心臓手術後の循環動態の管理
『本当に大切なことが1冊でわかる循環器』(照林社)より転載、Web掲載にあたり一部改変。
内容は書籍刊行当時のもの。
今回は心臓手術後の循環動態の管理について解説します。
柳生阿希
新東京病院看護部
〈目次〉
術後の循環動態の管理
術後の循環動態の管理は、手術によってダメージを受けた心臓の機能が戻り、きちんと機能するまで低心拍出量症候群(LOS)を起こさないように管理することが重要です。
心拍数の管理
術直後は心臓のダメージがあり、心筋虚血状態になっていることで一時的に心機能が低下しているため、心拍数が低下すると心拍出量が著しく維持できない状態になります。そのため、心拍数の維持が必要になり、一般的には80~90回/分前後でコントロールしていきます。
術後はカテコラミンの投与により、心拍数の管理も行っていますが、カテコラミンが高流量で投与されると頻脈になる可能性があります。心拍数の増加は心筋への酸素供給量が低下し、心負荷がかかるので注意が必要です。また、徐脈に対しては一時的ペースメーカを使用してコントロールします。
出現の多い不整脈である心房細動は、洞調律のときと比べると心拍出量は20~30%低下しているため、術後24時間以内に発症すると循環動態の維持ができなくなる可能性があります。また、術後2~3日目はリフィディング(利尿期)に入り、利尿が亢進し、低カリウム血症などの電解質異常が起こりやすくなります。リハビリテーションも進んでくる時期なので交感神経亢進などの誘因も重なり、不整脈が出現しやすく注意が必要です。
血圧管理
血圧のコントロールは、術式によって異なります。一般的には、収縮期血圧90~140mmHg程度でコントロールを行うことが多いです。
術直後は、低体温や人工心肺の影響、全身麻酔の影響などから、離脱する際に高血圧になりやすい状態となります。しかし、高すぎる血圧は術後出血をまねいてしまい、心負荷もかかることから、血管拡張薬を使用し、コントロールを行います。
低血圧は組織への酸素供給不足になり、臓器障害を引き起こす可能性があります。冠動脈バイパス術後は、つないだグラフトの血流保持ができなくなり、周術期心筋梗塞(PMI)を引き起こす可能性があります。
血圧は収縮期血圧に注意しがちですが、臓器への血流保持を考えるうえでは平均血圧も重要になってきます。
水分出納バランス管理
心臓手術後は侵襲による生体反応で、血管透過性が亢進することによって体液がサードスペースに移動してしまい、血管内の循環血液量が維持しにくい状態になります。そのため、血圧だけではなく、尿量やドレーンからの排液量、肺動脈圧(PAP)や中心静脈圧(CVP)の低下傾向、乳酸値の上昇傾向、IN-OUTバランスなどからアセスメントし、輸液量を調整していきます。
血管透過性が亢進している状態では、通常の輸液(細胞外液など)は血管内にとどまりにくいため、アルブミン製剤など、血管内に残りやすい製剤を使用する場合もあります。
腎機能障害の項目で触れましたが、術後12時間以内に起こる乏尿期に輸液が多すぎると、心負荷がかかり、心不全の助長、肺うっ血による呼吸状態の悪化などにつながるため、注意が必要です。
術後はIN-OUTバランスも重要ですが、測定できない不感蒸泄なども考えていく必要があるため、術前からの体重測定を行い、増減を含め、体液量をコントロールしていく必要があります。
体温管理
術直後の体温は全身麻酔や人工心肺などの影響によって低体温になります。
低体温は、血管の緊張を高め血圧を上昇させ、凝固機能障害を起こし、出血のリスクを高めたり、シバリングを誘発して酸素消費量が増大するなどの原因になります。
術直後は定期的な体温測定、肺動脈カテーテルなどからの持続中枢温測定などを行い、体温の推移を把握することや不必要な皮膚の露出を避け、必要時電気毛布などを用いて復温することも大切です。
急激な復温は再加温性ショックを引き起こし、血圧を低下させるため、1時間に1℃程度の上昇、目標体温の1℃手前で加温を終了するなどの対応が必要です。
術後の呼吸管理
術式や施設によって手術室で抜管を行う場合もありますが、ほとんどの場合、人工呼吸器管理が必要です。術直後は全身麻酔の影響によって呼吸中枢が抑制され、自発呼吸が乏しい状態ですので、A/C(assist/control)モードやSIMV(synchronized intermittent mandatory ventilation)など強制換気が行えるモードを使用して管理します。
人工呼吸器管理中の基本的管理として、人工呼吸器関連肺炎(VAP)※1予防を行う必要があります。日本集中治療医学会の「人工呼吸器関連肺炎予防バンドル2010改訂版(VAPバンドル)」では、
①手指衛生を確実に実施する
②人工呼吸器回路を頻回に交換しない
