最終更新日 2019/06/06

同種造血幹細胞移植

同種造血幹細胞移植とは・・・

同種造血幹細胞移植(どうしゅぞうけつかんさいぼういしょく、allogeneic hematopoietic stem cell transplantation)とは、造血幹細胞移植の種類の一つである。同種移植ともいう。

 

通常の化学療法より抗腫瘍効果を高めるために、前処置として移植前に大量の抗がん剤投与や全身放射線照射(TBI)を行うことで患者の残存する腫瘍細胞を減少させた後に、健常人ドナーより提供された骨髄または末梢血造血幹細胞、あるいは凍結保存しておいた臍帯血を輸注する造血幹細胞移植の方法で、血液疾患に対する根治的治療法の一つである。

 

同種造血幹細胞移植は、一般に急性白血病骨髄異形成症候群再生不良性貧血などに適応となる。

 

「同種」とは自己以外のヒトをドナーとする場合を言い、対してヒト以外の動物をドナーとする場合を「異種」移植と呼ぶ。移植前処置を実施した後に自己由来の造血幹細胞を輸注する方法を「自家」造血幹細胞移植と言い、「同種」造血幹細胞移植と比較されるが、各々の治療の原理は異なる。

 

同種造血幹細胞移植の種類

自家造血幹細胞移植は大量の抗がん剤投与を行った後、造血機能の回復を助けるために、事前に採取しておいた自己の幹細胞を輸注するもので、治療の原理は化学療法の延長であり、抗腫瘍効果は前処置(大量抗がん剤や放射線照射)による効果のみである。

一方、同種造血幹細胞移植の場合、他者のドナー由来の幹細胞を輸注することで、ドナーの免疫担当細胞と自己の細胞との間で免疫反応が生じる。そのため、抗腫瘍効果は前処置による効果のみならず、ドナー由来の免疫担当細胞による移植片対白血病・リンパ腫(GVL)効果も期待できる。

 

造血幹細胞源

造血幹細胞源は、骨髄、末梢血、臍帯血の3つに分類される。骨髄は全身麻酔下でドナーの腸骨から骨髄血を採取する。末梢血はドナーに顆粒球コロニー刺激因子(G-CSF)を投与し、アフェレーシスを行って採取する。臍帯血は出産時に摘出した胎盤と臍帯から採取するため、ドナーへの負担はなく、採取後は各地の臍帯血バンクで使用されるまで凍結保存される。

 

ドナーは一般的にヒト白血球抗原(HLA)適合血縁者が第一選択となる。しかし、わが国を含め少子化の進む先進国で得られる確率は30%未満とされている。第二選択としては、HLA遺伝子型(アリル)適合非血縁者で、主に骨髄バンクを介して検索されるが、登録から移植実施までに期間を要することが問題となる。

 

合併症

近年、上記以外にも臍帯血やHLA半合致ドナー(現在わが国では臨床試験での適応のみ)などの代替ドナーソースの選択肢が増え、ドナーの入手は以前より容易となった。また、前処置に関しても、骨髄破壊的前処置に加え、骨髄非破壊的前処置の導入により、高齢者や合併症を有する患者に対する移植の適応が拡大した。一方で、同種造血幹細胞移植は、移植片対宿主病(GVHD)や生着不全、感染症などの移植合併症が多く、治療関連死(非再発死亡割合)は概ね10〜30%とされている。カルシニューリン阻害薬を中心とした免疫抑制剤(タクロリムスやシクロスポリンなど)を使用しGVHD予防を行うが、特にHLA不適合移植や非血縁移植、末梢血幹細胞移植ではGVHDを発症するリスクが高い。急性期(移植後100日未満)には、主に皮膚肝臓、腸管が標的臓器となり、各々皮疹、黄疸下痢などの症状を生じ、重症例では副腎皮質ステロイドの全身投与が必要となる。

 

移植前の合併症発症のリスク評価として、併存疾患・合併症のスコア(Hematopoietic Cell Transplantation-Comorbidity Index;HCT-CI)が広く使用されている。移植前に患者の全身状態の評価を行い、原疾患や移植前病期などを踏まえ、移植適応に関しては慎重に検討する必要がある。


引用参考文献
1)Sorror ML, Maris MB, Storb R, et al..Hematopoietic cell transplantation (HCT)-specific comorbidity index: a new tool for risk assessment before allogeneic HCT.blood.106.2005,2912-2919.

執筆: 藤本亜弓

島根大学医学部附属病院  腫瘍・血液内科医科医員

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