「摂食嚥下ケア」の具体的な方法|摂食嚥下訓練

『エキスパートナース』2014年6月号<ベッドサイドの「摂食嚥下ケア」>より抜粋。
「摂食嚥下ケア」の具体的な方法について解説します。

 

米村礼子
宇部リハビリテーション病院

 

 

〈目次〉

 

はじめに

摂食嚥下訓練には、間接訓練と直接訓練があります(図1)。

 

図1間接訓練・直接訓練

間接訓練・直接訓練

 

看護師が実践する「摂食嚥下ケア」は、今ある患者の機能を最大限に引き出し、安全に経口摂取ができるようになること、あるいは誤嚥性肺炎を予防することです。

 

看護師の日常業務は多岐にわたり、しかも、セラピストのように決められた訓練時間があるわけでもありません。しかし、限られた時間内で看護ケアをしながら目的をもって意識的にかかわることで、患者の障害された摂食嚥下機能が回復することも多くあります。

 

ここでは、日常的な看護業務のなかでできる摂食嚥下ケアについて解説します。

 

間接訓練の進め方

間接訓練の特徴と注意事項

間接訓練は“食物を使わない訓練”であるため、誤嚥や窒息のリスクが少なく、急性期から慢性期までどの時期の患者でも適用可能です。

 

しかし認知症高次脳機能障害など、意思の疎通や理解が困難な患者では、「快」の状況であることを前提に、言葉で伝えながら、身振り手振りを交えたジェスチャーなど、コミュニケーション技法の対応や工夫が必要となります。

 

また、間接訓練の開始条件には、全身状態が安定していることのほか、重度の嚥下障害の場合は、食物を用いない訓練であったとしても唾液を誤嚥する恐れがあるため、吸引器を準備するなどのリスク管理が行われていることが条件(表1)です。

 

表1間接訓練前の“リスク管理”の視点

間接訓練前の“リスク管理”の視点

 

フィジカルアセスメントに基づく間接訓練

間接訓練は、嚥下機能評価をもとに実施します。その際、摂食嚥下に関連する部位のどこに問題があるのかを具体的に評価する必要があります。

 

例えば顔の表情は、顔面神経や筋肉の動きが伴って表出されるため、口角の位置や唇溝などの左右差をしっかり観察することが大切です。また、日常会話の中から患者の声や唾液嚥下の状態を意識的に診ることで、フィジカルアセスメントに基づいた訓練(ケア)につながります。

 

1

舌の状態を見て、舌苔が多い状態であれば、舌があまり動いていないと考えられます。

 

まずは、粘膜ブラシで奥舌から舌尖へかけてマッサージ(ⓐ上)するように汚れを除きます。そのとき、湿らせたガーゼで舌を包み、軽く引っ張るようにストレッチ(ⓐ下)すると効果的です。

 

ⓐ舌のマッサージ・ストレッチ

 

指やスポンジブラシを使って、舌を奥から前へとマッサージする

 

 

運動が低下している患者では、湿らせたガーゼで舌を包むようにして、前方や左右に、他動的運動をする

 

 

2口唇・頬

血管障害後遺症や口腔の廃用で機能低下を起こしている場合は、頬の緊張も弱く、口唇もうまく閉鎖することができない状態が見られます。

 

そのような場合は、口唇・頬のマッサージやストレッチ()、あるいは嚥下体操(1を取り入れていきます。

 

ⓑ口唇・頬のマッサージ

 

口腔への刺激で脳を活性化する。覚醒作用や準備運動として効果的

 

訓練の前には、必ず口腔内の清潔を確認する

 

 

頬を外側から手掌でマッサージする

 

頬の内側から、指やスポンジブラシで、上から下へ頬を膨らますようにストレッチする

 

ⓒ嚥下体操

主に、食べる前の準備体操として行う

 

全身、肩甲骨、頸部など、嚥下筋のリラクゼーションおよび「食べることへの意識」の向上を促すことにもなる

 

深呼吸

鼻から息を吸い込み、ゆっくり吐く

 

息を吐くときに口をすぼめながらゆっくり吐くと、鼻咽腔、口唇、軟口蓋の運動が強化される

 

首の運動

左右にゆっくり回旋、前後・左右に屈曲・伸展する

 

めまいや頸椎症などの異常がある場合は行わない

 

肩の運動

肩の挙上・回旋、肩甲骨の引き寄せを行う

 

口唇の運動

「あ~ん」「う~い」と声を出して、しっかり唇を動かす

 

 

頬の運動

頬を膨らませる~すぼめる動作を行う

 

舌の運動

舌の前後・左右・上下運動を行う

 

