移植片対宿主病とは・・・
移植片対宿主病(いしょくへんたいしゅくしゅびょう、graft versus host disease; GVHD)とは、造血幹細胞とともに輸注されるドナー由来の免疫担当細胞(主にT細胞)が、患者(レシピエント)由来の非自己抗原を認識することで患者の各種臓器を攻撃する免疫学的反応である。
発症する時期により造血幹細胞の移植後早期(100日以内)の急性GVHDと、移植後100日以降の慢性GVHDに区別されてきたが、近年は症状の特徴に従い発症時期に関わらず診断することが提唱されている(NIH基準)。
HLA不適合移植や非血縁移植、また末梢血幹細胞移植において発症リスクが高いことが知られている。
症状
急性GVHDは、主に皮膚、消化管、肝臓に症状が現れる。皮膚の症状では四肢、体幹などに掻痒を伴う紅斑が出現する。消化管の症状としては、悪心、嘔吐、食思不振、水様性下痢を生じることが多い。肝臓のGVHDは比較的まれで、単独で発症することは少なく、多くは皮膚や消化管のGVHDと共に総ビリルビンやALPの上昇などで現れることが多い。
慢性GVHDは、多臓器に症状が及び、自己免疫性疾患に類似した病態を示す。皮膚、肝臓、分泌腺組織などを中心に長期に増悪と寛解を繰り返しながらさまざまな症状を呈し、移植後のQOL(Quality of life)を悪化させる主な原因となる。
検査・診断
診断は、基本的に生検でなされる。
皮膚GVHD
発赤部位を生検。特に播種性真菌感染症やウイルス感染症などによる皮疹や、悪性リンパ腫や白血病細胞の浸潤による皮疹との鑑別が重要である。
腸管GVHD
内視鏡的に腸管粘膜を生検。病理所見で、リンパ球の浸潤と上皮の萎縮(アポトーシス)像を認める。特に前処置関連毒性によるもの、サイトメガロウイルス腸炎、血栓性微小血管症(TMA)、感染性腸炎、偽膜性腸炎などとの鑑別が重要である。
肝GVHD
生検できない場合も多く、T-bilやALP/γ-GTPの上昇などで臨床的に判断することが多い。特に肝中心静脈閉塞症/類洞閉塞症候群(VOD/SOS)、薬剤性肝障害との鑑別が重要である。
治療法
急性GVHDの一次治療は、副腎皮質ステロイドの全身投与である。ステロイド抵抗性のGVHDの治療法は確立していないが、近年間葉系幹細胞(MSC)の使用が増えている。その他、抗胸腺免疫グロブリン(ATG)やミコフェノール酸モフェチル(MMF)などが使用される。
予防
GVHDの予防として、通常は移植前日からタクロリムス(TAC)やシクロスポリン(CSP)などのカルシニューリン阻害薬やミコフェノール酸モフェチル(MMF)などの免疫抑制薬を使用する。また、移植後にメトトレキサート(MTX)も併用する場合もある(通常はTAC+MMFかTAC+MTXのいずれか)。
また、近年増加しているHLA半合致移植(ハプロ移植)の場合のGVHD予防法は、day3、4にシクロホスファミドを投与(postCY)し、タクロリムス(TAC)とミコフェノール酸モフェチル(
引用参考文献
1)Jagasia MH.et.al .cGVHD.Biology of Blood Marrow Transplantation.21(2),2015,389-401.
2)日本造血細胞移植学会.“造血細胞移植ガイドラインGVHD 第3版”.