移植前処置とは・・・
移植前処置(いしょくぜんしょち、conditioning regimen)とは、造血幹細胞移植に先行して実施される大量化学療法や全身放射線照射(TBI)を行うこと(処置)である。
移植前処置は、用いる抗がん薬投与量や放射線照射量に応じて、骨髄破壊的前処置(MAC)と強度減弱前処置(RIC)とに分けられる。MACを用いた移植を骨髄破壊的移植(フル移植)、RICを用いた移植を骨髄非破壊的移植(ミニ移植)という。
MACとRICを分類する定義はさまざまなものが提唱されているが、TBI 8Gy(グレイ)以下、ブスルファン 9mg/kg未満、メルファラン 140mg/m2以下を満たす場合をRICとするCenter for International Blood and Marrow Transplant Research(CIBMTR)の定義が最も用いられている。
目的
移植前処置を実施する目的は、大きく2つある。
(1)大量化学療法や全身放射線照射を実施することで、残存する腫瘍細胞を減少させること
(2)ドナーから移植した幹細胞の拒絶を防ぐため、患者の免疫を抑制すること
主な合併症
移植後早期には粘膜障害が生じやすく、下痢や口腔内粘膜障害などを呈することが多い。特にTBI含有骨髄破壊的前処置で生じやすく、メルファラン、エトポシド、ブスルファンなどの薬剤を使用した場合に高度の粘膜障害を生じやすい。
生着前後・移植後早期には、肝中心静脈閉塞症/肝類洞閉塞症候群(SOS/VOD)が生じることがある。主な症状として右上腹部痛、肝腫大、腹水貯留、体重増加、総ビリルビン値上昇(黄疸)などを呈する。ブスルファンを含む前処置(特に骨髄破壊的前処置)や、TBIなどがリスク因子となる。
また、特に同種造血幹細胞移植後は、生着までの約2~3週間の好中球減少期がある。これに加え、移植前処置による粘膜障害や、免疫抑制剤やステロイド投与などによる細胞性免疫不全および液性免疫不全が生じる。このため感染症発症のリスクが高く、感染症発症後の死亡率も高い。
好発微生物は、移植後の時期により異なる。特に好中球生着前には、グラム陽性球菌やグラム陰性桿菌などによる細菌感染症や、カンジダなどの真菌感染症が問題となることが多い。生着前後の時期には、ヒトヘルペスウイルス6型(HHV-6)感染による脳炎に注意する。
引用参考文献
1)福田隆浩.造血幹細胞移植ポケットマニュアル.医学書院,2018,490p.(ISBN:9784260031608)