スワン-ガンツカテーテル
『ICU看護実践マニュアル』(サイオ出版)より転載。
今回は「スワン-ガンツカテーテル」について解説します。
木村満美子
市立青梅総合医療センター 看護師
スワン-ガンツカテーテル(肺動脈カテーテル)とは
スワン-ガンツ(Swan-Ganz)カテーテル(肺動脈カテーテル、以下S-Gカテーテル)とは、経静脈的にカテーテルを肺静脈へ挿入することで右心房圧・右心室圧・肺動脈圧・肺動脈楔入圧・心拍出量を測定でき、循環動態を把握するために使用する。
S-Gカテーテルの構造を図1に示す。
図1S-Gカテーテルの構造
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S-Gカテーテルの対象
- 心原性ショック
- 心筋炎
- 心筋症
- 弁疾患
- 心タンポナーデなど、急性心筋梗塞(心室中隔穿孔・僧帽弁閉鎖不全・乳頭筋断裂・右室梗塞・心筋梗塞再発などの心機能低下症例)
- 急性呼吸不全
- 成人呼吸速迫症候群(ARDS)
- 敗血症性ショック
- 左心機能が低下した患者 など
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S-Gカテーテルの挿入介助
穿刺部位と構造
S-Gカテーテルの穿刺部位を図2に、挿入中の状態を図3に示す。
図2S-Gカテーテルの穿刺部位
図3S-Gカテーテル挿入中の状態
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挿入介助
必要物品
- カテーテルイントロデューサー
- S-Gカテーテル
- 滅菌ガウン
- 三方活栓(4個)
- 耐圧延長チューブ(1本)
- 滅菌ドレッシングフィルム
- 処置用シーツ
- 鑷子
- 直ペアン
- 綿球カップ
- イソジン消毒
- 穴あきメコノームシーツ
- メコノームシーツ
- 1%キシロカインシリンジ10mL
- 滅菌手袋(医師のサイズ)
- ディスポーザブルシリンジ10mL
- 滅菌ガーゼ5枚
- 18G、23Gの注射針
- 縫合糸(医師に太さを確認する)
- 生理食塩液500mL(広口)
- 滅菌カップ
- ヘパリンナトリウム10mL
- 加圧バッグ
- ヘパリン加生理食塩液
- トリプル圧トランスデューサー
- 圧測定用ケーブル・水準計
- 圧トランスデューサーセッティング用架台の点滴棒
患者準備
1医師および看護師より患者・家族へ説明する。
2前処置:清拭・剃毛(必要時)。
3枕を用いない仰臥位で肩枕または、タオルを穿刺部位の下に入れ、顔面の向きは穿刺部位と反対にする。
4患者の身体を穿刺する側のベッドの端に移動する。
5穿刺側の肩を出し、肩の下に処置用シーツを敷く。
6オーバーテーブルの上を広くあけ、処置台として使用できるように準備する。
7加圧バッグを作成し、トランスデューサーにヘパリン加生理食塩液を満たし接続できるようにしておく。
挿入介助
1消毒の介助
- 消毒用綿球と鑷子を医師に渡す。
- 医師に滅菌手袋を渡す。
2物品の準備
- 医師指示のもと、必要物品を清潔操作で開封し医師に取ってもらう。あるいは清潔野に置く。
- 滅菌ガーゼも数枚出しておく。
3介助
- 医師指示のもと、必要物品を清潔操作で開封し医師に渡す。
- 患者に動かないよう説明する。体動が激しい場合などは、鎮静剤の使用・安全ベルトの使用などを考慮する。
4医師はカテーテルの長さを確認し、局所麻酔を行う。
5セルジンガー法により静脈内にカテーテルイントロデューサーを留置し、これを通して肺静脈カテーテルを挿入する。
6S-Gカテーテル先端が上大静脈または下大静脈内にあることを確認後、バルーンを膨らませる。
通常この位置は内頸静脈、鎖骨下静脈アプローチでは鎖骨下15~20cm前後、大腿静脈アプローチでは30cm前後である。
7静脈血流を利用して、右心房・右心室・肺静脈へと進める。
このとき、圧トランスデューサーに接続して圧波形をモニタリングしながら行う。
8肺静脈圧波形を確認後、バルーンを膨らませたままさらに進めると、脈圧が極端に小さくなり、肺動脈の一部がバルーンによって閉塞されたことが確認できる。
