胃瘻(PEG)のトラブル対処
『病院から在宅までPEG(胃瘻)ケアの最新技術』(照林社)より転載、Web掲載にあたり一部改変。
内容は書籍刊行当時のもの。
今回は胃瘻のトラブル対処について説明します。
倉 敏郎
町立長沼病院院長
佐々木宏嘉
町立長沼病院内科・消化器科部長
Point
- 潰瘍、バンパー埋没症候群、十二指腸閉塞などの予防・早期発見には、日常的な観察・カテーテル管理の適切な実施が重要。
- 安定期の胃瘻では、瘻孔は数時間で閉鎖してしまう。特に在宅の場合は、介護者へ正しい瘻孔確保の方法を指導しておく。
- カテーテル閉塞を防ぐため、栄養剤・薬剤注入後は水で十分にフラッシュし、酢水を「充填」しておくことが重要。
〈目次〉
はじめに
PEG(percutaneous endoscopic gastrostomy:経皮内視鏡的胃瘻造設術)では、体内にPEGカテーテルという「異物」を留置するため、さまざまなトラブルが生じる危険性があります。
本コラムでは、具体的なトラブルを挙げ、その対処法について解説します。 これらのトラブルは、的確な予測によって防ぐことができます。日ごろからの十分な観察が重要です。
カテーテル留置時のトラブル
1潰瘍(対側胃潰瘍)
PEGカテーテルの内部ストッパー先端の突起、あるいはストッパー自体が胃粘膜後壁に接触することによって潰瘍が生じ、ときに出血性ショックを起こすことがあります(図1)。
図1カテーテルの物理的刺激により生じた後壁側の胃潰瘍
内部ストッパーの突起については、カテーテルの改良により、バンパー型・バルーン型のどちらも、近年では問題のない形状になっています。
しかし、突起がない状態でも、潰瘍は生じ得ます。そのため、PEGカテーテルを挿入した患者に吐血やタール便が認められた場合には、常に「潰瘍からの出血」を想定して対応しましょう。
また、ストッパーによって、穿刺側(前壁側)の胃粘膜が損傷し、出血することもあります1。
2バンパー埋没症候群
バンパー埋没症候群(buried bumper syndrome:BBS)とは、内部ストッパーが胃粘膜内に食い込んでいき、最終的には粘膜内に埋もれてしまう状態です(図2)2。
胃瘻管理におけるさまざまな基本的事項を理解するうえで、バンパー埋没症候群に関する十分な知識を身につけておくことが必要になります。
バンパー埋没症候群の発生要因
バンパー埋没症候群の成因を考えるためには、PEGカテーテル管理の基本を学ぶことが大切です。
瘻孔完成後、安定期に入った胃瘻では、外部ストッパーに0.5~1cmのゆるみをもたせて管理しなければなりません(図2)。その「ゆるみ」によって局所の血流が保たれ、感染や漏れのない「トラブルのない瘻孔」が保たれるわけです。
しかし、この原理を知らない、あるいは気づかずに、きつめのカテーテル留置が続くと、締めすぎによる血流障害が発生し、胃粘膜の壊死(潰瘍化)が起こり、しだいに内部ストッパーが粘膜に食い込んで、最終的には埋没してしまいます。
バンパー埋没症候群の徴候
バンパー埋没症候群を疑う症状として「胃瘻がきつくなり、回転不能となっている」「回転できても元に戻る」などがあります。
また、埋没が進むと「栄養剤が注入できなくなる」などの状況も起こり得ます。
バンパー埋没症候群の予防策と対応法
毎日の栄養剤投与時に以下の点を確認します。
- カテーテルがスムーズに回転するか
- カテーテルにゆとりがあり、上下に動かすことができるか
異常を疑った場合は、早急に医師へ連絡し、内視鏡検査を実施します。
バンパー埋没症候群は、初期段階であれば内視鏡的に修復が可能ですが、完全に埋没してしまうと外科的摘出が必要となります。そのため、予防と早期発見が重要です。
バンパー埋没症候群の多くは瘻孔完成後に生じますが、造設数日後に生じたという報告もあります。早期から常に想定するようにしましょう。
栄養状態の改善によるトラブル
