冠動脈バイパス術(CABG)

『本当に大切なことが1冊でわかる循環器』(照林社)より転載、Web掲載にあたり一部改変。
内容は書籍刊行当時のもの。
今回は冠動脈バイパス術(CABG)について解説します。

 

狩野周平
新東京病院看護部

 

〈目次〉

冠動脈バイパス術(CABG)はどんな治療?

冠動脈バイパス術(coronary artery bypass grafting;CABG)は、急性心筋梗塞など虚血性心疾患の際に、冠動脈の狭窄や閉塞による心筋虚血を改善するために行います。狭窄がある冠動脈の末梢側と大動脈を、グラフトを使用してバイパスする外科手術です。その結果、狭窄している血管よりも先に血液が流れて、末梢血流を保つことができます。

 

CABGでは、全身麻酔を行い、胸骨を正中切開する必要があります。

 

虚血性心疾患の治療にはおもに、経皮的冠動脈インターベンション(PCI)とCABGがあります。それぞれの適応は、慢性冠動脈疾患患者さんの2枝以下の遠位部病変はPCI、それ以外のLAD(左前下行枝)近位部、3枝病変、非保護左主幹部病変はCABGが適応となっています(表1)。

 

表1PCIとCABGの適応

PCIとCABGの適応

 

表2にCABGのおもな術式を示します※1

 

表2CABG のおもな術式

CABG のおもな術式

 

しかし近年は、薬剤溶出ステント(DES)や薬物療法による有効性も明らかになっているため、病変だけではなく、患者さんの年齢や基礎疾患、他臓器機能など多岐にわたって患者背景を理解したうえで治療内容を選択しています。

 

グラフトのポイント

グラフトは、大きく分けて動脈を用いるか、静脈を用いるかに分かれます。

 

動脈は血管の構造上、開存率が高く、静脈は50~60%が10年で閉塞するといわれています。

 

どのグラフトを使用するかは、狭窄病変をみて検討します(図1)。グラフトとして使用されるのは、左右内胸動脈RITALITA)、橈骨動脈RA)、右胃大網動脈RGEA)、大伏在(だいふくざい)静脈SVG)などがあります。このなかでも左内胸動脈(LITA)が長期開存にすぐれています。

 

図1グラフトの種類と選択

グラフトの種類と選択

 

看護師は何に注意する?

心臓手術のおもな合併症については心臓手術後の看護を確認しましょう。

 

術直後

一般的な開胸術の合併症に加えてグラフトの血流障害動脈グラフトによるスパズムが原因の不整脈や心筋梗塞に注意が必要です。そのため術直後は、一般的な開胸術の管理に加えて冠血流の維持が大切です。血圧は、収縮期血圧110mmHg程度を保ち、脈拍数は80回/分を確保します。前負荷を保てるように輸液管理も重要になってきます。

 

大網動脈(RGEA)を使用した場合は、食事による血流量の変化も起こるためモニタリングが必要となります。

 

心電図モニターは、不整脈の確認に加えて、ST変化が起こっていないかの確認も行います。

 

一般病棟に転棟後

虚血、梗塞に注意しながら心臓リハビリテーションを行います。

 

大伏在静脈(SVG)を採取した際は、静脈還流障害が起こるため、浮腫が発生します。弾性ストッキングなどで浮腫の増悪の予防が必要です。採取された静脈は、時間をかけて側副血行路がつくられ、浮腫も自然と消失していきます。

 

正中創部感染縦隔炎についても注意が必要です。

 

術後1週間をめやすにグラフトの開存状況を確認するために、冠動脈造影(CAG)やCCTを行います。

 

ほかの諸検査は一般的な開胸術と同様です。

 

退院指導

生活習慣の見直し

虚血性心疾患は動脈硬化による血管の狭窄が原因のため、生活習慣を見直す生活指導も重要になってきます。特に若年者の場合は喫煙脂質異常症高血圧糖尿病といった生活習慣の確認が必要です。また、仕事によっては夜勤による食生活の乱れやストレス性高血圧症なども考えられます。そのため、生活に寄り添った指導介入を行っていきます。

 

感染の予防

胸骨切開をしているため、胸骨の癒合には3~6か月かかるといわれています。また糖尿病を併発している場合は、創感染縦隔炎などの合併症が発症する可能性があります。手術部位感染(SSI)は、術後1年間は発症のリスクがあるとガイドラインでも指摘があります。自宅に帰った際の創部感染の確認のしかたも重要な指導内容になります。

 


[memo]

  • ※1 低侵襲冠動脈バイパス術(MIDCAB)(上へ戻る
    胸骨正中切開ではなく、また人工心肺を使用せず、左側胸部を小切開して左内胸動脈(LITA)を左前下行枝(LAD)にグラフトする低侵襲手術である。近年では、LADに対するPCIが行えるようになってきたことで適応が少なく、あまり行われない術式である。

 


文献

 


本連載は株式会社照林社の提供により掲載しています。

 

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[出典] 『本当に大切なことが1冊でわかる 循環器 第2版』 編集/新東京病院看護部/2020年2月刊行/ 照林社

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