在宅でのPEG(胃瘻)ケアのポイント

『病院から在宅までPEG(瘻)ケアの最新技術』(照林社)より転載、Web掲載にあたり一部改変。
内容は書籍刊行当時のもの。

 

今回は在宅でのPEG(胃瘻)ケアのポイントについて説明します。

 

駒谷末希
北美原クリニック看護師長

 

Point

  • 在宅では、トラブルが起きても医療者がすぐに対応できない場合もあるため、本人や家族への指導が重要である。
  • PEGは「栄養管理のツール」であることを認識し、在宅でも定期的に栄養評価を行っていく必要がある。
  • 急変・トラブル発生時に介護者があわてず冷静に対処できるよう、連絡体制を整えておくことも重要である。

 

〈目次〉

 

はじめに

在宅に戻って1か月ほど経過すると、患者や家族の表情に、少し余裕が見えてきます。

 

PEGでの栄養管理がうまくいくと、徐々に栄養状態が改善されてきますが、退院時とはまた違った問題も見えてきます。そのため、在宅に戻ってからも、患者・家族の様子をきちんとアセスメントしていく必要があります。

 

在宅でのPEGケアの問題点

在宅の療養環境は、入院中とは大きく異なります。そのため、在宅でのPEG管理では、入院中でも見られるPEG合併症だけでなく、「在宅特有の問題点(表1)」を考慮しながらアセスメントを行い、問題点を解決していくことが求められます。

 

表1在宅特有の問題点

在宅特有の問題点

 

それでは、退院後の患者を診ていく「実際のケア」について、項目ごとに見ていきましょう。

 

在宅でのPEGケアの実際

1栄養評価

PEGは、栄養管理のためのツールです。ただPEGを造設しただけでは、何の意味もありません。

 

在宅に移ってからも定期的に栄養状態を把握して、必要に応じて利用管理計画を見なおしていくことが大切です。

 

体重変化

在宅において、栄養評価の一番の目安となるのは、体重変化です。ただし、在宅療養患者の多くは寝たきりとなるため、体重測定が困難となるケースが多くあります。

 

訪問入浴サービスを利用している患者は、入浴介助の際に測定してもらうことがあります。

 

体重が重い患者の場合は、体重計を2台用意して、2人がかりで測定する場合もあります(図1)。この場合には体重計の間隔を一定にして測る必要があります。ただし、50kg以上の患者では、2人で持ち上げるのも相当つらいです。

 

図12つの体重計を用いた体重計測

2つの体重計を用いた体重計測

 

身体計測(TSF、ACなど)

体重計に乗れない場合は、身体計測(TSF:上腕三頭筋部皮下脂肪厚、AC:上腕周囲など)を行い、その変化を見ていくことで栄養療法の効果を判定します(『栄養剤投与時のトラブルを防ぐ』)。

 

血液検査

定期的に血液検査を行い、総蛋白や血清アルブミン値、電解質貧血状態などを見ていきます。

 

ナトリウムが含有されていない栄養剤もあるので、不足のときは、ナトリウムを処方したり、指示した量の食塩を入れてもらったりします。食塩を入れる際は、栄養剤と混ぜないで、別に追加した水に溶かして注入してもらいます。

 

そのほか、PEGからの栄養投与が長期になる場合には、微量元素などの栄養補助食品のサンプルを紹介し、気に入ったら購入してもらっています。

 

ボタン型PEGカテーテルでは「皮膚と外部ストッパーの距離」の観察も重要

PEG造設により、栄養過多となる場合もあります。

 

ボタン型のPEGだとシャフト長が固定されているため、栄養過多の場合は、皮膚に食い込んで皮膚トラブルの原因となります。また、そのカテーテルがボタンの場合、バンパー埋没症候群の原因ともなります。そのため皮膚と外部ストッパーとの距離を見て、栄養状態の変化を読み取ることも大切です。

 

特に、寝たきりの状態が続いているときは、退院時に計算された必要カロリーより、実際の必要カロリーが少ないことも多いので、定期的に栄養評価を行い、必要カロリーを見直す必要があります。

 

逆に、リハビリテーションが進んで活動量が増えることもあり、カロリーや水分量を増やすよう見なおしが必要なときがあります。

 

ミキサー食や経口摂取併用時の対応

ミキサー食を作って栄養管理をしている場合や、経口摂取を併用している場合、摂取量が毎日同じとは限らないので、1日摂取カロリーに違いが出てくることがあります。食事内容を記録してもらい、管理栄養士による評価が必要です。

