胃瘻(胃ろう)患者の退院支援の進め方|在宅でのPEGケア

『病院から在宅までPEG(瘻)ケアの最新技術』より転載。

 

今回はPEG造設患者の退院支援の進め方について説明します。

 

駒谷末希
北美原クリニック看護師長

 

Point

  • PEG造設時、病院で行う退院支援は、PEG患者の生活の質を左右する最重要ポイントである。
  • 入院中に退院カンファレンスを行うことで、患者・家族が抱く不安をできるだけ取り除くことが重要。
  • 患者・家族は疑問点や問題点を明確に把握できないため、医療者側からの聞き取りやアドバイス、確認が重要。

 

〈目次〉

 

胃瘻患者の「退院支援」とは

胃瘻(PEG)を造設する際に、患者・家族と、どのような話し合いを行っていますか?

 

PEG造設の目的は何か、誰がPEGの管理を行うのかなど、退院後の慢性期病院・施設・在宅での生活について、PEG造設前から話し合われているでしょうか。

 

PEG造設は、病院にとっては「造設したら終わり」となりますが、患者や家族にとっては「長いPEG管理生活のはじまり」となります。退院支援をしっかり実施しないと、患者や家族にとって大きな負担となってしまいます。造設病院での退院支援は、PEG患者の生活の質を左右する一番のポイントとなるのです。

 

退院支援は、PEGを造設することが決まったときからはじまります。

 

退院前カンファレンスの実際

北美原クリニックには、PEG造設後に在宅医療を希望される患者が多く紹介されてきます。その際、まずお願いするのは「退院前カンファレンスの開催」です。

 

退院前カンファレンスとは、病院側の医師・看護師、患者・家族、ソーシャルワーカー、ケアマネジャー、訪問看護師、訪問介護士、入浴サービススタッフ、介護用品レンタル業者、リハビリテーションスタッフ、在宅医とその看護師など、さまざまな職種が集まり、施設や在宅に戻る際に問題点がないかを話し合う場です(表1)。

 

表1退院前カンファレンス

退院前カンファレンス

 

退院前カンファレンスでは、在宅側スタッフが、患者・家族が退院後に不安・問題を感じることなく在宅で過ごせるよう、いろいろとアドバイスします(表2)。

 

表2退院前カンファレンスで確認が必要な内容

退院前カンファレンスで確認が必要な内容

 

以下に、これまでの退院前カンファレンスで挙げられた質問や問題点と、その改善方法について説明します。

 

1「受診・連絡体制」に関すること

在宅に戻ってから、急変など何かあった場合、どこに連絡したらいいの?

在宅に戻る際、患者・家族がもっとも心配に思うのは、「病院の医師から在宅医へと引き継ぎされると、もう、ここの病院では何かあっても診てもらえないのではないか」という点です。

 

そのため、「在宅に戻ってからも、病院側の医師と在宅医が連携して、これからもあなたを診ていく」ことを、退院前カンファレンスの場で明確にしていく必要があります。

 

急な状態変化があった場合には、訪問看護師から在宅医そして病院医師へ連絡するなど、連絡の流れを患者・家族とともに確認しておきましょう(図1)。

 

図1緊急時の連絡の流れ(例)

緊急時の連絡の流れ(例)

 

この不安が解決されるだけで、在宅へ戻る決心がつくと思います。

 

往診には、いつでも来てもらえるの?

北美原クリニックでは、一般外来の合間に往診を行っているため、外来診療中の場合には、呼ばれてもすぐに駆けつけられないことがあります。その際は、訪問看護師に状態を電話で報告してもらい、指示があれば伝えて対処してもらっています。

 

退院して間もないときは、はじめの1週間は1~2回の往診とし、徐々に2週に1回から月に1回の往診へと、状態に合わせて回数を決めていきます(図2)。

 

図2往診・訪問回数の決め方(例)

往診・訪問回数の決め方(例)

 

訪問看護も、家族の不安の状態(患者の状態や、栄養剤投与の手技や管理に関する不安など)に合わせ、相談しながら訪問回数を決めていきます。

 

2「日常生活」に関すること

お風呂は、どうしたらいいの?

患者の状態や、自宅の浴室の状況によって変わってきます。

 

寝たきり患者の場合

PEGを造設する患者のほとんどは、寝たきりの方です。そのため、多くの場合、訪問入浴サービスを依頼します。退院前カンファレンスには、入浴サービスの方も参加されているので、退院してまもなく、サービスを導入することができます。

 

訪問入浴サービスは、リビングなどにお風呂を組み立て、3~4人のスタッフが入浴を介助してくれるサービスです。在宅医とともに、入浴時の注意事項や体温・血圧の条件を在宅医とともに確認し、入浴指示が出たうえで、実施されます。

 

患者によっては、デイケアの際に入浴をお願いしている方もいます。その際も、入浴指示は在宅医より出されます。

 

動ける患者の場合

動ける患者は、自宅の浴室で入浴することになります。

 

患者の入院中に、ケアマネジャーと介護用品レンタル業者が自宅を訪問し、不備がないかを確認したうえで、手すりの設置や入浴介護用の椅子などアドバイスして環境を整えます。

 

日中、家族が仕事で不在となっても大丈夫?