 

「パタカラ」体操

リズミカルに、「パ」「タ」「カ」「ラ」の発声を行う

 

3

会話の中で、声質や声の大きさを観察してみます。

 

息が漏れるようなかすれた声(気息性嗄声)の場合は、声門閉鎖が悪いことを予測します。ふだんの生活のなかから、笑い声・泣き声(強制泣き)・声のトーンなどが、嚥下機能評価の指標となることに着目してください。

 

このとき、「あ~」「え~」という発声訓練()をしてもらうと、声門の運動に好影響であり、咽頭のクリアランス(のどの浄化力)の効果に期待できます。

 

ⓓ発声訓練

声帯の動き、呼吸機能が悪い患者に行う

 

呼気時に「あ~」「え~」など発声をなるべく長く持続させる

 

高齢者や認知症の場合は、訓練を楽しむ意味で、さらに歌唱を取り入れると効果的

 

4

をしているときは、咳嗽力を観察してみます。

 

弱い咳をしている場合は、気道内分泌物や誤嚥物を喀出することが困難であることを予測します。また、喀痰吸引時に吸引の刺激に対して咳反射があるかどうか、あるいはそのときの咳嗽力の程度を把握しておくとよいでしょう。

 

咳嗽訓練()を行うことで、咽頭に貯留した唾液や喀痰を除去し、咽頭のクリアランスが期待できます。

 

ⓔ咳嗽訓練

ゆっくり深く息を吸って、強めに息を吐き出したあと、「ゴホンとしてください」と意識的に咳をしてもらう

 

5唾液

流涎が多い、または、いつも唾液をティッシュに吐き出している場合は、嚥下反射が起きていないか弱いために、唾液を飲み込めていないことを予測します。会話の場面で患者がどのように唾液の処理をしているのかをチェックしてみてください。

 

食事の前にのどのアイスマッサージ()を行うのも1つの方法です。

 

ⓕ のどのアイスマッサージ

奥舌や軟口蓋へ寒冷刺激・軽い圧刺激を与えることで、嚥下反射(ごっくん)を誘発する方法

 

事前に口腔内が清潔であるか確認する

 

嘔吐反射に注意する。いきなり口の中を刺激しないようにする

 

綿棒にジュースやコーヒーなどを浸し、訓練に用いると「おいしい」「甘い」と感じる感覚を高めることができる

 

凍った綿棒を水に浸し、水気を軽く絞る
上記の綿棒で前口蓋弓、舌根部をゆっくり、上下に1~2往復こする
左をこすったら、嚥下を確認する。次に右をこすり、再度、嚥下を確認する

 

6構音障害

「タ」「ダ」「ナ」「ラ」「カ」などの発音がうまくできない構音障害の場合は、舌運動の強化()を意識することで訓練効果が向上します。

 

また、「パ」が言いにくい場合は、「ファ~」に聞こえてしまいます。このような方は、口唇閉鎖が悪いため、口唇運動訓練()を行います。

 

これならできる! 間接訓練

多忙で限られた時間の中では、日常生活の一環として「○○のついで」に「○○訓練」と考えながら、間接訓練を行う工夫が必要です。例えば以下のようなものがあります。

 

①検温時の場面

発声訓練として発声を促すとともに、その会話のなかで、声質・声量・構音障害の有無をチェックします。

 

会話ができない場合は、模倣を促して表情筋を動かします。例えば、笑顔を引き出すなどです。

 

脈拍測定のついでに患者と握手して、ぎゅっと握ってもらいます。そのときに「エイッ」と発声するのも発声訓練になります。

 

②食事前の場面

嚥下体操()や口腔内のマッサージ()、のどのアイスマッサージ()を行います。

 

③口腔ケアの場面

自力で口腔ケアができない方の場合は、口腔ケアを行いながら口腔機能訓練を意識的に行います。

 

自力で口腔ケアができる方の場合は、自分で頬の動きを意識しながらプクプクうがいや鏡を見ながら舌を動かし、「ごほん」「えっへん」と咳払いをする咳嗽訓練を行います。

 

口腔がきれいになったところでアイスマッサージ()を行います。

 

唾液嚥下が可能な場合には、棒つきキャンディーをなめることも有効です。

 

④足浴の場面

足浴しながら、リラックスできるようにし、嚥下体操(図3)、歌唱やハミングを行ったりするのもよいでしょう。

 

図3足浴しながらの間接訓練

足浴しながらの間接訓練

 

リラックスした気分のなかで楽しみながら訓練を行える

 