 

2排便状態の把握

経管栄養を行っている患者は、高齢者脳梗塞の既往があるなど、自分の意志をうまく伝えられない方が多くいます。経管栄養は強制栄養でもあるため、おなかが空いていなくても、時間で栄養剤を注入してしまうことがあります。

 

また、寝たきり患者は便秘のことも多いので、排便状況を毎日きちんと観察するよう指導する必要があります。

 

まず、栄養剤投与の前に、PEGカテーテルよりガス抜きをしてから、胃の中に前回の栄養剤が残っていないかカテーテルチップで吸引して確認します。このとき、残っている量が多ければ、腸への流れが悪くなっていることがあるので、医師に相談しましょう。

 

便秘がある場合は、定期的な浣腸が必要な場合もあります。また、下痢に傾いているときは、栄養剤の投与速度を遅くする、半固形化栄養材を使用してみるなどの工夫をします。

 

3瘻孔部の管理

在宅に戻ってきてからは、トラブル(肉芽形成、瘻孔からの漏れ、それによる皮膚のただれなど)についての問題が出てきます。

 

肉芽形成への対応

肉芽については、出血や管理に問題がなければ、清潔にしてもらうだけで経過を見ることがほとんどです。

 

瘻孔からの漏れへの対応

1回投与量の見なおしや、体位の工夫(体位によっては腹壁に力が入っていて漏れてくることもあるため)を行います。

 

在宅患者の場合、慢性呼吸器疾患をもっていたり、嚥下障害を伴っていたりする患者も多いです。そのような患者は痰が多く、頻繁な痰がらみや咳きこみによって腹圧がかかり、栄養剤などの胃内容物が瘻孔部に漏れることがあります。

 

漏れた胃内容物には消化酵素が混ざっているため、スキントラブルの原因となります。漏れたらそのままにせず、すぐに洗浄して清潔にしておくよう指導します。

 

スキントラブルへの対応

皮膚のただれなどが発生したら、被覆材(ペグケアー、アルケア)などでPEG周囲を保護します。

 

また、外部ストッパーが皮膚に当たってトラブルを起こすことがあります。こよりティッシュをPEGカテーテルに巻いたり、スポンジや化粧パフなどを利用したりして、直接皮膚に当たらないようにします。

 

感染への十分な対策

栄養投与に必要な物品(栄養ボトル、栄養セット、カテーテルチップ)は、入院中とは違って単回使用とせずリユースして、できるだけ長く使ってもらっています。そのため、感染には十分な対策が必要です。

 

栄養剤が残らないよう、投与後はしっかり流水で洗浄し、次亜塩素酸ナトリウム(ミルトン®など)で漬け置き洗浄を追加します(表2)。洗い終わったあと、しっかり乾燥させることが大切です。

 

表2在宅における栄養投与容器の洗浄・消毒

在宅における栄養投与容器の洗浄・消毒

 

カテーテルチップは、押し子のゴム部分の滑りが悪くなるので、オリーブオイルなどを塗布して保管してもらうと長持ちします。

 

また、半固形化栄養材を作り置きする場合、夏場は特に衛生面に気を配ります。冷蔵庫保存はもちろんですが、使用前に冷蔵庫から出し、常温として使います。

 

急に物品を取り寄せることは難しいので、患者や家族のやり方に応じて、余裕をもって十分な物品を渡しておくことが必要です。

 

4PEGカテーテルの交換

北美原クリニックでは、在宅患者の2回目以降のPEGカテーテル交換は、在宅で行っています。

 

造設時のPEGは、多くの場合バンパー型ですが、患者・家族に違いを説明して、在宅での交換を希望された場合には1回目の病院での交換時にバルーン型に変えてもらっています。バルーン型のほうが、交換時の苦痛が少なく、入れ替えが容易で、特に抗血栓薬を飲んでいる患者の場合には交換に伴う出血などの心配がありません。

 

また、在宅に戻ってきてから半固形化栄養材やミキサー食に変更する場合、径が細いカテーテルでは注入しづらいことがあるため、径のサイズが太めのチューブ型に変えてもらうこともあります。

 

また、寝たきりの状態からある程度活動できるようになった場合や認知症が進行して事故抜去の危険性が増した場合には、チューブ型からボタン型に変更も可能です。ただし、ボタン型の場合はフィーディングチューブをPEGカテーテルに接続する手技が増えるので、介護者とも十分に話し合ってPEGを選択していきましょう。