患者・家族が「患者が日中一人でいること」に納得していれば可能です。

 

家族が不在の時間帯に、介護保険の枠内で、訪問看護師やヘルパーを入れて、定期的に誰かがいる時間を作るよう調整することができます。ただし、費用がかさむ場合があるので、ケアマネジャーと相談しながら決めていくことが大切です。

 

3「PEG管理」に関すること

栄養投与に必要な栄養剤や必要物品は、どのように準備したらいいの?

栄養剤について

食品扱いの栄養剤は、購入(=全額負担)する必要があることを説明したうえで、通信販売サービスのパンフレットなどを紹介します(ヘルシーネットワークなど)。

 

医薬品扱いの栄養剤は、保険適用となりますので、薬局から処方されることを説明します。

 

退院前カンファレンスのときには、「在宅では栄養剤にお金がかかること」も説明します。

 

退院後、慢性期病院や施設に移る場合は食品扱いの栄養剤でも問題ありませんが、在宅へ戻る場合は1か月に3~4万円の費用がかかることもあります。

 

それでも問題ないご家庭もありますが、できれば在宅へ戻る場合は、医薬品扱いの栄養剤に変えて退院してもらうとよいでしょう。

 

必要物品について

栄養ボトルや栄養セット、カテーテルチップなどは、必要時、クリニックから渡しています。

 

次回のPEGカテーテル交換は、どこでするの?

PEG造設後、初回の交換は、病院で交換してもらうようお願いしています。初回の交換時には、瘻孔がまだ弱く、誤挿入が起きやすいためです。

 

2回目以降からは、患者の状態や家族の希望に合わせて、在宅でも交換が可能です。退院時に、PEG造設日、次回交換予定日、PEGのメーカーと種類・サイズを確認しましょう。

 

栄養剤投与の手技に不安があるが、大丈夫だろうか?

退院前カンファレンスの場で、家族がまだ不安を感じている場合もあります。その場合は、退院予定を少し延ばしてでも入院中に指導してもらいます。

 

退院後には、家族の不安がなくなるまで、訪問看護師に訪問回数を増やして対応してもらっています。

 

患者の状態(下痢誤嚥性肺炎褥瘡がある患者、介護者が仕事などで十分な時間が取れないなど)によっては、半固形化栄養法を実施したほうがよい場合もあります。この場合は、入院中に投与方法の変更と家族への指導をお願いしています。

 

退院時には、病院と訪問看護との情報交換が大切です。

 

4その他

褥瘡には、どう対応すればいいの?

在宅でも引き続きケアを行っていきます。

 

しかし、入院中と違って、毎日の処置を行うのは家族ですから、簡単で時間がかからない方法を選択していかなければなりません。そのため、水道水での洗浄だけは、きちんとしてもらうように指導します。

 

退院時カンファレンスには、介護用品レンタル業者も参加しているので、入院中に使用しているマットレスを確認し、患者の状態に合ったエアマットレスや高機能マットレスを選択し、退院前に在宅の環境を整えておくことができます。

 

PEGが入ったまま、デイサービスやデイケア、ショートステイを利用できる?

特別問題になることはありません。

 

施設によってはPEGが造設されていると受け入れてくれないケースもありますが、以前ほどではありません。最近では、逆に「胃瘻や半固形化栄養でないと受け入れられない」と言われることもあります。

 

デイサービスやデイケアを利用する際、「昼の栄養剤の投与をどうしたらいいか」と相談を受けることがあります。そのときは、時間もかからず、準備も簡単で、衛生的なパウチタイプの栄養剤を紹介しています。

 

ショートステイなどを利用する場合は、施設内の看護師が日中しか勤務していないことが多く、夕食分の栄養剤投与の時間が限られてしまうようです。このときは、半固形化栄養法を紹介し、実施してもらうことがあります。

 

痰が多くて心配です。どうすればいい?