生活のなかで行う摂食嚥下ケアプローチ

日常生活場面でも、患者の表情・姿勢・上肢など生活行動を整える中で、摂食行動につながる場面があります。

 

例えば、車椅子への移乗動作や座位姿勢時のバランスなどを観察してみてください。姿勢調整の基本は、抗重力位における体幹の支持です。体幹の安定した支持のうえに頭頸部の支持があり、スムーズな嚥下運動が得られ2、上肢の運動も引き出しやすい状態になります。

 

また、レクリエーションの機会には、女性は化粧をしたり、会話や笑顔の場面を多くすることで、食べる意欲を引き起こし、日常生活における自発的な行動も増え、さらに摂食動作にも効果をもたらすことがあります。

 

直接訓練(食事介助)の進め方

直接訓練の特徴と注意事項

直接訓練は食事を用いて行うため、常に誤嚥性肺炎や窒息のリスクを伴うことに注意が必要です。

 

ベッドサイドでケアを行うときに、経口摂取を検討できるよい徴候(表23があるか観察し、1つでもよい徴候があれば、経口摂取開始の判断基準(表33,4があてはまるかを確認して進めます。

 

表2

 

表3経口摂取開始の判断基準

経口摂取開始の判断基準

 

直接訓練(食事介助)施行前に必ずチェックしたいこと

①食事前に覚醒を促す

覚醒が悪いと、窒息・誤嚥のリスクが高くなります。“覚醒がよい状態”とは以下のことを指します。

 

  • 集中力や反応が欠落していない
  • 食べものの認識ができる
  • 失語があっても言葉をかけると追視するなど、コミュニケーション可能である

認知症患者などでは、覚醒が悪くても、下唇にスプーンで軽く触れると開口し、食べる動きを開始することもあります。

 

「食事」という行動を考えるとき、患者の覚醒を良好にするための生活リズムを整えることも重要です(表45

 

表4生活リズム調整へのアプローチ

生活リズム調整へのアプローチ

 

②食べることに集中するための環境をつくる

食事に集中できない環境では、手や口の動きが止まってしまったり、むせが起きたりします。

 

いずれも、集中していないと誤嚥を起こしやすいことを念頭に置き、かかわってください。

 

表5食べることに集中するための環境

食べることに集中するための環境

 

③姿勢調整で誤嚥予防を図る

体幹や頸部の角度調整をすることにより、食塊を送り込みやすくなり、また、誤嚥予防や、疲労を軽減することにつながります。

 

ベッドの角度について、嚥下障害患者では、一般的に30°リクライニング位が望ましいようですが、ベッドの角度を起こすこと(座位姿勢)とリクライニング位(30°)では、メリット・デメリットがあることを理解してかかわることが大切です(図4)。

 

図4体幹角度による利点と欠点

体幹角度による利点と欠点

 

 

頸部の位置は、枕を重ねて頸部を前屈することにより(頸部前屈位)、気管と食道に角度がつき、誤嚥予防を図ることができます。適切な例を図5に示します。

 

図5適切な頸部前屈の程度

適切な頸部前屈の程度

 

介助者は、椅子に座り、患者と同じ目線の高さで介助することが大切です。そうすることで、患者は自ずと頸部を前屈する姿勢がとれます。

 

④患者に適した嚥下しやすい食品を調整する

初めて経口摂取を行う場合の食品として、「ゼラチンゼリー」が多く使われます。ゼラチンゼリーは、嚥下しやすい食品であり、口腔・咽頭を滑らかに通過し、残留しにくいことが特徴です。

 

しかし、口の中へため込む患者では、口腔内の体温でゼリーが溶けてしまい液体に変化し、咽頭に速く流れ込んでしまうため、注意が必要です。特に夏場は室温により溶けやすいため、トレイの中へ氷を入れて冷やしながら提供するとよいでしょう。

 

また、水分など液体の流れをゆっくりするために、とろみ調整食品(いわゆるとろみ剤)で粘度を調整します。患者に適したとろみ調整食品の濃度が決まれば、「誰が」「いつ」作っても一定の濃度になるよう、スタッフ間で共通認識が必要となります(表6)。

 

表6とろみのつけ方チェックポイント

とろみのつけ方チェックポイント

 

なお現在、とろみの基準については「嚥下調整食学会分類2013(とろみ)早見表」6が発表されており、以下の段階に分けて「性状の説明(飲んだとき、見たとき)」「粘度」などの基準が示されています。

 

  • 段階1:薄いとろみ(Mildly thick)
  • 段階2:中間のとろみ(Moderately thick)
  • 段階3:濃いとろみ(Extremely thick)

これらの標準化された基準もぜひチェックしておきましょう。

 