ボタン型PEGカテーテルの場合、挿入後はシャフト長を変更できません。この間の栄養状態の改善によって皮下脂肪が増え、カテーテルがきつくなり、バンパー埋没症候群と同様の状態を呈することがあります(図3)。
そのため、ボタン型PEGカテーテルを留置する際は、あらかじめ十分なゆとりのあるシャフト長にしておきます。
栄養状態の改善によってボタン型カテーテルがきつくなった場合は、長めのシャフト長のボタンに交換する必要があります。
3バルーンによる十二指腸閉塞
チューブ型PEGカテーテルで内部ストッパーがバルーンの場合、胃の蠕動運動とともに内部バルーンが引き込まれ、十二指腸球部にはまり込み、消化管閉塞症状(嘔吐などのイレウス症状)を呈する場合があります3。
これを、バルーンによる十二指腸閉塞(Ball Valve Syndrome:ボールバルブシンドローム)と呼びます(図4)。
バルーンによる十二指腸閉塞の徴候
バルーンが引き込まれることにより、カテーテルが急にきつくなります。
イレウスがある場合には、胆汁の逆流があるため、「胃液のみの嘔吐」が認められた時点で、バルーンによる十二指腸閉塞を疑います。
バルーンによる十二指腸閉塞の対応法
バルーンによる十二指腸閉塞の解除法は、いたって簡単です。バルーンに注入されている水を抜き、カテーテルを引っ張ることで、引き込まれたバルーンは、容易に胃内へ戻ってきます。「チューブ型バルーンカテーテルに多い」と先述しましたが、筆者はボタン型バルーンカテーテルでも数多く経験しています。
「今までゆるめだったカテーテルが、急にきつくなった」という徴候を見逃さないことが重要です。何度も繰り返す場合は、バルーン型PEGカテーテルからバンパー型PEGカテーテルに交換する必要があります。
事故抜去やカテーテル交換時のトラブル
1事故抜去とその対策
術後早期の事故抜去は緊急度が高い
瘻孔完成前(約3週間)の「早期事故抜去」と「瘻孔完成後の事故抜去」では、緊急性が違います。
術後早期の事故抜去の問題点は、胃壁腹壁の解離から腹膜炎が生じ、緊急開腹術の必要が生じる危険性があることです。そこまで至らなくても、瘻孔の状態が脆弱なため、カテーテル再挿入が困難で、結局、後日に再造設が必要となってしまいます。
このようなトラブルを回避する方法として、手順はやや煩雑ですが、胃壁固定をルーチン化することを提案します。
在宅で事故抜去された場合
在宅において事故抜去が起きた場合を想定してみましょう(図5)。
胃瘻の瘻孔は数時間で閉鎖してしまうため、閉じる前に瘻孔を確保することが重要です。
事故抜去は、なぜか夜間や休日に多く起こります。そのため、これらの時間に抜去されたときに介護者でも対応できるよう、以下に示す対応法を前もって介護者に説明しておき、理解してもらいます。
- 挿入されているカテーテルと同等か、あるいは少し細めの尿道カテーテルなどを介護者に渡しておき、抜去を発見した際は、それによって瘻孔を確保しておいてもらう。
- 翌朝、診療開始時間に患者を連れてきてもらう。
ここで重要なのは、来院して、再挿入したカテーテルが胃内に挿入されていることを医療者側が確認するまで、いっさい栄養剤や薬剤を注入してはいけない、ということです。
これは、カテーテルが腹腔内に誤挿入されている可能性を否定できないためです。死亡事故に至る危険性もあるため、留意が必要です。この点を、介護者にも十分に理解してもらいましょう。
なお、バルーンが膨らんだ状態で抜けてしまった場合の瘻孔確保では、水を抜いてからカテーテルを挿入します。
2PEGカテーテル交換時のトラブル
PEGカテーテルの詳細な交換方法については、別コラム(→『PEGカテーテルの交換』参照)で解説しましたので、ここではPEGカテーテル交換に基づくトラブルについて述べます。
PEGに関するトラブルで重篤なものは、PEGカテーテル交換の際に起きています。
