、ホルモン分泌過剰を疑う場合に行う分泌抑制試験の2種類がある。この項では、各種負荷試験を含めて内分泌機能検査の各論について述べる。
下垂体機能検査(表1)
成長ホルモン(growth hormone;GH)
- GH分泌不全では低身長症(GHD)となる。成長ホルモン刺激試験として行われているのは、インスリン低血糖、アルギニン、L-ドーパ試験があり、GH最大値が3ng/mL以下の場合は分泌低下を考える。
- 先端巨大症と下垂体性巨人症ではGH分泌過剰が認められる。抑制試験のブドウ糖負荷試験では、正常者は負荷後2時間までにGHは3ng/mL以下に抑制されるが、GH産生過剰症では抑制されない。
プロラクチン(Prolactin;PRL)
- 下垂体PRL分泌は、視床下部からのPRL分泌抑制因子(PIF)により負に調節され、他の下垂体ホルモンとは異なるのが特徴である。
- 高PRL血症は、下垂体腺腫、薬剤性高PRL血症、原発性甲状腺機能低下症、腎不全でみられる。血中PRL濃度が上昇すると、性腺機能低下症と乳汁漏出症の臨床症状が現れる。PRL抑制試験にはブロモクリプチン試験とL-ドーパ試験がある。
- PRL分泌低下は、下垂体障害やドーパミン作動薬投与による。PRL放出刺激試験には、TRH負荷試験が行われる。
黄体化ホルモン(luteinizing hormone releasing hormone;LH)・卵胞刺激ホルモン(follicle stimulating hormone;FSH)
- 血中LH・FSH濃度の低下は、ほとんどが下垂体機能障害による。分泌刺激試験は、GnRH(LHRH)負荷試験が一般的である。
甲状腺刺激ホルモン(thyroid stimulating hormone,thyrotropin;TSH)
- 分泌刺激試験にはTRH負荷試験を行う。正常ではTRH投与後15〜30分でTSHはピークとなり(10μU/mL以上)、下垂体障害によるTSH分泌不全では反応が低下する。
- 内因性TRH分泌不全による甲状腺機能低下症では、TRH試験でTSH上昇がみられることが多いがピーク出現は遅れる。
- 原発性甲状腺機能低下症ではTRH試験の反応も過剰となる。
副腎皮質刺激ホルモン(adrenocorticotropic hormone;ACTH)
- 分泌抑制試験にはデキサメタゾン抑制試験が行われる。夜11時にデキサメタゾン0.5mgを経口投与し、翌朝8時の血中コルチゾールが5μg/dL以下に抑制されればクッシング症候群は否定的である。
バソプレシン(抗利尿ホルモン、ADH)
甲状腺機能検査
- 甲状腺腫による主要疾患の鑑別を図1に示した。機能亢進症で頻度が高いのは、バセドウ病、亜急性甲状腺炎、無痛性甲状腺炎である。機能低下症では橋本病が高い頻度でみられる。
- 視床下部-下垂体-甲状腺系には、甲状腺ホルモンのフィードバック機構が存在するため、TSHへの抑制機構の評価を行い鑑別する。一般に血中遊離トリヨードサイロニン(triiodothyronine;T3)、サイロキシン(thyroxine;T4)値はTSH値よりも先行して変動するため時間的推移を考慮して判断する。
- 続発性甲状腺機能異常が下垂体性か視床下部性かの鑑別に、前述したTRH負荷試験を用いる。
副腎皮質機能検査
コルチゾール
- コルチゾール値の異常は、副腎皮質そのものに異常がある場合(原発性)、視床下部からのCRHあるいは下垂体前葉からのACTHの分泌異常(続発性)によって起こる。
- コルチゾール高値が得られクッシング症候群を疑う場合、下垂体機能検査で述べたデキサメタゾン抑制試験を行う。
- CRH負荷試験は、クッシング症候群の場合は増加反応を示すが、副腎性の場合は無反応である。
- コルチゾール低値のときには、障害部位の判定検査を行う。同時測定したACTH値が高値ならばアジソン病を考える。ACTH値が低値ならば、CRH負荷試験やインスリン低血糖刺激を行い、反応がなければ下垂体性、CRHに反応しインスリン低血糖に反応がなければ視床下部性が考えられる。
アルドステロン
- 血中アルドステロン濃度の測定は、高血圧の原因判定や電解質異常がみられた場合などに行われる。アルドステロンは、年齢、日内変動、食塩摂取、薬物の影響などで変動するので注意が必要である。
- アルドステロン値は加齢とともに減少する。立位では臥位の2倍程度に増加する。アルドステロンの分泌は一部ACTHにより調節を受けるため、夜間に低値、早朝に高値となる。食塩摂取量が多いとレニン-アンジオテンシン系が抑制され、アルドステロン濃度は低値となる。
副腎髄質機能検査
- 尿中カテコールアミンの基準値は1日総排泄量として、アドレナリン3〜15μg、ノルアドレナリン20〜120μg、ドーパミン100〜700μgである。
- 尿中カテコールアミン測定用の蓄尿びんには6規定塩酸30mLを入れ、カテコラミンの分解を防止する必要がある。α-メチルドーパ、テトラサイクリン、エリスロマイシン、L-ドーパなどの薬物、また、バナナにはカテコールアミン様物質が多量に含まれ、カテコールアミン測定値に影響するため摂取を中止しておく。
- 褐色細胞腫の補助診断として、グルカゴンテストなどの副腎髄質系負荷試験がある。
性腺機能検査
- 男性ホルモンとは、C19ステロイドの総称であり、テストステロン(testosterone;T)は最も強い男性ホルモン作用を有するので基礎値を測定する。視床下部-下垂体-精巣系の検査として、GnRH負荷試験とクロミフェン負荷試験が行われ、LHとFSHの変動をみる。
- 卵巣ホルモンのエストラジオール(estradiol;E2)は、LHおよびFSHにより刺激されるため、性周期による変動がある。卵巣性性腺機能低下症ではきわめて低い値を示す。
- 視床下部-下垂体-卵巣系性腺機能低下症の判別にはGnRH負荷試験が有効で、LHとFSHを測定する。下垂体性では無反応か極度の低反応、視床下部性では中等度反応、卵巣性では高反応となる。
内分泌機能検査の看護上の注意点
- 負荷試験では、患者の不安を軽減するとともに、患者の協力が得られるように、十分な説明をすることが重要である。
- 検査によっては食事・水分摂取の制限や、蓄尿の必要な場合もあるので十分に説明する。
- 試験薬であるホルモン製剤により副作用が現れることがあり、バイタルサインにも注意が必要である。
- 各種負荷試験の実際を表2に示す。
略語
- CRH:corticotropin-releasing hormone(副腎皮質刺激ホルモン放出ホルモン)
- GHD:growth hormone deficiency[short stature](成長ホルモン分泌不全[低身長])
- GnRH:gonadotropin-releasing hormone(ゴナドトロピン放出ホルモン)
- LH-RH:luteinizing hormone releasing hormone(黄体化ホルモン放出ホルモン)
- PIF:prolactin release-inhibiting factor(プロラクチン放出抑制因子)
- TRH:thyrotropin releasing hormone(チロトロピン放出ホルモン)
本記事は株式会社サイオ出版の提供により掲載しています。
[出典] 『新訂版 看護に生かす検査マニュアル 第2版』 (編著)高木康/2015年3月刊行/ サイオ出版