食事介助時のポイント

①一口量と食事のペース

一口量が多いと、口腔や咽頭の残留が増え、誤嚥する場合があります。嚥下訓練では、少量から初めて徐々に増やすようにします。

 

ただし、認知障害などがある場合、逆に少ないと嚥下動作が止まってしまうことがあるため対象者により、適切な量を設定してください。

 

食事介助に適したスプーンは、「薄く」「平たく」「小さめ」で、持ちやすいものを選択します(図6)。

 

図6適切なスプーンと一口量の例

適切なスプーンと一口量の例

 

多忙ななかで食事介助をすると、ついスプーンで山盛りにすくい、つぎつぎに口へ運んでしまいがちですが、はじめから小さめのスプーンを使用し、口の中だけではなく頸部を観察して、嚥下反射(喉頭挙上)を確認してから、次の一さじを入れることを心がけましょう。

 

②食事中にむせる場合の対応

食事中の“むせ込み”は、気道に入った水分や食物を排除するために起こっています。

 

むせがある=ただちに食事中止、ではなく、“どのようなタイミングでむせたのか”“どのような食べ物でむせたのか?”を確認して改善します。

 

あるいは、“むせ込み”が起こっていなかったとしても、気道の感覚が低下している場合は不顕性誤嚥が起こっている場合もあり、誤嚥性肺炎につながります。喀痰量の増加や性状の変化、元気がない、呼吸音など注意深く観察してください。

 

むせたときは以下のように対応します。

 

  1. 咳をしっかり出してもらう
  2. 咳が完全に止まるまで待つ
  3. 深呼吸でゆっくり呼吸を整える
  4. 呼吸状態が悪くなっていたり、顔色の変化、酸素飽和度の低下、チアノーゼ、咳嗽困難がみられる場合は、吸引を検討する

 

患者状態に合わせた“リスクを避ける”直接介助の工夫

①食べるペースが速い場合

いったん食事を目の前に提供すると、つぎつぎにスプーンで食べ物を口へ運び、むせながらでも食べ続けるケースがあります。

 

このような場合、誤嚥や窒息のリスクはさらに高まるため、注意が必要です。小さめのスプーンを使用する、ゆっくり食べるように声をかける、手を添えながら介助する、見守りを強化するなどの介入が必要です。

 

しかし声をかけたり、介助者の手を添えることが患者にかえってストレスを与えたりして、不機嫌となり興奮することもあります。

 

その際には栄養科と相談し、始めから1食分を小さいサイズに分け、順次少しずつ提供することで、食べる達成感を感じながら、適度な休憩をとることで窒息・誤嚥リスクを回避することができます。

 

②ガラガラ声で食べている場合

食べているうちにガラガラ声(湿性嗄声)に変化するということは、咽頭残留していることが考えられます。そのまま食べ続けると残留物が増えて、吸気とともに気管へ流入し、誤嚥する可能性があります。

 

ガラガラ声がある場合は、残留物を除去することを試みます。食事介助をしながら、数口食べては、「あー」と声を確認します。また、意識的に咳払いをさせて、再度、嚥下を促します。

 

べたつく食物とゼラチンゼリーなどのど越しがよいものを交互に嚥下することで、口腔内・咽頭残留を除去する交互嚥下法というものがあります。食事の最後にお茶ゼリーで終わるようにすると、咽頭に残った食べものがゼリーと一緒に嚥下されます。

 

嚥下したあとに「もう1回、飲み込んでください」と追加嚥下を促す複数回嚥下法も咽頭残留を除去する対応策です。

 

どの方法も、ガラガラ声から澄んだ声に変化していることを確認することが大切です。

 

③食べているときに口や手の動きが止まった場合

食べている途中で、食事動作が止まったり、口の中に食べ物をため込んで嚥下しないケースがあります。覚醒不良や高次脳機能障害での失行・失認や、食事に集中できない注意障害、認知機能障害の場合に多くみられます。

 

そのような場合は、覚醒レベルの向上を図る介入をもとに、食事に集中できる環境調整、食形態や味覚の確認(認知症高齢者は甘い食べ物をよく好まれる)、介助者の手を添えて食事動作をアシストすることを試みてください。

 

また、食事が目で見て認識しやすくなるように、粥は黒塗り茶碗、ワンプレートや、弁当箱で提供すると、食べ残すことなくうまく食べられることもあります(図7)。

 

図7食事の認識度を上げる工夫

食事の認識度を上げる工夫

 

④食事介助に時間がかかる場合

まずは、遅い理由を考えてみましょう。

 