 

北美原クリニックでは、患者の自宅にいつも予備の交換キットを置いています。抜けてしまった場合にも、手ぶらで駆けつければいつでも在宅で交換できます。また、万一緊急入院された場合でも、予備の交換キットを持って行けば、入院病院に同じキットがなくても、いつでも交換が可能になります。

 

5PEGカテーテルの管理

PEGカテーテルの管理方法は、入院中と変わりありません。ただ、家族がわかりやすいように、注意点をまとめたパンフレットを作成し、渡しておくとよいでしょう。

 

また、外部ストッパーの適切な位置をカテーテル上にマジックなどで書いておくと、家族や訪問看護師も確認しやすくなります。

 

カテーテルの汚れを防ぐためには酢水を使いますが、バルーン型では早期に交換となるため酢水の充填を行わなくてもよいと指導しています。

 

6口腔ケアと嚥下評価の見なおし

 口腔ケアは、誤嚥性肺炎を予防するだけではなく、唾液量を保ち、口内環境を維持するために重要なケアです。再び口から食事ができるようきれいにして、舌や口腔粘膜を刺激しておく必要があります(表3)。地域で在宅患者を診てくれる歯科医や歯科衛生士と相談すると、患者に合った口腔ケアを指導してくれます。

 

表3口腔ケアのポイント

口腔ケアのポイント

 

摂食嚥下評価は入院中に行われますが、退院後も定期的に評価しなおし、ゼリーやプリンなど「お楽しみ」を作ってあげることも必要です。退院時には栄養状態も悪く、リハビリテーションが進んでいない患者でも、在宅で栄養管理やリハビリテーションを行うことで活動性が改善したり、嚥下機能が改善したりする場合もあります。

 

嚥下機能が改善し、経口摂取が十分に取れるようなら、経管栄養の中止も可能です。地域で嚥下評価を実施できる病院で嚥下評価をしてもらったり、在宅で摂食嚥下評価をしてくれる歯科医と連携して患者を診ていったりすることも大切です。

 

7薬剤投与方法の検討

退院後、新たに薬を処方する際には、薬剤師と相談しながら薬品を選択していく必要があります。

 

すべての粉薬が水に溶けるわけではないことに注意が必要です。カテーテルチューブの詰まりの原因ともなります。必要によっては、代用の薬品に変更する場合もあります。

 

北美原クリニックでは、簡易懸濁法を紹介しています。薬局では説明用のリーフレットをカラーで作成してくれており、在宅の介護者にもわかりやすく説明してもらっています。

 

8緊急時の対処

病院とは違って、急変やトラブルがあった場合、家族が判断して迅速に動かなければなりません。生命に危険がある場合は、救急車が優先されることもあります。普段からどんな連絡体制をとっていったらいいのかを在宅医と訪問看護師、家族と話し合っておくことが大切です。

 

もしPEGカテーテルが抜けてしまったときは、瘻孔の閉塞を防ぐため、瘻孔確保を行う必要があります(『胃瘻のトラブル対応』)。在宅に予備のPEGカテーテルを置いておき、在宅医の指示のもと、家族が瘻孔確保を実施しなければならない状況もあるでしょう。

 

急変・トラブル発生時には、まず訪問看護師や在宅医へ連絡してもらい、家族が動揺しないよう対応していきます。

 

また、北美原クリニックでは、急な発熱や風邪症状に備えて、風邪薬や抗生物質、解熱剤など頓服を処方しておき、家族や訪問看護師から連絡があった際、医師の指示ですぐに服用を開始できるようにしています。このことも患者・家族の安心にもつながっているようです。この場合には、在宅PEG患者でも使いやすい剤形(シロップ、坐薬など)を考えて処方しておくことが大切です。

 

高齢者の発熱は、すぐに脱水に傾きやすいので、水分量を増やすなど適宜調整が必要となります。

 

9家族・介護者の現状評価

在宅での生活が長くなってくると、介護者に疲れが見えてくることがあります。

 

訪問看護やヘルパーステーションからの情報提供が重要です。状況によっては、ショートステイの利用や、検査入院やPEG交換を兼ねた短期入院をお願いすることもあります。

 

認知症がある患者への対応

患者に認知症がある場合、一番危険なのは、転倒・転落とPEGカテーテルの事故抜去です(図2)。

 

図2認知症患者への対応のポイント

認知症患者への対応のポイント

 