この圧が肺動脈楔入圧である。
9肺動脈楔入圧が得られたら、その場でバルーンを収縮させ、肺動脈圧波形に戻ることを確認する。
10必要に応じて縫合糸、縫合セットを出し、刺入部の近くに1~2針縫合する。
カテーテルの位置確認
- 1カテーテル固定後、ポータブルレントゲン撮影を行う。
- 2レントゲン撮影にてS-Gカテーテル先端の位置・カテーテルの走行・気胸のないことを医師に確認してもらう。
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S-Gカテーテルの固定方法
刺入部の固定
手順
1カテーテル刺入部を消毒する(図4-①)。
2消毒が乾燥したことを確認したら、滅菌ドレッシングフィルムを貼付する(図4-②)。
図4S-Gカテーテルの固定手順①・②
3滅菌ドレッシングフィルム材の貼付が終わったら、凹型にカットした固定用テープを貼付する(図5-③)。
4「3」の上から、さらに10cm×2.5cm程度にカットした固定用テープを貼付する(図5-④)。
図5S-Gカテーテルの固定手順③・④
5固定テープの貼付が終わったら、黒マジックで線を引く。太い線が50cmとなる。細い線が10cmとなる(図6-⑤)。
6黒マジック線を0cmとして、S-Gカテーテルの挿入の長さの測定をしてベッドサイドメモに記載する。申し送りの際には、固定の長さを前勤務者と確認する(図6-⑥)。
図6S-Gカテーテルの固定手順⑤・⑥
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ベッドシーツへの固定
鉗子などを使用して、S-Gカテーテルをベッドシーツに固定する(図7参照)。
図7S-Gカテーテルのベッドへの固定方法
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モニタリング方法
モニタリング方法の実際
肺循環は体循環系と比べて低圧系であるため、圧のゼロ点(基準点)を正確にとることが重要である。
ゼロ点は中腋窩線の高さで、右心房の中央(第4肋間中腋窩線)とする。
マーキングをしておき、体位を変えた後、ベッドの高さを変えた後には、トランスデューサーの高さを合わせて、大気開放しゼロ点設定をし直す。
通常はバルーンを収縮させて肺動脈圧をモニタリングしておき、肺動脈楔入圧測定時のみ付属のシリンジを使用しバルーンを膨らませ、カテーテル先端を肺動脈に楔入させる。
このとき1分以上の膨張は行わない(必ず、医師が行う)。
留意点
カテーテル留置による不安や体動制限による苦痛が大きいため、不安の表出や拘束感を与えないように適宜説明を行う。
各勤務でゼロ点設定を行う。測定は原則として、水平仰臥位とする。
加圧バッグ内の圧は常に40kPa(300mmHg)に加圧しておく。加圧バッグ内のヘパリン加生理食塩液の量が減少すると、圧が低下しカテーテル内の凝固をまねき、圧が正確に伝達されず測定値に誤差が生じるため、少なくなったら交換する。
S-Gカテーテルはラインが重いため、しっかりと固定を行い、ラインの整理をする。また、体位変換・ベッドアップ・体動時は、抜去に注意し定期的に位置を確認する。カテーテルは、体内で固定水などでの留置はされておらず抜けやすい状態である。
S-Gカテーテルは勤務交代時、前勤務者と挿入の長さを確認する。前勤務者は長さの変更があった場合には、その旨を伝える。
バルーンがしぼんだ状態で固定されているか付属シリンジを確認する(図8参照)。
図8バルーンとシリンジの確認
中のカテーテルが動かないようにロックされているのか確認する(図9参照)。
図9カテーテルの固定確認
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観察
- バイタルサイン、モニター(不整脈出現の有無)、心機能データ
- 挿入部位の出血、血腫、滲出液の有無、感染徴候(発赤・腫脹・疼痛・熱感など)
- S-Gカテーテルの挿入長さ(cm)
- 圧波形の変化の有無(図10参照)
図10S-Gカテーテルの位置と圧波形
表1ベッドサイドモニターの値
表2ビジランスモニターの値