食欲がない場合、嚥下機能障害を伴う疾患、摂食動作の問題、咀嚼や舌運動低下による送り込みの問題、食事に集中できないなど認知機能低下などの原因が考えられます。

 

食形態が適切でない場合もあるので、嚥下機能評価と食事内容や食事量が患者に適している食事かどうか検討する必要があります。

 

食事介助の時間は患者の疲労を考慮して一般的に30~40分といわれますが、例外も多いのが現実です。重度の認知症例では、介助されながらゆっくり食べることでペースがすでにできあがり、時間がかかることを許容することもあります5。

 

大切なのは、「安全に口からおいしく食べる」という気持ちで介助することを心がけましょう。

 

⑤取り込みの力が弱い場合

開口しないことが多く、スプーンでの取り込みが困難であったケースで、“もはや経管栄養しかないのか?”と思いながらチームで検討した結果、開口困難でも飲み込む力が残存していれば、シリンジを使用して口から食べることが継続できた場合もあります(図8)。

 

図8シリンジを使用した例

シリンジを使用した例

 

***

 

なお、これらの点に注意していても、介助者が変わるたびに介助方法が変わるのでは、患者はたまったものではなく、摂食嚥下ケアの配慮も活かせません。“いつでも”“誰でも”対応できるように「摂食条件表」(図9)を作成し、介助方法を共通認識すれば、統一した介助が可能になります。

 

図9摂食条件表の例

摂食条件表の例

 

こんなときどうする?Q&A 「間接訓練」「直接訓練」

瘻で経口摂取をしていない患者は、口から食べることはできない?

 

長いあいだ経口摂取をしていない患者でも、回復できる場合があります。ぜひアセスメントとケアを続けてください。

 

先日、6年ものあいだ胃瘻だけで入院生活を過ごしてこられた90歳代の患者が、口腔ケア後にとろみつきのリンゴジュースを一口だけ「ごっくん」と飲まれました。

 

意思疎通の困難な患者でしたが、口の中でジュースを味わうようにモグモグさせ、口唇をしっかり閉じて飲み込まれました。家族は、「もう口から食べることはないだろうと思っていました。よかった~」と涙ぐまれ、私たちも一緒に喜んだことがあります。

 

胃瘻を造設したからといって口から食べることをあきらめるのではなく、可能な患者には、経管で栄養・水分を補給しつつ、少しでも口から食べていただく努力が必要です。ベッドサイドで日常生活のケアを行いながら「この患者はなぜ経管栄養なのか? もしかして食べられるのかも?」と疑問に思い、アセスメントして摂食嚥下ケアに取り組んでみてください。

 

そのような取り組みの中から、1人でも多くの患者に、看護師の知識と技術で、“口から食べられる喜び”を支えられる摂食嚥下ケアを提供していきましょう。

 


[引用・参考文献]

 

  • (1)鎌倉やよい編,鎌倉やよい,藤本保志,深田順子著:嚥下障害ナーシング.医学書院,東京,2004.91-99.
  • (2)泉谷聡子,藤谷順子:摂食・嚥下リハビリテーションに必要な全身管理―②食事と姿勢のマネジメント―.藤島一郎,藤谷順子編著:ポケットガイド 嚥下リハビリテーションと口腔ケア.メヂカルフレンド,東京,2006:140.
  • (3)中島紀惠子,石垣和子監修:高齢者の生活機能再獲得のためのケアプロトコール日本看護協会出版会,東京,2010:83.
  • (4)三鬼達人:摂食・嚥下ケアを始められる患者状態は?(原疾患、既往歴、全身状態).三鬼達人編著:今日からできる! 摂食・嚥下・口腔ケア.照林社,東京,2013:9.
  • (5)野原乾司編,山脇正永,小谷泰子,山根由紀子,他著:認知症患者の摂食・嚥下リハビリテーション.南山堂,東京,2012:73,142.
  • (6)日本摂食嚥下リハビリテーション学会医療検討委員会:日本摂食嚥下リハビリテーション学会嚥下調整食分類2013.日本摂食嚥下リハビリテーション学会誌2013;17(3):255-267.
  • (7)藤島一郎,谷口洋,藤本まり子,白坂誉子編集:摂食・嚥下障害ケア.羊土社,東京,2013.
  • (8)鎌倉やよい編,鎌倉やよい,藤本保志,深田順子著:嚥下障害ナーシング.医学書院,東京,2004.

 


本記事は株式会社照林社の提供により掲載しています。/著作権所有(C)2014照林社

 

p.42~「摂食嚥下ケア」の具体的な方法

 

[出典] 『エキスパートナース』 2014年6月号/ 照林社

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