③適切な鎮静・鎮痛を図る。特に過鎮静を避ける
④人工呼吸器からの離脱ができるかどうか、毎日評価する
⑤人工呼吸中の患者さんを仰臥位で管理しない
となっています。
心臓手術後は循環動態が変動しやすいため、頭部挙上を行うことで血圧が低下する可能性があるため、モニタリングを行いながら実施することが大切です。頭部挙上は30度をめやすにしていますが、頭部挙上を行うことで機能的残気量の上昇、誤嚥の予防などになるため、可能な範囲で実施していくことが大切です。
抜管後は疼痛コントロールを積極的に行い、深呼吸や排痰を促していきます。浅い呼吸が持続することで無気肺が遷延し、呼吸状態の悪化や肺炎につながってしまいます。
術後のドレーン管理
心臓術後に挿入されるドレーンには、心嚢ドレーン、縦隔ドレーン、胸腔ドレーンがあります。ドレーン管理の目標は安全で有効なドレナージと異常の早期発見です。
安全で有効なドレナージのために術直後は、低圧持続吸引器を使用してドレーンの管理を行います。そのため、適切な吸引圧の設定、作動確認が必要です。また、ドレーン内に凝血塊がある場合、閉塞のリスクがあるため、ミルキングを行う必要があります。ミルキングを行うときに過剰な刺激が加わると不整脈が出現する可能性もあるため、モニタリングを行いながら実施することが必要です。
異常の早期発見のためには排液の観察が重要です。血性が強くなった、排液のスピードが早くなったなど、術後出血を疑う所見があれば、すぐに医師に報告しましょう。
ドレーンは患者さんにとって異物であり、心臓手術後に挿入されるドレーンは太く、挿入されていることでの疼痛が出現します。そのため、目的が達成できているかと併せて抜去できるかどうかを多職種で共有し検討していくことも大切です。
術後の意識障害、せん妄
術後の覚醒遅延には、麻酔の影響が強い、鎮静薬の影響、中枢神経障害などが考えられます。前述の観察項目をしっかり観察することが必要です。
術後せん妄
せん妄の評価は定期的に実施し、他職種との共有言語として患者さんを把握していく必要があります。
せん妄の評価ツールとして、『日本版集中治療室における成人重症患者に対する痛み・不穏・せん妄管理のための臨床ガイドライン』ではCAM-ICU※2とICDSC※3が推奨されています。
せん妄発症にはさまざまな要因(表1)が絡み合っているため、多職種でアプローチを行なっていく必要があります。
表1せん妄発症の因子1
術後の疼痛管理
術後は創部やカテーテル、ドレーンなどの挿入物に加え、思うように動けないことで疼痛が出現します。また、強い疼痛を経験したり、疼痛が持続することで、患者さんは不安になり、痛くなるのではないかなど予期疼痛につながり、さらに疼痛が増強してしまいます。
疼痛は、交感神経を亢進されるため、血圧の上昇や心拍数の増加をまねき、心負荷につながります。また、疼痛による離床の遅れは、呼吸機能や腸管運動の低下などにつながります。そのため、定期的に鎮痛薬を使用することや、疼痛が予測される処置やケア、リハビリテーションの前に鎮痛薬を投与してコントロールを行うことも大切です。
疼痛は患者さんが感じる主観的な症状です。疼痛スケール(NRSやVASなど)を用いて患者さん自身に評価してもらうことで、疼痛の把握を行うことも必要です。
[memo]
文献
- 1)井上真一郎,内富庸介:せん妄の要因と予防.臨床精神医学 2013;42(3):289-297.
- 2)Bojar RM. Manual of Perioperative Care in Adult Cardiac Surgery,5th ed. NewYork:Wiley-Blackwell;2011:347-381.
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- 6)山中源治,小泉雅子編:徹底ガイド 心臓血管外科 術後管理・ケア(ハンディ版).総合医学社,東京,2016.
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- 16)日本集中治療医学会J-PADガイドライン作成委員会:日本版・集中治療室における成人重症患者に対する痛み・不穏・せん妄管理のための臨床ガイドライン.日本集中治療医学会雑誌 2014;21(5):539-579.(2019.09.01アクセス)
- 17)藤井大輔,山田亨,櫻本秀明:重症疾患後の認知機能 ICU退室後の認知機能障害の実際. ICNR 2016;3(3):60-66.
本連載は株式会社照林社の提供により掲載しています。
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[出典] 『本当に大切なことが1冊でわかる 循環器 第2版』 編集/新東京病院看護部/2020年2月刊行/ 照林社