瘻孔損傷による腹腔内誤挿入
PEGカテーテルの抜去・再挿入時に瘻孔損傷をきたし、腹腔内誤挿入を起こす危険性があります(図6)。
腹腔内誤挿入に気づかずに栄養剤投与を行ったため、汎発性腹膜炎を起こした報告が相次いでいます。このため、カテーテル交換後は胃内に確実に挿入されているかを確認することが重要です(→『PEGカテーテルの交換』参照)。
腹腔内誤挿入の有無を確認する方法
確認方法としては、胃内容物の逆流、内視鏡や造影剤を用いてのX線透視、交換前にあらかじめインジゴカルミンなどの色素やお茶などを注入し、それが逆流するかどうかを見るという方法が用いられてきました。
2008年4月の診療報酬改定では、「画像診断(内視鏡、造影)」を行った場合のみ点数が算定されることとなりました(特定保険医療材料費、1回200点)。交換時の事故が多発したためと考えられますが、在宅や施設で画像診断を行うのは難しいのが現状です。
カテーテル閉塞への対応
カテーテル自体のトラブルとして、カテーテルの閉塞があります。
カテーテルは詰まらないように、栄養剤や薬剤の投与後に十分に水でフラッシュ(洗い流し)します。
また、カテーテルは栄養剤が通過するものですから、細菌やカビの繁殖により汚染されやすくなります。十分なフラッシュが必要であることはいうまでもありませんが、酢酸水(10倍希釈の酢水)をチューブ型PEGカテーテルに満たし、酢の抗菌作用により清潔を保持する方法が有効といわれています(図7)4。
ここで注意したいのは「酢酸水をフラッシュするのではない」ことです。酢酸水の抗菌作用は、次の栄養投与まで満たされることで発揮されると考えられるため、誤解しないでください。
また、充填されていた酢酸水は、次の栄養剤投与前には水でフラッシュします。酢と栄養剤が混じり合うと、変化が生じてしまうからです。
以上の点を参考にして、カテーテル管理を行いましょう。
事例:PEGカテーテル交換時にわかる横行結腸誤穿刺
患者の情報
患者は胃切除後。造設から栄養剤投与を開始し、トラブルなく経過した。しかし、初回のカテーテル交換後に、瘻孔部から便臭のする内容物が漏れた。
透視下で造影剤を注入してみたところ、胃は造影されず横行結腸が造影された(図8)。CT検査を行ったところ、カテーテルが横行結腸に留置されていたことがわかった(図9)。
このため、カテーテルを抜去し、瘻孔がふさがった後、切除胃のため、胃瘻を再度造設するのは困難と判断し、頸部から胃にカテーテルを留置できるPTEG(経皮経食道胃管挿入術)を行った。
1切除胃の場合は横行結腸誤穿刺が起きやすい
横行結腸誤穿刺とは、造設時に胃と腹壁の間に横行結腸が入り込んだため、PEGカテーテルが腸管を貫くかたちで胃内に留置されてしまうことをいいます(→『PEGの造設術』図6参照)。
造設時に、内視鏡から送気して胃を膨ませることで横行結腸をよけたり、指サインやイルミネーションテストによる確認を行ったりして、できる限り横行結腸誤穿刺を防ごうと努力していますが、それでも、ごくまれに起きるとされています(町立長沼病院では0.3%、他の施設でも同程度)。
なかでも、切除胃や、胃が胸腔内へ釣り上がっている場合には、横行結腸との位置関係が複雑となり誤穿刺が起きやすいといわれています。
2カテーテル初回交換後の「下痢や不消化便」「異臭」に注意
造設時は、内視鏡で胃内にカテーテルが留置されていることを確認するため、腸管を貫いたことがわかりません。横行結腸誤穿刺が判明するのは、多くの場合、初回交換時です。
交換後の新たなカテーテルは、胃内に留置されず、横行結腸に留置されてしまいます(→『PEGの造設術』図6参照)。このため、栄養剤を投与すると直接腸に注入されるため、下痢や不消化便、カテーテルを通じて便臭がするなどのことから、誤挿入が疑われます。
コラム:在宅医療の現場から
お風呂好き? それともカラスの行水?