- その他のビジランスモニターに記載されている値には次のものがある。
体血管抵抗(SVR)
- (平均動脈圧-右心房圧)÷心拍出量×80
- 基準値:800~1,300dynes/秒/cm5
体血管抵抗係数(SVRI)
- 1,970~2,390dynes/秒/cm5/ⅿ2
収縮期容積(ESV:end-systolic volume)
- 収縮の最後に残っている血液量。
- 基準値:30~95mL
収縮期容積係数(ESVI)
- ESV ÷ BSA で求められる。収縮期容積を体表面積で割った値。
平均動脈血圧
(MAP:mean arterial pressure)
※平均血圧の基準値は、成人男性が90~110mmHg、成人女性が80~110mmHg。男性と女性で、値の変動がみられているが臨床的には、臓器潅流の評価として用いられる。60mmHg以下では、臓器潅流障害が考えられる。
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S-Gカテーテルの抜去
この手順は、カテーテルイントロデューサーが留置されており、中心静脈カテーテルが同時に留置されている場合を想定し記載している。
手順
- 1医師が患者に抜去することを説明する。
- 2ビジランスモニターの電源を切り、接続部分を外す。
- 3S-Gカテーテルのロックを解除して、医師がS-Gカテーテルのみ抜去する。
- 4S-Gカテーテルに繋がれていたCVPルートは、中心静脈カテーテルに接続する。
※カテコラミン製剤がS-Gカテーテルの輸液ルーメンハブから投与されている場合、カテコラミン投与ルートは予めどうするのか医師に確認して、中心静脈カテーテルのルートにつなぎ変えるなどの対処をする。
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フォレスター分類と組織酸素循環
フォレスター分類
- フォレスター(Forrester)分類とは、1977年にJ.S.Forresterが考案し、S-Gカテーテルより得られたデータに基づいて分類した、ポンプ失調の重症度分類である(図11参照)。
図11フォレスター分類
- 本来は、急性心筋梗塞に対して用いられたが、それ以外の急性心不全、あるいは慢性心不全の増悪期にも用いられる。
- 肺うっ血の指標として平均肺動脈楔入圧18mmHg、末梢循環不全の指標として心係数2.2L/分/m2を基準とし、4群に分類する。
- 基準となる数字は、PCWPが18より大きいとⅡ群で肺うっ血、心係数が2.2より小さいとⅢ群で末梢循環不全、PCWPが18より大きくさらに心係数が2.2より小さいと、Ⅳ群で末梢循環不全と肺うっ血の両方を起こしていると判断できる。
- この分類は病態評価と治療方針決定に非常に有用である。
- Ⅳ型では、補助循環(IABP・PCPS)を用いた治療を行う場合もある。
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組織酸素循環
- S-Gカテーテルの先端が挿入されている「肺動脈」の酸素飽和度を測定している。
- 混合静脈血酸素飽和度には、肺でのガス交換、心拍出量、ヘモグロビン値、細胞組織での酸素消費が関与し、酸素の需要と供給のバランスの把握ができる。
- 混合静脈血酸素飽和度は、「供給元である肺」「運搬元である心臓とヘモグロビン」「需要元である細胞組織」が関与する。
- 酸素は、《肺でのガス交換》 ⇒ 《ヘモグロビンに結合し心臓から全身へ運搬》 ⇒ 《細胞組織で酸素消費》 ⇒ 使用されなかった酸素は心臓へ戻ってくる。
- 混合静脈血酸素飽和度値の異常は、この経路のどこかに異常があることになる。
- 通常、動脈血酸素飽和度は95~100%、細胞組へ戻ってくる酸素飽和度は60~80%となる(図12参照)。
図12組織酸素循環の経路
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本連載は株式会社サイオ出版の提供により掲載しています。
[出典] 『ICU看護実践マニュアル』 監修/肥留川賢一 編著/剱持 雄二 サイオ出版