また、昼夜逆転しないよう、睡眠薬の使用など夜きちんと眠れるようにしてあげましょう。介護者の負担も軽減されます。

 

1転倒・転落への対応

ベッドの高さは低めにし、ベッド柵を設置する必要があります。

 

2事故抜去への対応

栄養剤投与中に患者がカテーテルを引っ張らないよう、ルートを足元から出して、ルートに触らないように工夫します。事故防止用の腹帯やシャツなども販売されているので、状況に合わせて使用を勧めてもよいでしょう。

 

また、チューブ型より、ボタン型のPEGカテーテルのほうが、留置がコンパクトなため気にならず、事故抜去されにくいようです。

 

***

 

在宅でのPEGケアにおいて大切なのは、患者や家族が少しでも疑問に思ったことを、いつでも相談できる窓口をはっきりさせておくことです。それさえはっきりしておけば、患者や家族だけでなく、患者にかかわる医療・介護スタッフも安心してケアに当たることができます。

 

在宅ケアに移行する前によく話し合っておくことが重要です。

 

COLUMN:在宅医療の現場から

みんな「100mL/時」って変じゃない?

在宅でPEG患者を診ていると、“みんな1時間100mLの速度を守って栄養剤を投与している”ことに気づきます。どうしてなのでしょうか?

 

この原因を知るには、いい方法があります。

 

今は、各病院で「PEG造設クリニカルパス」が作られています。そのパスを取り寄せてみると、多くの場合、退院時の投与速度が100mL/時に設定されているのです。だから、在宅になっても、施設に行っても、みんな100mL/時なんですね。

 

でも、よく考えてみてください。みなさんがエンシュア・リキッド®やラコール®を飲むとき、2時間以上かけて飲みますか?

 

きっと、5分くらいで飲んでしまうはずです。これは、投与速度にすると、2,000mL/時以上ですね。

 

当院の外来でも、食事が進まなくて低栄養になるかもしれない患者には栄養剤を出していますが、その方々にも「せいぜい30分くらいで飲んでください」と伝えています。これも400mL/時以上です。それでもみなさんは下痢になったりしないはずです。

 

消化管の機能がきちんとしているなら、必ずしも投与速度は100mL/時でなくてもいいはずです。“退院までの期間が短いから100mL/時”であるなら、退院してから少しずつ速度を上げていくことも可能なはずです。

 

当院では800mL/時で何ら間題のない在宅患者もいます。そうすれば半固形化はいらないかもしれませんね。患者さんの個別性に合わせた栄養剤投与が大切です。

 

(岡田晋吾)

 

下痢より便秘

在宅では下痢より便秘が多い

PEGからの栄養剤注入に伴う消化器症状では、下痢が一番やっかいです。

 

しかし、私が診ている在宅患者の多くは経腸栄養を開始してから時間が経っており、実際に下痢症状で悩むことは、ほとんどありません。下痢症状が見られても、感染性腸炎を疑って適切に対応すれば、多くの場合、短期間で改善します。

 

在宅患者の場合、下痢よりも、むしろ便秘で悩むことが圧倒的に多いのです。ほとんどの患者は高齢で、身体機能の低下のために便秘になりやすい状態にあります。脳梗塞に伴う麻痺がある場合や、寝たきり患者の場合には、特に便秘対策が重要です。

 

便秘への対応・予防はここに注意

便秘への対応として、まずは十分な水分投与や、下剤などの内服薬で治療を試みますが、効果がない場合には摘便や浣腸を行うことも多いです。その際は、患者や家族に、必要性や方法を十分に説明します。

 

便が出ないからといって、単純に“便秘だから下剤”と診断し、はじめから強い下剤を使うのは危険です。もしかしたら、大腸がんや癒着による便秘かもしれません。強い腹痛嘔吐や血便などを伴う場合は、医師の診断を仰ぎます。

 

患者の排便習慣は、それぞれ違います。日ごろから排便状況を把握し、個々の患者に合った便秘予防法を考えます。

 

食物繊維が多い経腸栄養剤を選択したり、ファイブミニ(大塚製薬、特定保健用食品)のような食物繊維の多いものを追加することも考慮しましょう。

 

(岡田晋吾)

 


本記事は株式会社照林社の提供により掲載しています。/著作権所有(C)2010照林社

 

[出典] 『PEG(胃瘻)ケアの最新技術』 (監修)岡田晋吾/2010年2月刊行/ 照林社

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