人気の「入浴サービス」
PEGを造設していても、お風呂には入れます。
寝たきりの在宅患者が、どうやってお風呂に入るか知っていますか?
実は、入浴サービスの方々が家までやって来て、お風呂に入れてくれるのです。お風呂付きの大きな車が家の前まで来たり、家の中に組み立て式のお風呂を運び入れたりすることもあります。さすがに、1日に何軒も回って専門的にお風呂に入れているだけのことはあって、あっという間にきれいに身体を洗い、風邪をひかないよう、ていねいに身体を拭いてくれます。
患者の皆さんは、毎週待ち遠しいようです。お風呂上がりにたまたま往診すると、とても元気そうに見えます。ほとんどの人がお風呂好きなので、血圧が高かったり、熱が出ていたりして入浴禁止になると、がっかりします。でも、たいていは、やさしい入浴サービスの方が翌日わざわざ時間を作って来てくれます。
入浴後、清拭後は「スキンケア」
そうかと思えば、お風呂が嫌いで「清拭だけにしてほしい」という患者もいます。この気持ちも、わからないではないですね。私も“カラスの行水”なので、多くの方々に手を借りてまで、お風呂に入りたいとは思わないかもしれません。
たとえ入浴しなくても、スキンケアを兼ねて清拭してもらい、PEG周囲もきれいに洗ってもらうことは大切です。特に高齢者は皮膚が乾燥しやすいため、入浴・清拭後は、脚や背中に保湿剤などを塗ってスキントラブルを防ぎます。
(岡田晋吾)
見なかったことにする?
スキンケアの大切さ
PEG管理において、スキンケアは大変重要です。
北美原クリニックで診ている患者のお母さんは、とても熱心にスキンケアを行っています。少しでも肉芽ができると、ますます“燃える”ようです。PEGチューブの周りにはゆったりと“こよりティッシュ”を巻き、なるべく垂直に立て、少しの漏れも皮膚につかないよう、ていねいに管理してくれます。おかげで、まったくきれいな状態で、もう何年も過ごしています。やはり日ごろからのスキンケアが大切だなと思います。
どんな肉芽も処置が必要?
在宅に戻ったばかりの患者を見た訪問看護師から、よく「先生、不良肉芽ができています。処置をお願いします」と連絡が来ます。でも、多くは小さな赤い肉芽ができているだけです。
訪問看護師と家族には「痛みも出血もなければ、特に処置は必要ありません。毎日洗って拭くだけでいいですよ」と指導します。看護師の方は“せっかく見つけたのに何もしないなんて”と少し不満そうな顔をしますが、私はあまり“悪さ”をしない肉芽は、見なかったことにするほうがいいと思っています。異物が瘻孔を刺激するわけですから、肉芽ができるのは当たり前という考えです。
出血や痛みを伴う場合には、以前は硝酸銀棒で焼いていましたが、最近は硝酸銀棒が入手しにくいこと、在宅では使いにくいことから、ストロングステロイド(マイザー®軟膏など)を塗布しています。ただし、ステロイド軟膏では真菌などが繁殖する恐れがあるので、周囲の皮膚の変化をきちんと見ていくことも大切です。
(岡田晋吾)
[引用・参考文献]
- (1)高橋美香子:PEGの造設手技と術後早期の管理.PEGパーフェクトガイド,小川滋彦編著,学習研究杜,東京,2006:20-23.
- (2)倉敏郎,西堀恭樹,西堀佳樹:経皮内視鏡的胃痩造設術(PEG).Mediclna2006;43:1298-1301.
- (3)森昭裕,酒井田真紀,奥村昇司,他:PEG管理中、バルーン式栄養チューブでいわゆるBallvalvesyndromeをきたした1例.在宅医療と内視鏡治療2001;5:26-28.
- (4)加藤幸枝,渡辺文子,坂下千恵美,他:PEGカテーテル内腔汚染の対策.在宅医療と内視鏡治療2001;5:9-13.
本記事は株式会社照林社の提供により掲載しています。/著作権所有(C)2010照林社
[出典] 『PEG(胃瘻)ケアの最新技術』 (監修)岡田晋吾/2010年2月刊行/ 照林社