退院前カンファレンスで話し合うなかで、在宅でも吸引や吸入が必要となれば、入院中から家族指導・物品準備を行います。

 

退院後の薬液や吸引カテーテルは、在宅医から出されます。

 

退院前カンファレンスをうまく進めるコツ

1医療者側からはたらきかける

退院前カンファレンスの場でいつも感じるのは、「患者・家族には、漠然とした不安があるだけで、何がわからないのか、何が問題なのかがイメージできていない」という点です。そのため、医療者側から、さまざまな聞き取りやアドバイス、確認をしていくことが必要になります。

 

介護者が高齢である場合も多く、なかには妻が倒れてPEG造設となり、夫が介護しているケースもあります。そのため、入院中の指導だけでは不十分なことも多く、多職種が連携を取ってフォローしていく必要があります。

 

2ケアの継続性を確保する

退院前カンファレンスで話し合うことで、患者や家族は安心して退院できます。また、造設側と管理する在宅・施設のスタッフとが同じ意識をもつことができます。さらにケアの継続性が確保できますので、トラブルなく移行することができます。

 

なかなか退院前カンファレンスを行うことができないかもしれませんが、少なくとも看護師同士だけでも互いの顔を見ながら話し合って、患者にとって一番いいケア方法を伝えてほしいものです。

 

【コラム】在宅医療の現場から

確かな確認で、安全に在宅でのPEG交換を

在宅PEG患者でも、PEGカテーテルの定期的な交換は必要です。交換時に起こる腹腔内誤挿入は致命的な合併症であるため、必ず回避しなければなりません。

 

一番確実な方法は、内視鏡などで確認することです。しかし、交換のたびに病院に連れていくことは、患者にとって大きな負担です。

 

われわれは、在宅での交換を希望される方には積極的に行っています。ただし、造設後1年以内の方は、病院で交換して瘻孔の状態を確認してもらいます。瘻孔がしっかりしていれば在宅でも交換可能と考えています。

 

でも、造影などは在宅ではなかなか実施できませんね。そこでわれわれは、ガイドワイヤーを使って誤挿入を避ける努力をします。

 

また、確実に胃内に入ったことを確認するために、胃内容を吸引します。バルーン型では、交換のときに飛び散らないので、普通に栄養剤を入れておき、交換後に吸引して、栄養剤が引けるかどうか確認します。バンパー型では、交換時に勢いあまって飛び散ることもあるので、黒ウーロン茶や濃い茶などを入れておいて確認します。食紅で色をつけた水を入れて行っているところもあるようです。

 

どのような方法でも、胃に入ったことを確認することが原則です。もし、確認できないときには安易に考えずに、病院で造影して確認するなども考慮しましょう。

 

患者や家族には、交換当日には「少しでもいつもと違うことがあったら必ず連絡してください」と言っておくことも大切なことですね。

 

(岡田晋吾)

 

PEGは誰のために

高齢化社会の進展に伴い、PEG患者は増えています。今後もこの傾向は変わらないでしょう。

 

講演時によく聞かれることに、「食べられなくなったら皆、PEGをつくる?」「認知症の方にもつくる?」「脳卒中で意識もない方に、いつまでPEGから栄養を入れ続ける?」などがあります。PEGの適応について、皆さんも悩んだ経験があると思います。

 

これは“とても難しい問題”としかいえません。私は、いつもこう答えています。「PEGを行うかどうかの間題ではなく、そのような状態でいつまで栄養管理を行うかの間題でしょう。PEGは栄養投与の手段の1つであり、PEGがすべて悪いわけではありません」と。

 

患者が十分に経口摂取ができない原因や家族環境はさまざまです。認知症患者が徐々に食事が摂れなくなっていく場合は、将来を予測し、どのような方針で患者を見ていくのか、患者を含めてよく話し合います。

 

ただ、現状では“死について家族で話す”とか“自分ではどう死にたいか”などについて、事前に意思表示をされる方はまだ少ないと思います。

 

***

 

PEGは、うまく使うととてもいいツールです。今後はその適応や使い方について、患者を中心に、医療・介護スタッフがいつでも話し合える環境を作る必要があります。

 

患者や介護者の造設後の生活まで考えて、PEGの適応、キットの選択をしてもらいたいと思います。一例、一例を大切にしていきたいものですね。

 

(岡田晋吾)

 


[引用・参考文献]

 

  • (1)岡田晋吾:栄養剤開始時のアセスメント.西口幸雄,矢吹浩子編,胃ろう(PEG)ケアと栄養剤投与法,照林社,東京,2009:111-114.
  • (2)岡田隆弘:胃瘻連携システム.治療2009;91:1440-1443.
  • (3)小川滋彦編著:PEGパーフェクトガイド,学習研究社,東京,2006:2-5/38-43.

 


本記事は株式会社照林社の提供により掲載しています。/著作権所有(C)2010照林社

 

[出典] 『PEG(胃瘻)ケアの最新技術』 (監修)岡田晋吾/2010年2月刊行/ 照林社

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